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第123話『転売品の選択とギルドの確執』


「いやあ、僕は魔導士ギルドに登録していないんですよ」

 イアンさんはそう言って、手をひらひらさせた。


 ここは『ベルウッド雑貨店』の2階の居間だ。

 俺達は魔導士ギルドからそのまま、イアンさんの家にやってきていた。


「僕も知っての通り、簡単な水魔法とか以外に、特殊魔法の『空間収納』と『解析』を持っていますが、これは外には隠してますからね。認定とかはしていないんです」

 綺麗なティーカップを、両手で包むように持ちながらイアンさんが話した。


「この収納能力が現れたのは、僕が7歳の時だったんですけど、父や母に話したら喜ぶどころか『人前で絶対に見せてはいけない』とキツク注意されたんです」

 いつも優しかった両親のあんな怖い顔は初めてで、僕は悪い事をしたのかと泣いたのを覚えてますと、イアンさんは少し照れくさそうに笑った。

「可笑しいでしょう? その時にすでに前世の記憶が戻ってきていたのに、気持ちは子供と大人を行ったり来たりしてたんです」


「それは持っていることがわかったら、盗賊に狙われるからですよね?」

「ええ、それももちろんあるのですけど、子供の場合、誘拐される可能性が高かったからです」

「誘拐? それは身代金目当てに?」

「いいえ、ご存知だとは思いますが『空間収納』はヒュームの、特にベーシス系には少ない能力です。

 そしてこれは本人の『観念』が大きく影響してきます。人の物を盗み入れる行為に対してはストッパーがかかりますよね。

 だけど、まだ道徳観念が未発達、または洗脳されやすい子供は、簡単にそのストッパーを外す事が出来ます。盗賊はそういう子供を教育し、仲間にして自分たちの運搬係に育て上げるんです。

