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第166話☆『ゴーレム戦』

☆★☆お知らせ☆★☆

 以前もお伝えしましたが、ただいま別サイト『カクヨム』様でも掲載中です。

第3章の初めまで同じですが、こちらの128話あたりから、別のストーリーにしました。

あの時、レッカやヨエルに会わなかったら、些細な違いから『バレンティア』に行かなかったら―――別の流れになっていたはず。

 という事で『カクヨム』様掲載の方は、あちらの第134話から違う話が進行します。

何しろタイトル通りもう一つの人生なので。

おそらく第4章からまた一つになる予定ですが、しばらく2つの話が展開する予定です。

ちなみに、あちらは文字数をなるべく整えるために、同じ内容を2話に

分けたりしているため、こちらと話数がズレています。

★☆★ 『カクヨム』様版

    第134話『風船男』からパラレルストーリーです ★☆★

 もし気が向きましたら、こちらもご一読お願いいたします。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921157262/episodes/16816452218591091335


 しばらくして通路の先に薄ぼんやりした灯りが見えてきた。

 3層に戻ってきたのだ。

 おかげで目視でも通路を確認することが出来るのは有難い。

 目のように特に意識せずとも見えるのとは違い、短時間ならいいが、俺はまだ意識して維持していかないと、探知の触手が短くなってしまうからだ。

 慣れれば、散歩するようにマイペースで出来るようになると奴は言うが、まだまだ魔法使い1年生の俺には先のことのように思える。


 ここまで10体近くのハンターに遭遇した。

 もう絶対に俺たちをつけ狙ってるとしか思えない。多分もう、あの4層以外の獲物は俺たちしかいないのかもしれない。

 しかも必ず2体以上で出てきて、中にはさっき俺が仕留められなかった、ギリギリで核が動くタイプのヤツが出てきたりした。

 そういうヤツに限って、ギリギリまでたいらのまま移動してくる。

 一番的を狙いにくい。


「こいつら仲間を呼ぶから全部仕留めるぞ。1体でも残したら、また追ってくるからな」

 あ、そうなの? それってもしかして俺のせいかも……。


 俺がまた四苦八苦していたら、見かねたのか、別のハンターをさっさと倒したヨエルが加勢してくれた。


 その小癪なハンターがまた平たくなって、地面直下を素早く移動してきた時、ヨエルが軽く弾を空中に放った。

 すると弾は急にスピードを上げたと思ったら、空中でいきなりカーブして地面にぶち当たった。

 ブルっと微かに土が動いたように見えたが、そのまま大人しくなった。

 地面下のエナジーが消えた。


 ヨエルが少し舌打ちした。

「ごめんね、ヨーさん……。あたしを抱えてるから上手く動けなくて」

 ちょっと済まなそうに女が首をすくめた。

「いや、こんなハンターがいる場所で、お前を降ろすわけにいかないだろ。

 ……まあ、魔力が十分にあれば全然平気だったんだ。おれの力不足だな」

 そういう俺もなんだか足手まといになってないか?


