表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/283

第160話☆『ハンターvsハンター』


「セバスさんっ、良かった無事だったのね!」

 パネラがすっ飛ぶように、セバスのところへ走り寄った。

「ああ、あん時、土に巻かれたというより、なんだか遠くに吹っ飛ばされた感じがしてな。

 気が付いたらこの4層にまた戻ってきていたってわけだ。

 この子らと一緒にな」

 そう言ってセバスは、腕に抱えていたアーダを地面にそっと下ろした。

「ほらっ 君もそろそろ大丈夫だろ? 自分の足で立っとくれよ」

 降ろされてアーダは地面にへたり込みそうになったが、セバスの毛皮にしがみ付きながらなんとか足に力を入れた。


「この子は別に怪我はしとらんのだが、ちいと腰が抜けてしまってな。だからワッシが抱えとったって訳さ」

 確かにアーダの足腰は、生まれたばかりの小鹿のようにワナワナと小刻みに震えていた。

「でも、飛ばされたところがここで、まず良かったよ。水も食べ物もあるし、それでなんとか落ち着けたんだ」

 そしてキョロキョロと3人を見回すと

「あの2人はどうした。もしかしてはぐれたのか?」


 それを聞いてパネラが視線を足元に落とした。エッボとレッカも垣根にもたれたまま、下を向いた。

「ん、まさか、やられたのか」

 セバスが大きな目を見開いた。

「……ソーヤは、やられちゃった……。兄さんは途中まではぐれてて、ソーヤがやられた時に戻って来たけど……」

「………」

「ソーヤを助けられなくて……あたい、見殺しにしちゃったんだよ。……だから兄さん怒っていなくなっちゃった……」

 また思い出したのか、パネラがうるうる目を潤ませた。


「そうか……そいつは大変だったな。辛かっただろ……」

 セバスはその大きな手をパネラの肩に乗せた。

「あんなハンター相手じゃ無理だろう。下手すれば皆やられてたはずだ」

「それが、ハンターじゃなくて、ゴーレムだったの」

「「ゴーレムッ ?!」」

 セバスとベニートが同時に声を上げた。

「ハンターだけじゃなくて、ゴーレムまで出たのかっ」

「マジかよ……」

 ベニートがイラつくように、頭を掻きむしった。

「それが―――」


「すいませんが、ちょっとそのハンターの件を詳しく聞かせてもらえませんか」

 皆が驚くとともにセバスの後ろを見た。

 そこにはいつの間にか、小柄な道化師が立っていた。

「あんた、さっきの、2層で会った係の人だよな?」

 エッボがなんとか起き上がってやって来た。その顔は疑い深げに眉を寄せて、耳が立っている。

「あんた、現われるまで匂いもしなかったし、足音も聞こえなかった。隠蔽を使ってただろ」

「「えっ」」

 それにパネラとレッカがすぐに身構える。

 若者たちはなんだか分からないという顔をし、セバスは片眉を微かに吊り上げた。


「もしかしてジゲー家の回し者っ!」

「あんたが、ポーを酷い目に遭わせた奴かっ ?!」

 レッカが声を荒げて立ち上がった。

「申し訳ないことをしましたが、アレはわたしじゃないです。

 それに今は非常時です。敵味方を言っている場合じゃないでしょう」

 男は小さな手のひらを見せた。

「ここは情報交換といきましょうよ」

 周りの人達をぐるりと見ながら

「わたしも仲間を探してるんです。いえ、1人の女をね」


 *****************************


 やっと瓦礫が無くなった頃、穴は急に尻すぼみに小さくなると、また3層のような洞窟のタイプの通路になった。

 岩壁にワームが通った跡のようにうねった横穴が続き、途中で横穴や枝分かれしたりしている。

 光球に照らされる土壁も灰色の岩混じりになってきた。

 天井の高さは低いところでも3mくらいか。横の幅も同じくらいだろう。

 皆はどこに行ったんだろう。この方向で合ってるのか不安になる。

 枝分かれに出る度に、どっちに行くのが正解か迷う。

 何しろ皆のオーラどころか、誰の気配も感じないのだ。

 とにかく奥に行くしかない。


「ヴァリアス、さっき重力の罠にはまったときに転移出来なかったんだが、あれは空間の歪みのせいなのか?」

 俺はいつも通り音も無く、横にピッタリとくっついてくる奴に走りながら訊いた。

「いや、あれはただのお前の力不足だ」

「何? だって転移のエネルギーは『距離×物体の重さ×速度』じゃないのか。あの時の重さは凄かったが、数m動くぐらいなら、100m先に跳ぶのと変わらなかったはずだぞ」

