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第121話『魔法試験 その1』


 次の日、ギトニャの宿屋に鍵を返すと王都に再びやってきた。

 試験は9時からだが、30分前までに来てくれと言われていたので、8時15分には魔導士ギルドに入った。

 奥の階段で地下に降りると、壁にドアが1つだけあるフロアに出た。ドアとは反対側の壁際には椅子がいくつか並んでいて、真ん中に1人落ち着かなさそうに足を揺すっている男が座っている。

 右手のカウンターに今日の受験票とプレートを見せると、プレートだけ返されてそこで待っているように言われた。

 俺はカウンターと反対側の端っこに腰をおろした。


 それから10分くらいの間に後から3人やってきて、それぞれ椅子に座った。

 二十歳はたちくらいから初老の男までいる。みんなどれくらい強いんだろう。

 そんな事を考えていたら、カウンター横のドアが開いて、同じ詰襟の制服ぽい上着を着た男が3人出てきた。


「それではこれから試験に入る前に、身体検査を行います」

 えっ 身体検査?

「まずこちらで血を採ってください」

 1人の男が俺達にそれぞれ太い針のようなものを渡してきた。

 これはモスキートペンのようなものか。

 みんながそれぞれ自分の手や指で血を採取すると、それを受け取った男が一本づつ、手にした紙に垂らして反応をみた。

「はい、皆さん大丈夫ですね。薬物反応は検出されませんでした」

 今のドーピング検査? あの紙は薬物のリトマス試験紙みたいなものなのだろうか。


「次に、魔法の威力を向上させる魔道具や、付加を付けるような道具を身につけている場合は外してください。

 普段ロッド(棒)やワンド(杖)をお使いの方も、今日は説明書にもありましたように、自力のみの試験ですので、持っている方は椅子下の籠に入れてください」

 そういえばそれぞれの椅子の下に藤カゴが置いてある。

 これは荷物入れだったのか。


「また他の荷物も全て入れください。途中摂取する水分や魔力ポーションは、見えるように籠に入れておいてください」

 2人目の係が端から受験者の前に立って、何かロッドのような物を1人づつ、頭から足元までゆっくりと動かしている。

 空港の金属探知器みたいなものだろうか。

 

「あなた、その首飾り、魔道具ですね? 試験中は正しい判断が出来ないので外してください」

 あの貧乏揺すりをしていた男の前で、係の男が言った。

「えっ、これはあの、ただのお守りでして……、その気分が落ち着くというか」

 男がヘドモドしながら答えたが

「すみませんが、厳正な判定を下すためには、少しでも疑いのあるものは許可出来ないのです。

 でないと試験を受けられなくなりますよ」

 男は渋々、首飾りを外すと、椅子の下の籠に入れた。


 俺の護符って魔石も付いてるし、特殊だし、外さないといけないんじゃないのか?

