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第150話☆『アジーレ 第4層 兆候』

先に謝っておきます。

なかなか進みません(汗)


「また少し揺れてるね」

 皆の足が止まった。通路の松明の火もゆらゆらと微かに揺れている。

 揺れは10秒くらいで止んだ。


「これが多くなってきたら危険だけど、まだ大丈夫かな」

 レッカがが壁に手をつきながら言った。

 そうなのか。この震度2ぐらいのまでならいいのか。さっきから遠くの方で頻繁に振動があるんだが、離れたところのなので皆にはわからないようだ。


「それにしても空気が濃いな。鼻が曲がりそうだ」

 エッボが匂い消し袋を片手に持ちながら、時折鼻を入れている。

 そうなのだ。

 俺もさっきから探知していて気を張ってないと、なんだか頭がぼーっとしそうなのだ。

 まるで弱い酸欠になっているような感覚だ。もしくはその逆の酸素中毒か。

「でもそれって奥に順調に行っている証拠だよね」とレッカ。

「そりゃそうだけど、例の珠が一番地下にあるとは限らないからねぇ」

 パネラが首を回す。

「なあ、もし珠が見つかったら、他の人はどうやってそれを知るんだい? すでに見つかってるのを知らないで、時間まで探し続けたりすることになるのかな」

 俺はヴァリアスからまだ誰の手にも渡ってないとは聞かされているが、そういうのを知らない人はいつまでも探す羽目になるのではないだろうか。


 その答えはエッボが説明してくれた。

「さっき地笛が響いたろ。あれで係が地上と連絡を取るんだ。宝が発見されたり、何か皆に伝達事項があったら、それを聞いた係がまわりの皆に伝えるようになってるんだよ」

「でもその連絡係がここには誰もいないのよねー」とパネラ。


「ん、この先に下に降りる階段があるよ」

 俺の前方を探る探知の触手が、階段がを探り当てた。

 パネラとレッカが俺の方を振り返るのに対して、エッボがその後ろのほうを見透かすように

「誰か来る」

 エッボが目を向けた今通り過ぎてきた通路には、横穴がぽっかり口を開けていた。俺も探知しようとする前に、こちらに歩いてくる足音が微かに聞こえてきた。

 あれ、これは!


 皆が目を向ける中、その人は大きい体を揺すりながらやって来た。

「セバスさんだ」

 そう、こちらにやってくるのは、あの山賊男ならぬ地質学者のセバスチャンさんだった。

 匂いでわかったのか、エッボも頷く。

「えっ セバスさんが? だって地上に行ったはずじゃ……」

 パネラが俺と穴の交互を見ながら、ちょっと信じられない顔をした。

 だが、俺たちの所からでもその姿が見えるようになると、パネラとレッカが少し口を開けた。


「おお、君たち、良かった、無事だったか」

 セバスは背中のリュックを背負い直すと、一息はいた。

「セバスさん、どうしたの? 地上に向かったはずなんじゃ?」

 パネラが不思議そうに言った。

「そうなんだ。そうなんだが、地上にたどり着けなかった」

 そう言いながら、セバスは「ちょっと休憩」とその場に座り込んだ。リュックの中から水筒を出して軽く口を付ける。


「それがな、もちろんワッシは地上を目指したんだ。

 だが、来た道が変わってしまっとったんだ。そうとしか思えん」

 水筒の口を締めるとまたリュックに入れた。

 この匂い、中身は酒か。

「それって道を間違えたとかじゃなくて?」とパネラ。

「いんや、ちゃんと地図も取っとるし、自分が通った跡は地伝いに追える。

 だがな、それがどうやらゆっくり曲がってしまったらしいんだ。そうとしか思えん」

「曲がるって、道が変化してるって事ですか?」

 レッカが壁や天井を見上げた。

「そう、あり得ん話じゃないだろ? ここは迷路系なんだから」

「でも、だけどここは初中級ランクなのよ。そんな変動型なんて、今まで無かったのに」

 この変動型というのは短時間で形を変えるダンジョンを言うそうだ。 


「ここはダンジョンだよ。今まで初中級の難易度だったものが、数日で中級クラスになったことなんざ、ざらにある。

 ただワッシもこの変化の速さには、正直びっくりしてるんだ。

 このダンジョンがイベントで使われると発表された時、真っ先にここに潜っとったんだよ。イベント前とイベント後の変化を見たくてな。今日はその途中の変化を見るつもりで入ったんだが」