「今、弾が曲がったのは?」

 真似られるのなら、俺も戦力になれるかも。

「風の軌道に載せたんだよ。それに沿って弾を押し出したんだ。

 的にピッタリ、軌道の先を貼り付けてるから外れないだろ?」

 ああ、そうか。銃じゃないんだから、直線にしなくてもいいんだよな。

 でもそれ、すぐに出来そうにない……。


「あの、もしあれだったら、俺がエイダさんを抱えて走った方が良くないですか?」

「ん? あんた、こいつを抱えて走れるか? 見かけによらず、こいつは軽くないぞ」

「やあねっ! あたしは軽い方よ」

 エイダがワザとむくれたような顔をした。

「ええ、大丈夫です。これでも身体強化できるんですよ。あいつに走らされてるし」

 もう、戦闘は彼に任せて、俺は極力サポートに徹した方がいい気がしてきた。

「ああ、そうだよな。あの旦那に付き合ってるんだから、そりゃそうか」

 じゃあと彼女を降ろした。


「いや、助かるよ。腕が痺れちまったし」

 わざとらしく左腕を振った。

「じゃ、失礼します」

 俺は彼女を抱えようとした。


「いやっ、だったらあたし、背中がいいわ」

 すっと俺の手を女が避けた。

「エイダ、急ぐんだから我がまま言うなよ」

「いえ、どっちでも良いですよ。じゃあエイダさん、俺の背中に掴まってください」

 お姫様抱っこは、他の男にやられたくないのか、本当に重いから嫌だったのか。

 まあもうどっちでも良いか。


「よし、じゃあ戦闘は任せろ」

「お願いします」

 ヴァリアスの奴、俺が戦闘放棄したから、どっかで面白くない顔してるかな。

 だけどこれも立派に訓練だぞ。何しろ約53kg(身長164㎝)くらいの彼女を持って走るんだからな。


 再び俺たちはうす暗い通路を走りだした。

 ハンターになるべく気づかれないように、灯りは付けずに点在する松明の灯りのみで走る。

 前を行くヨエルは俺に気遣ってか、先程より少し速度を落として進んでいく。

 身体強化をしているので、俺にとっても多少余裕があった。

 

 いや、それよりも気になるのは、背中に胸が当たってくる事だ。

 見た目より確かにボリュームのある弾力感。これは確かに重いかも。

 しかも意識しだしたら、スカートがめくれて、女の太腿をもろに掴んでいることに気が付いた。

 これはお姫様抱っこより、役得なんじゃないのか?


 なんて思ってたら、急に前を行くヨエルが立ち止まって振り返ってきた。

 えっ まさか、探知で俺の顔がにやけてるのわかったの? 

 でもこれ不可抗力ですっ。


「なにか来てる、これはハンターじゃないっ」

「えっ」

 慌てて探知を伸ばしたが、俺の触手にはまだ引っかからない。だが耳を澄ますと、微かに高い風を切るような音が聞こえてきた。

「これは――― ゴーレムッ !」

「走れっ!」


 一気に全速力になった。

 もうジェット噴射で走ろうかと思ったが、背中に彼女を背負っているので、圧縮空気を彼女に押し当てるのはためらわれた。

 それにヨエルも探知以外、風魔法は使っていない。

 さっき聞いたが、どうやら魔力切れを起こすくらい一気に魔力を使ったので、あまり大きい魔法を使えないと言っていた。

 探知も出しっぱなしなので、そう簡単に魔力も溜まらないのだろう。


 それでも俺たちは普通の人間以上の速度――おそらく時速30㎞ぐらいで、松明の通路を走り抜けた。

 途中、血だまりのある部屋を通り抜けた時、ヨエルがその辺りを凝視しながら呟いた言葉も気になった。

「あいつ、アンデッドにでもなったのか」と彼は確かに言った。

 なに、アンデッドってなんだよ。

 ハンター、ゴーレムに次いでゾンビも出るのか ?!


 だが、そんなことより今はゴーレムだ。

 もうハッキリとあの音が聞こえてきた。それは通路や部屋を反響して、甲高く響いてくる。

 いや、それよりも恐ろしいのは、足音がどんどん大きくなって来ることだった。

 後ろの方のみに意識を集中して伸ばした触手に、そいつの姿をなんとか捉えることが出来た。

 そいつは四つ足で猛然と爆走してきていた。

 確実に俺たちを追ってきている。


『(ヴァリアス、なんでこんなにこいつらは執拗しつこいんだっ?! ダンジョンの魔物ってこんなに獲物に執着するのかっ)』

 さっきのハンターといい、まるでアクションゲームのように狙ってきている気がする。

『(2度目だからだ)』

 奴からの返答は、当然といった感じのものだった。

『(この前に一度、内部の生物をほとんど殲滅されて封鎖されてるだろ。それでダンジョンは今度こそ獲物を確保しておきたいのに、また地上では入り口を封鎖した。

 そこへもってきて、お前たちが獲物を横取りしようとしてる。

 熊だって獲物を盗られたらどこまでも追っかけてくるだろ。まあ当然の結果だな)』

『(なんだよ、獲物を盗ったって。俺たちだって獲物自身じゃないのかよ)』

 そう云ってハッと思い出した。


 あの時ゴーレムは、残す獲物を選りすぐっていた。そしてあの4層に連れて行ったのだ。

 エイダや他の一般人らしき人々がいたのは、ハンターやゴーレムが連れてきたからだ。

 そこから取り返した獲物。

 

