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第126話☆『謝る蒼也と権力者』


「おい、何かあったか?」

 頭上で声がした。ちょうど馬小屋のひさしのおかげで、頭上から俺達の姿は見えない。


「オレの事は絶対に言うなよ。チクったらこの首の骨、引っこ抜いてやるからな」

 逃走中の強盗犯でも言わなさそうなセリフを、押し殺した声で言ってる。

 奴は護衛の男の首を掴んだまま、倒した時と同じく勢いよく立ち上がらせた。

 上から大男が飛び降りてきたのと、奴が姿を消したのはほぼ同時だった。


「こいつは?」

 やはり武装した護衛らしき大男は、俺を睨むように凝視しながら言ってきた。

「…………おれの勘違いだったようだ。この人は何でもない……」

 そう言いながら男は抜いていた剣を鞘に納めた。

「勘違いって……、お前なにやってたんだ?」

 男が鎧に着いた土を払っているのを見て、大男が不審げに聞いてきた。

「あ、あの、私です。いきなり怒鳴られたんで、吃驚して……。こうやって土で壁作っちゃったんです」

 俺は目の前に1.5mくらいの薄い土壁を作って見せた。それは子供の拳で簡単に壊せるくらいの薄さだ。これぐらいなら生活魔法を持つ一般人にも出来る。そう思って欲しい。

 

「―― お前、まさか居眠りしてたんじゃないだろうな?」

「っしてねぇよ! …………この人が馬車の陰に入ったから、一瞬気配が切れたように感じただけだ。馬車の魔除けのせいでな……」

「ふん、……まあいいか。とにかく今、大事な商談中なんだから、ちゃんと見張っててくれよ。探知が出来るのはお前だけなんだからな」

 まだちょっと俺のことをジロジロ見ていたが、トンっと身軽にジャンプすると、大男は2階の窓からスルッと入っていった。


 2人してその様子を見送ったあと、「「はあぁ~っ……」」 と同時に息を吐くと、俺達はその場にしゃがみ込んだ。


「どうも……大変申し訳ございませんでした……」

 俺は、ほぼ土下座状態で男の前で頭を下げた。

「……いや、いいですよ、もう……。SSの人の相方にやいばを向けたら、殺されても文句言えないし……」

 男は兜を脱いで、首の後ろを擦りながら首をまわした。額に青いバンダナを巻いている。

 SSってそんなヤバい奴ばっかりなのかよ。


「いやそんな……。あいつにはもう手だしさせませんから」

「そうしてもらうと有難いけど……」

「あの、やっぱり私の相方が誰だかわかってるんですね?」

「あの鱗の取引の時に、相手が誰だか聞いてたから……。姿は見えなかったけど……、あんたの相方って例の、SSのアクール人だろ?」

 俺は頷くしかなかった。


「……はあ……………さっきはマジで殺されるかと思った。力以上の、絶対に抗えないモノを感じたよ。理不尽でもSSには絶対逆らっちゃいけないっていうのを、身をもってわかった……」

 そう言って男は手で額を押さえながら前に屈み込んだ。

「全くもってすみません……」

 俺は謝るしかなかった。

 ―――― くそっ、あのヤロウ、何処行きやがった?!


 なんか、急に喉が渇いてきた。

 ビールでもと思ったが、仕事中なので酒は飲めないというので、俺は代わりにペットボトルの水を出した。ヒールとまではいかないが、あの森の湧き水だ。ちょっとした癒し成分はある。

 俺達は水を一気飲みして、なんとか落ち着いた。


 すっかり忘れていたが、あのバイヤーはあれから2,3日で来ると言ってた。まさに今、2階で村長とドラゴンの皮の買取交渉をしてるんだ。

 そんな高額な取引が行われているところに、俺達はいきなり転移してきたのだ。もう疑われても仕方がない。それに日本だって昔は関所破りは重罪だった。

 もう俺は奴のマイペースさに毒され始めてるんだ。違う意味で危機感を持たないと……。


 男は専属の護衛ではなく、バイヤーに期間契約で雇われたハンターだと言った。主にこのような護衛依頼をやっているそうだ。探知能力者は索敵も兼ねるので護衛にも欠かせない存在らしい。

