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第158話☆『 Dungeon’s ecstasy 』

なんだかカタカナだと恥ずかしいので、タイトルを英語にしてみました。

だけどそれもカッコつけっぽくて、恥ずかしい気が……。

じゃあタイトル変えればいいだけの話なんですけどね、なんだか

つい使ってみたい言葉だったので(^^;)


 非常扉をくぐると、中は黒い金属で四方を作られた通路になっていた。

 人1人がなんとか通れるぐらいの幅で、壁一面に魔除けらしき呪文が彫りこまれている。

 それがぼうっと白い光を放っている。

 通路はおよそ50mほど行くと左に直角に折れ、先にこれまた呪文が彫りこまれた扉が見えてきた。


 出た先はどうやら管理室のような小部屋だった。

 10帖くらいの大きさの部屋の中には、テーブルと椅子、ソファがあり、壁際の事務用らしき机の上には何かのファイルが広げられたままになっていた。

 戸棚にポーションらしき小瓶や簡単な医療キッド、缶などが入っていて、鍵が閉まっていた。

 その横にロッカーのような縦長の金属の箱に、これまた鍵付きの戸がついている。

 壁には何かを作動させるレバーが突き出ていた。

 

 開きっぱなしのドアと格子窓から、部屋の外が見える。

 部屋の外はあのエントランスホールだった。

 天井には例のフラッグガーランド(旗付きロープ)が垂れ下がって、その間をシャボン玉のような球体があてもなく飛んでいる。

 だが、先程まで飾り付けられていた太い柱は、氷柱のようにその折れた切っ先を下に向けてぶら下がっていた。

 エントランスホールの床は消えていた。

 ダンジョンの入り口もだ。

 部屋の外には、大きなビルがすっぽりと入ってしまいそうな、巨大な穴が延々と続いていた。


「こんな……、大きな穴が開いてたなんて」

 恐る恐る部屋の縁から顔を出すと、何十mあるのか分からないくらい深い深淵になっている。

 もちろん狭まった探知の触手も届かない。

 部屋はその穴に突き出すように、穴の縁に半分浮いていた。

 部屋の床は一見石で出来ていたが、そのすぐ下は、先程の通路と同じ金属で繋がっているようだった。

 そうか、だからこの部屋は落ちなかったんだ。


「だけどなんでこのホールまで落ちたんだ。ダンジョンはあの入り口までじゃなかったのか?」

 俺は穴から顔を上げた。いつまでも覗いているとクラクラしそうだ。

「お前は入る時に、ダンジョンの入り口に違和感を感じなかったか?」

「違和感? 確かに派手に飾り付けられていたけど」

「そうじゃなくて、あの『メカトロ』との違いだ」

「『メカトロ』との……、あー、あそこは入るときの入り口の通路が長かったな」

 確か細くて、やたらにくねくね曲がっていたんだよな。

 そう言われると、ここはダンジョンの中がホールから見えるように大きく開いていた。

 というか、壁一枚で分けられていた。


「それはここが元々、初心者向けだったからじゃないのか? あっちは中級だったし」

「ダンジョンの入り口を塞ぐのは、何も魔物が出て来ないようにするためじゃないぞ。

 ダンジョンが広がらないようにだ」

 下から見上げる、奴の牙がやたらに白く見えた。

「ダンジョンは亜空間のようなものだと言っただろ。いくら層になっていても、同じ空間なんだ。だからホールのようにそれに隣接したフロアも、実は同じ空間になりえる。

 獲物が出入りする隣の空間に、ダンジョンがその触手を伸ばそうとするのは当たり前だろ。

 だから、入り口をああやって、ある程度の長さの呪文の空間を間に置くと、境として切り離されるんだ。

 この事を認識している人間はあまりいないがな」


「それじゃ、ここがすぐ直結してたのは?」

「中をホールからよく見えるようにする為に、一時的に壊してホールを広げたんだよ。ある程度の土魔法使いがいれば、簡単だからな。

 そのおかげで、ダンジョンとの境が希薄になっちまったんだ。

 だからホールの下までダンジョン化していたのに、アイツらは気が付かなかったんだよ」

「そんなこと、管理してる人達は気が付かなかったのか?」

