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第190話『ハンター試験 その1(筆記試験の洗礼)』

今回はハンター筆記試験です。

いわゆる試験あるある的な回です。


 ドラゴンを従魔にし、小さな村とはいえ、俺はこの異界の国に住民登録をした。

 俺のもう一つの人生(アナザーライフ)はかなり一変した。

 しばらくは大人しくしたいところなのだが、まだ俺には重要な任務が残っていた。


 それはハンター試験だ。

 とうとうその日がやって来たのだ。 


 王都のハンターギルドに行くと、受付で1階の奥にある部屋へ行くように言われた。

 ハンター試験は筆記が先だった。

 むろん、奴は一緒に来れないので、この受付前のホールで待っていてもらう事にする。


「言っとくけど俺は、自分の力だけでやりたいんだからな。変なチャチャを入れてくるなよ」

 こいつだったらどんな結界も突破してくるだろう。どうせ監視はしてくるのだろうし。

「わかってるよ。オレだってランク査定に不正をする気はねぇ」

「そうか、それならいい」

 だが、通路を歩き始めてふとある事を思い出し、すぐに奴のとこに戻った。


「念のために注意しとくが、テレパシーも繋げるなよ。

 答えを教えなくても何かしらハッパ(エール)をかけてくるだろ。

 あんたの事だから、俺が間違った答え書いたら絶対舌打ちしそうだ。それじゃカンニングと一緒だからな。絶対禁止だ」


「チッ! こっちのストレスが溜まりそうだな。ホントにただ視てるだけかよ」

 不満そうな顔をする。やっぱり、こいつやるつもりだったな。


「当たり前だっ! どこの親バカだよ。普通見るのもダメなんだぞっ。

 あと、そのストレス溜めて瘴気出すなよ。どっかで酒でも飲んで待ってろよ」

「そうする」と不満そうに階段を上がっていく奴を見送ってから、俺はあらためて試験会場に向かった。


『T‐Room』とドア上にプレートが出ている部屋の横に、腰掛椅子に座った男が壁に持たれかけていた。


「受験者の方?」

 ちょっと目を半分閉じたような、瞼の重そうな中年の男が、俺が近寄ると訊いてきた。

 俺は受験票を見せながら返答した。

「どうぞ。どこでも好きな所に座ってください」

 そう男がドアを開けて、部屋の中を手で指した。


 中は一般的な小学校の教室くらいの大きさだろうか。

 窓はなく壁や天井は白い。

 ペンキが塗られているというよりも、何か非常に細かい白い砂が表面に吹きつけられているように見える。


 床は逆に黒いリノリウムを思わせるビニールのような表面をしているが、なんだか分からない。

 解析が出来ないのだ。

 抵抗があるというより、打ち消されている感じが強い。

 やはり魔法防止対策が施されているのだろうか。


 席は独り用の簡易な木製机と椅子だったが、何故か間隔も向きもバラバラに置かれている。まるで小学生が遊んでガタガタと動かしまくったみたいだ。

 これから設営するのかな? まだ誰も来ていない。

 ひとまず俺は一番後ろの、壁ぎわの離れた席に座った。


 机の横に荷物入れらしい藤籠があったのでショルダーバッグを入れる。

 念のためにこちらで購入した万年筆タイプのペンと、いつも使っているボールペンを机の上に出した。

 腕時計も出しておいていいだろうか?

 

 テスト開始までまだ時間があるので、ついまた過去問を見たくなってしまったがやめた。

 そういうのは悪手だと聞いたことがある。

 下手に見てしまって、覚えてないモノがあると焦ってしまい、実力が出せなくなるからだとか。


 ドンと構えられるような神経の持ち主ならいいのだろうが、あいにく俺は絶対に動揺する自信がある。

 うん、やめとこう。

 なんだか水を飲んだばかりなのに、喉が乾く。

 収納からまたペットボトルを出してがぶ飲みした。


 ふと、カチャリとドアが開いたが、誰も入ってこなかった。そのままドアは閉まった。

 その後、10分くらいの間に、何度かドアが開閉されたが、誰も入って来る様子は無い。

 なんだろう? これも何かのテストなのだろうか。大体机もこんなランダムな配置でいいいのか?


 何もしない方が良いのかもしれないが、もしかすると基本的マナーとか見られているのかもしれない。

 落ち着かないので自分の机だけちゃんと正面を向くように動かした。


 すると今度はドアから、あの眠そうな男が椅子を持って入ってきた。

「では、皆さん揃いましたので、試験を始めさせていただきます」

 え? この部屋には俺しかいないが――ん、机が減っている?