 俺はテレパシーで奴に一時的に外していいか、訊いてみた。

『(大丈夫だ。別に魔力を上げる物ではないし、魔力を補給する事は該当しないはずだ)』

 見えないが、この近くに絶対いるはずの奴から返事が来る。

 俺は護符をアームガードの下から外して、スマホの電源を切った。

 万が一スマホ画面を見られても大丈夫なように。


 最後に俺のところに来た。

 俺のガードの上から右腕につけた護符に探知器ロッドを当てると

「その腕輪は護符ですか? すみませんが籠に入れて置いてください」

『(ほらみろ、護符もダメじゃないか。試験中だけなら外していいだろ?)』

『(チッ、しょうがねぇな)』

 テレパシーで舌打ちよこすな。

 つうか、全然試験の概要をわかってないじゃないか、あんたも。


「最後に皆さんの健康状態を確認します」

 3人目の男がやはり端から1人づつ視ていく。この人は多分治療師なんだ。

 何故か俺の時だけ少し長く視られている気がした。

 治療師は少し片眉を動かしたが

「全員異常ありません」と残りの2人を振り返って言った。


「それではこれから試験を行います」

 いつの間にかカウンターから出て来ていた、受付の係員がボードを手に横に立っていた。


「あなたからあのドアに入って下さい」

 一番端の初老の男に、向かいの壁のドアを示しながら言った。

 2番目の若者は、初老の男がドアをしっかり閉めてから立つように言われた。

 皆が順番に間をおいてドアの中へ入っていく。

 むろん俺は最後だった。

 藤カゴを持ちながらドアのノブをまわした。


 中は白と灰色となんともいえない透明な色が、ゆっくりと渦巻いているような空間だった。

 床は確かにあるが、壁や天井など奥行きを感じられない。

 狭いようでもあり、とてつもなく広いような感じでもある。

 右前に膝上ぐらいの上着を着た中年男が1人立っていた。


「ようこそ、魔法試験へ。私はこれから君の『火』と『風』の魔力を測定・見定めさせてもらう試験官のガイマールだ」

「蒼也です。今日は宜しくお願いします」

 俺は軽く頭を下げるとドアの傍に荷物カゴを置いた。特に椅子などはないようだ。

 それに先に入っていった受験者が1人もいない。

 よくマンガなどだと一列横並びにまとめてやらせたりするものなのだが。


「あの、先に入った人達は? 一緒にやるんじゃないのですか」

「こういうのは初めてか? 試験は訓練ではないのだから一緒にはやらないぞ。下手に他人に能力を知られる恐れもあるしな。

 それにここは亜空間だから、君1人貸し切りで気兼ねなく行う事が出来るぞ」

 ああやっぱり空間いじってるのか。

 だけど異空間と亜空間ってどう違うんだろう。

 あとでヴァリアスに聞いたら、簡単に言うと基本が似ているかどうかだと言った。

 亜空の門に入る事はできるが、異空間には入る事が出来ないことがあるし、まず生身では生きていられない。だから空間収納には生物は基本入れられないと。


 ただし、こちらの人間はそもそも亜も異もみな、違う空間の一括りで考えてるから、こちらではそんな事言うなよと注意された。

 確かにこちらの考え方や概念の違いのせいで、何度となく冷や冷やする時があった。それもこれも俺がこちらの一般常識を知らないせいだからなのだが。


「この申し込み書によると君は、火の弾が撃てるという事だね。ではあちらの柱に向かってやってもらおうか」

 そういって手を指し示した方向には、いつの間にか5メートルくらいのトーテムポールのような柱が立っていた。

 それは木製なのか金属なのかわからない素材で出来ていて、トカゲのような魚のような、または猿のようななんだかわからない魔物らしき姿が沢山、柱に巻き付くように彫り込まれていた。


「あれに思い切り撃ち込んでみたまえ」

「えっ、良いんですか? なんだか彫刻がしっかり彫られてますけど……」

 なんだか安くなさそうな彫刻なのに、燃やしてしまっていいのだろうか。

「大丈夫だ。あれを破壊するつもりでやってみたまえ」

 まあ、そういうなら力いっぱいやってやるか。そういう試験だし。

 俺は出来る限り火力を上げて、圧をかけた。そうすることで威力が増すからだ。

 圧力をかけた火弾はみるみる小さくなっていったが、中心の色が白っぽく変化していく。

 それを思い切り力を込めて投げるように、トーテムポールに撃ちこんだ。


 ヴァアンンン ‼ 火球は柱にぶつかると、辺りを白く鋭く照らして、空気を震わせた。

 自分でやっときながら一瞬やり過ぎたかと思ったが、爆風や炎の袖はそのまま柱に沿って湾曲すると吸い込まれていった。

 おかげでこちらに被害はなかったのだが、それより驚いたのはその後だった。


 巻き起こった風や炎がかき消えると同時に、トーテムポールの彫刻の隙間に点在していた、六角のタイル模様のような部分が、あちこち開いた。

 それは縦や横・斜めに彫られた眼のようであった。

 それとともに最上部に彫られていた猿のようなモノと、蛇のような彫り物が動きだし『ヒョウロロローー』『シャァァーーー』と鳴き声を上げたのだ。


「フム、攻撃力はまあまあ有るようだな。それに無詠唱と……」

 試験官ガイマールはそう呟くと、手に持っていたボードに何か書き込んだ。

 なに、いまのが力の度合いを示してるのか?