「エネルギーだけで考えるなら、もっと少なくて済んだ。だが、お前自身が動かす力が足りなかったって意味だ。

 転移するという事は、物体を動かすという事だ。

 自分を動かすときは足腰や、腕を使って体を持ち上げるだろ。たとえ体力があっても脚力が無ければ歩けないのと一緒だ」

「じゃあ、例えば俺が持ち上げられない重さは、転移させられないって事なのか」

「そうだ」

 うぬぬ、そんな仕組みになってたのか。しかしいつもながら、そういう大事な情報は先に教えろよなぁ~。


「確かにあの重力地獄はヤバかった。あの罠は探知にも引っかからなかったしなあ」

 今度引っかかったらどうやって抜け出そう。

「あれは罠じゃないぞ。お前が例の玉を取り出そうとしたから、ダンジョンが反射的に掴んだんだ。

 意志ある地殻がその力で握ったからな。地面の質量が一時的に巨大になって、引力が強くなったって訳だ」

「ええっ、ますます厄介だな。どうやっても玉を渡さない気か」

 こんなダンジョンみたいな超自然が相手じゃ、こいつみたいな奴じゃないともう無理じゃないのか。

「あんな事はもうしないだろうな。あれは相当エネルギーを使ったし、あの時、守りの体制を変えたようだから。恐らくアレが最終形態だろうな」

 そう奴が斜め下の方に目を向けながら言った。


「なんだよ、最終形態って。そのまんまラスボスじゃねぇか」

 とんだリアルダンジョンマスターになってきた。

「おい、そんな無駄口利いてる暇あるのか。ちゃんとまわりに注意してるか」

 その言葉と同時に俺は立ち止まった。

 ちゃんと注意していたから、俺にもわかった。


 20m程先の通路の地面がおかしかった。

 一見すると普通の地面なのだが、探知で感じる地面の一部に、エナジーが流れる何か血管のような筋が集まっているのだ。

 それは獲物をじっと待つ獣が身を伏せているように感じられた。


「ハンターか」

 セバスさんに貰った、あの別ダンジョンの土は、今やほとんど付いてない。

 あの超重力場でほぼ落ちてしまったからだ。

 もうハンター除けはない。


 急に地面をその筋がこちらに動き出した。

 目視では全く地面は変わらない。

 だが、俺のもう一つの眼には、水面下を走ってくるピラニアの群れが見えた。


 10m手前でそのエナジーの群れを土魔法で押さえ込んだ。

 赤や紫に明滅するその光の筋は、ビクンと動きを止めると、抵抗してプルプルと震えた。

「このっ、やっぱり抵抗力が強いな。吹っ飛ばせないぞ」

 俺は押さえ込みながら、土を飛散させようとしているのだが、なかなか上手くいかない。土自身が内側に力を入れて、グッと丸まっている感じでそれ以上動かせないのだ。

 いつまでも押さえ込んでるだけじゃ埒が明かない。 