 この部屋に入った時に、散らばるように配置されていた机と椅子は、俺のを含めて10個くらいはあったと思う。

 だが気がつけば今や5個しかない。いつの間にか数個消えていた。


 何の気配もしないが、不思議と何人かがこの同じ空間にいると分かった。

 隠蔽か何かわからないが、この教室には俺の他に何人かの受験生がいるんだ。そしてその気配は、机と一緒に消えてなくなっている。

 すごいカンニング防止対策だな。


「机の上には受験票以外、何も置かないでください。筆記具もこちらで用意したものをお配りしました」

 そう言われて気がつくと、机の上にはさっきまでなかった、木製の筒に黒芯を入れた鉛筆に近いモノと、練り消しゴムが出現していた。

 伏せられたテスト用紙までも。

 手元なのについぞ気がつかなかった。


 カバンの中に持参の筆記具を戻しながら前を見ると、椅子に座った男が自分の後ろから、1mくらいの高さの砂時計を引っ張り出しているところだった。

 収納から出したのだろうか、さっきまでそこには何も無かったはずだ。


「それでは試験を開始します。時間は一刻(約2時間)です。終わりましたら、もちろん時間を待たずに退出して頂いて構いません。

 またトイレに行きたい方は、手を上げて教えて下さい。戻ってきてテストの続行は可能ですので、我慢せずに申し出て下さいね」


 トイレに行っていいのか? 簡単に答えを調べに行けちゃうじゃないか。

 他の人のは用紙どころか姿も見えないのに、なんかカンニング防止対策がおかしい。 


 おもむろに試験官の男が砂時計にすっと手を触れた。

「では始めます」

 クルンと、青い砂が詰まった砂時計がひっくり返った。

 試験が始まった。


 テストあるあるだが、まずはいきなり問題は見ない。

 落ち着いて自分の名前をしっかり書く。

 そんな当たり前の事と思うが、せっかく合格点に達している答案なのに、名前未記入のせいで落ちるという悲劇が意外と起きることなのだそうだ。

 問題を一つでも多く解きたいと意気込むあまり、名前に意識がいかなくなってしまうらしい。

 他に受験番号を書かなくて減点とかも。


 まずは落ち着け俺。

 名前と受験番号、出身地、年齢、種族、性別、現ランク……。

 現ランクって『仮D』だろ? だって仮プレート発行してくれたし、これDランク試験なんだから――。

 もしかして、仮は仮だから、ここは『E』って書かなくちゃいけないのか……?


 急に嫌な汗が出てきた。

 え、ええ? どうなんだろ、マズイ、焦ってきた。

 過去の答案用紙、散々見てたのに、全然気がつかなかった。問題ばかりに気を取られてたよっ!

 どうしよう……。 

 これもし間違えたら、失格とかにならないか?


 どうする、手を上げて試験官に訊くか?

 いや、それも試験のうちなのかもしれない……。

 ううっ いきなりトップザ基本問題にぶつかった。


 ……待てよ、受験票は机に出したままだ。

 これは出しておいていいというか、机の右上に張り付いて取れなくなっている。

 そこに名前と受験番号と――


 あったっ! 『現ランク:仮D』と書いてある。

 はぁ~っ 口から大きく息を吐き出しながら、その通りに記入した。


 くそぅ、動揺を誘う引っ掛けかよ。姑息な真似しやがって――

 なんて、俺が勝手に焦っていただけなのだが……。


 びっしりと問題が書かれた答案用紙は8枚もあった。答えを書く枠も大きいが、問題の文章がまず長いのだ。

 この8枚にもいちいち全て名前等を書かねばならない。

 無駄にサインばかりさせる、何かの契約書みたいだ。

 早く問題にかかりたい気持ちをグッと抑えて、漏れの無いように全てに先に記入する。


 さて、やっと問題に取り掛かれる。

 問題数は50問。合格するには38問以上の正解を出さなければならない。

 ここは1つ1つ上から順にやるのはやめて、解けそうなのから先に片付けていく戦法をとることにした。


 迷ったヤツは後でやる。問題が多い時はまずスピード重視だ。(個人的意見)

 俺はざっと問題全般に目を通した。


 ……………………どうしよう……ダンジョン系の問題が少ない……。


 なんでだっ? 過去問はダンジョン系の問題が多かったじゃないか。

 あいつだってそう言っていた。

 総合問題と傾向問題それぞれ4枚ずつで8枚なのだが、両方ともほとんどダンジョンのダの字も出て来ない。

 いつ方針を変えた? まさか今年からか?!