「では今度は技巧を見てみようか。次に私がやる事をマネしてみてくれたまえ」

 そういうとガイマールは宙に、大きな鳳凰のような鳥を出現させた。

 それは赤は元より、オレンジ、黄、ピンク、白、緑、赤紫、金などの多彩な羽毛と翼を生やし羽ばたく、まさしく火の鳥(フェニックス)だった。

「知っているとは思うが、色は個々の部分の温度を調整して表現しているのだよ。まず同じようにやってみたまえ」

 今まで俺は力技ばかり気にしてたけど、そういうのもあるのか。

 う~ん、色はほとんど意識したことなかったな。

 もちろん今までやった事がないので、羽の細かさどころじゃなかった。

 色もしょぼくて、たったの赤、黄色、青の3色がせいぜいだった。


 しかも温度を意識すると途端に形が崩れだす。

 俺の作った火の鳥は、鳳凰どころか子供の描いた裏庭の鶏のようだった。

 そういえばセオドアが青い火をカンテラ代わりに作った時に、土魔法を併用してもいいと言ってたな。燐を燃やしたり、アルカリ性の金属や土の粒子を混ぜて燃やすと色が変わると。

 だけど今は純粋に火魔法なんだよなぁ。


「羽は難しかったかな。ではこれはどうかね?」

 今度は上空に花火が打ちあがった。

 パァアッと開いた色彩豊かな炎の帯が、華が開くように散開していく。

 わぁキレイだな ――― って俺もやるんだった。

 炎を散弾化しながら温度を変えないと。

 結局、色数(温度)を多くする事を意識し過ぎて、一瞬の線香花火のように所々しか広げられなかった。

 試験官は何も言わずにボードに書き込んでいく。


「では、次に散弾を撃ってもらおうか」

 よし、散弾なら数を増やすだけに集中すればいいか。

「ただ弾数を増やすだけではなく、ある程度威力も付けたものをな。こんな風に」

 

 いきなり左右どころか上や地面からも、まさしく360度方向から火炎弾が凄まじい勢いで、トーテムポールに無数に撃ちこまれた。

 その1つ1つが、火の矢どころかグレネードランチャーのような火力だ。

 これも先程同様、爆発すると同時に柱に吸収された。

 柱に刻まれた彫刻共が一斉に動き出す。


 『ヒョロロロー――』『シャアァァーーー』『ケルルー、ケルルー』『ピィアァァー』『コロコロコロコロ……』『チリキリチリキリ』『グヴァッ、グヴァッワッ』…………

 いろいろな声の大合唱になった。下の方の彫刻までも鳴き声を上げた。

 六角の眼もほぼ開眼したようだ。

 ただ唯一、一番下のドラゴンらしき彫刻だけは動かなかったが。


「さあやってみたまえ」

 そんなの見せられたあとで…………。

 さっきの花火と同じく弾数を増やすと、やはり火力が落ちる。ある程度火力が認められたのは7つだけだった。


 すいません。……どこかナメてました。


 この世界の最高神の息子だとか、人とは違うとか言われて、どこか思い上がってた俺。

 世界は広いわ、やっぱり。


 その後、火を細い雨脚のように降らすのやら、巨大な投網のようなネットを作るのやら、火柱など20分ほど試験は続いた。


「火は以上で終了だ。次は風だが疲れただろう? 休息は3時間でいいかね?」

 試験官ガイマール氏がボードを見ながら訊いてきた。

 確かに少し疲れたが、それは頭だ。

 体力は残っているし、護符を付けていないが、まだ魔力は結構残っている感じもある。多分この空間に魔素が結構濃厚にあるのだと思う。純粋酸素のように供給しているのかもしれない。


