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第13話『ギルドからの依頼』

今日は土曜日で時間があったので早めに更新出来ました。


「察していただけるなら話が早いです。実は2年程前から保留になっている依頼がありまして」

 トーマス所長は少しもじもじしながら話し出した。

「この街の領主のアウエンミュラー侯爵ルドルフ=ミラン・シュクラーバル様をご存知で?」

「一応な」とヴァリアス。

 俺はもちろん全然知らない。覚えておこう。

「そのシュクラーバル様のご子息ラヴィチュカ様が来年ご成人されます」

 外国人の名前って難しいな。俺は手帳にメモる。


「その成人の儀のお披露目に、ラヴィチュカ様にドラゴンメイルをご所望なのです」

「はん! それでドラゴンが入り用ということか」

「はい、ご存知かと思いますが、一口にドラゴンメイルと申しましても、ドラゴンの鱗を金属に混ぜ込み、その特性を帯びるようにさせた合成のものと、全て鱗を使った純正のものがございます。シュクラーバル様はその、純正のものをお求めでして」

「貴族の親馬鹿の言いそうなことだ。それで鱗が間に合わないということか」

「はい、鱗を手に入れるのはドラゴン自身から剥がすか、もしくは稀にドラゴンが通った後に落ちている鱗を拾うことです。ただこれだけの量となりますとドラゴンを倒すしかございません」

 

 暑くもないのに所長はハンカチで顔を拭きながら話を続ける。

「ここから一番近くですと、北西の方の2つほど山を越えたところに、グリーンドラゴンが棲んでいると占い師の検索でわかっております。今まで何回かAランクの冒険者パーティが依頼を受けてくれたのですが…」

「返り討ちにあったか」

「恐らく……。途中で何かあったかもしれませんが、パーティが全滅したのは確かです。彼らのハンター登録書が黒く変色したようなので」

「えっ それってなんですか?」

 俺の問いにヴァリアスが代わって答えた。


「正規登録になるとな、登録書で安否がわかるようになっているんだ。持ち主が死ぬと登録書の魔紙が黒くなるんだ。いつまでも、生きてるのか死んでるのかわからない奴の登録をそのままにしてたら、登録書が溜まる一方だからな」

 そうなのか。どこか人の知らない処で朽ち果ててしまっても、死んだことだけは知らせる事ができるんだな。

 なにか切ない気もするが。


「あの私 素人なんで的外れな事言ってたらすみませんが、金属の例えばミスリルの鎧じゃ駄目なんですか? 少なくともそこまで入手困難じゃないんじゃないんですよね?」

 ミスリルと言えば王道のスーパー金属。硬貨にも使われているのだし、一応流通はしてるのだろうと思った。

 

 俺の疑問にお茶で口を潤した所長が答えてくれた。

「確かにミスリルも純度によりますが、強度、魔法耐性はドラゴンに引けを取りません。これもかなりの希少品ですが、今現存するミスリル銀でできた武具をかき集めて、溶かして作り直す事も出来るのですが……」

 またハンカチでせわしなく顔を拭いた。

「シュクラーバル様御付きの占い師が、純正のドラゴンメイルが良いと助言したからなんです」

 あー やっぱりそういうのに頼るんだ。

 考えてみたら日本でも、政治家とか芸能人とか結構占いに頼っている人いるから、こっちじゃもっと当たり前の感覚なのかもしれないな。

「もちろん近隣のギルドや出入りの旅商人などに買い付けられるものがないか、頼んではいるのですが、最近市場に鱗が出回るのが皆無に近い状態でして…」


「おそらく奴らの休眠期間にあたっているんだろう。奴らは活動期間以外は、巣で十数年ぐらい寝ているからな。出くわす機会が少ないんだろ」

 そんなに冬眠? するの?

「本来ドラゴンクラスはSランクの者に頼みたいのですが、なかなか彼らも忙しくて我が街に来てくれないんですよ」

 副長がこめかみの辺りをさすりながら言う。

「そりゃあSランクくらいになれば各地で引っ張りだこだろうよ。各領地こぞってよそに行かれないように囲い込もうとするからな」


「あの、また話の腰を折って申し訳ありませんが、AとSランクの違いってどれくらいなんですか」

 申し訳ないがつい聞きたくなってしまった。

「Aランクはケルベロスやワイバーンを1人でも相手できるレベルです。Sランクは1人でマンティコアやクラーケンを倒せる力量で、3人以内のパーティでグリーンドラゴンクラスを討つことのできるレベルです」

 いやもう、ケルベロスやマンティコア、クラーケンって名前は知ってるけど、どれくらいのレベルなのか知らないし。とにかくその順なんだな?