 本当は役場の玄関に立っていたらしいのだが、俺の気配を感じてすっ飛んできたらしい。


「あの、今日は空を飛んできたわけじゃないんですか?」

 俺は話題を変えようと馬車を見ながら聞いた。馬車はハーネスの感じからして1頭立てのようである。座席の具合からして、乗客は2人、御者1人の作りのようだ。

「この間は閉門後だったから。それに飛んだ方が安全で早かったし」

 あの時、丈夫なマントの裾を手首と足首に巻き付けて、ムササビのように凄い速さで飛んでいた。

 フライングスポーツで、ウィングスーツとかを着て滑空するのがある。あれも最高時速200k以上とか新幹線並みの速さが出るらしいが、さすがにそんな速度で飛ぶのは怖い。

 それに俺は竜巻とかは出来るが、パワー自体はあんまりないのだ。

 魔法試験の総合ランクもほぼ技巧テクニックで上げたようなものである。土は逆に技巧がなくてパワーがほとんどという、得手不得手が今回の試験で明らかになった。


 さっきのバインドは圧縮した空気の帯を巻き付けたんだと、教えてもらっていたところで、急に男が立ち上がった。

 取引が終わって応接室のドアが開いたのだ。護衛の男が急ぎ玄関の方に行く。

 俺はここでさっきの大男に会うとまた話がややこしくなるので、反対側の壁に隠れた。


 村長と先程の護衛の男、大男ともう1人獣人の護衛、そして茶髭の中年男のバイヤーが、馬小屋の方にやってきた。獣人の男が一頭の馬をハーネスに繋げている間に、大男が馬車にトランクケースを載せて座席にベルトで固定した。

 風使いの男は馬小屋から馬を出しながら、あたりを気にしていた。はた目には、ただ警戒しているとしか見えないだろう。

 本当にあいつ何処行ったんだろ。


 と、上を見上げた風使いがビクッと体を震わせた。俺にも探知で視えた。

 一瞬だけだが、2階のあの応接室の窓から、奴が下を見下ろしている姿がわかった。しかも部屋の中が真っ暗で、奴の目だけが銀色に光って見えたのだ。もちろん俺と男だけしか気がついていない。

 見慣れているとはいえ、その光景は俺もちょっと怖かった。

 すぐに応接室に転移した。


「あんたっ! 毎回毎回、何してくれちゃってるんだよっ!?」

 奴は灯りも付けない暗い部屋に、鬼火がアーモンド形をしたような光る眼で、窓際に背を向けて立っていた。

「なんだよ、別に怪我はさせてないだろ? ちゃんと手加減したし」

「ビビらせ過ぎなんだよっ! 中途半端に存在感を出しやがってっ もう『悪魔の棲む家』かと思ったぞ」

「なんだ、それっ?」

(映画『悪魔の棲む家』 実際の家を外からぐるりと撮った時に、誰もいないはずの窓の中に、こちらを見る赤い目が一瞬映っていたという逸話がある)


「大体、あんた、あの男の存在には気がついてたんだろ? なんですぐ教えねぇんだよ!」

 俺は詰め寄った。だが奴はさらっとしたもので

「気がつかないお前が悪いんだ。それにどう対応するか見ていたら、相変わらずお前はヘタレだし……」

 わざとらしく溜息をついた。


「この馬鹿ガーディアンッ! 守護神なら始めっから危険を回避させろよ。それにさっきのは、絶対俺達のほうが悪いだろ? 

 あんた、一応神の使いのくせに、道徳観念ってのが無いのかよ?」

「道徳って何を基準に言ってるんだ。ここは民主主義国家じゃないんだぞ。

 単純に権力があるものが偉い。それだけだ。そして力も権力のうちだ。お前のとこだって、ちょっと前までは権力者の言う事が絶対だったろ。

 今だって ―――― まて、『一応』ってなんだよっ!?」


「そんな権力主義な世界、俺は嫌だぞっ。…………もう、こっちに住むのは考えた方がいいのかな……」

「ナニっ、それはいかんっ! お前だってこれからもっと強くなって絶対権力者になれるんだぞっ!