 などと思っていたら、下から同じようなモノが近づいてくる気配があった。


「くそっ 2つ目が来やがったっ!」

 足元から土のクジラが、つぼみを開くように巨大な口を開けた瞬間、俺は40m先の分岐点前に転移した。

 振り返ると、開けた口を閉じて土のクジラが地面に戻っていき、押さえ込んでいた地面が反動でボコンと隆起したのが見えた。

 だが、すぐに2つとも俺の方に向かって、地面の下を走りだす。

「しつこいなっ」

 迷ってる暇がないので、咄嗟にやや下向している左側の穴に飛び込む。

 するとハンターも追ってくる。


「何か喰わないと引っ込まないのか?」

 俺は走りながら叫んだ。

「お前を捉えてるからだ。というか、この光とお前の走る振動で気配を察してるんだよ」

 見えない姿から返答が来る。

「この闇の中を、探知だけで進めってのかよ。飛ぶこともまだ出来ないし―――、いや、切り離してやるっ」

 ダッシュと同時に圧縮空気を背中に巻きつけると、ジェット噴射を出した。

 ぐわぁんっと体が吹っ飛ばされる。

 20mくらい一気に跳ぶことが出来た。そのままの勢いでダッシュを続け、ホール状になった空間に入るとハンターたちは追って来なくなった。

 通路にしか出ないというのは本当なんだな。


 そうして蟻の巣のような通路や小部屋を、いくつか進んでいくうちにオーラを感じた。

 これは―――

 その通路に感じたオーラは俺たちのモノだった。

 通った事がある通路、そして入った事のあるホール。

 俺はホールの中に飛び込んで、その光景に思わず壁を叩いた。


 そのホールの中は何もなかった。ただベージュがかった茶色の土砂が埋め尽くしていた。

 目にはそう見える。

 だが、ここはあの老若男女が倒れていた場所だ。あの女の子も。

 

 間に合わなかった……。

 いや、俺一人じゃ、どの道どうしようもなかったのか。

 なんだか無力感で、その場にしゃがみ込みそうになった。

 

 が、その時、土の上を探知していた触手に、僅かな色が引っかかった。

 その部分に意識を集中すると、果たして壁際に、飴色がかったブロンドの頭が少し出ているのが見えた。

 慌てて土や砂を風魔法で飛ばしながら、駆け寄った。


 女の子は辛うじて生きていた。

 壁にもたれ掛かり、頭を前に下げていたおかげで、顔の下に少し空間が残っていたらしい。

 すぐにあの転移の布を広げた。


「お前なぁ―――」

「黙ってろよっ これが俺のやり方だっ! この子くらいは助けったっていいだろっ」

 魔法円の目に手を当て、向こう側にまた警吏さんがいるのを確認して、女の子の横に魔石を出した。

 軽い女の子1人だが結構 奥に来たから、一体どのくらい使うんだろう?