 もしくはそういう盗賊に売るために、奴隷商人が誘拐する場合もあります」


「………中身を奪う為じゃなくて、その能力自体のために狙われるって事ですか……」

 俺は思わず呻いた。


「ご存じの通り、このスキルは大人になってからも、強盗に狙われる金庫のようなモノですし、やはり強制的に洗脳して、手下に出来る可能性もある訳です。

 だから出来る限り能力を、他人に知られないように注意してるんです。

 わざわざ能力を知らしめるような試験なんか、怖くて出来ないんですよ。

 何しろ、僕は自分の身さえ守れない一介の商人ですからね」

 イアンさんはフフフと軽く笑った。


 いや、見えないけれどあなたには、そこら辺のSPに負けないくらいの守護天使ガーディアンが付いてるはずですよ。

 あ、だけどナジャ様はイアンさんがすでに数回、盗賊に狙われたのを教えてないと言ってたな。

 具体的に守護されているのを知らないのかもしれないな。


「用心に越したことはないが、アイツがついてるんだから、まず大丈夫だろ」

 隣でヴァリアスが、これ見よがしに空になったジョッキをテーブルに置いた。

 この野郎は他人ひとの家でも平気で飲みやがって――。


「これは気づきませんで失礼しました」

 イアンさんが立ちあがり、ジョッキを受け取ろうとする。

「構わん、自分でやる」

 そう言うと奴が立ち上がってキッチンの方に入っていった。

「おい、他人の家で勝手に――」

「いいんですよ、ソーヤさん。アレはヴァリハリアス様用に買っておいたものですから。うちでは誰も黒ビールは飲まないのですから」

 そうなのだ。イアンさんは奴が来た時のために、樽で黒ビールを用意しておいてくれたのだ。


「いちいち注ぎに行くのも面倒だし、構わないだろ?」

 奴が片手で大樽の縁を掴んで、ぶら下げながら戻ってきた。

「もちろんです。良ければ全部召し上がってください」

「ああ、そうさせてもらうぜ」

 ビール樽を横に置くと、またぞんざいに足を組んで座った。


「話変わりますが、この間のタオルと鏡の件なんですが」

 俺はもう奴のことは無視して話を変えることにした。

「ああ、そうですね。実は昨日、商業ギルドから販売の許可を貰いました」

 イアンさんが少しキリッとした。商人の顔になった。

「本当ですか。有難うございます!」

 やった。許可が出た。


「価格の方は無名ブランドの為、市場より安くしても良いそうです。ただし期間と販売数量限定ですが」

「限定……。それはどのくらいに?」

「テスト期間として初販売日から18日間、一種50個までというのが限度でした。僕の交渉力が足りなくてすみません」

 申し訳なさそうにイアンさんが、またテーブルの上で手を組んで頭を下げた。

「いや、そんなことないですよ。それで十分です。こちらこそお手数かけてすみません」

 俺も頭を下げる。

 その隣で奴が、樽のコックから勝手に黒ビールをジョッキに注いでいる。

 もうなんかこういう時は、せめて見えなくなっててくんないかなあ。


「それにこちらこそ申し訳ないんですが、実はちょっと変更したい事が出来まして」

 俺は頭を下げたまま言った。

「と、言いますと?」

「差し上げたものもあるのに、本当に失礼なんですが、まずは販売品をこちらに変更しようかと」

 俺は空間収納からフェイスタオルを引っ張り出した。


「ほう、ほう、これは……」

 イアンさんは早速テーブルの上のタオルを手に取った。

「これは綿100%ですね。それとソーヤさんのお国の物ですか?」

「わかります? そう、日本製なんです」

 俺はちょっと『日本製』に力をこめて言った。


「以前のはワンコインショップで買った物で、ほとんどが外国製でした。

 一概に外国のは質が悪いという訳ではないのですが、やはり母国の品質に安心感がありますし、何より化学繊維より、自然素材(オーガニック)の物の方が良いかと思いなおしまして」

 そうなのだ。あれから家でタオルを使っている時にふと考えたのだ。

 ウチのタオルは何かのお返しに貰ったタオルと、なんとなく買った100均のと両方使っている。

 今まであまり気にしなかったのだが、売るつもりで意識しだすと、なんだか質の違いが気になってきた。

 

 

 最近の100均のは本当に良くなってきているが、やはり何度か洗って使っていると肌触りや、柔らかさが失われてくる。

 やはり長く商売を続けようと思うなら、品質は重要だと思う。

 安いが質もそれなりの物を売っていては、いずれ淘汰されてしまう可能性が高いからだ。


 それに化繊というところも気になった。

 俺のアパートの大家さんと世間話をしていた時に、某メーカーの発熱系肌着は暖かいのだが、わたしは着ないという話になった。

 なんでかと聞いたら、肌が弱いために化繊は肌荒れするという。

 どうやら表面がスベスベで手触りが良くても、静電気などで痒くなってしまう事があるらしいのだ。

「やっぱり綿が一番よ」と大家さんは、かりんとうを食べながら言っていた。


 そう、こちらに存在しない化繊という素材が、こちらの人達の肌にどう影響するかわからない。

 まあ、タオルは肌着ではないので、たぶん大丈夫だとは思うが素材自体を突っ込まれたら、マズいことになるかもしれないと気がついたからだ。

 以前に、あのバッハさんとかに大量に売ってしまったが、多分ネーモーがなんとか、うやむやにしてくれるかもしれないと期待している。


「そんなわけでこちらの商品に出来れば変更したいのですが、そうすると許可の取り直しになりますかね……?」

「いえ、これくらいなら全然大丈夫ですよ。同じタオルという枠ですし、これくらいの誤差はよくある事です。

 それに逆に質が良くなるのですよね?

 普通はその逆の方が多いんですよ。サンプルより、実際の商品の質が悪い方が問題になりますから」

 ああ、良かった。こちらの商売の規制が緩くて助かった。

 ただ、それにともなって、もっと違う心配ごとも残っていた。


「ちなみに解析で日本製とわかりましたか?」

「いえ、解析しなくてもこのタグでわかりました」

 と、イアンさんはタオルについている布タグをめくった。

「‟Cotton100%” ‟Made in Japan” と書いてありますから」

 あ、そうか。イアンさんは元地球人だから、英語もわかるんだ。

「あの、良かったら解析で見てもらっていいですか?」

「え、解析で……? ああ……」

 イアンさんも問題がわかったらしい。


 そうなのだ。俺がこれを解析して視ると、《 地球 日本製 綿…… 》と出てしまうのだ。

 日本製はいいとして、地球って。

 こんなの誰かがヘタに解析でもして、バレたらどんな厄介なことになるか。


「うん……。あれですね。『異……の綿』と出ますね」

「 『異……の』 ですか……」

「私ももちろん地球を覚えていますが、『こことは異なる』としかわからないですね。

 もしかすると僕が、解析がまだ未発達だからかも知れませんが……」

 あー、そうだった。イアンさんの解析能力は発現したばかりだった。

 俺も発現したばかりの時は、単純にしか分からなかったもんな。


 ちなみにイアンさんの場合、解析結果は声とイメージで現れるらしい。

 それは前世で時折通っていた、映画館のようにスクリーンに映し出され、アナウンスのように声や音が聞こえそうだ。


「どうしよう。どこかで解析鏡を使わせてもらって、確かめた方がいいですかね」

 売る段取りを先にしてもらったのに、こんな問題を見過ごしていたなんて……。

 本当に申し訳ない。

「うーん、商業ギルドでなら、持ち出しは出来ませんが、解析鏡をその場で借りることは出来ますね。

 使用料は決して安くはないですが」

「でもそれなら――」


「面倒くせぇな。要は素材がこっちの物ならいいんだろ? もう一回視てみろよ」

 ヴァリアスがジョッキを空けながら、ウザそうに言ってきた。

 俺達はもう一度解析して視た。


《 ニホン製  エーデルシュタイン綿 100%…… 》

 あれ、なんだこれ?