 セバスはその硬そうな髪をゴシャゴシャ掻いた。


「性質がまるで変わっちまっとる。以前は迷路といっても、もっと単純だったし、こんなに魔素も濃くなかった。それにここは近くの『メカトロ』と同じで『畜食』型だったはず。

 なのに時々感じるある波動が、『殺食』型のダンジョンと似ているんだよ」

「その『畜食』と『殺食』ってなんですか?」

「捕食の大まかな種類だ」

 俺の問いに奴が答えた。


「畜食ってのは家畜のように内部で育てて、エネルギーを長い間供給させる資源にする摂食方法。

 ダンジョン内に動植物や魔物を棲まわせて、食物連鎖させるやり方だ。

 これは一度に沢山のエナジーは摂取しづらいが、長期のエネルギー源を温存できる。

 殺食ってのはその字の通り、殺してそのエネルギーと肉を全部丸ごと吸収するやり方だ。

 一度に多量のエナジーを摂れるが、獲物が継続的に入ってこないと厳しいから、いかに餌で釣るかが重要になる。

 トラップ型がその典型だよ」

 試験に出るかもしれないから、よく覚えておけよと、この場で余計な事も言った。

「この畜食と殺食の『混合型』なんかもある。

 基礎代謝に要するエナジーを畜食で補って、殺食で得たエナジーで新陳代謝をするんだ。

 獲物の選り分けもするから、ダンジョン独自の魔物も出る上級ランクに多いけどな」


「あんたも詳しそうだな。もしかしてあんたも地の魔法使いかい?」

 感心したようにセバスが奴に言ってきた

「オレはただの傭兵だ。魔法使いじゃない」

 それに対してセバスは余計訝しがるような顔をして

「どうにもあんた達があまり、この蠕動を感じないというのが変だなと思ってたんだ。もしかしてあんたが抑えとったんじゃないのか?」

 下からセバスが奴を探るように見る。

 パネラも驚くように

「えっ、そうなの? 兄さん」

 それに対して奴は「さあな」と肩をすくめてみせた。

 否定しないって事は肯定したも同じだ。

『(あんた、そんなことしてたのか)』

 俺はテレパシーで奴に問いただした。

『(煩わしかったからな。だから適度に力を抑止してやってたんだ)』

 それじゃ本当はあんな弱い振動じゃなかったかもしれないのか。

 じゃあ本当は危ないレベルなんじゃないのか?!