 リュックの中の魔石は、さっきの残りも合わせて6個ある。

 目安が分からないので全部置いた。


 女の子が無事に消えていったあと、布の上には4個と僅かな欠片が残った。

 布と魔石を収納して立ち上がるまで、奴は何も言わずに横で腕を組んで立っていた。


「……ヴァリアス、疑問があるんだが、答えてくれるか?」

 怒ってるかもしれないと思ったが、すんなり返事してきた。

「なんだ?」

「なんであの崩落した穴まわり以外に、この穴にも一般客がいたんだ? あっちは皆、そのまま瓦礫の下敷きになっていたのに、こっちじゃ土砂に埋もれての窒息死だ。

 違う殺し方をするのに、わざわざこっちに運んできたのか?」


「選別のためだ。エッボの奴も言ってただろ、殺食用と畜食用に獲物を仕分けるって。

 あの陥没で落ちた瞬間、ハンター達が半分近くの人間をキャッチして、いったんここに連れて来たんだ。

 それから畜食用の奴を選り分けて、その残りをこうやって緩慢な死で覆ったって訳だ」

「畜食用って……、もしかしてあの4層の庭園にか?」

「そうだ。あの学者も言ってただろ。あそこが人間が棲めるようになってるって」

 そうか。じゃあもしかすると、パネラ達がもし捕まっても殺されてなければ、あそこにいる可能性は高いんだな。

 とにかく今は残ったオーラを手掛かりに、皆を探そう。

 パネラ達の残したオーラの跡を追って、俺たちはまた奥に向かった。


 *****************************


 ワームの穴倉のような通路を飛行中に、ヨエルは後ろから何かが近づいてくるのを感じた。

 それは何かのエネルギーの塊り、赤紫の光を明滅させる大きな触手、そして地面ではなく、天井に沿ってかなりの速さでやって来る。

 それは天井の面ではなく、岩土の中を猛魚が泳ぐがごとく進んできた。

 ガーゴイルが出るようなダンジョンだ。何が出てもおかしくはない。

 この動きはもしかすると。

 

 そいつはピッタリと後をついてくるどころか、じわじわと間隔を詰めてきた。

 どうする、吹っ切るか。

 だが、これ以上速度を上げると、エイダの痕跡を見落としかねない。

 もしハンターだったら、通路を抜ければまけるだろうが、もしそうでない場合は厄介だ。

 それにハンターは仲間を呼ぶ。

 あいつらは獣でもないくせに、時に獲物が手ごわいと共同で狩りをするのだ。

 

 それはダンジョンという体内を駆け巡って侵入者を撃退する、白血球のようなものだ。

 もちろんヨエルにそんな知識はないが。


 ここで仲間を呼ばれて増えたりしたら、帰りが厄介になるかもしれない。

 辺りに罠などがないのを確認して、ヨエルは地上に降りた。すぐに背中の羽を畳む。


 天井の中を走ってきたそいつは、にわかに速度を上げてきた。そうしてヨエルの頭上に来るやいなや、岩土から巨大な花が咲くように口を広げてきた。


 一般的に風にとって地は相性が悪い。地が壁となって風を除け、防いでしまうからだ。

 でもそれは、あくまで力が同等以下の場合。


 ヨエルを包み込もうとした土の花びらは、そのままヨエルの頭の上で固まった。

 閉じようとする力と拮抗する抑止力に、土の塊が小刻みに揺れる。


「驚いたか、地の狩人(アースハンター)。おれは土使いじゃないが、こうやって空気を圧縮すると壁になるんだぞ。下手な岩より硬くな」

 そうして剣を抜くと、動けずに明滅を繰り返すその筋の中心に突き刺した。

 そのまま剣をグリッとえぐるように回転させる。

 パッと土の花びらは形を保っていられずに、ただの土砂と化した。


 良かった。一般的なハンターのタイプだ。たまに代わり種がいて、核をやっても動くだけで、エナジー全体を吹き飛ばさなくちゃならない面倒な奴もいるが、こいつはそうではなかったようだ。

 今はあまり余計な魔力は使いたくないしな。

 しかし―――と、また羽を広げながら、ヨエルはふっと口元を少し緩ませた。


 おれも自分の死を恐れる臆病な面がある一方、こうして戦闘にはどこか高揚感を感じてしまう。

 やっぱり根っからのハンターなのかもしれない。

 もし、このダンジョンを無事に抜け出せたら、今度こそ、Sランクの昇格試験を受けてもいいかもしれないな。

 ギルドからは、何度か昇格試験の誘いがあったが、Sランクは目立つからAランク止まりにしていた。

 だが、もう誰もおれを捕まえる権利がないのだから、そろそろいいだろう。


 おれがSになったら、よく雇用してくれるあのギルドのバイヤーは、気軽に使える値段じゃなくなったと、ぼやくだろうか。

 AとSじゃ、たった1つのランク違いとはいえ、かなりの開きがある。

 今までの稼ぎに比べて、報酬も大きく違ってくる。

 自由になったのだから、宿を渡り歩くよりもどこかに一軒家でも買うか。

 そうして所帯でも持って―――。


 ふっ、今考えてる場合じゃないな。


 ヨエルはまた空中に体を浮かした。


ここまで読んで頂き有難うございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