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第194話 『ハンター試験 その5(海と空)』


 とにかく俺の使える魔法で、直接対抗できるのは火魔法だけのようだ。

 だけど一発で致命傷までは与えられない。


 魔法試験での俺の『火』の総合評価は『メイジ++(ツープラス)』 ハンターランクでいうところの、Dランクど真ん中のはずだ。

 これはDランクの魔物だよな。火以外に何か通用する魔法とかあるのか?


 でも俺も最近あまり火魔法の練習をしていないのも事実だった。

 特に細かい操作は今一つ苦手だ。

 主にジェット噴射系の風魔法に力を入れていたせいもある。今度魔法試験を受けたら、きっと『風』評価が上がっているはずだ。


 ただ、このジェット噴射もあまり連発したくないんだよなぁ。

 自分で操作しているとはいえ風の精霊ジンに掴まれて、いきなり高速移動しているようなものだ。俺の嫌いなジェットコースターに似た感覚がある。

 あんまりやってると、自分で操作してるのに気分が悪くなりそうだ。

 奴は慣れだと言っていたが。


 そんな事を頭の隅で考えながら、水の中を探知していると、魚たちがまた一つに集まった。


 だが、さっきより動きがやや遅い。よく視ると、内3匹の鼻面が少し欠けている。

 まったくダメージが無かった訳じゃないようだ。やっぱり火をメインでいこう。


 すぐに左側に長さ30cmくらいの四角い炎の盾を浮かばせた。

 本当はもっと大きい方がいいのだが、あまり火を目立たせると警戒されるかもしれない。

 あと俺は詠唱に頼らない派だが、それでも咄嗟に体を動かすよりも魔法は念じてから発現するためワンテンポ遅くなる。


 そんなものいつの間にか脊髄反射で出来るようになると、うちの脳筋ターミネーター(ヴァリアス)は言っていたが、強力な魔法を脊髄反射で出すのってちょっと怖い気がする。


 とにかくリスクを減らすために先にこうして準備しておくのが基本だ。多少の魔力の無駄使いは仕方ない。


 魚たちは一度右に、3本の柱を大きく旋回してから俺の方に向かってきた。

 手前でまたパッと分かれるのかと思っていたら、バシャッバシャッバァバシャッ! と、4匹が前後左右にズレながら真向から飛び出してきた。


 今度は真っ向勝負で来た。向こうもこれが最後と思ってるのか。

 ならこっちもだ。


 一気に炎の盾を大きく広げ、温度をこれでもかと上げに上げる。

 イメージはマントルで蠢くマグマ、粘度のある火炎。その粘度をガチガチに固めて魚どもを思い切りぶっ叩いた。


 グシャンという確かな手応え。魚が盾を突き破れずに、ひしゃげたまま一瞬空中にとどまる。

 瞬時にその炎を今度は剣に纏わせて、渾身の力を込めて魚どもに振るった。


 肉と共に骨を砕き切る感触。

 2匹の胴を叩き切れた。黒い魚影が霧散していく。続けて手首を返すと下に落ちかけた魚の頭を突き刺す。

 ゴリンッ 霧と消えた。

 あと1匹!


 水面に目を移すと、あきらかに勢いがなくなってきた最後の1匹が、ひょろひょろと蛇行してきた。

 もうこいつにだけ集中すれば良いんだから楽勝だ。


 と、思ったのも束の間、左手から飛び上がってきたそいつは、足元から顔を覗かせた途端、尾で柱を蹴って俺の後ろに逸れた。


 なっ! 反射的に振り降ろしてしまった剣はもう間に合わない。盾も。

 咄嗟に片足を軸に回転すると、ウツボ顔の横っ面を身体強化で力一杯蹴り飛ばした。まさか魚に回し蹴りをやる日が来るとはな。

 