 ……待てよ、俺もあの30年間の過去問を一通り見たが、確かに総合的にはダンジョン系の問題が多かった。

 が、少ない時もあったんじゃないのか?


 ハンター試験は年に1回どころか、月に何度かある。そして月ごとに少しづつ内容を変えたりするらしい。 季節ごとだと方向性も変わる。

 あの膨大な量の範疇からダンジョン系は必至と思っていたが…………。

 

 ――見事にヤマを外したのか、俺っ!?


 ……なんだか鼓動が早くなるのを感じる。


 いや、落ち着けっ 俺!

 勉強したのはダンジョンの事ばかりじゃないだろ。ちゃんと総合的にやってきたはずだ。

 まだ試験は始まったばかりなんだから。


 ああクソ、何か飲みたい。

 もちろん飲み物禁止である。

 仕方ない。泣いても笑っても2時間の我慢だ。

 あらためて問題を読み直す。まず短いのから。


『ピグミー鵺とタイガーツグミの啼き方はよく似ているが、それはこの2種が同地域に生息しており、互いに鳴き真似をすることで、お互いの巣の存在を隠すと言われている。

 ではその巣の場所は具体的に何処か。またその理由を述べよ』


 ―― はい?


 なんか、問題のレベル上がってねぇか? これDランクだよね??

 俺は鳴き声の違いしか知らねぇぞ。巣って、樹の枝とかじゃないのか?

 対象の魔物のランクはD以下かもしれないけど、これニッチなところを突っ込んできてやしないか。


 う~~~~~~っ! パァースッ!!


 ここで戸惑ってると先に進めん。

 次っ!


『ビンアッガ地方の五色湖の湖畔に生息するホロボロ鳥は、そのカメレオンのように変化する羽毛で、別名『虹鳥』とも『カメレオン鳥』とも言われている。

 この鳥はその羽毛を活かして、敵などに襲われた時に、威嚇色を出すがそれは何色か』


 この鳥の事は『ボクにもわかる マモノの全て』本で見たことがある。

 こいつは色が変化する湖と同じく五色の色の羽毛を自由に変化させて、求愛したり、威嚇したりするのだ。

 ちなみにその五色湖もオーロラのように見ているそばから変化するという美しい湖だ。


 確かこの鳥の色は湖の色と同じと書かれていたはず。

『青・緑・黄・オレンジ・赤』

 この中で威嚇色と言えば赤に決まってるだろ。

 カラーの挿絵でも、青緑色の湖をバックに全身を火の鳥色にさせている、威嚇するクジャクのように翼を広げた鳥の絵が描かれていた。


 だが答えを書こうとして、ふと引っかかるものがあった。

 なんであの挿絵は、青い湖ではなく、わざわざ緑に近い青緑色の湖をバックに描いていたのだろう。

 他の水を表したイラストでは一般的にただの青色で描かれていた。この湖だって青色になる時もあるのに。

 そういやなにか補足が書かれていたような。……補足。


 あっ、補色だっ、反対色!

 威嚇するんだから、毒々しくハッキリ目立たなければいけない。

 この鳥は相手に威嚇する時、バックの湖の色とは反対系の色に羽毛を変化させるんだった。

 青い湖の前では黄色になるように、逆カメレオン状態になるんだ。

 そうしてよりフラッシュして見えるように羽ばたいて、相手に驚きと脅威たらしめるのだ。


 あぶねー。これも引っ掛け問題かよ。

 覚えておいてよかった。

 しかし何色と書いてあるから、5色それぞれのパターン全部書くのかよ。

 時間かかるな。長い問題文は、読んで理解するにも時間食うのに。


 待てよ、50問を2時間で解くってことは、1問あたり3分もねぇじゃないか!

 名前を書くのに無駄に時間使ってるし、こんな引っ掛け問題読みながら答え書けってのかっ!


 うぬぅ~~~っ、経験を積んでりゃ当たり前の知識って事なのか、これが。

 くそう、やっぱり机上の勉強じゃダメなのか。


 時間が気になって、つい顔を上げた。

 誰もいない机の向こうからあの半目の男が無表情で、こちらを見るとはなしに視線を向けている。

 あの試験官には俺以外に、全員が見えているのかもしれない。


 そしてその手前の砂時計には、もちろんだが、まだたっぷりと砂が残っていた。

 よし、大丈夫だ、焦るな俺。 ん?