「というとSSランクは?」

「1人でドラゴンを倒せるレベルですね」

 俺を含め3人であらためてヴァリアスを見た。

「オレは倒したわけじゃないぞ。一発殴って、懲らしめに背中の鱗をむしってやったんだ。そうしたら逃げていっただけだ」

 背中の鱗って、因幡の白兎かよ。なんかドラゴン可哀そう。

「そんな事は普通の人間に出来ることではありませんぞ」と副長。

 ですよね-。


 トーマス所長が話を続ける。

「15歳の成人式までにあと1年切りました。ここ最近シュクラーバル様のお使者から、矢のような催促を毎日受けておりまして、私体重が35ベイト(約16キロ)減ってしまいました」

「良かったじゃないか。簡単に痩せられて」

 奴があっけらかんと言った。

「ちょっとそういう事言わない。心労で痩せるってキツイんだぞ」

 俺は少し慌てて言った。

 だが、エッガー副長にははからずも受けたようで、急に手で顔を隠して肩を震わせている。


「まぁ話はわかった。それで鱗の色は何色でもいいのか?」

「えっ? ええ、もちろんグリーンでも水色でも何色でも手に入れやすいので結構なのですが、何かお心辺りがおありで?」


 ヴァリアスは右手を目の前に上げて指を鳴らすような仕草をすると、空中から俺の掌ぐらいの黒っぽいものを出した。

「こんなのでもいいのか?」

「「こっこれは!!」」

 所長と副長2人とも腰を浮かせてテーブルに置いた黒いものを見た。

「手に取っていいですか?」

「ああ、何なら解析してくれて構わんぞ」

 それを手に取ってジッと見ていた所長が呻くように言った。

「……本物です。ブラックドラゴンの鱗です」

「所長、お前は解析能力持ちだな」

「ええ、これのお陰で当職でも役に立っております。昨日貴方様達も失礼ながらひそかに解析させていただきましたが、強力な護符を付けられているようでわかりませんでした」

 ああ、護符ってそういう役割もあるんだね。確かに色々素性を探られるのは気分悪いし、第一に危ないからな。


「俺もブラックのは数回見たぐらいだが、これは以前見たのより大きいな………」と副長。

「正確に言うとそいつはブラックとレッドのミックスだからな。純血種ではないぞ」

 その鱗は大雑把に言うと3つの角状の楓の葉のような形をしていた。よく見ると所々に赤い筋が縦に走り、3つの角状に広がった部分とは逆の、すぼまったあたりが赤黒くなっている。

「これはどうされたのですか?」

 やや興奮気味に所長が聞いてきた。


「さっき言ったドラゴンの鱗だ。毟ったときオレの服に付いて残っていたんだ。他の落ちた鱗はいらんと言ったら、その場に来たギルドの連中が回収していったがな」

「くそっ羨ましいっ」

 副長 正直だな。


「これはこれで売っていただけませんか? いえ、ぜひお願いします!」

 所長が半分身を乗り出してきた。

「いいぞ。何なら昨日の宿代の代わりにやってもいい」

「いえっ そんな滅相もありません!! 値段が違い過ぎます」

 そういうと所長と副長は2人でコソコソ話し出した。


 俺は冷めないうちにとお茶を頂く。うん、紅茶に似ていてほんのり甘くて美味しい。

「そういやグリーンドラゴンとかブラックとかってドラゴンの種類なんだろうけど、やっぱり強さが違うのか?」

「そうだな。強さも違うが一般的にグリーンは比較的大人しくて、成体で頭から尾まで約12~15mぐらいだな。怒らせたり、腹を空かしてなければそう襲ってくることもない。レッドは約20~28mぐらいで性格は粗暴と言われている。ワイルドボアーの群れを狩るのに密林に逃げ込まれて、森をまるまる焼いたという話がある。ブラックは約20~34mぐらい。性格は残酷というのかな。獲物のトドメをわざと刺さずに取っておいたりする事がある。鮮度を保つためだろうが、獲物はたまったものじゃないな」


「なんだそれ、そんな危険生物に会いたくないぞ」

 やっぱりドラゴンは人が会っちゃいけないモノだな。

「そう心配するな。個体差もあるし、今の話はあくまで人間側から見た話だ」

「いや、俺も人間なんだけど」


「すみません。お話いいですか?」

 所長達の相談が済んだようだ。

「これは70万エルで売っていただけないでしょうか? 駄目でしたらその75、いえ80でも」

「いいぞ。そっちの言い値で」

「えっ宜しいですか! 有難うございます! 今すぐご用意いたします」

 副長が急いで部屋を出て行った。


 俺は隣でポカンとしていた。鱗1枚が70万エルか。それって中流家庭の5,6ヵ月分の生活費くらいだよね。最近出回ってなくてとっても希少なのかもしれないけど、そりゃ危険を冒してもドラゴン狩りに行くわな。