 空中で魚はそのまま静止すると静かに黒い霧となっていった。

 やったか。これで5匹、もういないよな。

 剣は構えたまま辺りを探った。


 パチパチパチと手を叩く音に顔を向けると、向かいの柱にアイーゴがいつの間にか立っていた。

「お見事です。海ターンも、ダメージを全く受けずに倒されましたね」

 そう言ってる間にも、水位がどんどん下がっていく。


「どうされます? 次は空ターンですが、続けてやられますか?」

「……ちょっと休ませてください」

 俺は両膝に手をやった。


 水が見えなくなると、するんっとアイーゴが滑るように柱から落ちた。

 落っこちたのかと思ったら、傘のようにどこかふんわりと降りていく。

 風の能力ではなさそうだが、よくわからない。

 俺も続いて飛び降りた。


「しかし、ソーヤさんは魔法使いとの登録ですが、戦士っぽい戦闘をされるのですね」

 俺が柱に寄り掛かってペットボトルの水を飲んでいると、アイーゴがそばにやってきた。


「確かにそうですね。魔法操作もまだまだだし、現に今の魚も魔法だけじゃ倒せなかったですしね」

「おや、そんな事はありませんよ。ソーヤさんのあの火力なら、ウルフフィッシュに十分対抗できたはずですが」

 アイーゴが大きな目をクリクリさせて、意外な事を言うという感じの顔をした。


「えっ、でも見た通り、弱らせることは出来ましたけど、どれも一発で仕留められませんでしたよ」

 それとももっと連続して火を撃ち込めば良かったのか?


「ああ、ソーヤさんは、陸専門のハンターなんですね。じゃあ魚は初めてでしたか?

 大抵はエラの付け根が、急所になってるのですが」

「ええっ! そうなんですか?」


 言われてみれば一番初めに倒した魚は、偶然エラの辺りに剣が当たったんだった。胴を切った時よりもすんなり刃が入っていた。


「あの、それじゃあ、初めっからエラを火で攻撃してれば――」

「ええ、あの火力なら一発だったと思いますよ。だから剣で倒したいのかなと思っておりました」

 くそぉ、なんだよぉ~。

 俺はそのまま柱に寄りかかりながら、その場にズルズルと座り込んだ。


 知らないとはいえ、面倒臭いやり方をしてたわけだ。

 ヴァリアスの奴、そんな常識的な戦闘法があるなら教えとけよなあ。

 もしかすると俺に一度は苦労させてから、後で教えるつもりだったのかもしれないが。


 だが、あらためて魔物図鑑を見たら、こちらにも簡単だが攻略方法が書いてあった。

 ひと通り読んでいたはずなのに、肝心な時に思い出せない。

 悔しいが、体験して得た知識の方が忘れないようだ。危険ではあるが。


 アイーゴによると、戦士の場合、盾で攻撃を防ぎながら剣などで薙ぎ払うのが一般的らしい。魔法使いはさっき言ったように、エラへの魔法攻撃を集中。

 弓使い(アーチャー)なんかは、一度に2,3匹の魚の口に矢を射ることが可能だそうだ。

 そう聞いていくと俺、なんとも中途半端な闘い方してたんだなあ。

 

