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第144話☆『アジーレ・ダンジョン入場』


「や~ん、203番になっちゃった」

 パネラが口を尖らしながら、紐付きのプレートを俺たちに手渡してきた。


 イベントのダンジョン周りは想像以上の人混みだった。もうまるで花火大会ような人の波である。

もしくは祝日のディズニーランドか。

 ザッと見てもイベントに参加する訳じゃなさそうな、いかにも普段着のカップルや親子連れまでいる。

 そんな一般人と軽装ながら武装している参加者達がごったになって、もうダンジョン前は凄いことになっていた。

 

 これはあれだ。初詣の時にうっかり人波に入ってしまって、出られなくなってしまうというぐらいの混みようだ。流れが出来ていないから、おそらく出られない人もいるのじゃないか。


 そんな中、パネラがなんとか受付まで行ってきたのだが、整理番号が3桁とあって少し待つことになってしまった。

 当初はそのまま来た順で入場させるつもりだったようだが、参加人数を増やしたのと、一般も途中まで入れるとあって予想以上に人が来てしまったせいで急遽、番号順にして入場制限にしたらしい。

 

「あたし運ないな~、ここ一番って時にさぁ」

 またパネラがガッカリ肩を落とした。

 この整理番号は来た順に渡しているのではなく、各パーティのリーダーによる籤を引いて決まったらしい。


 イベント開始は9時からだったので、俺たちは1時間前に来たのだが、もうこの人出だった。

 というのも、イベント開始前にホールには入れるようになっているようで、この前まで固く閉まっていた扉が今は全開していて、すでに大勢の人たちが入り込んでいた。

 

「でも1,000中の203なんだから、まだ手前の方じゃないか」

「だってその先に入った奴がさっさと見つけちゃったら? せめて20番ぐらいじゃないとマズイのに……」

 急にバッと辺りを見回すと

「なんとか順番交換してもらおうかなぁ」

 整理番号プレートを持っているパーティを探そうとした。


「焦らなくてもいい。どうせそう簡単に玉は見つからん」

 朝飯を宿で食べてきたのに、また岩トカゲの串焼きを食ってる奴が言ってきた。


「どうして?」

「例の奴らだって散々探したけど見つからなかったんだろ?」

「それは隠蔽がかかってるから―――」

「土使いの奴らを大勢雇ってるんだろ? そいつらにも探させてるはずだ」

「でも土魔法だって隠蔽がかかってたら無理なんじゃないのか?」

 土の中じゃ、昨日やったような探知と空気の差も使えないし、そもそも引っかからないようになってるんじゃ。


「要は使い方だと言っただろ。例えば土魔法で表面の土も石も全て砂状に変えて、大きな網でこせば土砂以外の異物は引っかかるんじゃないのか。事前の整備とかなんとか言って出来そうだろ。今回かなりの土使いを雇っているようだから多少広くても可能なはずだ」

「そういやゲルルフのおっさん(門番)が言ってたね。飾り付け作業が押してるって、作業員がぼやいてたって。なんでも整備中とかでギリギリまで入れなかったらしいよ」

 エッボが思い出したように言った。


「やっぱりギリギリまで探してたみたいだね。だけどそれでも見つからなかった?」とパネラ。 

「おそらく表面とかじゃなく、層の深いところまで潜ってるんだ。ちょっとやそっとじゃ届かない所にな」

「それって探知出来る範囲なのか?」

「さあどうだろうな。何度も蠕動を繰り返しているようだから」


『(さっき言ってた土魔法のやり方って、実際に行われてたって事か?)』

俺はこっそり訊いてみた。

『(まあそうだ。散々荒らしたから、元に戻すのが大変だったようだが)』

 奴がまた悪そうなニヤニヤ笑いをした。


 祭りとあって、ダンジョン入り口のまわりには沢山の露店や屋台が出ていた。その中には人混みの中を2輪車を簡単な移動式屋台にして、飲み物や軽食スナックを売り歩く商人たちも混じっている。


 こちらの夏は避暑地のように空気がカラッとしていて、普段それほど不快感を感じないのだが、さすがにこれだけの人が集まっていると暑さを感じずにはいられない。

 たまたま近くにやってきた商人からハチミツ水を買って皆で飲んだ。ただの樽に入っているだけなのにとても冷たくて美味しかった。もしかすると水魔法を使って保冷しているのかもしれない。

