表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/283

第128話☆『創立記念祭の町 バレンティア』


 商業ギルドでまずこの近辺の宿屋インを探そうと思った。もちろん王都にたくさんの宿屋はあるが、どれもあの『ファンタジアファウンテン亭』のような豪華な高そうなところばかりで、貧乏性の俺には落ち着かないのだ。

 どうせ寝るだけに使うのだから勿体ないと、つい貧乏性が出てしまう。

 探せば下町にもあるだろうが、あくまでこの王都での下町価格だろうし、別の町も見てみたいせいもある。


 まず王都周辺の観光案内で、近隣の町や村がどんなところかを見てみる。

 網羅されている近隣の町は王都から30㎞以内の範囲で選ぶことにした。あまり広げ過ぎると候補が多過ぎてしまうし、何より往復が大変になる。もう絶対に走らされるのは目に見えているからだ。


 王都のまわりには大河を挟んで、いくつかの町や村があり、ダンジョンは山寄りにあった。

 それでも何個かのダンジョンは潰した結果だという。

「王がいる城の近くに、魔物が棲み付くような場所を作っとく訳にいかないだろ」

 宝を産む迷宮だが、やはり安全には変えられないというのが王様の考えのようだ。だから王都の周り20㎞圏内にもしダンジョンが出来たら、即潰すようにしているらしい。


「でもここなんかは、ダンジョンのすぐ近くに町があるぞ。市民はほっといていいのか?」

 俺は貼ってある近隣マップを見ながら言った。ある山寄りの町のすぐ側にダンジョンが3つもあるのだ。

「そういうところは逆に、ダンジョン近くの宿場町として繁栄しているんだ。領主の考え方の違いだな」

「宿場町かあ。じゃあ宿がいっぱいあるって事だな」

 王都から23㎞ぐらいの距離だし、色々選べそうだ。

「それにそういうところは管理費として、国から助成金とかが入るんだ。ダンジョンから得られる収益以外にな」

「へぇ、じゃあダンジョンがあれば町が潤うんだな」

「ただし、危険込みだがな。万が一スタンピード(魔物の暴走)とかが起こったら、まず町が防波堤の役目を果たすことになる。危険と背中合わせだ」


「お客さんたち、『バレンティア』の祭りに行くんですか?」

 案内所の係の男が話しかけてきた。

「いいえ、ただ近隣の町で宿を探そうと思って」

「じゃあその『バレンティア』の町は、やめておいた方がいいですよ。お祭りのおかげで宿屋は今いっぱいの筈ですからね。逆に探すのに苦労しますよ」

「そうなんですか。それはどうも。だけどそのお祭りって何のですか?」

「『バレンティア』が村から町になって50周年の記念でしてね。ほらそこに」

 と、係は柱に貼られたポスターを指さした。


 そこには、こちらにしては色を5色近くも使った大きめのポスターが貼ってあった。

 『バレンティア創立50周年記念祭 パレード 歴史劇 見世物 王都から有名歌姫によるショー……』

 期間は昨日から5日後までの7日間行なわれるようだ。

 いろいろなイベントが書かれていたが、その中で最もメインイベントは最終日に行われる『アジーレ・ダンジョン宝物探し』だ。 

 どうやらあらかじめダンジョン内に隠しておく、何かを探し当てた者に賞金が出るという単純な催しなのだが、その賞金額が1等300万エルという破格額。2等ハイポーション(ここでは約1万エル相当の品)50本、3等 火、水、土の魔石 それぞれ10万エル相当 と、2等以下は現物支給。

 ここはやはり1等狙いになるだろう。 

 参加費用は1パーティにつき5,000エルと決して安くはないが、1パーティの上限が5名までOKなので皆で割れば安くなる。

 でも……。


「このアジーレ・ダンジョンってどのくらいのレベルなんですか? やっぱり難易度が高いとか」

「いえ、迷路系ではあるんですが、棲み付いてる魔物とかはEランクまでなので、初中級のダンジョンですね」

「試しに行ってみるか?」

 ダンジョンと聞いて奴がほっとくわけがない。だけど魔物もEレベルまでなら俺でもなんとかなるかなあ。

なんてつい簡単に考えたが、Eランクというのはあのオークやゴブリンのランクである。一般人には十分危険なレベルだ。


 そこの観光案内所で黒1色刷りでA4くらいのサイズに小さくした、祭りのチラシをもらう。

 ちょっと祭りだけでも見てみるのもいいかもしれない。


 近辺の町や村は比較的、王都の西と南側にあった。これは太陽が西から登って南を通り、東に沈むからである。冬のように陽の角度が低くなると影が長くなるので、高い位置にある王都の城などの影がかからない位置にあるらしい。もちろん山々の影もあるので、おのずとこのチェブラ大河沿いに集まってきているようである。