「いえ、ちょっと水を飲ましてもらえれば大丈夫です。続けてお願いします」

 確かに喉も乾いた。ペットボトルの水は検査してもらったから飲んでいいんだよな。

 これはギーレンの水売りが売っていたのと同じ森の湧き水だ。ヴァリアスが無くなると補充してくれている。

 本当はあの教会の癒しの水がいいのだが、俺が飲み過ぎて癖になると、用立ててくれないのだ。

 そんな事言ってると天然ものじゃない精製ヒールポーション使うぞ。まったく。


「本当に大丈夫かね?」

「ええ、受けるとき、そう言う約束だったので……」

「確かに……そのようだね。ではちょっと待ちたまえ」

 ガイマール氏は俺の横を通り、後ろのドアから出て行ってしまった。

 俺はその隙にと荷物カゴの中のスマホを触った。

 するすると感じられる程度に、掌から魔力が入って来るのを感じる。やっぱり少しは消耗してたんだな。

 あまり長くやるとマズいので、すぐにペットボトルを手に取った。


 少しぬるくなってしまった水を、水魔法で冷たく冷やしなおしてから飲んでいると、ドアが開いてガイマール氏ともう1人、さっきの治療師らしき男が入ってきた。

「君、念のために検査させてもらうよ」



「特に健康状態に問題はないようですね」

 治療師は俺を視てから試験官にそう告げた。

「ふむ……では問題ないようなら続けて風の試験に移行するか」

 何故か治療師はまた小首を傾げながら出て行った。


 軽く深呼吸などの呼吸法をさせてもらって、軽い頭の疲れを取ってからあらためて試験に入る。

 風は竜巻や真空化、何段もの風の層を作ったりと、こちらも実技が色々あったが、火の時よりも技巧は認められたようだ。

 威力より操作系のテストの時のほうが、試験官の頷きが多かったように思えた。

 確かに比較的、風魔法は戦闘でも生活でも使っている頻度が高い気がする。普段でも遮音や暖房でちょくちょく使っていたからだ。


 ひと通りやってからガイマール氏が尋ねてきた。

「これで風は最後だが、何か他にやれると思う技とかはあるかね?」

 真空はやったが、酸欠はやってない。だけどこれは知らしめちゃいけない隠し手だ。

 ああ、そういやもう1つあったな。


「あと遮音ができます」

「なに遮音……? 音魔法は申告されてないが」

「いえ、空気の振動を―――」


『(――― 誤魔化せっ!!)』


「――てっ、あ、あのすいません。遮音じゃなくて雑音でした……。さっきみたいに風を擦り合わせた風切り音で、他の音を聞こえなくする……やり方です」

「なんだ、そんな事なら遮音とは言わんな。そもそも遮音は音魔法だぞ。まあどれだけその風切り音が出せるのか、やってみたまえ」

 俺は台風の時に聞こえる程度の音をたたせてみせた。


「では、これで火と風の試験は以上だ。続いて他の試験も受ける気なのだよな? それでは外で待っててくれたまえ。後ほど係の者が行くから」

 俺は礼を言ってドアの外に出た。


 フロアは先程と変わらず、カウンターに係が3人ほどいるだけで、正面の椅子には誰もいなかった。

 俺はまたカゴを持って、さっきと同じ端に座った。


『(おいっ、さっきのはなんだよ。遮音も公開しちゃいけなかったのかよ)』

 俺は見えない奴に向かって文句を言った。

『(ここじゃ振動が音を伝えるという概念がないんだよ。だからお前の酸欠魔法同様、説明するとややこしい事態になる。

 音は基本、音という独立した事象という考え方なんだ)』

『(なんだとぉ、そういう肝心な事は先に言えって言ってるだろうが! このポンコツ使徒がっ)』