「祭りが終わったらすぐに元に戻す気だったんだろ。それにこんなに早く広がるとは思っていなかったようだしな。

 だが、節食の後にこれだけ獲物が入ってくりゃあ、居ても立ってもいられないだろう。

 入れ食いもいいとこだったからな」


 あらためてホールを視ると、ホールの中は恐ろしいほどのオーラが穴から出ているのがわかった。

 それはオーロラよりも濃く、激しく、色とりどりで炎のように立ち上っていた。

「このオーラは―――人のっ ?!」

「そうだ。まあアイツが仕事してるの、一応見せとくか」

 そう言って俺の頭に手を乗せた。


 さっきより俄然、オーラの光がハッキリと強くなった。

 俺のいる部屋の床や壁が透けて、自分が宙に浮かんでいるような感じがする。

 ホールの天井も今や淡くしか感じない。

 ダンジョン入り口周りに僅かに残っている、壁の残骸についた垂れ幕も、その奥の鍾乳石の天井すら、存在感が希薄になっていた。

 これが全てアジーレダンジョンという1つの空間なのだ。


 その立ち上るオーラの上に1人の黒い男が立っていた。

 本来なら天井を突き抜けた位置に浮かんでいるのだが、それは別の次元、空間にそのような境はなかった。

 

 両腕を自分の体にかき抱くようにまわし、顔を少し上に上げていたが、その顔は黒い霧のようなモノが立ち込めて隠れていた。

 その男の周りにメラメラと炎の触手のようにオーラが立ち上り、波打ち、渦を巻いている。

 渦は煌めく光の波を打ちながら、緩やかな竜巻のように大きく回っている。

 そのオーラの波に乗って、青や赤、金色や灰色の光の玉が一緒に舞っている。

 そうしてその光の玉は、渦の中心に浮かぶ男の体に吸い込まれていくように見えた。


 顔が見えないのに、何故か男がこちらを見て、ニヤッと笑ったのがわかった。

 リブリース様なのは間違いなかった。


「あの光の玉がなんだかわかるか?」

 奴が訊いてきたが、俺はすぐに答えられなかった。

 なんとなく分かったのだが、それを言ったら、認めたくない事実が肯定されてしまう気がしたからだ。

 だが、事実は変えられなかった。


「お前も感じた通り、アレは人の霊魂だ」

 悪魔が訊きたくない事を口にした。


 沢山のたましいがうねり、プルプルと身もだえしながら波に飲まれ、黒い男に入っていく。彼の体からはオーラの波は抜けるが、光のたまはそのまま出て来ない。

 見ていると、その魂たちの呻きや悲鳴が聞こえそうで、恐くなった俺は下を向いた。


「アイツはな、地獄の門の一部なんだ。

 こうして大量に霊魂が現世から離れる時に、選別する役割をするのさ」

 頭の上で灰色の悪魔が話してきた。

「戦争や災害で大量の魂が、一気に裁きの門に流れ込んだら運命の奴らが大変だろ。

 だからアイツが地獄の門を開いて、確実に地獄行きの魂をふるいにかけるんだ。

 あの流れを作ってるのは、お前も聞いた闇の天使どもが吹いている笛の音だ。

 ほら、視えるだろ?」

 そう遥か上の方を指した。


 顔を上げると黒い男の頭上遥かに、やはり黒いモノがグルグル回っていた。

 大きいのはあの黒い目玉の天使グレゴール様、他に小さい者たちが飛んでいた。


 それはまさしく幼児のような姿をしていた。

 丸っこい体は四頭身で手足は短く、桃のような尻にポッコリした腹をしている。

 これで羽でも生えていればまさしくエンジェルそっくりなのだろうけど、あいにく羽は生えてはなかった。

 それどころか顔も無かった。

 そして透き通った黒色をしていた。

 その黒いのっぺらぼうのエンジェルの体のまわりには、野球ボールくらいの銀色の玉が2つ、月のように回っていた。

 それは天使の体のすれすれに交差しながら、ぶつかる事なく回転している。

 数は違うがあのグレゴール様と一緒だ。


 そうしてその、のっぺらぼうの口の部分を微かに尖らせて、高く低く鳴る音を出していた。

 その口笛の音程がこのうねりを作っているのだ。


「どうよー? おれだってちゃんと仕事してるんだぜー」

 遥か高みからなのに、すぐ近くにいるように声が聞こえる。

「どうせだから、ダンジョンの歓喜の声を聴いてあげなよ」

 そう男が言うと片手を俺の方に振った。


 世界がまた一変した。

 