 王都はこの大河の中州にあるので、橋と門は北と南の2つだけだ。ちなみに俺達が毎回使っているのは南門のほうだ。

 

 比較的安くて評判の良さそうな宿がある町か村という、漠然とした問い合わせをしてしまったが、係の男はすぐに答えてくれた。

「『バレンティア』を除けば、『エルッキラ』町か『コルデラ』村辺りがいいかもしれません。両方とも比較的商人の方が滞在されてます。特に国中を渡り歩く遍歴商人の方が多く利用されてるので、評判は悪くないはずです」

 そのうち『コルデラ』村は、俺が初めてこの地に来た時に、不審者然と門を覗いてしまい危うい思いをした村だった。さすがに覚えられてないと思うが、どうもバツが悪い。

 先に『エルッキラ』町をあたることにした。

 ちなみにあの『バレンティア』はダンジョンが目当てに流れのハンターが多く来るので、比較的安宿が多いそうだ。

 他の町には炭鉱に出稼ぎに来ている鉱夫用に、木賃宿ベッドだけのが多いところや、逆に宿屋があまりない村とかのようだ。


王都から6.5㎞の『エルッキラ』の町は王都の庶民街がそのまま移動してきたような、小洒落た感じの建物や通りの町だった。道も綺麗に掃除されていて、泥や藁がほとんど落ちていない。ちょっとギーレンの町に傾向が似ているかもしれない。

 こんなとこではそれほど安くないのではと思ったが、大通りから何本か裏通りに入ると、家々の窓から洗濯物がロープで渡る家並みの商店街があり、その中にいくつかの宿屋があった。


 店先に小さな花壇と2つのテーブルを出したペンション風の宿屋に入ってみた。

「すいません。今日はもう一杯なんです」

 エプロンをつけたオバちゃんが済まなそうに言った。

「近隣の町で祭りがありましてね、そのせいでウチのほうにも泊り客が大勢来てるんです」

 他の3軒の宿屋も同じだった。これは急に宿探しに暗雲がかかってきた感じがするぞ。


「そんなに値段にこだわらなくても、もう泊れればいいんじゃねぇのか?」

 奴がすでに飽きてきたらしくぼやき出した。

「そりゃお金はあるけどさ。どうせただ泊まるだけの部屋に勿体ないじゃないか」

 急に大金を持っても俺の貧乏性は治らないのだ。

「それにしてもこちらにも影響するってことは、相当その祭り大きいんだな」

 俺はすこし興味が出てきた。

「よし、まだ昼前だし、そのバレンティアに行ってみるか」


「ここからだと11.535マール―― 約18.56㎞だな。それなら10分で行けるだろ」

「バッカじゃないのかっ!! それ単純計算しても時速100キロ越えだろっ。チーターだって無理だぞ」

 俺は結局エルッキラの町を出て、道端でストレッチをしていた。走ることはわかっていたが、なんて無茶ぶりな要求をするんだ。『600万ドルの男』(サイボーグのドラマ)だって最高時速100キロまでだったぞ。まず息が無理だ。

「チーターだって瞬間的には出せるだろ。言っとくが魔物の中にはもっと早く走る奴だっているんだぞ。そんなのと遭ったらどうする気だ」

 そんな奴がいるとこには始めから行きたくないって言いたいが、絶対こいつといたら回避は無理だな。

 まあ俺も考えてる事がある。


「とにかく今は出来る範囲でやるよ。それに宿を決めたら、ちょっと練習したい風魔法があるんだ」

「ほう、どんなんだ?」

「俺はまだパワーがないから、このままじゃ飛べないだろ。だからテクニックでカバーしようかなと思って」

 俺は昨日考えた方法を奴に話した。

 確かにあのグラウンドドラゴンに追っかけ回された時に、飛べればどんなにいいかとは思ったのだ。少なくとも『THE FLASH/フラッシュ』のヒーローみたいに高速で走れれば逃げ切れるとも。