 奴だけは少し離れた屋台でエールを飲んでいる。

 なんだか何しに来たのか分からなくなってきた。


『(なあ、あんたならどうせどこに玉があるか、分かってるんだろ?)』

 俺たちは離れた木陰に腰をおろしながら時間を待っていた。

 こっそり奴にテレパシーで聞いてみた。


『(ああ、そりゃあわかるぞ。こんな近くにいるんだから、目の前にあるみたいだ)』

『(それどこか、ちょこっとヒントだけでも教えてくれないのか?)』

『(ダメだ。言っただろ、お前の力で見つけろ)』

『(……~っ、しょうがないか……。だけどかなり深いところにあるんだな? それがヒントか)』

『(まあな。ただしょっちゅう移動しているけどな)』

『(そんなにあちこち動いているのか?)』

『(あの玉に強い思念がこびりついてるからな。何回もそいつを探しに人間どもが入っただろ? ダンジョンはそれが人間どもの欲する餌だと、本能的に感じとってる。

 だから簡単に持っていかれないよう囲いこんでるんだ)』

『(むぅ~、捜索が余計なマネになってるのか。困ったもんだな)』


「ソーヤ、そろそろ始まるよ」

 レッカの声に俺は意識をこっちに戻した。

 飾り付けた番小屋の中から、赤い旗を付けた棒を背中に背負った男が、ホルンを高らかに吹きながら入り口の前にやってきた。


「イベント参加者の皆さまー、大変お待たせ致しましたー。只今よりこの『アジーレ・ダンジョン 宝探し』を開催いたしまーす」

 まわりからドッと拍手と喝采が起きる。

「では1番から50番までのパーティの方からお入りくださーい。ホール奥入り口にて係にプレートをお見せくださーい」


「あー、この調子じゃいつ入れるんだろー」

 パネラが落ち着きなく頭を掻いた。

「だから落ち着けって。そう簡単に見つかるもんか。逆に真っ先に入らなくて良かったって思うぞ」

 エールを満たしたマイジョッキを持ちながら、奴が戻ってきた。


「なんで? なんでそう言えるの」

「入ればわかる。焦ったって良いことねぇぞ」

「う~っ、よっし! あたいも飲んでくるっ」

 バッとパネラが立ち上がると、ビール売りの屋台の方に人混みを掻き分けていった。

「待った、パネラ。おいらも行くよ」

 さすがに1人はマズイと思ったのか、エッボが慌てて立ち上がって後を追った。


 今日はこの間のように登山に行く時のような荷物はないが、軽装とはいえパネラは胸当て、メイスを持ってきていた。

 やっぱりジゲー家の者たちを気にしてか。

 さすがに人混みに入るときはメイスを置いていっている。


 ポーは今日は下宿でお留守番だ。

 昨日獲ってきたレッドアイマンティスの肉にマタタビをかけてあげたので、朝から満足して床にゴロンと横になっていた。

 カマキリは見えづらくて本当に苦労させられたが、なんとかこの個体には雷が効いた。


 ただ、離れて撃つと効果が耐性で飛散してしまうため、頭に直接触れて流し込むしかないのが難だった。何しろハッキリと姿が見えないので、あの鎌と触手に気を付けながら接触しなければならなかったからだ。


 転移を何度か重ねてなんとか倒したのだ。

 いつもの事だが、もういきなりとんだ目にあった。

 今回のカマキリはオスだったが、結構大物だったらしく、オスにしては珍しい4.6mだった。

 普通のオスはここまで大きくなる前に、メスに喰われるので4m以下が普通らしい。

 ギルドで肉だけ先に解体して貰って、ポーにあげた残りは今夜帰ったら、女将さんに料理してもらおうと渡してある。

 これが祝いの宴になってほしい。


 

「レッカは行かないの? 荷物番なら俺がするから大丈夫だよ」

 人混みに入っていく2人の頭を見ながら、ぽつねんと座っているレッカに訊いてみた。レッカもこの間と同じような綿入りキルティングの上着を着ているが、荷物は背中に斜めがけタイプのナップザックだ。