 砂時計の砂の色はさっき、濃い青だったと思った。だが、今見る色は青緑色に見える。

 光の加減か? 俺が緊張しすぎているせいか。

 ともあれ今はそんな事気にしてる場合じゃない。問題に専念しよう。


 しかし確かに合っていると思える解答も、書くうちについ疑心暗鬼になってしまう。

 マズイ、これはプチパニックになっているのじゃないか。

 ここは確かに合ってるハズだ、落ち着け俺。


 と、更に不味い事になってきた。

 さっき水をがぶ飲みしたのと、緊張のせいか、急にトイレに行きたくなってきたのだ。

 

 試験官は行ってもいいと言っていたが、どうなんだろう。

 トイレに行ったせいで減点とかされないのだろうか。出来るなら行かない方がいいだろう。

 しかしまた前を見て、驚いた。


 砂時計の砂が明らかに緑色になっている。

 これは、時間の経過と共に色が変わるんだ。砂の量以外に色で知らせる砂時計。

 青から緑にという事は、やはり最後は危険色の赤なのだろうか。


 くそぅ、なんだか追い立てられている感じがする。

 ハンターになるくらいなんだから、これくらいで動揺してたらダメなんだろうが……。


 とりあえずここは水魔法で抑え込んでおこう……あれっ、使えない、というか何か力が飛散してる抜けている感じがする。


 なんだ、外部に向けてじゃなく、体内に向けてもダメなのかっ!?

 ぇえっ、これ、普通にトイレ我慢タイムかよっ。

 ……#▲*§◇&¥●$Ψ ~~~!


 10分程我慢したが、駄目だった……。

 なんか体の奥が震えてくる感じがしてきて、とにかくテストに集中出来なくなってきた。


 もう減点されてもいい。

 ここは人としての……威厳だけは守らなければ……。


「はい、どうしました?」

 俺が手を上げると、すかさず試験官が声をかけて近くにやってきた。

「……すいません。トイレ我慢できなくて……」

「始めに言いましたが、我慢しなくて良いんですよ。戻ってきても試験は続けられますから。

 どうぞ急いで行って来てください。通路を出て右にありますから」


 俺は礼を言ってドアにそそくさと向かった。

 出る前に振り返った砂時計の色は、濃い緑に黄色が混ざり始めていた。


 右に向くと奥の方に、トイレのプレートを下げたドアがある。

 テスト続行出来ると言ってくれたから、それを信じてすぐに戻ろう。

 何か不正をしていると思われないように。


 人はトイレに駆け込む時に無防備になる。何としても早く、この生理現象を処理したいことで頭がいっぱいになってしまうからだ。それしか考えてない。

 そのせいで警戒心がすっ飛んでいた。


 ドアを開けた瞬間、俺は変な悲鳴を上げてしまった。

「===ッ!!!」

 中には、腕と足をそれぞれ組んで座っている奴がいた。


「おい、早く入れっ。誰かに見られるとマズイだろ」

 そう言い終わる前に背中を押され、コケるように入った背後でドアが閉まった。


「ヴァッ! バァ、バ、バ……」

「大丈夫だ。遮音くらいしてる。それにみろ。オレはここに座ってるだけだ。

 蓋してあるだろ?」

 そう言って組んだ足をずらした。


「このバカ野郎っ! 何しに来てんだよっ!?」

「伝心するなっていうから、直接来た。

 お前のその乱れた波長のせいで、オレが上の酒場でいくつジョッキを壊したと思う?」


「知らねぇよっ!

 っていうか、だからって実体ごと来る奴がいるかっ! これじゃカンニングも一緒じゃねぇかよ」

 この親バカザメッがっ!!


「答えを教えに来た訳じゃねえよ。ただお前の気が乱れ過ぎてるから、活を入れに来ただけだ」

「そんなもん要らねぇよっ。それより危うく漏れるとこだったぞっ。

 トイレと風呂には来るなって、いつも言ってるだろっ」


 大体なんで男2人で、トイレの個室で言い争ってるんだ。バレたら違う意味で俺の尊厳が無くなるじゃねぇか。


「いいか、落ち着いてやれば、大したことないぞ。お前はちゃんと知識として確実に――」

「てめぇっ いいからさっさと帰りやがれっ! 俺はこれから大事な用足しをしたいんだ。

 というか、早くそこをどけっ!!」


 すると奴は軽く眉を上げて

「ふうん、まあその調子なら大丈夫そうだな。じゃあしっかりやれよ」

 そのままフェードアウトしていった。


 クソッ! まったくあの野郎は、活じゃなくて俺の頭に血を上らせるために来たのか?

 蓋を開けながら、もう一度まわりを見回した。

 本当にもういなくなったんだろうな?


 トイレから出ると収納からペットボトルを取り出せた。教室以外では使えるらしい。

 スッキリしたし、喉を潤せてなんとか人心地つく。


 あとはやるだけやるしかない。これで落ちてもしょうがない。

 そう考えるとなんだか少し落ち着いてきた。


 ちょっと怒鳴ったおかげでストレス解消にもなったのかもしれない。

 もしかしてあいつ、それでワザと? 