 色とりどりのオーラと光のたまが消えて、視界が赤と赤紫、銀色の光がざわざわと波打つ光の海の底に沈んでいた。

 その光の波は穴の中から噴出するがごとく流れ出て、空間を満たしながら揺れていた。

 ブルブルと、ゆるゆると、激しく、緩やかに、緩急の振動が、あるリズムを持って揺れている。


 それは果てしない喜び、歓喜、甘く美味なるもの、至上の快楽。

 久しくどころか、恐らく初めての大量のエナジーを感じ、その享楽と高揚感に打ち震えている。

 官能が刺激されるたびに、揺らめく濃厚な光が小刻みに揺れる。

 ダンジョンが至高の恍惚感エクスタシーに、その身を震わせていた。

 その狂おしいほどの快感に――――――


「ったく、お前の性癖に蒼也を巻き込むな」

 急に視界が元に戻った。

 壁や天井に残っている灯りに照らされて、巨大な穴の縁が薄明るく照らされている。

 あの赤紫の波はもう見えなかった。


「あの変態は、快楽まで同調してるんだ。あんなのは見なくてもいい」

「…………俺、思い出したんだが、あの4層での大きな揺れの時、なんだか前にも同じ場面にあったような気がしてたんだ。

 ただのデジャヴかと思ってたが、俺、以前、あの場面を夢で見た覚えがあるんだよ」

 俺はしゃがみ込みながら、奴のほうを見上げた。

「そうだ。だが、あれは予知夢じゃない。お前がオレと天使との波長を夢うつつに感じ取ったんだ。

 最近のお前は段々、オレ達神界の者の波長を感じるようになってきたからな」

 奴が俺の頭から手をどけた。


「最後に訊いておくが、どうする?」

 座り込んだままの俺を見下ろしながら、銀色の月が俺に問いてきた。

「わかっただろうが、ここから先は地獄を見るぞ。それでもいいのか」

 それはなんとなく想像していた。

 まさかここまでの命のオーラが流れ出るほどだとは、正直思っていなかったのは事実だが。

 だが、行くしかない。


「ああ、もう乗り掛かった舟だ。このまま引き返したら、俺は一生自分が許せなくなっちまうよ」

「わかった。じゃあ、せめてフィルターを付けてやる」

 そういうと奴は俺の目に額を掴むように、すっと手を当てた。

「これでいい。さっさと行くぞ」


 少し深呼吸してから光球を出すと、俺は思い切って穴に飛び降りた。



********************************



 それより少し前、暗黒の穴に飛び込んだヨエルは底に降りると、あたりを注意深く探知した。

 携帯式のカンテラは持っているが、念のために使わないほうがいいだろう。

 ガーゴイルが出てくるようなダンジョンだ。何が潜んでいるかわからない。

 下手に光など発したら、寄ってくるかもしれない。

 

 魔素が濃いな。

 それが初めの印象だった。

 これは上級クラスの魔素の濃さだ。ここは以前、初中級と認知されていたはずなのに、こんな短期間でこんなに変化するものなのか。

 おかげで流氷の海を泳ぐような、障害物まみれの感覚で、探知の触手がいつもより上手く伸ばせない。

 だが、そんな経験は今まで何度となく体験している。

 そういう時は、無理に遠くまで伸ばさないのが基本だ。

 何しろそんな風に障害物を押しのけて、触手を伸ばそうと躍起になると、魔力を多く使うし疲弊も激しいからだ。


 だが、今は探してる奴がいる。

 ここに落ちたはずなのに、今視える範囲にいないという事は、どこか別のところに移動しているという事だ。

 この広大なダンジョンのどこかに。


 ヨエルが立っている場所は見えなくても、瓦礫の山の上だというのは足元の感覚でわかる。

 そして探知によって上下左右360度視える視界には、その全容をとらえることが出来た。


 飾りつけのフラッグガーランドやモールが巻きついた半壊した柱、先程まで観客が行き来していた砕けた床、こげ茶色の土砂や灰色の岩、そうしてその下や間から見える潰された人達。