 自分の国を持つことだって、その気になれば出来るんだぞ」

「いや、そもそも、その考え方が俺とずれてるん――」


「なんじゃ、来ておったのか」

 ドアが開いて村長が顔を出した。

「声がするからもしやと思ったら」

 しまったぁーーーっ! 勝手に2階に入ってたぁーーー。

「大変申し訳ございませんでしたぁー!!」

 俺は今日2度目の土下座をした。


 *********


「なんじゃい、そんな事かい」

 村長は顔の筋肉を緩めて言った。

 俺達は応接室であらためてソファに座り直していた。

 いきなり謝る俺に吃驚している村長に、俺はさっきまでの事を話した。門を通らずに勝手に入ってしまった事、護衛に奴が乱暴した事。転移とは言わずに気配を消して壁を登った事にしたのは、ちょっと心苦しかったが。


「兄ちゃんが大袈裟に謝るから、一体何事かと儂も緊張しちまったよ」

 少し笑みも見せながら話す村長に、少し安心したが

「でも、門を通らずに勝手に入るのって、立派な不法侵入ですよね?」

 俺はやはり戸惑いを消せなかった。

「うん、まあそうだな。基本的には立派な犯罪じゃよ。だけどここは小さな村で、大きな町でも、ましてや王都でもない。それにあんた達はここの立派な客人なんだ。儂のちっぽけな権限でも、それぐらい許可出来るぞ。あの地豚狩りの朝だって、他所のハンター達を緊急だったから素通りさせたしな」

 すいません。王都でもやってます!! って言えね~~~。


「それに旦那はなんたって、伝説のSS級だ。儂らみたいな取るに足りん人間からしたら、一緒にいるのでさえ本来はかなわん事なんじゃよ。ドラゴン以上の存在だからなあ」

「だから言ったろ? 力を持つ者がここじゃ偉いんだよ」

 しれっと、隣で奴が言う。

 こ、こ、こ、このぉおやろう~、あんたにどうやったら反省させる事が出来るんだーーーっ!?


「それにな、兄ちゃんはかなり平和なとこから来たようだけど、こっちじゃ旦那の言う通り、力がモノを言うんじゃよ。上の者が強くなけりゃあ、下の者を守れんからなぁ」

 村長は首を擦りながら、ゴキっと動かした。

 だけど旦那も、もう少し手加減してやって欲しいのぉと、呟くように言った。奴は、これでもしてるぞと、ちょっと不満そうに返した。

 俺は村長みたいな人が王様になってる国に住みたいよ。ラオウやケンシロウよりもトキに支配者になって欲しかった。

 でも、俺の考えが甘いのか? 間違っているのか? よくわからない…………。


「そうそう、肝心な事を言いそびれておった」

 村長がパンッと両手で膝を打った。

「さっき、例の取引が終わったんじゃ。いくらになったと思う?」

 ちょっとイタズラ小僧が何かを思いついたように、片眉を上げて村長がニヤリと笑った。

「……と、顎と頭に大きい傷を付けちゃったし、翼竜じゃないし……。でもその顔から察して、結構高く売れたようだから、……思い切って200万とか?」

 これは庶民としての期待額でもある。

 口笛を吹くように口をすぼめると、村長はまた、イタズラが成功した時のように嬉しそうな顔をした。

 それから立ち上がって、壁の伝声管でポルクルにさっきのお金を持ってくるように伝えた。


「まず、ドラゴンの魔石が、175万エルで取引が成立した」

 ポルクルが持ってきた革袋から、500円玉サイズの大金貨1枚と金貨を7枚、大銀貨5枚を取り出して、テーブルのコイントレーに並べた。

 ああ、ちょっと200には届かなかったけど、ずい分高く売れたな……ん、魔石?

「え……、これ魔石だけの値段ですか? 皮込みじゃなくて??」

「当ったり前じゃ。何言うとる」

「でも、以前買い取ってもらったグレンダイルのは、あれよりは小さかったけど3つで30万くらいでしたよ」

「グレンダイルって、そりゃただの水棲大トカゲじゃろ? こっちは飛べなくてもドラゴンだぞ。格が違い過ぎるわ」


『(姿が似てても、お前ら人間とただの猿ぐらい違うんだぞ。ドラゴンは元々、神々のペットとして作られた生物だから、頑丈で能力値も高いんだ)』

 ヴァリアスがテレパシーで補足してきた。

「…………じゃあ皮はそれ以上って事ですか?」

「もちろんじゃ」

 そう言って別のトレーに革袋の中身を空けた。銀色だが銀貨より厚みがあり、重厚な色を放つ硬貨が出てきた。プラチナ金貨だ。

「プラチナ金貨があるって事は……」

「そう、1,000万以上。1,850万で売れたよ」

 村長は嬉しそうにソファに座り直した。

 

 俺はその金額がよく頭に入って来なかった。んんんん……??