 だけど現実には無理だから、出来る方法でやらないと。


「なかなか面白いじゃないか」

「うん、昨日のあの護衛の人の風魔法の話から思いついたんだ。さすがにあんなパワーはないから、やり方を変えてみようかと思って」

「そうか、いいぞ、その発想。じゃあそれで町まで行ってみるか」

「待て待て、いきなり出来るかっ。それに練習するのはこんな公道じゃ危ないじゃないか。やるのはもっと人気のない広いとこでだ」

 だったらさっさと宿決めてやろうぜ、と言う奴を無視して俺は走り出した。

 まずはお祭りを見てからだ。


 町まで行く道は広い街道の他に、畑を横断するあぜ道などがある。馬車や馬の乗り手以外はトボトボと徒歩で歩く人達が大半なのだから、当然街道ではこんな走りはNGだ。歩道をバイクが走るようなものになるからだ。

 なのでいつもあぜ道か、道の杭の外を走る事にしている。

 それでも高速で走る俺に、人々が振り返ったり、立ち止まったりすることはしょっちゅうだ。地球でやったらそれこそ警察に注意されるかもしれない。(実際は注意どころじゃ済まないだろうが)

 が、ここは異国・異世界だ。それもハンターという超人たちがザラにいる世界だ。

 こういう身体強化系の者も少なからずいるこの世界では、このように迷惑をかけなければ承認されているのだ。


 とはいえ、超マラソンで走る男2人ってどう映るんだろ?

 それを言ったら奴はしゃらっと言ってのけた。

「大丈夫だ。俺は気配を薄くしてるから、見えてるのはお前1人だけだ。まわりにはお前1人で何か急いでいるようにしか見えないぞ」

「なんだとぉっ! じゃあ俺だけ馬鹿みたいに走ってるように見えるのかよ。だったら俺も消せよ。恥ずかしいじゃないかっ」

「昨日それで文句言ってたのはお前じゃないか。2人とも姿を消して、走る跡だけ残ったら、それこそ騒がれるぞ」

「んぬぬぬ~、このくそヴァリィ~~~」

 とにかく早く着くしかねぇ。俺は更に速度を上げて走った。


 30分ほどノンストップで走り続けていくうちに、小山の手前にそれらしき赤レンガ色の長い塀が見えてきた。さらに近づいていくと、遠目からでもその町の頭上に何かが飛んでいるのがわかった。

 段々と人々の歓声が聞こえてくる。


「ワイバーン? じゃなくて大きな鳥? いや、凧、カイトか」

 町の頭上を大きなブーメラン型のカイトが2つ飛んでいるのが見えた。その他に何か帯のような細長いモノが、風に乗っているのか、落ちる事もなく舞っている。

 時折、ポンという音がすると、ひと際歓声が高く上がる。見えないが花火ではないよな。


 やっと近くまできて、その帯の正体がわかった。

 それは『ようこそ! バレンティアへ』と、沢山の花がかたまって空中に文字を作っていたのだ。

 そうしてしばらくすると形をまた変えて『祝 創立50周年記念』となった。

 最後には誰だか知らないが、口髭をピンと生やした男の顔になった。

 門の手前から垣間見える光景は、すでに遊園地の玄関口ようだ。


 中に入って俺はちょっと感動した。


 町中にキラキラとした紙吹雪が舞っていた。それは5色と金銀の混ざった2㎝角ぐらいの大きさの紙で、至る所で空から降ってきているようだった。そうして下に落ちた紙はするすると地面を滑ると、建物の壁沿いにまた上に登っていき、上空からまた風に乗ってゆっくりと雪のように落ちてくるのだ。

 それはまるで噴水のように落ちた紙を循環させているようだった。

 建物と建物の間には洗濯物の代わりに、フラッグガーランド(旗付きロープ)があちこちに渡ってひるがえっている。

 

 そしてさっき遠くで見たあのカイト。あれは人が載っているハンググライダーだった。蝙蝠のような形をしたその翼の中心から、虹色の長い帯のようなものがヒラヒラと伸びている。