『(オレは物じゃないぞっ)』

『(ポンコツじゃないならヘッポコだっ) イテェッ!」


 俺は左こめかみに衝撃を喰らって、思わず声も出してしまった。

 カウンターの係が一斉にこちらに振り向く。

 こめかみを擦りながら見ると、俺のズボンの上に黄金虫似の甲虫が1匹落ちていた。

「あ、何でもないです。こいつが頭に当たってきて」

 俺は虫を見せながら係の人達に言い訳した。


『(クソッ、てめぇ、卑怯だぞっ。姿見せずにやりやがって)』

『(姿を見せたって同じことだろ。ぼさっとしてるから避けれないんだ)』

 足音がしたので振り返ると、階段を奴が降りてくるところだった。

「なにしに来たんだ? (姿現すなんて)』


 奴はさっさと俺の隣に座るとぞんざいに足を組んだ。映画とかでよくアメリカ人がよくやる、足首辺りを足に乗せる行儀悪そうな組み方だ。(実際アメリカでは行儀が悪い訳ではないそうだが)

「てめぇ、そういう組み方すると靴底が俺に当たりそうなんだよ」

 俺は手で奴の靴を押しのけた。

 いちいちこまけぇヤツだなと呟きながら足を下ろす。

 ったく、どっからどこまでも雑な奴だな。


「姿見せたのはな、その方が何かとアドバイスしやすいからだ」

「アドバイスって、さっきのは始めっから教えときゃ済む事だろ。それにこれは試験なんだぞ。保護者紛いのがついてくるもんじゃないだろ」

「オレはお前のコーチでもあるんだから、いて当然だろ?」

「あんたはコーチというより鬼教官なんだが……」

「ところで調子はどうだ? 今のところ目立って状態の悪いところはないと思うが」

 俺をあちこち視ながら奴が訊いた。


「ああ、魔力もあの部屋の魔素が充満しているのか、それほど無くなった感じがしないな。少し神経が疲れる感じがするけど、今のところこの水を飲めばリフレッシュするし」

 転移の連続に比べたら、いや、あの死闘の最中の緊迫感に比べたら、死の恐怖も無く落ち着いてやれる分、負担が少ないんだ。

 俺も図太くなったのかなぁ。


「あそこは確かに魔素の純度が高いんだが、お前自身も蓄える量が各段に増えて来てるからだ。

 まあ体力を少し整えておくか」

 そう言って俺の頭に軽く手を置いた。

 あー、そうか。俺の魔力量やっぱり上がってるのか。

 ということは例のお腹の魔石もしっかり育ち始めてるのかな。

 なんか複雑な気分…………。


 ★★★


「それでは次は土・水になりますが、体調は大丈夫ですか?」

 10分程してさっきの係の男達がまた3人やってきた。

「あなたも受験者ですか?」

 隣のヴァリアスを見て、書類を確認しながら声をかける。

「いや、オレはコイツの付き添いだ。ここに座ってるだけなら別に構わないだろ?」

 ヤダな、なんだかガラの悪いのがついて来たって、印象が悪くならなきゃいいけど。

 そんな俺の不安をお構いなしに、奴がまた係に絡んだ。

 

 あの部屋を出たので、あらためて不正行為がないか再検査するらしく、また採血を求められたのだ。

「そんな事する訳ねぇだろ」

 ヴァリアスに睨まれて、モスキートペンを渡してきた係がやや引き気味になる。

「すいません。奴は無視してください。ちゃんと検査お願いします」

 俺はペコペコしながら針でまた血を採って返した。

 こんのぉ~、デビルペアレントがっ!


「君は基本はベーシスのようだが、どこかの違う人種の血が混じってないかね?」

 俺を診るのも3度目の治療師が聞いてきた。

 おっ、何か違いがわかるのか? 