「じゃああたい達が感じた以上に、本当なら揺れてたかもしれないんだね」

 パネラが俺と同じ考えを持ったようだ。

「それでな、どうにも上に行けんから、力技で上に穴を開けようとしたんだが、すぐに埋まっちまうんだよ。

 こりゃあちょっと様子がおかしいと思って、また君たちに会おうと思ったんだ。

 そしたら奥に行くにはすんなりと、こうして進んで来れたってわけさ」

「それっておいら達を外に出したくないって事なのかな……」

 4人が顔を見合わせた。


「ここにこうして顔突き合わせててもしょうがないだろ。今、ダンジョンの変化期なのかもしれんが、いつかは終わるんだ。

 絶対に脱出出来ないとは限らない」

「そうだな。こうして座っててもしょうがないな」

 奴の言葉にセバスが立ち上がった。

「1人よりこうして集まった方が出来る事も多いしなあ」

「そうだね。それに今は探さなくちゃならないし」とレッカ。

「探すって、例の宝探しかい?」

 セバスがこんな時にとでも言いたげな顔した。

「うん、ちょっと色々事情があってね。どうしても1等を探さなくちゃならないの」

 ちょっと困ったように眉を下げてパネラが言う。

「ふーん」

 こわそうなヒゲをいじっていたが

「よっし、ワッシも同行してもいいかな? 何、別に懸賞金は要らんよ。ただ今はバラバラにならない方がいいと思うんだが」

「セバスさんが良いなら、こちらこそお願いします。いいよね、みんなも?」

 パネラが皆に同意を求めた。もちろん異存があるわけもない。


「で、とりあえずどうするんだい? 宝を探しながら脱出口を探す気かね」

「そうね、ここから出るのは宝を見つけてからしか考えてなかったけど、さっきソーヤが言った下り階段を降りてみようかと」

「下り階段? じゃあもしかして新しく出来たとかいう4層か?」

「たぶん……」


 そのまま進むと、通路の先にはたして石の階段があった。

「この層で階段は初めてだな。今まで坂ばっかりだったのに」

 セバスはリュックの横に引っかけてあった、ピッケルを手に取ると石段を軽く叩きはじめた。

 そう言われればそうか。だけど階段なら2層にいっぱいあったよな。

「それって珍しいことなんですか? 上の階には結構ありましたけど」

「ダンジョンにはね、ある種の法則があるんだよ」

 なおも階段まわりの壁や天井をコツコツ叩いた。

「一見デタラメなようで層ごとに決まり事があるのだよ。この3層に今までなかったモノがあるという事は、何かあるって事なんだ。

 獲物の気を引いて誘うためだったり、注意を逸らすための罠だったり」


 罠と聞いてレッカが慌ててセバスの横に行って、壁を調べ始めた。

「トラップは無いようだ。ワッシもちゃんと地の感知で調べたからね。ただダンジョンは思いがけない事が起こっても不思議じゃないから、こうして反応を調べてるんだよ」

 確かに俺も探知したが、罠は感じなかった。

 ただ明らかに魔素というか空気が淀んでいるというか、さっきよりも濃密になっているのを感じてきた。

 これはちょっと空気を操作しないとダメかな。


 螺旋状に回転する階段をそのまま降りていくと、下の方に黒鉄で出来たドアがあった。

 確かに今までドアなんか無かったよな。2層ではパネラが鉄格子を作っただけだ。

 ここも誰かが作ったのではないとしたら、ダンジョンが作ったことになる。

 罠は無いようだけど、何故かドアの向こう側が探知しづらい。

 まるでこちらとドア一枚隔てて空間が違うように。


「ヴァリアス、ちょっとこのドア開けてくれよ」

「オレがか?」

「罠は無いと思うけど、もしかして開けたとたんに、何が起こるかわからないじゃないか」

 こういう時こそ奴を使わないと。


「でも、それじゃ兄さんが危ないんじゃない?」

「確かにワッシの感知でも、向こう側が良く見えん。おそらくドアの向こうは地が違っとるぞ」

「そうだよ、そういうのは僕が担当だよ。罠避けを張って、慎重に開けるから」

「念のため結界も張っとかないと」

 エッボがロッドを手に取る。

「面倒くせぇなっ。開けりゃあいいだけだろ」

 そう言って奴は皆を押しのけて前へ出ると、ドアの取っ手を掴んでいきなり開け放った。


「そら、鍵もかかってないし、なんにも飛んで来ねぇぞ」

 だが、奴越しに見えたドアの向こうは真っ白い霧で覆われていた。なんだか亜空間の門の中に似ている。

 俺はいつもの癖で奴の後からすぐに入った。


 入るとすぐに濃い真っ白なまさしく濃霧に覆われ、前に行った奴の姿が見えなくなった。霧をかき分ける自分の手さえ、腕から先が見えなくなるのだ。

 それとともに音も聞こえなくなった。

 さっきまで聞こえていた皆の息遣いや足音が一切わからなくなった。

「みんな、いるよね?」

 俺は少し不安になって後ろを振り返って声をかけた。

 だが、返事はない。

 