 エイダだ! 奴は彼女を取り返しに来てるんだ。

 俺は背中の彼女の存在感を強く感じた。


 それと同時に奴が言った熊の習性で、昔聞いたある話を思い出した。

 ある女性が山で土に埋もれている、熊の餌食になった知り合いの遺体を発見した。

 彼女は熊が獲物に固執する習性を知っていたので、遺体に紐を括り付け、川に浮かばせながら引いて連れ帰ってきた。獲物の匂いで追って来れないように考えたのだ。

 だが、それでも熊は村を襲いに来た。

 獲物の匂いではなく、獲物を持っていった彼女の匂いを追ってきたのだ。

 

 そんな熊と同じような習性がもしあるならば、必ずどこまでも追ってくるはずだ。

 そして獲物を盗んだ奴を熊は絶対に許さない。


「ダメだっ 追いつかれる! もう少し先に広い空間がある。そこで奴を迎え撃つ。

 あんた、確か光魔法使えたよな? そこに入ったら灯りを打ち上げてくれ」

「は、はいっ」

 あの『青い夜鳴き鳥亭』で、俺が光魔法を使おうとした事を覚えていたらしい。

 だけど明かりをつけるという事は、ハンターを余計おびき寄せるんじゃないのか。

 いや、戦闘になったら関係ないか。

 

 その広い空間に入った途端に、ヨエルが伸ばしていた探知の触手を引っ込めたのを感じた。

 同時に俺は辺りを照らす光玉を複数打ち上げた。


 そこはあの人々の上に泥砂が降り注ぎ、積もった洞穴だった。

 いつもならそんな上を踏むのは躊躇するところだが、もうそんな事考えてる余裕がない。

 俺の伸ばした探知にそいつが2つ手前の部屋を通り、通路を激走し、再び最後の部屋を抜けたのを感じたからだ。


「エイダッ、何があっても声を上げるなよ。気が散るからな」

「わかった、ヨーさんっ」

 俺の背中で身震いしていた彼女だが、声だけはハッキリしていた。


 俺たちが部屋の中央まで来たのと、そいつが飛び込んできたのはほぼ同時だった。

 俺たちの姿を見ると、また一段と高い声を上げてきた。

 と、同時にヨエルがその黒焦げ茶の腹に2発、弾を打ち込んだ。

 『ア˝ア˝ア˝ア˝ァァァーーーッ!』

 熊というかゴリラのようなゴーレムが、立ち止まりながらまた叫ぶ。

 俺も火炎弾を打ち込んだが、耐性が高くて当たると同時に消えてしまった。


「やるなら下腹を狙えっ」

 ヨエルが剣を抜きながら、ゴーレムに向かってダッシュした。

 そこに核があるのか? 俺の探知では良く見えないが。

 ええい、火がダメなら電気はどうだっ。


 ヨエルをもちろん避けて、雷撃でゴーレムの下腹を射貫いた。と、見えたが電気はその表面を流れただけで放電した。

 だが、その一瞬、放った電気の感じで確かにその奥に、何か核らしきものがあるのを感じとれた。

 なんとかアレをどうにかすれば、ゴーレムは止まるんだっけ。


「あんた、エイダを連れてもっと離れてろっ」

 ゴーレムが振り払うようにぶっとい前足を繰り出すのを、彼はギリギリでその腕をかわしている。

 すれ違いざま、ガキンッとその岩の脇腹に一撃が入った。だが、ゴーレムは全くひるまない。

 そのまま、俺たちのほうにダッシュしてきた。

 速いっ! 