 ふと思い出したことがあった。

「もしかしてヴァリアスのお金の出どころって、こういう事?」

 俺は小声で話した。


「そうだ。まとまった金が必要になったら大きな依頼を受ければいいんだ。ちゃんと経済もまわるし、正攻法だろ? だからお前は気にしなくていい」

 確かに一回で凄く稼ぎそうだよな。俺なんかスライムと兎なのに。

「それでメイル用の鱗ですが、大きさにもよりますが、今くらいの大きさでしたら最低30枚くらいは必要かと思います。………お頼み出来ますでしょうか?」

 残った所長が拝むように顔の前で両手を合わせた。


「少し傷がついてもいいならな」

「勿論です! 欠けてても割れてても加工しますから構いません! では受けて頂けるのですねっ?」

「ああ、コイツにドラゴンを見せる良い機会だからな」

「えっ! 俺も行くの?!」

「当たり前だろう。何のために受けると思っている?」

 マジですか。他人事のつもりでのんびりお茶飲んでたよ。


「でも、スライム、兎ときて、いきなりドラゴンって飛躍し過ぎじゃないのか?」

 ダンジョン1階でラスボスにいきなり会ってしまう気分だよ。

「どうせいつかは避けて通れないんだろうから、早めに見といたほうが良いだろう。それにあくまで対峙するのはオレだから、お前は横で見てればいい」

 いや普通に生活していれば避けられるんじゃないの?って思ったが言えなかった。

 もうトーマス所長が期待したキラキラした目で見てるし、俺がここで嫌だって言ったらこの依頼を受けなくなりそうだし。


「……わかったよ。その代わりちゃんと守ってくれよ。俺 生きたまま喰われるのなんか御免だからな」

「当たり前だ。我があるじの名にかけてそんな真似はさせん!」

「良かった。良かったです……」

 トーマス所長はホッとしたようにハンカチで顔を拭いている。もしかして泣いてる?


 その時、ノックの音がして副長が戻ってきた。

「70万エルです。どうぞお確かめ下さい」

 白い陶器で出来たコイントレーに金貨が7枚載っていた。

「それではこちらに受け取りのサインを」

 B5くらいの紙に色々書いてある。譲渡証書のようなものなのだろうか。


「喜んでくれ! ソーヤ様のおかげでヴァリアス様が受けて下さることになったぞ」

「本当か! それは有難い! お礼申し上げますっ」と副長が頭を下げた。

「いや、まだ取ってきてませんから。それに様付けは止めてください。お客じゃないんですから。普通に扱ってください。

 いいだろ?ヴァリアス」

「オレもどっちでも構わん。お前がその方がいいならそうしろ」

「はぁ、しかしSSランクの方をお呼びするのに……わかりました。では“さん”付けでお呼びします」

 所長はちょっと戸惑っていたが、ヴァリアスと目が合って承知したようだ。


「ヴァリアス、その2つ山を越えた処に行くのか? まだいるかわかるのかい?」

「いや、そこには行かん。以前会った奴のほうが索敵しやすいから、そっちに行く」

 サッとサインを済ませて立ち上がると

「急いでいるんだろう。行くぞ蒼也」

「すいません。では私達はこれで」

 呆気に取られている2人を残して俺は慌てて後をついていく。

 階段を下りて外にでるのかと思いきや、2階の大広間を通り、また例のトイレのある横の通路に入る。


「跳ぶにはここら辺が人目につかず最適だな」

「ちょっと待て。もうすぐに行くって、例の瞬間移動するのか? こう馬車で行くとかじゃなくて」

「そんな悠長なことしてたら何日かかるか分からん。それにこれから行くところは別の大陸だ」

 何だよその唐突な感じ。朝飯食って換金しに来たらいきなりドラゴンに会いに行くって、ゲームでもあり得ないデタラメな展開なんだけど。

「じゃあ行くぞ」

「いや、ちょっと待ってくれ。用意するものがあるから」


 俺は階段を下りてギルドの外に出た。広場はすでに人が行きかって賑やかだった。

「すいません。これにいっぱい水ください」

 昨日の水売りに俺は空のペットボトルを渡した。今の俺には英気が必要だ。

「へい、毎度どうも」

 水売りの男は黄色い歯を見せてニッと笑った。


ここまで読んでいただき有難うございます!

これからもお付き合いのほど宜しくお願いいたします。


爵位名と姓名がイコールじゃないっていう事を、今更ながらに知りました(汗)

まあ、ファンタジーだし、他所の星だから違ってても別に構わないのでしょうが、

一応知ってしまったので変更しました。


爵位名を名前に表記する仕方を訂正しました。


アウエンミュラー地方領主

ルドルフ=ミラン・シュクラーバル侯爵 ×

アウエンミュラー侯爵ルドルフ=ミラン・シュクラーバル 〇


必ずしも領地名がつくわけではないようですが、今回はこれで。

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