 慌てて四方に探知の触手を伸ばした。

 伸ばした触手には何も感知出来ず、ただ無が広がっていた。

 

 俺は少しパニックになりそうな気持ちを抑えて、テレパシーで奴を呼ぼうとした。

 その時、誰かが俺の肩を叩いた。


 振り返ると、そこには田上さんが立っていた。


**************************


 ホールに響いた振動は震度3弱くらいの揺れだった。

 だが、普段地震とはほ無縁のこの土地で起こった振動に、ホールからざわめきが消え、あちこちから小さな悲鳴が起きた。

 幸い揺れはものの8秒くらいで収まった。

 立ち止まっていた客たちも、しばらくするとまたざわざわと動き出した。


「おおい、ホールまで結構揺れたぞ。ちゃんと抑えておいてくれよ」

 現場監督サイゼルは、ダンジョン内に入って氷柱石の下に佇む係の1人に注意した。

「だけど今の震源はこっちじゃないんですよ」

 池からの青い光を浴びながら、ジョーカーの仮面をつけた係が少し困ったように首を傾げた。

「そっちのホールの方だったんです。だから気が付くのが遅くなって」

「ナニ ?!」

「そりゃ確かか?」

「間違いないですよ。なんなら他の者にも訊いてみてください」

 そう言われて他の係にも確認したサイゼルは信じるしかなかった。

 何しろサイゼルは現場監督として采配を振るってはいるが、地の能力はほとんどなかった。

 だからダンジョンのエネルギーの流れを穏やかにすることや、危険な蠕動を抑えるのはもっぱら部下に任せている。

 とはいえ、部下の指揮はスキルだけでするものではない。

 監督官としての経験と能力は少なからずあったし、ダンジョンの知識もあった。


 サイゼルは入り口の方を振り返った。

 入り口には順番を待つ一般客が、まだかまだかとこっちを覗いている。こちらにはすでに探索者らしき姿は無く、一般客で溢れかえっている。

 ホールの下は確か、普通の台地だったはず。

 それなのに今の振動がその台地側で起こったという事は―――。


「退場だ。客をいったん外に出すんだ」

「えっ、まだまだ外であんなに待ってますよ?」

 係の道化師が驚くように聞き返した。

「何かあったら中止すると言っただろ。それが今だ。一度全員出して確認してからまた入れればいい。

 わかったら早く皆に連絡しろ」

 サイゼルに急かされて、係は腰に付けていた長いアイボリーの針のような棒状のモノを地面に突き刺した。

 その棒には18個の穴が並んで開いていて、係はそこへ両手の指を合わせた。

 すると高い音が地面に沿って鳴り響いていく。

 それを聞いた、そこかしこで客を見張っていたジョーカー達が、頭をやや下に向けて音に聞きとっていった。


「皆さ~ん、申し訳ありませんが、一般の方の入場はここでいったん取り止めとなりまーす。

 ホールにいる方達も外に出てくださ~い」

 監督官は手を叩きながら入り口の方に向かった。

「なんで? あともう少しで入れたのにー」

「そうだよ、入れさせろよ」

 予想通りまわりから文句が飛んできた。

「皆さんも感じた通り、ただいま蠕動がありましたー。安全確認のため、いったん閉めますのでご協力お願いしまーす」

 彼の大きい声での呼ばわりに、さすがに揺れを味わった人々はしぶしぶ納得せざる得なかった。

 だが、人々がなんとか動いてくれたとはいえ、ホールの中は凄い混みようの上、事情を知らない者が後から入ってくる始末。


 そして、人を外に動かし始めた動きが、またダンジョンを刺激したとは、さすがに監督官は気が付かなかった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

***********************

ヤバい、今、日付変わって眠いのに、急に頭の中でストーリーが動いていて

キーボードが打てる、打てる。

途中で止めちゃうと勢いが止まっちゃいそうだし―――。

なんで明るいうちに降りてこないのかなぁ~~~~~。眠いよ~。

次回、少し早く更新できるといいな。


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