「うん、僕はあまりビールは好きじゃなくて、このハチミツ水の方がいいや」

 そうか、まあ俺も昼間からあんまり酒を飲む習慣はないからな。こっちの人は当たり前みたいだけど。


「甘いもんばっかりだな。軽く塩辛いモノでも摘まんでみるか」

 どうせ自分が食べたいだけなんだろうが、ヴァリアスの奴が通りかかったスナック売りから何か買った。

「油で揚げて塩を振っただけのモノだが、結構いけるぞ」

 そう言って俺たちの前に置いたのは、茶色く香ばしそうに焦げたランタン虫だった。


「ええーっ、これあのランタン虫じゃないのかっ?! 食うのかこれっ」

「そうだ。あの繁殖期を過ぎた後は、人間にとってただの虫だろ? 本当は今より冬眠前の方が太って旨いんだが、まあこれもあっさりしてていいだろ」

「いや、そういう問題じゃねぇっ! 虫は虫だろっ」

 あの綺麗な光景を見せてくれたランタン達は、お役御免になったらただのおつまみなのかよ。


「ああ、もう揚げランタンの出回る時期なんですね。結構美味しいんだよ、これ。

 ソーヤは食べた事ないの?」

 なにその揚げワンタンみたいなネーミング。

「食わず嫌いしてないでちょっとは食ってみろよ。どうせ前にスイトープ食ったんだから一緒だろ?」

 違うぞっ! スイトープは体こそ芋虫だが、まだ頭がコミカルだった。

 だけどこれはどう見ても蝉の幼虫か、茶色いカブト虫の雌みたいじゃねえか。もしくは丸いオケラ虫だ。


「おー、旨そうなの食べてるじゃん」

 パネラ達も木製のジョッキを持ちながら戻ってきた。

 おおい、ダンジョン入る前に大丈夫か? デキあがったりしないか。

 さっきまでの緊張感はどこに置いてきたんだ?


 結局、番がまわってくるまで酒盛りになってしまった。


「次~、201番から250番のパーティ、お入り下さーい」

 やっと呼ばれた時には、すでにパネラは4杯飲んでいた。

「やっとかい」

 そう言って立ち上がった彼女は、ブンッと振るようにメイスを右肩に乗せた。

 

 ドアが開いているのでもう内部の探知は出来るのだが、凄い人数の思念が渦巻いているため、なるべく神経を疲弊しないように探索を始めるまで探知はしていなかった。

 だから中に入って初めて内部を見ることが出来た。


 広くドーム型でギルドの3階分くらいの高い天井があった。内部は東京ドームとまではいかないだろうが、かなりの広さがあった。その天井や何本もの太い柱や壁には、色とりどりのフラッグガーランド(旗付きロープ)が下がり、その旗の間をシャボン玉のようなクリスタルな光を浮かべる大小の球体が、宙をフワフワと浮かんでいる。

 

 それにしてもホールの中も外と変わらずに、凄い人の混みようだ。

 壁にはびっしりと、キオスクのような小さな簡易店舗が並び、太い円柱の側では大道芸人によるパファーマンスが行われている。

 通常はダンジョンに入らないような家族連れまで、この機会に入ってきているらしい。


 天井を支える支柱以外に、明るい色でペイントされた何本ものポールが立っていて、その枝にはカラフルな巾着袋が葉のようにぶる下がっている。子供がやってくると、ピエロがおどけながら子供に、その菓子入りの小袋をあげていた。


 そうしてそのホールの奥、カラフルな布やリボンに飾られた、腰高のバリケードに囲まれた入り口が口を開けていた。

 左右に下がった垂れ幕のせいで上半分がよく見えないが、人々の頭上の隙間から何やらゆっくり何色かに瞬く光が垣間見えた。

 

 装飾付きバリケードの両脇には、小さな子供を連れた親子らしい母子と、若いカップル、きゃぴきゃぴはしゃぐ娘たちが興味深そうに中を覗き込んでいた。

 俺たちはその真ん中、バリケードが開いているところに向かった。


「プレートを。はい結構です。お通りください」

 首から下げた整理番号を係に見せて、中に入ることが出来た。


「ほ~」

 つい声が漏れた。


 そこは鍾乳洞だった。

 あちこちに青い光に満ちた池が細い水路で繋がって、幾筋もの段違いの棚田のように水をえていた。水はとても透明で、底に沈んだ鍾乳石の凸凹した岩肌をハッキリと見ることが出来たが、なぜかゆっくりと青く明滅を繰り返していた。