 違うって言ったら、元々地球人だから全部違うんだけど。


「フン、少しはわかるようだな。コイツはオレの従兄弟だからな。オレと血が繋がってるん――」

「こいつとは とぉっても遠い親戚です。多分私の母親が異国の人なので、そのせいかもしれません」

 俺は奴の話を遮るように言った。

 なんでいちいち否定するんだとブツブツ文句言ってきたが、ここは無視だ無視。


「う~ん、アクール人のかあ。そのせいもあるのかなぁ、君の体質が今ひとつ良く分からないのだよ。

 30年近く色々な人種の体を視てきたが、若い頃ならいざ知らず、こんなに判然としない血が混じっているのを診るのは久しぶりだなあ。

 確かにわたしも、異国人を全て知ってるわけではないからねえ」

 そう治療師は勝手に納得して、異常無しの診断をしてくれた。


 当たり前かもしれないが、今度は別の試験官が対応した。

 この魔法テストの試験官は、その魔法のエキスパートが当てられるからだ。

 土魔法は分かってはいたが、金属系を操るのは落第点だった。


 頑強な石壁を作るのは感心して貰えたようだが、レンガ塀のような複雑化したものを創る課題はいまいち怪しかった。

 硬い石のレンガを交互に重ねていくのだが、その間に粘着性のある粘着質の泥を挟んでいくという、質も形状も違うものを同時に操作する事が求められる。

 この間教会の畑でやった肥料の混ぜ方よりは、粒子が大きくやり易いと思っていたのだが、質の違う土を同時に作り出しながらおこなうのはホネが折れた。

 水も攻撃魔法としてはまあまあ普通クラスのようだが、技巧となると生活水準程度のようだった。


「まあ、あなたはハンターのようだから、どうしても力業ばかり使っているようだけど、技術も磨いたほうが良いですよ。繊細な操作が必要な場面というのは無きにしも非ずですし、何より魔力の無駄使いを減らせますからね」

 土と水の試験官が俺のチェックシートに、書き込みながら助言してくれた。


「はい、今後は意識して使ってみます」

「でも、筋は良いと思いますよ。ちなみにこの能力が発現してから何年くらい経ちました?」

 えと、地球じゃ1ヶ月くらいだけど、こっちでの月日だと……。

「2ヶ月くらい前です」(こちらでの一カ月は約40日)

「えっ? 2ヶ月?」

 試験官がボードから顔を上げた。

 何かマズい雰囲気っ?


『(おおいっ! 俺マズい事言っちゃったかあ? なんて答えりゃ良かったんだ??)』

『(う~ん、そんなに異常な例とは思わないが……ベーシスなら、発現してからこれくらいになるまで最速3ヶ月くらいの奴もいるぞ)』

 確かにそれくらいなら誤差範囲だよな?

「どうかしましたか?」

 俺がテレパシーで話しながら目を逸らしていたので、試験官が訝しんできた。


「いえ、ちょっと……。2ヶ月って意外なんですか?」

「ええ、そうですよ。だって発現してから2ヶ月で、ここまで出来たら魔族並みですよ、あなた」

『(話が違うじゃねぇかよっ!)』

『(ぁあ? 200年くらい前にベーシスでいたぞ、そういう奴が。

 待てよ……アイツ、その後成長してアークウィザードまで上り詰めたんだっけかな?)』

『(バッカッヴァリーッ!! 稀有な例じゃねぇかよっ!! 

 全然 普通人じゃねえっ)』


「大丈夫ですか、あなた。やはり具合悪くなって来たんじゃないですか?」

 試験官が心配そうに俺の顔を見てきた。

「だ、大丈夫です……。ちょっと意外なお答えだったので、自分でも驚いてます……」

 つい顔に出ていたらしく、どうも顔芸していたらしい。

 汗を拭く振りをして手で顔をさすった。

 くぅ~、もうアイツは信用できん。


「ちなみに他の能力の発現の時期は?」

 ボードについている書類をめくりながら訊いてきた。

「…………まさか同じくらいじゃないでしょうね?」

「え? いえ、そんなことは……」

 何か月? いや何年? っていうのが妥当なんだ??