「ああ、今度は『異なる』ではなく、『高品質』となりましたね」

 イアンさんが言った。


「 エーデルシュタインってなんですか?」

「ここからずっと南に下った地方だ。ここより高気温の乾燥地域で、質の良い綿の生産地なんだよ」

 ヴァリアスが説明した。

「そうなんですか?」

 俺はイアンさんに訊き直した。

「ええ、最高とまでは言いませんが、この国では一番の綿の生産地です。

 綿ならエーデルシュタイン、『時計ならスイス』と言われてるのと同じ安定感ですよ」

 そうなのか。しかしイアンさん、けっこう前世の事覚えてますね。


「これって解析結果を操作したのか?」

「違う。それじゃ解析の度にやらなくちゃならねぇだろ。だから素材自体を変えたんだ。元から変えときゃ問題ないだろ」

「おお、なるほどっ! もしかして今度からやってくれるのか?」

「これくらいなら規定に引っかからないからな。用意すればまとめてやってやるよ。ただし、こっちの綿産業を潰さない程度にな」


「たまには役に立つじゃないか。

 なんか久しぶりにヴァリアスが神様に見えてきたよ」

「お前いつもオレを何だと思ってるんだ?」

 神界のゴロツキだが、それが何か? 今は言わないけど。


「いや、敬服致しました、ヴァリハリアス様。これは創造神様の御力なのですね?」

 さすがに商人のイアンさんが、空気を読んで奴を持ち上げた。

「そうだ。『物質変換』は我が創造の得意技だからな。コイツはそういう事がわかってないんだよなあ」

 と、俺のほうをジョッキで指した。

 あんたの得意技はバイオレンスだろうが。 


「じゃあタオルはいいとして、鏡の方なんですけど」

 俺は右手からスマホを外すと、ネットを立ち上げた。

 そうしてイアンさんにもちゃんと見えるように光魔法で、テーブルの空中にプロジェクターのように画面を映し出した。

 以前ギトニャの宿屋でやった、光の粒子増幅のやり方だ。

 こうした打ち合わせには都合がいい。


「この間、手鏡もいいけど卓上型のほうが使われやすいと伺ってたので、こんなのどうでしょう?」

 俺は候補として、ブックマークしておいたサイト画面を開いた。


 手鏡は通常持ち歩く為に作られた物だが、こちらでは高価な品物のために、部屋に大事に置いて置くのが一般的だと聞いたからだ。

 持ち歩くのは、召使いをたずさえた金持ちか貴族しかいない。


「ほう、三面鏡ですね」

 それは卓上タイプの三面鏡で折り畳み式になっている物だった。

 候補に挙げたのは、フレームはパステルピンクのアルミ製、高さは全体で30cm、鏡本体は26cm、開くと幅36cmになる。もちろん台座の角度も変えられるタイプだ。


「ヴァリアス、こっちでも確かアルミニウムってあるんだったよな?」

「ああ、天然のアルミニウムは昔からあるぞ。柔らかいから鎧には使えないがな」

「じゃあこれもこっちで販売する場合は、チャチャっとこっち産に変換してくれよ」

「お前、急にヒト使いが荒くなったな」

 ちょっとだけ顔をしかめたが、嫌だとは言わなかった。

「今のは神力だが、同じ効果は錬金魔法で出来るぞ。お前も出来るようになったら自分でやるんだぞ」

「え、それは難しそうだから当分はいいよ……」

 