 よく見ると水の中に光石が沈んでいる。

 そうしてその青い光の上を、赤と緑の光の玉が緩やかに飛び回っていた。

 ランタン虫だ。


「あれ、ランタン祭りってもう終わったんじゃないのか」

「確かにこの虫は元々ここに棲んでいた種じゃないようだが」

 ヴァリアスも池の方を見た。

「そうだよ。なんでもこの日の為に繁殖期前のランタン虫を、凍結保存して生かしておいたらしいよ。それを放流したんだって。悔しいけど粋な事するよね」

 エッボが頭の丸い角を擦った。


 見ると青く点滅する水の中にも、赤、緑についでオレンジに近い黄色のペアのランタン虫たちが、ひと時のこの世の春を謳歌するように泳いでいる。

 こいつも用が済んだら食われちゃうのかな。なんだか勝手にイルミネーションにされたり、可哀想だなランタン虫。


 そうしてそのコバルトブルーの光を放つ水のまわりには、自然と出来たであろう鍾乳石の柱が立ち並んでいる。天井からは覆いかぶさるように、枝垂しだれる無数の氷柱石つららいしのまわりには何故か、赤紫や緑、黄色、オレンジ、赤や白に変化する霧がオーロラのように光を放って漂っていた。


 それは辺りの壁や柱、氷柱石に付けたり、ぶら下げられた光石の光が照らした光なのだが、それも水の灯りのようにゆっくりと色を変え、柱や隆起した壁の陰影とあいまって幻想的な世界を作り上げていた。

 人が多いせいで洞窟内の温度が上がったせいか、それとも元々なのか、氷柱石から時折しずくが垂れ落ちる。


 それは水面や下で迎える石筍(下から上に向かって伸びている鍾乳石)の先に、当たり弾ける時、澄んだ音を立てて一瞬しずく玉を飛ばす。

 それが辺りの光を浴びて束の間の宝石のように光るのだ。

 

 俺はきらめくそのオーロラカーテンの間を、ひらひらと浮かびながら飛ぶ、黄色いものに目を止めた。

 それは1mくらいの、淡い黄色の地に赤い筋のあるフリルのような縁取りのあるマフラーのようだった。


 見ていると氷柱石の間や、柱にするすると巻きつくように廻りながら、何本も舞っている。

 それが霧と一緒に幾多の光を受けて、角度によって色を変える長いフリルリボンのように見えるのだ。


「あれは魔虫だ」

 俺の視線を読んだのかヴァリアスが言ってきた。

「種としての名前は『コルドーン』という。微弱な魔素をエネルギーにして、魔素がある限り半永久的に、ああやって空中を漂うことが出来るんだ。

 寄主きしゅの目として視覚情報を繋げることも出来る、テイム能力の少ない者でも操れる寄生生物なんだよ」


「寄生生物って、体に寄生するアレか?」

 そう言われるとなんだか大きな回虫にも見えてくる。形は長いウミウシなんだが。

「寄生と言っても表面につく外部寄生で、体の中に入り込む回虫のような内部寄生じゃないぞ。

 人や動物の生物魔力が好物なんだが、寄主きしゅの体にくっついても、ほんの少し吸い取るだけで害になるほどじゃない。

 どうだ、テイムしてみるか?」

「断然 虫はお断りだ」

 寄生って聞いてもう綺麗とも思わなくなったぞ。


 無数に天井からぶら下がる氷柱石に、螺旋状の薄い金属板のようなシルバーの布が、ゆるく巻きついているゾーンがあった。螺旋の布は頭上でゆっくりと回転しながら、辺りの色を反射して煌めいてる。