 適当に言おうとしたのだが、何故か試験官にジッと見られて嘘の答えが出来なかった。


「わかりました……。特殊事項としてこれもあげておきましょう」

 外でまた待っててくださいと言われて、落ち着かない気分で俺はまた待合室に戻った。



「あそこは下手な嘘がつけないんだよ」

 椅子が並んだ壁の端っこに、ヴァリアスが寄りかかっていた。

 半分から反対側の端には距離を置くように、6人の次の受験者らしい人達が座っていたが、誰もこちらに不自然なぐらい目を向けてこなかった。

「あんた、俺がいない時に何かやらかしてないだろうなあ?」

 俺はまた端っこの椅子に座った。奴は座らず俺の横に立ったままだ。


「別になにもやっちゃいないぞ。ただアイツらがチラチラ見てくるから、見返しただけだ」

「それはチラ見にガンつけ返したってことになるんじゃないのか? この顔面暴力団がっ」

「なんだそれっ !?」

「もういいっ。ところでさっきの嘘がつけないってのは何んなんだ?」

「オレは暴力団なんかじゃねぇぞ。――― さっきのは試験場だからだ。

 試験官の質問も試験内容のうちだから、受験者が嘘がつけないように術がかかってるんだ」

 真実の口の中って訳か。厄介だな。

 つうかそういう事は先に教えとけよ、このポンコツめ。


 しかしさすがに頭が疲れてきたな。もう水くらいじゃリフレッシュ出来ないぞ。

「なあ、あの教会の湧き水持ってないか? それかヒールポーション。でないと俺、次の試験じゃ全力出せないぞ」

「しょうがねぇな」

 やっぱり持ってたか。

 奴がしぶしぶ、水の入った小瓶を出してきた。何かあった時に備えて、絶対持ってると思ったんだよな。



 俺が癒しの水を飲んでリラックスしていると、さっきの検査官3人が現れて、端からまた検査を行い始めた。


 5回目の試験は『探知』だった。


 始めに距離を測った。

 俺は用意された目隠しをして後ろを向き、離れたところに置かれてある物を当てるのだ。

 最初は10mくらいから。置いてあったのは大銅貨1枚だった。

 次に20mくらいで革水筒、30mで4つ折りに畳んだ紙に『合格』と書いてあった。

 50mを過ぎた頃から、試験官の顔付きが変わってきた。


「自己最高記録はどのくらいかわかりますか?」

 赤紫色の髪を上品に内巻きにカールさせたオバちゃま試験官が訊いてきた。

 ええと確か1mがこっちの単位0.9144ヨーだから……。

「一方方向なら多分186ヨー(約170m)ぐらいです」


「まっ」

 オバちゃまは一言発したが、それではとおずおず遠くのほうに行くと、持っていたバッグから何かを出して置いた。

「今ちょうど186ヨー先に、ある物を置いて来ました。あれが何かわかりますか?」

 そう言われて俺は後ろ向きのまま、遠くに探知の触手を伸ばした。


 それは15cmくらいの毛むくじゃらなものだった。その毛は緑や青、赤・紫と色々な色が毒々しく絡み合った縞模様をしている。動物のようであり、フェイクファーで作られたポーチのようでもある。

「わかりますか?」

「……………わかりません。というか視えるんですが、何というモノかわからないんです」

 探知で感じ視ることは出来るが、解析までは遠すぎて出来ない。触手が違うのかもしれない。

 俺はその視えている物の詳細を詳しく説明した。

 試験官はハァと軽く溜息をついて

「これはマナナマウスの毛皮です。護符や魔除けになる素材なんですよ」

 それはポピュラーなものなのかな。あとで図鑑で調べておこう。

 

 その後、距離を伸ばして試した結果、探知出来たと言える長さは208ヨー(約190m)と判定された。


 その他、360度の円として多方向に複数の物をバラバラに置いたり、高さを変えたモノやランダムに動くモノでも測定した。

 護符の付いた箱に入ったモノを探知出来たのは、庶民がつけるような一般的なランクの物で、さすがに貴族やギルドが整備しているような高度な護符には歯が立たなかった。

 護符によっては、濃霧の中に入ってしまったような、またはプリズムのように光を曲げられてしまうような感じなど、妨害される感覚も違っていた。


 ちょっと自分でも出来たなと思ったのは、ガラスのようにキラキラと乱反射した妨害物質が、紙吹雪のように舞う中の物を探知するテストだった。

 これはあの黒い森で、ターヴィを救助に向かった時の状態に似ていた。

 少しコツを掴んだのかもしれない。

 オバちゃま試験官も『あらまあ』と感心しながらボードにしきりに書き込んでいた。

 あれっ、俺頑張っていいんだよな。

 あんまりやり過ぎて中途半端に目立ってきてないか?