 土魔法で抑え込もうとした。ダメだ、力が強すぎて全く歯が立たない。

 咄嗟に足元に氷を撃つ。凍ってくれっ。だが、これも足元を氷漬けにするどころか、氷の粒が砕け散った。


 バッとそいつが俺たちに手を伸ばした瞬間、ゴーレムの前に空気の壁が出来た。バッシュッと空気を強く叩く音がして、奴の手が手前で止まった。

 その隙に地面を強く蹴って反対側の通路に向かって走る。


 探知でヨエルがガッチリ、ゴーレムの体を空気圧で絞めているのがわかった。

 だが、それも時間の問題だ。じりじりとゴーレムの両腕が動いていくのを感じる。

 ほんのちょっと、ヨエルが息を吐いた。


 グルッと奴が、今度は彼に向かって猛ダッシュをかました。

 彼もグッと剣を斜めに構える。

 俺も収納から鉄弾を10発ほど取り出すと、そのまま思い切り奴の腰にぶち込んだ。

 岩にぶち当たる鈍い音が響く。

 ゴーレムがまた啼いたが、そのままヨエルに突進すると後ろ足で立ち上がり、その大木のような腕をぶんぶんと振り回した。

 大ぶりなのに、ボクシングの殴り合いでもあまり見た事ないくらい素早い振りだ。

 ヨエルはギリギリでそれをかわしながら、なんとか懐に飛び込んで急所を突くのを狙っている。

 よく視ると、彼のまわり、特に腹から上にかけて空気の膜が出来ている。空気の鎧、クッションを作ってるんだ。打撃を少しでも和らげるだけでなく、奴の腕から滑るようにしている。


 長いようで、そんな攻防はほんの数秒だった。隙を見て下腹にヨエルが切っ先を叩きこんだ。

 悲鳴のような甲高い声が上がる。

 やったかっ?!

 次の瞬間、ゴーレムが信じられないくらいの速さで回し蹴りした。

「あっ!」

 剣を突き立てて、避けきれなかったヨエルが横にぶっ飛んだ。思い切り壁にぶち当たる。

 それに向かってゴーレムが飛び掛かるように地面を蹴った。


「!?」

 彼は俺の目の前で、横向きに剣を構えた状態で立っていた。

 咄嗟に俺が転移させたのだ。

「これは……あんたがやったのか?!」

「ええ、あんまり出来ないですけど」

 自分を動かすより、人を動かすのはやはり少しやりづらい。今度から自分以外の転移も練習しとくべきだな。

 ゴーレムはいきなり目の前の獲物がいなくなって、腕を宙に振り回すと、一瞬だが動きが止まった。

 だが、すぐにこちらに向き直ってきた。

 

 咄嗟に転移の連続で逃げようかと思ったが、自分を含め3人も一緒に転移出来るか自信がない。それにそんなことをしても、この歪んだ空間では一度の距離が知れている。

 それなら走ったほうがまだましだ。


「土と岩のくせに、クソてぇ。連打攻撃で削っていくしかないか……」

 そう言う横顔にだいぶ疲れの兆しが見えてきた。

「そういや、あんた、さっき火と氷をつかってたな」

 ヨエルがゴーレムを見据えたまま訊いてきた。

「ええ、歯が立たなかったけど」

「それでいい。おれが合図したら、思い切り熱い火焔を打ち込んでくれ。出来るか?」

「やってみます」


 俺が返事すると同時に、彼はまたゴーレムに突っ込んでいった。

 ゴーレムも向かってくる彼に向かって、威嚇のように高い声を張り上げる。


「今だっ !」

 あと5mと近づいた瞬間に、ヨエルが斜め横に跳んだ。

 正面にゴーレムがなんの障害物も無く見える。そこに渾身の力を込めて火炎弾を打ち込んだ。

 

 ボワッ!! 火焔がゴーレムの腹に叩きつけられた。その炎が大きく広がって表面から薄くなる。

 消えるっと思ったが、炎は消えなかった。ぐるりとまるで火の蛇のように、その胴体に巻き付き始めた。ゴーレムがまた唸り声をあげて、その炎を消そうと手で胴を叩く。

 だが、炎の蛇は太くキツく巻きついて離れようとしない。

 