「凄いですね、このお店の商品数は。まるでデパートのようです」

 画面を見ながらイアンさんが感心して言ってきた。

「確かにショッピングサイトはネット上のデパートですね。いろいろな店や個人が出品してますから。

 で、どうです? これで良ければ試しに注文しようと思いますが」

「ええ、この写真通り歪みも曇りも無い鏡で、しかも三面鏡なら需要があると思います。

 だけど良いのですか?」

「と、いうと?」

「これは価格ではありませんか? 僕は日本語はわかりませんが、アラビア数字ならわかりますよ。

 転売とはいえ、仕入れ値をこう見せるのは……」


 確かに画面には、価格が目を引くように赤文字で表示されている。

「大丈夫ですよ、イアンさん。

 これは確かに価格ですけど日本円であって、エル()じゃありませんから」

「あ、ああ……そうですよね。そうか、僕もうっかりしてました。

 確かに日本のお金がこちらではいくらになるか、僕にはわかりませんしね。これは失礼しました」

 イアンさんはソバージュの頭を軽く叩いてみせた。


「じゃあ気兼ねなく見て下さい。あとタオルも吸水性・抗菌防臭加工の日本製を何種類か候補を選びました。

 柄とか色とかの意見を聞かせて下さい」

 俺達はしばらくネットで商品を選びながら話し合った。

 やっぱり俺は、こうやって商売をした方が性に会ってるかもしれない。


 ★★★


 イアンさんの家を出る時にはちょうど閉門前3の鐘が鳴った。今時期は閉門が6時半だから6時を示している。

 夕食でもと言われたがこいつもいるし、一家団欒を邪魔しちゃいそうなので辞退して、中庭からラーケルの役場裏に転移した。

 アイザック村長と話をしたかったし、どうせあのウィッキーの宿屋『蝋燭の芯亭』なら空いているだろう。

 と、今日の宿について高を括っていたのだが、考えが甘かった。


「すいませんね。今日はあいにく満員なんですよ」

 ウィッキーではなく、女将さんのベネッタが出て来て言った。

 忘れていたが、ここはあの黒い森などに行く時の拠点となる村の1つだ。

 前まではあの魔素が荒れているせいで森に入る事が出来ず、ハンター達がほとんど来なくなり、宿屋は閑古鳥が鳴いていたのだ。

 だが、今や森の様子はまた正常に戻り、また鉱石ハンター達が戻ってきた。それも今までの分を取り戻そうとするように大勢で。

 小部屋どころか、あの2階の大広間のベッドさえも全部埋まっているという。


「あとはウチじゃないけど、あの『パープルパンサー亭』の2階が空いてればですけど……」

 それももう無理かもと、女将さんは小首を傾げた。

 居酒屋の上が簡易宿泊所になっている事はよくある。

 あそこもどうやらベッドのみの宿泊が出来るようなのだが。

 あぶれたハンター達が、この1階の受付前ならぬ、ただの床でさえ、もう3人決まっているというのだ。


「あのジジイのとこに泊めさせてもらえばいいじゃないか」

 ヴァリアスが勝手な事を言ってきた。

「そうしてもらうのは有難いけど、毎回客室に泊まらせてもらうのも……」

 なんたって俺達はお客じゃなくて、ハンターギルドの組合員なのだから。

 そんな遠慮はいらねぇ、と奴が言いながら役場の方に向かった。


「今日の宿はもう決まってるのかい?」

 さすがに閉門時間に来たせいか、会ってすぐに村長が聞いてきた。

「いや、宿はもう一杯だった。だからその辺の軒先でも借りるか、蒼也と話していたとこだ」

「おい、野宿の話まではしてないぞ」

 こんなことなら寝袋くらい用意すれば良かったのかな。


「じゃあ良ければ、また3階の部屋に泊まるといい」

 村長がすかさず言ってくれた。

「ああ、じゃあ遠慮なく使わせてもらうぞ」

 本当に遠慮ねぇな。でも助かった。

 俺は奴の分も礼を言った。

「気にせんでくれ。あんたら、うちのギルドと村に多く貢献してくれてるしな。ちょっとくらい贔屓したって文句は言われんさ」

 そう言って快活に村長は笑った。


『パープルパンサー亭』はいつにも増して賑わっていた。

 店の外に、樽に板を載せただけの即席テーブルで飲んでいる男達もいたくらいだ。

 だが、一番奥の一角のテーブルだけは、予約席のように空いていた。

 おそらく本当に村長の指定席として、村の人たちやハンター達に認識されているのかもしれない。

 俺達はいつものそのテーブルに座った。


「ほう、ほう。じゃあ無事に全ての試験は、標準をクリアしたみたいなんじゃな」

 俺は今日の魔法試験の話を村長にした。今日はポルクルも後片付けを済ませて一緒にやってきている。

 役場のドアには『外出中 ご用の方は向かいのパープルパンサー亭まで』と書いてある札を下げてきた。

 もう最近は俺達が遠距離の移動を、まさしく瞬間移動しているとしか思えない往来をしているのに、疑問をかけて来なくなった。

 転移ポートを使っているとか、転移そのものを使っているとか気づいているのかもしれないが、変に詮索してこないのは有難い。