 ホールにいたのは、探検者より圧倒的に観客の老若男女だった。

 一般人だったらあの高さから落ちたら、まず助からないだろう。

 ヨエルは今自分が降りてきた、遥か上の穴を見上げながら思った。その穴も今や暗闇に包まれている。


 微かにまだ生きている者もいる。それは探知でわかる。

 悪いが、おれはあんた達を助けるために来たんじゃないんだ。

 瓦礫の上を注意深く歩きながら、頭の中で呟く。

 恨まないでくれよ。運がなかったと諦めてくれ。


 そうしながらしばらく奥のほうに行った時に、足を止めた。

 足元の瓦礫に頭を半分を潰されたベーシスの男が死んでいた。

 男の体をまじまじと探知で確認すると、なるべく音を立てないように引っ張り出す。


 うん、こいつはおれと体型が大体似てるな。

 安っちい革の鎧だが無いよりはマシだろう。

 あの番小屋に鎖帷子があったが、ヨエルはそれに手を出すのをやめていた。

 鎖帷子は動きによって重心が揺れやすい。直立状態では肩に重さがかかるが、体を横に振ったりすると、特に腰回りの帷子が体の動きより遅れて揺れてくる。

 これが飛行するとなれば、下に引っ張られる鎖帷子のせいで、重心が不安定になり飛び辛くなる。


 胸当てと腰当て、ガントレットと脛当てを取り外す。

 岩の一撃で胸当ては大きく傷がついていたが、まあ歪みはそれほどでは無さそうだ。ベルトも切れてないのでこれなら使える。

 内側の血は軽く風で吹き飛ばして装着する。


 悪く思わないでくれよ。あんたにゃもうこれは無用の長物だろう。

 あんたがアンデッドにでもなるなら別だが、鎧は基本、生きてる者を守るためにあるんだ。

 開いていた目を閉じさせて、軽く一礼すると立ち上がった。


 当たり前だが、このダンジョンは甘く見られていたせいもあって、ヘルメットを被っている奴はほとんどいない。

 たまにいても頭ごと潰されている。

 しょうがねぇ。物色に時間を使ってる暇はねぇから、このまま行くか。

 バンダナを縛り直した。


 エイダのオーラは途中から消えている。

 死んだからとかではなく、オーラごと痕跡が掻き消えているのだ。

 これは何かに連れていかれたに違いない。

 食殺した奴が丸ごと食べていった場合もオーラはそこで消えてしまうが、おれの予知では彼女は生きている。

 その連れて行った奴は、さっきと同じガーゴイルかもしれないし、違うタイプの魔物かもしれない。

 ポケットの中の投擲とうてき用の鉄玉を探りながら、これと剣1本じゃ心もとない気がした。

 落ちている武器で何か使えそうな物はないか。


 本当なら救助は万全の準備をして望むところだが、今回は時間がない。

 それになるべく無視していたが、穴に入ってから、またあの怖気おぞけがまとわりついてくる。

 クソっ 臆病で悪かったなっ。

 だが、生き物はそうやって恐怖があるから生き延びられてこれたんだ。恐怖心の無い奴は危険を察知出来ない。

 そして人間は恐怖を乗り越える事も出来る。

 

 30年近くおれを縛ってきたコイツに、今日こそ歯向かってやるっ!


 待ってろよ、エイダ。

 必ずここから連れ出して、約束した通り、ホワイトローズ通りの店に連れて行ってやるよ。カップルじゃないと入りづらいと言っていたあのレストランにな。


 何がいるかわからない場所では、地面は危険だ。どんなトラップがあるか分からないから。

 カイトを装着し直すと、ヨエルはまた飛行し始めた。


ここまで読んで頂き有難うございます。

***********************

最近ちょっと凹んでおりましたが、またやる気が出てきました。

やっぱり私はこのまま創作していきます!

しかし創作意欲にスイッチが入るというか、イマジネーションが沸いてくるのが

大抵寝る時間の頃、眠い……。もっと早く沸いて欲しい。

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