 ただのハンググライダーと違うのは、時々ホバリングのように宙で止まったり、後退したりする動作を見せるところだ。

 しかもさっきは2つしか見えなかったが、遠くに他にもいくつかいるようだ。

「風の使い手たちだな。ああやって警備をしてるんだろ。この紙吹雪の操作も奴らの仕事だ」

 へぇー、なんか大変そうな気もするが、慣れているのか、彼らは気持ちよさそうに余裕で飛んでいるように見える。

 そういえばあの風使いの護衛も、あの時は道具がなかったのでマントを代用したと言っていた。

 確かにハンググライダーの翼の方が操縦しやすいだろう。俺もあれなら出来るのかなぁ。


 そのまま広い通りを歩く。

 祭りにつきものの露店が、あちこちに所狭しとテントを出している。

 道行く人々も、仮面をつけたり、いつもより奇抜な帽子を被ったり、顔にペイントしたりしている人が多かった。

 人々の声に負けじと道端で楽器を打ち鳴らす楽師や、ハーブで歌を披露する吟遊詩人などの声もあり、町は本当に賑やかだ。

 道端では大道芸人がお決まりの火吹き芸を披露していたが、その口から吐き出した炎は蛇のようにとぐろを巻くと、男の体に巻き付いた。

 男の体がみるみる炎に包まれる。が、パッと炎が飛び散るように消えると、男が美女に変わっていた。

 拍手が起こる。

 あれ、どうやったんだろう? 探知しておけばよかった。


 こっちではピエロらしき道化師が、手袋を足に履き、靴を手につけると、そのまま自分の首を引っこ抜いた。そうして首を股につけると、くるんと逆立ちをした。

 すると首はちゃんとくっついてニッコリ笑うと、観衆にさっきまで足だった手を振って見せた。

 んん、多分、本当の首は服の下だったのか? というか始めは逆立ちしていたのか? なんだか探知が上手くいかないぞ。護符をつけてるのか。そう簡単には種明かしはさせない気か。


 またポンという軽い破裂音と共に歓声が聞こえるので、そっちに行くと、広場に大きな大砲が台座に設置されていた。その階段を登って子供が台に上る。道化師が大砲のお尻を開けると、子供を中に入れる。

 えっ、これって道化師が飛ぶもんじゃないのか?

 なんて思っていたら、道化師がタッフル付きの紐を思い切り引くと、子供がポンっと勢いよく奇声と共に上空に打ち上げられた。そのまま大きく弧を描いて、反対側の台で待ち構えていたもう1人の道化師が、大きなネットで子供が地面に打ち付けられる前に見事受け止める。まわりからまた大きな歓声が上がる。

 待ってくれ。これ、思い切り危険なマネしてないか? 大丈夫なのか? 一歩間違えたら大事故だぞ。

 だが、まわりを見回しても誰も心配気な顔をしていない。それどころかどんどん次の順番待ちの列が並んでいく。

 異国の祭りの基準がよくわからん。


 ふと見ると時折、子供たちが足元に落ちている紙吹雪を拾いながら何かを探している。

 ああ、これか。あの観光案内所で貰ったチラシに書いてあった催し物の1つで、紙吹雪の中に当たりくじが紛れているのだ。これを各街角に設置されている引換所に持って行くと景品と交換してくれるのだ。

 ふふん、こういう時こそ探知の腕の見せ所だ。


 宙に舞っているものや地面に落ちたもの、屋根に落ちているものまでに探知の目を広げて探してみる。

 む、なんだかやりづらい。

 まわりの人々の思念やオーラが多過ぎて、なんだか真っ直ぐ進めない茂みのように邪魔される。まさしく人波をまさぐるように掻き分けて行く感じだ。

 これはまた、あの黒い森の反射の邪魔とは違う障害だ。


 ヴァリアスは始めは興味なさげにしていたが、俺が真剣に探知で探しているのを見て、さっさと帰ろうとは言わなくなった。


 目の前にヒラヒラと飛んでいる数枚の紙ぺらさえ、真っ直ぐに手を伸ばして掴めない感じ。

 こなクソっ、と集中して探っていたら、数十メートル先の窓のひさしにマークが書いてある紙吹雪を見つけた。

 風魔法でそっと動かして俺の前まで飛ばしてみた。

 黄色い紙に六芒星のマークが3つ描かれている。よっしゃ! ゲットしたぜ。

 俺は子供のように少しテンションが上がった。


 すぐに近くの十字路の角にあった引換所に持って行く。

「おめでとうございます! 3等です」

 と、3本角の仮面をつけた男が、大きなハンドベルをカランカラン鳴らす。

「どうぞ、景品です」

 渡されたのは、クレープのように三角紙に包まれたスイトープ(甘い芋虫)だった。

 うえぇ~、これかよぉ。確かにピンク色になってるから過熱してあるみたいだけど、顔みたいな模様がこの間のランカァ・ガーのようにシワが寄って、怒ってるみたいに見えるんだけど。