 その布にさっきのコルドーンが仲間と勘違いしているのか、すり寄るように沿って流れていく。


「おーい、ヴァリー、ソーヤく~ん」

 なんだか聞き覚えのある声がして、隆起の険しい陰影の濃い岩場の方に振り向いた。

 そこにはお馴染みのあの黒い男がいた。


「おひさ~~~。奇遇だねぇ。こんなとこでまた会うとは」

 灰色メッシュの入った黒髪、額に巻いた黒のバンダナに黒のサーコートと黒ずくめの男。リブリース様だ。

「みんな、時間がないんだろ。さっさと行くぞ」

 ヴァリアスがみんなにはっぱをかけて先を促した。


「ちょっと、無視するなよー、ヴァリー」

 大岩から飛び降りるとスルッとまさに影が伸びるように、俺たちの前に移動してきた。


「なんだよ。こっちは暇なお前と違って忙しいんだ。また遊びに戻ってきたのか」

「ツレないな~。おれだって仕事だよー。仕事があるから帰ってこいって言われてこうしてるんだぜぇ」

 と、急にパネラの方にかがむと

「おぉ~っ、これはまた美・丈夫な彼女。どう? おれの子供を産む気ない?」


「「「ハアァあっ?!!」」」

 目をぱちくりさせて固まっているパネラの前に、エッボがすかさず割り込んだ。

「なんだなんだっ あんた! 彼女はおいらの女房なんだからあんたに用はないぞ」

 そう言われても引き下がるどころかニヤニヤ笑うリブリース様。

「ふふ~ん、別に他人の女だろうが、おれには関係ないよ~。本人が良ければね―――」


「てめえっ! ちょっとこっちに来いっ」

 急にヴァリアスがナンパ男の頭をがっちりヘッドロックすると、石柱の陰に引きずって行った。

「イダダダダッ! ちょっとぉ、優しくやってよっ」

「とりあえずスマン」

 ぽかんとした顔をしている3人に俺は代わりに謝った。


『お前っ! 荒らしに来たのか?! 女探しに来たんなら他所でやれ。オレ達の前でウロウロするな』

 聞かれてもいいようにヴァリアスが日本語で話し始めたのが聞こえた。

『だから仕事だって。ちゃんとおれだって職務は果たしてるんだぜ。女の子探しはその合間だよ」

 どっちが合間なのかわからない。


『仕事っていうことは、やっぱり――― 門が開くってことか』

 ヘッドロックから解放されて、乱れた髪を撫でつけながらリース様が答える。

『そう、もちろん100%確実って訳じゃないけどね』


 そうして辺りの人々を見やりながら

【 おれは別に不幸が好きなわけでもないけど、生命の輝きは別もんだろう?

 星が最後の力をふり絞って、新星のように(きら)めくがごとく、命は美しいものさ 】


 そう話す男の眼窟から黒い霧が立ち上り始めた。

 口からも真っ黒く変色した舌と黒い霧が漏れだす。

 黒い男はそのまま自分の体を掻き抱くようにしながら続けた。


【 もがき暴れる最後の炎、驚愕と悲観に満ちた悲鳴、痺れるような悪寒が体を貫いていく仕舞いの時、魂の最大の狂詩曲(ラプソディー)が聞こえてくる。

 とても とぉっても体の芯から震わすような刺激的躍動感、まばゆい光のシンフォニー。

 あの最高の恍惚に満ちたエナジーのほとばしり――

 ダンジョンだって早くそれを感じたいはずさあ 】


 ゆらゆらと男のまわりだけ、光を寄せ付けないように暗がりが広がった。


「話し中悪いんだけど……そろそろ行かないと……」

 パネラがちょっとおそるおそる声をかけた。


「わかった。じゃあな、リース。お前はお前で勝手にやってろ」

 スタスタとヴァリアスがリース様を置いて戻ってきた。


「あの人、兄さんの知り合い? ヒュームに声かけられるなんて久しぶりでビックリしたけど」

 歩き出しながらパネラが、首をかしげながら覗き込むように訊いてきた。


「あれはタダの通りすがりの変態だ。気にするな」

「ヤダっ! そんな紹介の仕方やめてよ。せめて友人くらいつけてよ~」

 過ぎ去る岩場から声が追いかけてきた。

 変態は取り消さなくていいのか。


 それにしても……。

 俺は後ろを振り返りつつ、さっきリース様が言った言葉が気になった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

ダンジョンの内部の描写が難しい……。

ちょっと取材にでも行ければいいのだけど、コロナ過だし、大体ヤバいとこだし。

この間もダンジョンというより迷宮の闘技場のような円形ホールに出てしまった夢を見た。

前方の2つあるうちの1つの鉄格子が開いたら、奥は炎のように真っ赤なライト。

その光をバックに出てきた黒いシルエットを、瞬間的にミノタウロスと判断。

ワンダッシュで逃げました。

だって私武器持ってないし、魔法なんか使えんのだから。

出来るのは低空飛行のみ。年のせいか最近スピードが上がらないんだよね。

なんとか手に持っていたガンタイプの空気銃(空気しか出ない)を撃ちながら、推進力にして逃げ切った。

疲れたわ~~~。

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