「この間、村長、100万とか言ってませんでしたっけ?」

「ありゃあ、適当に言っただけじゃ。儂もさすがに大物の相場はよく分からんかったからのぉ。あれから商談に向けて、ポルクルが相場を色々調べてくれたんだ。それで奴さんと交渉した結果ってわけよ。もしかするともう少しはいけたかも知れんが――」

「これくらいで十分だろ。オークションじゃねぇんだから」

 奴がすっぱり言った。

 ヴァリアスが言うのだから適正価格なのだろう。俺には相場はよくわからないが。


 村長はまた首をゴキゴキ動かすと

「あれは皮どころか、手足の先まで綺麗に残ってたし、今回この額じゃが、加工処理とかすれば最終的に5,000はいく代物だろうな。比較的傷痕も綺麗に切れてて、修理しやすいようだし。奴さんも良い取引が出来たって喜んでたよ」

「そうなんですか。あんな折れた剣で……。てっきり汚い傷になってると思ったのに」

「誰が手を貸したと思ってるんだ。あの時、オレが剣に気を流してやったんだ。あのままじゃまた剣が潰れるところだったからな」

 なんだ、そうか。道理で折れた普通の剣でよくドラゴンを切れたと思ったよ。やっぱり俺1人の力じゃドラゴンは無理だよな。


 とにかく合計2,025万エルで売れた。村長には交渉代理人としての手間賃5%、1,012,500エルを支払うので残り19,237,500エルが手元に残った。

 にわかに金額の大きさに実感が湧いてきた。ええと、これこっちで暮らすとしたら、何年分の生活費になるんだ?

「あの、有難うございました! こんなに高く売ってもらえて」

「いや、儂のほうこそ礼を言わにゃあ。契約とはいえ、こんなに礼金を頂くんだからな。本当に助かってるのは儂らの方じゃよ。これで村の修繕費にもあてられる」

 村長は深々と頭を下げた。俺もまた畏まって頭を下げた。

「おい、いつまで鳥の求婚みたいに頭下げ合ってんだよ。さっさと飲みに行こうぜ」

 てめぇはな~、ちっとは社会性を学べよな~。



 次の日、朝食を済ますと俺達はまた、ギトニャのハンターギルドにやって来た。もちろん昨日の依頼品を買い取ってもらうためと、銀行に貯金するためだ。

 ラーケルにはなんと銀行が無いのだ。まあ小さな村だし、大金を置いていたら強盗などの犯罪者に狙われるかもしれない。残念だがラーケルには、大金を常時管理しておける設備がないのだ。

 だから銀行はこの隣町まで行くしかない。

 住民はもう慣れっこになっていて、ちょっとした買い物や設備を利用する時、こうして隣町を訪れるのだ。


 3階奥の、入口前に護衛が立つ小さいフロアで、俺はカウンターにギルドプレートとプラチナ金貨を出した。

 こちらの銀行に半分貯金して、残りをまたあの日本橋で日本円に換金しようと思った。またあの天女に会えるだろうか。それにレートがいつ変わるかもしれないし。


 そんな事を考えながら入り口を出ようとして、俺は一瞬ギョッとなった。

 入り口前の柱に寄りかかりながら、奴がこちらを睨んでいた。

 いや、正確に言うと、入り口横にいる警備員を見ている。

 その警備の男も、これまた凄い緊張感で奴を凝視しているのを感じた。


「お待たせ! さあ行こうか」

 俺はワザと明るく声をかけて、奴をその場から連れ出した。


「おい、何、警備員にメンチ切ってるんだよ! もう銀行強盗かと思ったぞ」

 階段まで来てから俺は文句を言った。

「あっちからガンつけてきたんだ」

 凶悪顔がしれっと言ってきた。


「そりゃ、目を逸らしたら喰われると思ったからだよ」

「オレは猛獣かっ!」

「もう今度から、待ってる時はフードを深く被っててくれよ。まわりに迷惑だから」

「なんでだよっ?!」


 もう何しなくても凶悪さがにじみ出ちゃうんだよなあ。

 もうどうしたもんかな……。

 あ、そうだ。すっかり忘れてた。


「ヴァリアス、ちょっとこれ付けてみてくれないか?」

 俺はショルダーバッグから輪になった布を取り出した。

「なんだこれ?」

「ネックゲイターって言うんだ。首回りにマフラー代わりにつけてもいいし、伸縮性があるから帽子代わりにもなる。通気性も良いからマスク代わりにもなるんだ。スポーツ選手がよくつけてたりするんだよ」