 俺が渋い顔をしているのを見て、隣で面白そうに奴が言った。

「せっかくの食べ物なんだから、無駄にするなよな」

「そりゃ捨てたりしないよ。あんた食べるか?」

「オレは甘いのはいい。お前は甘いのも好きなんだろ」

 うっ、そりゃそうだけど……。


 ふと、横に視線を向けると、5才くらいの女の子が小さな男の子を手を握って、俺の手元をじっと見ていた。さっきからまわりで紙吹雪を拾っていた子達だ。

「これいる?」俺はそっと聞いてみた。日本じゃ不審者扱いだが。

「いいの?」女の子は虫から目を離さずに聞いてきた。

「うん、オジサン達もうお腹一杯だから」

 そう言って差し出した袋を、すぐに掴むと「ありがと」と一言言って、弟と走っていった。

 良かった。虫も無事に美味しく食べてもらえそうだ。


「よし、3等はやめて、1等か2等を狙うぞ。また虫とかじゃあるまい」

「まだやるのか? 訓練になるからオレは構わないが、宿を探す時間が無くなるぞ」

 そうだった。時間はすでに昼過ぎだ。こんなことしてたらどんどん時間が過ぎていく。

 大体こんなとこ、国際級テロリストみたいな奴とじゃなく、彼女とかと来たいよな。まだ見るとこ一杯ありそうだけど、宿を探しに行くか。


「パレード綺麗だったね~。夜も楽しみ~」

 頭に花をつけた娘が3人喋りながら俺の横を通って行った。パレード? 俺はチラシを見直した。

『閉門後 ナイトパレード 花火……』 そのナイトパレードの詳細に『セイレーンの歌姫』というのがあった。

「えっ、セイレーンって、あの水の魔物の?」

「裏社会じゃないんだから本物な訳ないだろ。おそらく水槽に入った水使いの女が、薄衣着て水中で歌うんだろ」

「なんだ、そうか。やっぱり本物じゃないのか。――ってそれ、なんか凄くないか?

 見てみたいぞ、それ。だけど閉門後か」

 夜はやっぱりちょっとアダルトモードになるのかな。

「じゃあ閉門後に転移で来ればいい」

「それじゃ不法侵入になるじゃないか」

 俺は少し声をひそめて言った。もちろん周りの人々の中に俺達の会話を聞いている者はいない。


「昨日の今日で、ヤバい事をそんなに繰り返したくないぞ」

「でもこの町に泊まる訳じゃないんだから無理だろ」

「う~ん……」

 俺は辺りを見回した。祭りを楽しむ人々は老若男女、町人、農夫や商人風の者もいれば、あきらかに兵士っぽい奴らもいる。確実に町人以外の連中が来ているのは一目瞭然だ。

 それに今日は祭りで町中の宿も一杯だろう。しかしなぁ。


「よし、ダメ元で、宿を探知で探してみる。もうちょっと高くてもいいや」

 俺もいい加減である。

「そうか、ならいちいち探ってみる探知ではなく、索敵してみろ」

 と奴が言った。

「えっ、索敵で?」

「そうだ。索敵と言っても、敵ばかりを探す訳じゃないぞ。本能的に危険な対象を真っ先に探すことから、そう呼ばれているが、本来は特定の対象を探すのが目的のやり方だ。探知能力もだいぶ発達してきたから、危険対象でなくても出来るだろ」

 確かに探知は自分を出発点にして、広がるように視野を広げていくが、索敵はピンポイントでピントを合わせるように視える。まんべんなく辺りを見回す探知より、索敵で宿を探したほうが早いかもしれない。


 探すのは宿屋の看板だ。俺は建物の壁に背中を合わせて人混みを避けながら、索敵してみた。



ここまで読んで頂き有難うございます!

次回129話 (仮)『下宿屋  いばらの森亭』予定です。

どうかよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