「だけどホントにギリギリかもしれません。光なんかあまり強くとか、色を変えるとか出来なかったし」

 妙な技を使ってしまったおかげで、怪しまれたしなあ。

 それに―――。


「それに最後にこいつが乱入してきちゃって……」

「あの卵の欠片野郎が妙なマネするからだ」

 奴が当然のように言う。

「ああん? 何だいそりゃ、どうしたんだい?」

 俺はその時の状況を村長たちに話した。


「アッハッハッ! そりゃ旦那らしいや。いや、それは通達をちゃんと把握してない魔導士ギルドが悪いな」

 村長は面白そうにエールのジョッキを傾けた。

 それは大変でしたねーとポルクルが隣で賛同する。

 

「儂ら下の者は別になんとも思っとらんのだが、ハンターギルドと魔導士ギルドは昔から、お偉いさん達が張り合っておるんだよ。仲が悪いとまでは言わんがな。

 だからハンターギルド経由で回ってきた通知を軽んじたのかも知らんな」

「そうなんですか。じゃあハンターの私じゃ、あまりよく思われないかもしれませんね」

「いや、それとこれとは別じゃよ。彼らも優秀な人材は欲しいし、ハンターのパーティに魔法使いは付きものだからな」


「でもその部長さん、ちょっと強引な方ですね」

 ポルクルが豆と香草の入ったマッシュポテトを食べながら言う。

「うむ、その旦那の言う『卵の欠片』みたいな仮面をつけた、メイヤー部長というのは、どこの部署なんじゃろうなあ」


「え、部長って、本部の部長っていう意味じゃないんですか?」

「違うぞ。それだったら本部長とかマスターと言われるはずだ。大きいギルドはいろんな部署に分かれとるからな」

 う~ん、会社の部長クラスと一緒なのかな。でもやっぱりお偉いさんには違いないか。


「そういや知らなかったんですけど、魔法使いのランクってハンターや傭兵みたいにABC分けじゃないんですね」

 これは昨日読んだ本でわかった事だ。

『移住者のためのレーヴェ・エフティシア国 一般常識』に職業としての魔法使いの階級が載っていたのだ。


 =====================

 ノーヴィス    : 初心者

 アプレンティス  : 見習い

 メイジ      : 中等 

 エキスパート   : 達人

 ウィザード    : 匠

 マスターウィザード: 極めし者

 アークウィザード : 支配級

 =====================


 以上のように、ハンターと同じ7つのランク分け(SSは特殊クラスなので除外)になっていたが、文字順ではなく名称になっていた。

 ちなみにキリコが持っている身分証の錬金術師は、職人ギルド系だそうで、彼は『クラフトマン』というランクだった。

 こちらに当てはめるとエキスパート級で芸術家クラスを指すそうだ。

 本来なら最上級ランクも取れるはずだが、それ以上は目立つので取らなかったと言っていた。

 上司ヴァリアスはこんなに目立って大変なのになあ。


「魔導士ギルドは職人ギルドと同じく古いからなあ。ハンターギルドは比較的新しい組合なんじゃよ。新しい組合としてのギルドの色分けの意味もあって、そういうランク付けにしたらしいんじゃが」

 村長がゴキンと首を鳴らした。

「その新しいランクの付け方に、意味が解らないとか簡単すぎるとか、当時の魔導士ギルドの重鎮たちが横槍を入れてきたらしい。

 まあ中途半端な魔法スキルの者が自ら移行したり、ハンター達が魔法使いをパーティに引き抜いたりしたからな。そういう諍いが昔あったようじゃよ」


「それに伴って今まで魔導士ギルドに依頼されていた仕事が、ハンターに半分近く流れたからだ。運営費が激減して、一時期ギルドとしての存続が危ぶまれるとこまでいったからな」

 ヴァリアスがエールを飲み干しながら言った。

「さすが旦那知ってるな。まっ、魔導士とハンターは商売敵でもあるって訳さ」

 確かにハンターって、どこか『何でも屋』的なとこがあるからな。

 魔法使いの領域と被っちゃうのかもしれないな。

 とにかく明日の試験結果がどうなっているか。

 なんだか高校受験の時のようにドキドキするな。

 

 だが、そんな結果発表よりも、大変な事態に繋がる運命の出会いが待っていたのだ。


ここまで読んで頂き本当に有難うございます!

****************************

この先から『カクヨム』版に掲載しているストーリーと分岐していきます。

サブタイトルに☆がついたものに、違う人生が展開します。

 カクヨム版 異世界★探訪記――『第134話☆ 風船男』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921157262/episodes/16816452218591091335

 よろしければこちらもご覧くださいませ。

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