 そう、同じアクール人のアルが、口まわりに布を巻いていたのを参考にしたのだ。

 彼は私服の時は食堂以外、口を隠していた。

 目立つからだ。

 何しろアクール人というのは絶滅危惧種と言われるくらい、数が少なくて滅多にいない。その代わり比較的少ないとはいえ、ユエリアンのほうは多少はいる。


 しかもユエリアンとアクール人の見かけは、牙があるかどうかだ。

 ユエリアンは犬歯以外は普通のヒュームとほぼ同じだ。だから口さえ見せなければまずユエリアンだと思われるだろう。

 目元だけだったら豹系の獣人だってわからないし。


 それにこれは奴の安否がわからなかった正月明けに、戻って来たら付けさせてやろうと、ネットで買っておいたものだ。奴がなかなか来なかったから、すっかり忘れていた。


「なっ、ただの黒やグレーよりこういう迷彩柄カッコいいだろ? ワンポイントにもなるし」

 以前、アメ横に行った時に迷彩服とかに興味を示していたので、奴の服に合わせてグレーの迷彩柄を選んでみたのだ。

「ふーん」

 奴も満更じゃないみたいで、すぐに首につけた。よしよし。


「そうそう、それでこうしてマスクみたいに口元まで上げて欲しいんだよな」

「なんでだ?」

 奴が不審げに俺を見る。もう慣れてきたけど、その目付きが凄んでるようなんだよな。


「だってさ、俺達アクール人と異邦人の組み合わせって、即バレじゃないか。アクール人ってとにかく目立つし、あんただって、いちいち珍しがられるのはイヤだろ?」

 希少種としてというより、あんた自身の要素にだけどな。

「そりゃそうだが……」

「別に仮面を付けろって言ってる訳じゃないだろ(言いたいけど)。アルだって外でやってたし、ちょこっと試しにやってみてくれよ」

 本当なら鉄仮面でも被せたいとこだが、絶対嫌がるだろうから、もう妥協策だ。


 お前がそこまで言うならと、奴が鼻の上まで布を上げた。

 おおっ、やらせといてなんだがテロリスト感が半端ないな。ランクは確実にインターポール(ICPO)の指名手配犯だよ。

 口元が見えないと表情が読めなくなるから、逆に凄みが増してしまったか。


「どうだ。似合うか?」

「うん、こんなに(恐ろしいくらい)似合うとは思わなかったよ」

 あんたの事知らなければ、夜道では絶対会いたくない輩に見えるよ。

「そうか、せっかくお前がくれた物だし、それなら少し付けてみるか」

「よし、もちろんあんただけ隠してもしょうがないから、俺も付けるよ」

 俺は今度は一緒に買ったお面を取り出した。


「なんだ、そりゃ。犬か猫の仮面か?」

「キツネだよ、狐。日本じゃお祭りの縁日とかでよく売られてるポピュラーな物なんだぜ」

 それは口元が出るようになっている、半仮面タイプの狐面で、白地で目元・耳の中が赤、髭が金色で、鼻筋だけ青い縁取りがされているお面だった。食事の時にいちいち外さなくても済むように、口元が出せるのを選んでみたのだ。


 フードを被ったまま上から着けると、なんだか気分は仮面舞踏会のようだ。

 ちょっと目立つかなと内心ドキドキだったが、まわりの人達はそれほどこちらに注意を向けてこない。

 少なくとも俺が素顔を晒しているよりは。


 俺達はそのまま1階買取所に向かった。


ここまで読んで頂き本当にありがとうございます。

****************************

映画『悪魔の棲む家』は昔のホラーブームの金字塔の1つだと思います。

作中では『逸話』と書きましたが、テレビでその映像を見た事があります。

スタッフが外から家の外観を、グルリとゆっくり撮って後で見てみたら、

一階のある窓に一瞬だけ赤い目が映ってました。次の角度で見えなくなっちゃうんですけど。

当時CGとかもない時代だし、やらせにしても、なんだか素っ気無い感じが

逆にリアルな感じでした。

実際にあった事件というもインパクトあるのですが、日本じゃ事故物件として

忌み嫌われるだけの物件も、向こうじゃそれほど重視しないんですね。

逆に面白がって住んだりするとか。安さ優先みたい。やっぱり国民性が違うのかも。

この一家は波長が合い過ぎて、危うくとり殺されるところだったけど、

一家が逃げた後に、別の老夫婦が住んでも別に何もないようです。

ただ、霊能者に言わせるとまだ階段とかにいるとの事。

御祓いとか供養して欲しいものです。

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