「はい、探知の試験はこれで終わりです。お疲れ様。また外で待っててください」

 残りはあと光と雷になった。



「なんか頭が疲れたよ~。ヴァリアス、あの癒しの水くれよ」

 俺は椅子に腰を下ろすと同時に奴にねだった。

「お前、さっき飲んだばっかりじゃないか」

「探知は神経使うの知ってるだろう。くれないと次の試験受けられないぞ」

「ム~~~、しょうがないな。今回だけだぞ」

 やった。今度からこうやって駄々こねればいいんだな。

「大体天然ものでも、多く摂取していれば依存症になる可能性あるんだぞ。

 それでなくてもお前にヒール系(精神・神経回復)を使うのは本当はマズいんだからな」


「わかってるよ。ん……? これなんかさっきのより薄い」

 さっきと同じ小瓶なのだが、なんだか気分までスッキリはしないというか、先程感じた幸福感がない。

 まさか、もう体が慣れちまったのか? もうこの量じゃ足りなくなったとか……。


「2本目だから薄めたんだ。それでも疲れだけは取れるだろ」

「ム~、そりゃそうだけどーーー。ちょっとくらい気分良くさせたっていいじゃないか」

「バカ、それが依存だって言うんだ。自力で脳内ホルモン出す努力しろっ」

「イタタタッ! 馬鹿ヴァリーッ、恥ずかしいからやめろよ」

 俺が頭にアイアン・クロー(プロレス技の一種:脳天締め)されているのを、カウンターから係の男達がおっかなびっくり見ていた。

 


 

 6回目の試験は『光』だったが、試験場に入ると試験官が1人ではなく、3人いた。

「ここまで確かに頑張ってるようだね」

 そう言ってこちらを見た男は、申し込み書を通させたあの初老の半仮面の男だった。


ここまで読んで頂き有難うございます。

**************************************

この間、久しぶりに整骨院で施術してもらいました。肩が別人のようだと言われてしまいました。

でもおかげ様で次の日、肩と腕となんと親指の痛みも結構ひいたんです。

さすがっと思っていたら急に足の指と裏に湿疹がっ。ナニコレ?! 

発症したのが土曜の午後で病院も終わり。

しょうがないので以前もらった塗り薬を塗って様子見。あまり歩かなければ痒くないかなと思っていたら

次の日曜日に今度は両の掌に! 足もパンパンだし歩けないっ。

ネットで調べたら、もしかするとマッサージ後の好転反応か??

血流が良くなったというか、わたしの場合、溜まっていた老廃物・毒素が一気に流れて手足とか末端に詰まったんじゃないの?

好転反応なら大体3日くらいらしい。もう2日めだけど。

で、3日めの月曜日に医者に行ってきました。

診断は『手足の荒い過ぎ』との事。いわゆる消毒のし過ぎで常在菌や保護膜が無くなっちゃったせいとのこと。確かに私、足も朝晩と洗う事にしてるんですよ。水虫予防に。

だけどそれだけなのかなぁ~。マッサージのせいじゃないって言われたけど

足はもう10年以上やってるし、それだったら先に最近の消毒で手が先になりそうだし。

そういえばマッサージを受けた直後は、以前だったら血流が良くなっておトイレが近くなるんだけど

あの日はそうでもなかった。軽く脱水だったのかと思ってたけど

毒素が詰まったんじゃないかと思う。

なぜなら医者に行く直前の足の裏が少し良くなりかけていたから。3日めだし。

でもとにかく治りそうで良かったです。もう健康が第一だわ。

しみじみ思い知る今日この頃。

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