 「まあ、戦い方は人それぞれですから」

 アイーゴが隣に座りながら、労わってくれた。

 確かに彼はここで色々な闘い方を見てきたのだろう。 


 そうだよなあ、カッコつけてもやられたら終わりなんだよ。

 俺も今更スマートに見せようなんて考えずに、とにかくこなす事だけを考えよう。


 もうちょっと休憩に時間を貰えるというので、収納からお菓子も取り出す。

 ハンターギルドでは、収納能力を知られているので、俺も隠さないことにしている。


 日本で買ってきたアーモンド入り板チョコの箱を開ける。

 やはり疲れた時は甘いモノである。戦闘の後のアーモンドチョコは格段に美味い。

 ふと気がつくと、隣でアイーゴがジッと手元を見入っていた。


「良かったら食べます?」

 すると彼はハッとして、顔をフルフル横に振った。


「いや、これは、失礼いたしました。初めて見る食べ物だったもので」

 そういやこちらにはカカオって無いのか。匂いからして新鮮だったのかもしれない。

「それに、頂いても、評価に色を付ける事は出来ませんし……」と目を逸らす。


「こんなので色を付けてもらおうなんて思ってませんよ。さっきも言った通り、正当な評価でお願いします」

 さすがにそこは、俺のちっぽけなプライドを疑われたくなかった。

 しかも板チョコで買収って、安すぎる……。


「そうですか。それはまた失礼いたしました」

 ペコリとアイーゴが頭を下げる。

 口に合うか分からないので、一粒だけ渡す。


「おおっ これはっ!!」

 またアイーゴが、ニッコリとした純粋な笑みを俺に向けてきた。


「苦いのに甘いっ! 絶妙なハーモニーですな! しかも中に入っている木の実ですか。コリッとした歯ごたえがとても合っていて、なんと美味しいモノなんでしょうか!

 わたくしこんなの初めて食べました」

 そう言う彼の瞳が大きくなった。


 濁りの無い黒い瞳孔が大きくなって、潤むような艶のある黒真珠のように見える。

 目の前にいるのはただの目の大きいオッサンなのに、仔アザラシとかビーグル犬とか、そういった小動物を連想してしまった。

 結局俺は板チョコを割って、半分あげてしまった。


 有難うございますと何度も言いながら、初めてチョコパフェを口にした子供のように美味しそうに食べていた。

 まあ良かったと、何気に空になった箱を燃やそうとしたら、

「ソーヤさん、ちょっとすいませんが、その箱を見せていただけますか?」

 また目を大きく剥いてきた。

 表記は日本語と英語だから、どうせ読めないからいいか。


「むむっ これはっ!」

 また横で見てて怖いくらい、目が突き出した。

 え、まさか文字の意味わかったの?!


「何という凄い印刷技術なんでしょうか。細かい線なのに、まったくインクが滲んでいません。それにこのツルツルした肌ざわり、これは紙の上に何かコーディングされているのですか? 

 しかも見事な金色の染色まで――」


 そしてまたハッとした顔をこちらに向けると

「すみません。実は私の兄が、印刷工房を経営してまして、そのせいで多少影響を受けておりまして」

 今度はお兄さん? そしてまた印刷にも興味あるの? 

 ……なかなか多彩な趣味というか、人生楽しいこと一杯ありそうだな。


 と、『クアァーーッ』と前の柱に乗っていたケライノーが、一声啼いた。

「ああ、すいません。もう時間のようです。ご用意はいいですか」

 うっかり試験中なのを忘れそうだった。

 もう一口水を飲むと、ペットボトルに収納した。


「OKです、いえ、こちらも準備大丈夫です」

 アイーゴがコクンと軽く頷くと

「それでは空のターン開始します」

 また彼の姿がフェードアウトしていった。


『クアァァァーーーーッ』

 ケライノーの声が響き渡る。始まった。


 さて最後は空だ。という事は飛ぶ何かという事だろう。

 やっぱりそこは鳥かな。


 俺は柱に背中を付けて空を仰ぎ見ながら、探知の触手を広げた。

 

 何かが上空に現われた。

 それは恐らく横に4m以上はあろうかという翼を広げながらも、音を立てずに羽ばたいていた。

 梟だって羽ばたけば少くらい音はたてるはずだから、遮音魔法でも使っているのだろうか。


 ずんぐりではなく、起伏豊かな曲線を描いた胴体はスマートで、足もすらりと長かった。

 首も細く、それが支える頭から、長い蔓状のモノが風になびいている。


 そうして鳩胸ならぬ、細い体にしては厚めの胸には、2つの隆起した形の良いコブがついていた。

 鳥のくせに乳房がある、こいつは――――


「ハーピーかっ!」


『ピュウゥゥーー ピュロロロォーー』

 俺の声に答えるように黒いハーピーが、真っ黒い唇をすぼめて鳴いた。


ここまで読んで頂き有難うございます!

ハンター試験は次回で終わりです。


次回第195話 『ハンター試験 その6(空)と適正検査』予定です。

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