 いや、ないない。そういう事考えずに突って来ただろ、少なくとも今のは。


 ドアをノックして入ると、試験官の男が「どうぞお座りください」と俺の机を指した。

 砂時計の砂は黄色に変わりつつある。


 おろっ?

 席に着き、伏せておいた答案用紙をめくってつい声が漏れそうになった。


 答案用紙がすり替わっている。

 まず初めて見る問題が目の前にあった。

 他の用紙も全部だ。さっきのとは違う。


 え……まさか一からやり直すの? 試験続行出来るってそう言う事なのか……?!

 一瞬貧血を起こしそうになった。


 だが、よく見ると新しい答案用紙は全部で5枚だった。

 慌てて問題数も数えると28問になっている。


 数えてないが、俺がさっき答えを書いた問題がおそらく22問ぐらいだろうと思われる。

 つまり未記入の問題のみ、新しいのと入れ替えられていたのだ。


 なるほど、こうしてカンニング防止という訳か。

 先に書いた答えを後で見直すことは出来なくなったが、まあそれぐらいのペナルティは仕方ない。


 厄介なのはまた、全部に名前やら何やら記入しなくてはいけないとこだが、もう四の五の言ってらんねぇ。

 砂時計はもう半分を切り、砂の色はすっかり鮮やかなレモン色になっているのだから。

 この時、名前や受験番号を書くのに人生最高スピードでペンを動かしたように思う。


 ただここでちょっとだけ、運命の女神様が振り向いてくれたのかもしれない。

 答案用紙が変わったことで、今度はダンジョン系の問題が多くなっていたのだ。


 おおっ、これならわかるぞ。

 問題を読みながら、答えがすぐさま閃いてくるのがわかる。

 最後までちゃんと読まないと早とちりしそうだが、まず知っている事柄が出てくることの安堵と喜びが、俺の気持ちをリラックス、かつ、やる気にさせた。


 よし、慌てず間違わず、しかし猛ダッシュで答えてやる。

 なんたって、ダンジョンでは嫌というほど経験したからな。

 蠕動も空間の歪みもハンターも、それをどう対処しなくてはいけないのかも。

 もちろん全部が全部ではないが、後半は結構正解を叩き出せたと思う。


 もうガリガリガリガリ……、一秒でも早く頭の中の答えを用紙に落とすべくペンを動かしたので手が強ばってくる。

 通常の鉛筆なら筆圧で先が折れていたかもしれないが、さすがハンター用のペン。まさしく鉄筆と言っていいほどの頑丈さだった。

 おかげで指が痛い。


 後で文盲者は口答で試験が受けられると聞いて、そっちの方がいいなあと思った。

 だがよくよく考えてみたら、試験官と対面しながら考えなければならないのだ。

 そっちのプレッシャーの方が俺には無理だった。

 

 深紅に染まった砂があと残り3cmくらいになった時、ひとまずわかる問題は書き切った。

 残り時間いっぱいを、答えを見直すことに費やした。

 

 パンッと高い音がした。

 試験官が手を打ったのだ。

「はい、そこまで。これにて筆記試験は終了です」

 

 その声と同時に、机の上の用紙が筆記用具と共にスーッと消えていった。

 あとには何も載っていない机があった。


 ハアアアァァァ~~~~…………。

 気がつくと俺は机の上に突っ伏していた。

 とりあえず筆記は終わった……。


「どうもお疲れ様でした。

 続いて実技を受けられる方は、受験票に書いてある通り、2時に中庭Bに来てください」


 さっきまで机に引っ付いていた受験票は、またぺらりと簡単に剥がれた。

 それによると実技の試験場は、このギルドの1階の奥にある中庭で行われるようだった。


 実技まであと約3時間か。

 本当に疲れた……。

 もうMPメンタルパワーカラッカラなんだが、大丈夫だろうか……。


ここまで読んで頂き本当にありがとうございます!

なんだか今回『クソッ』という汚い言葉を、何回言った事か……(^_^;)

蒼也とヴァリアスが入れ替わったくらい言ってた気がする。

★★★

次話がうまくまとまりませんっ(-_-;)

なんだろ、またプチスランプかな?

実はカクヨム版のストーリーの方が、今スラスラ出てくるから、

そっちの話の流れモードになってるのかも……。

う~ん、参ったな。とはいえ、やっつけ的なのも上げたくないし。

すいません、本当にちょっと時間ください……。

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