 あ、彼だ。ヨエルが風魔法で操ってるんだ。俺の魔力じゃ対抗出来ないが、彼なら突破できる。

 そうして俺の炎を消さないように、空気で操作してるんだ。


 ゴーレムがまたひと啼きして、四つん這いになると、俺たちのほうに来ようとした。

 そこへヨエルがまた鉄弾を打ち込んで、気を逸らさせる。

 ゴーレムは俺とヨエルのどちらに構うか、それよりも火を消そうか迷うように、手をウロウロさせた。

 

 ふっと炎が急に消えた。

 ヨエルの魔力が尽きたのかっ?!

 だが、そう思ったのは早計だった。

「次っ、アイスだっ。思い切り冷やせっ!」

 あっ! 彼の意図がわかった。


 ヨエルが振り回すゴーレムの腕から距離を取って避ける。

 俺はマンモスを瞬間冷凍するつもりで、液体窒素を大量にぶっ飛ばした。

 ぐりんっとゴーレムの腹周りで、白い霧を吐くその液体が風に乗って太い輪を作った。

 シュウウゥゥゥーーと、更に白い湯気が上ってゴーレムの腹から上が見えなくなる。


『ア˝ァーーーーッ』

 ひときわ高い声が響く。

 振り回す腕をかわして、ヨエルが奴の懐に入り込んだ。

 その下腹に剣を抉るように突き刺す。剣が半分までぶっ刺さった。

『ア˝ァ˝ア˝ァ˝アァァァッ』

 その剣を抜こうと、ゴーレムが手を出したより早く、ヨエルがその柄の頭を思い切り蹴りこんだ。


 ボコッンッ!! 剣の先がゴーレムの背中から突き抜けた。それと同時に何かが押し出される。

 それは勢い余って大きく飛び出すと、2,3回跳ねて床に転がった。


『エア˝ァ˝ッ ゴァア˝ッ》》 ヴァア˝ア˝ァ》》》 ――― 』

 ゴーレムは急に幾つもの口が出来たかのように、色々な声で啼き始めた。それは高低が入り混じった、色々な楽器のようだった。

 そして先程の勢いが嘘のように、ゆっくりと体を左右に揺らし始めた。


 その隙にヨエルは後ろに転がったその核に追いつくと、それを思い切り踏んづけた。

 パキンッ―――。

 その音が洞穴内に響き渡ると同時に、ゴーレムの動きが止まった。

 それから少しづつ、こげ茶色のゴーレムの、剣が刺さったままの腹からヒビが伸びていき、全身を広がっていく。

 俺たちが見守る中、頭の天辺までにヒビが入った岩ゴリラは、そこで1㎜も動かなくなった。


「いてて……」

 ヨエルがその場に座り込んだ。

 やったのかっ。

 俺は彼の元に走り寄った。

 

 もうお分かりかと思うが、温度の極差による物質の疲労破壊だ。急激な膨張と収縮でもろくなる、硬い石もこれで割れたりする現象だ。

 さすがに中世世界とはいえ、鉄を扱う文化もあるのでこういう物理現象は知られているようだ。


「すまねぇが……、ちょっとすぐには走れない……」

 そう言ってヨエルは地面に横になった。

「わかりました。探知は任せて下さい」 

 とはいえ、地面下の死体を感知したくない。俺は索敵に切り替えた。

 そうして自然と女を降ろしていた。ここはまだ大丈夫だと思ったからだ。


「ヨーさん、大丈夫?」

 エイダがガバッと彼に覆いかぶさるように覗き込む。

「ああ、なんとかな。ちょっと脇腹をやられたが、折れちゃいない。数分休ましてくれ」

 そう言いながら、少し体を起こすとポケットから小瓶を取り出した。

 それを飲んでいる彼を見守りながら、ふと足元に転がるモノに目がいった。


 それは2つに割れてひしゃげた玉のようだったが、その金色の表面に見覚えのある紋章が描かれていた。

ここまで読んで頂き有難うございます。


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