喘息少女
ちっす!安倍晋三でっす!!みなさんのご期待に答えようと、『風刺小説』たるものを書いてみました!
ここは、グリッター村。国で一番大きな都市、王都にある小さな村。王都にはたくさんの村が存在している。以前、旅商人により間違った薬を売られ、過疎状態に陥りそうになった王都では信仰により、薬は悪いものとされていた。そして、この村にはもう一つの言い伝えがあった。村にはよく、村人とは違う人種の人間が迷い込んでくる。村人はそれを「悪魔の子」と呼んでいた。「悪魔の子」が現れるとともになにか不幸なことがおこるからだ。これはそんな一つの小さな村に急に転生してきた少女、慧嶺とある男の子、影楼の物語。
「…ぇ…きて…起きて!!」
私は何者かに揺さぶられ、目を覚ました。私は布団の上に横たわっていた。テントのような小屋の中に私はいた。そこには私が暮らしていた日本とは全く違う服を着ている男の子と女の子がいた。巫女さんのような服を着ており、全体的に白でまとめていた。
「あ、起きた!!」
男の子は大きい目をさらに見開きながら、私の顔を覗き込む。
「俺がお前を見つけたんだ!村の大樹のところに横たわってたんだけどどこから来たの?」
男の子は珍しそうに私を眺めた。
「日本…」
私はまだ頭がよくまとまっておらず、虚ろな目で答えた。
「ニホン…?どこなの?そこ。」
男の子はきょとんと首を傾げた。
「あの…ここはどこ?」
ようやく考えがまとまってきた私は男の子に問いかける。
「ちょっとあんた。質問に質問で返しちゃだめって村の長に習わなかったの?村の掟じゃない。」
女の子はそういって、私を睨みつける。
「ご、ごめんなさい…」
私はそう言って小さく頭を下げた。
「おい、シズク。あまりこの子に突っかかるなよ。もう酉の刻だ。一日も眠ってたんだからまだ頭が回らないだろ。」
「ふんっ。カゲロウのバカ。シズク、もう帰るから。」
女の子はドアを蹴飛ばしながら小屋を出ていった。
「シズクが余計なことを言ってごめんね。シズクは村長の娘だから少し気難しいところがあるんだ。」
「質問に質問で返したらだめって知らなくて、やってごめんなさい。」
私達は同時に謝ると、頭を深く下げた。そして二人同時に謝ったことに気づくと、顔を見合わせて笑った。
「俺はカゲロウ。このグリッター村で生まれ育ったんだ。」
「わ、私はエネ。なんか目が覚めたらここにいたの… 元は地球の日本ってところにいたんだけど…」
そして、私達は自己紹介をした。
「チキュウのニホン… 聞いたことないけど、急にここにきた人は他にもいるよ。」
「ほ、ほんとっ?!私みたいな迷子ってことかな?もしかしたら、なにか知ってるかも!」
私は耳寄りな情報に思わず身を乗り出した。
「その人に会ってみる?」
私は大きく首を縦に振った。
「立てる?」
私はカゲロウに手を引かれて、布団から起き上がった。そしてカゲロウは私に黒いマントを手渡し、それを羽織るように促した。
「エネがいるってバレたら、少し厄介なことになるかもしれないから…ごめん!」
そして私はカゲロウの後をついていった。外は砂ぼこりが盛大に舞っており、空気が悪かった。あちこちに倒れている村人も見えた。
「今年は、あまり野菜が採れなかったみたいなんだ。そのせいで死んじゃった人も多くいて… 俺の家の畑もあまり豊作とは言えなかったからその人達を助けることもできなかったんだ。」
カゲロウは悲しそうに目を伏せた。
「そうなんだ…」
「うん…母さまと父さまは悪魔の子が来たからって言ってたけど…」
「悪魔の子?」
私がそう尋ねると、カゲロウはバツが悪そうに目をそらした。
「エネみたいな突然村に現れた異国の人のことを言うんだ。」
「私、ここにいちゃいけないのね…」
私はなんだか悲しくなり、肩を落としてうつむいた。
「でも俺は厄災が起きるのは悪魔の子のせいじゃないと思うんだ。みんな同じ人間なんだし、エネはもう俺の友達!」
カゲロウはそう言って私に向かってニッコリと笑った。私もつられて笑顔になった。そして少しすると、大きな人だかりが見えてきた。
「嘘だろ… メイっ!」
すると、急にカゲロウは足を早めた。私もカゲロウの後を追い、人混みの中に紛れ込む。
「っ…!」
思わず息を呑んだ。私と年もあまり変わらない、幼い少女が十字架に貼り付けにされていた。両手は釘で打たれ、血が流れていた。足は縄でぐるぐる巻きにされていた。
「あの子も俺が見つけた子なんだ。名前はメイ。エネと一緒で急に現れた子で。俺の家に匿っていたんだ。そしたら母さまに見つかって村長に引き渡されてしまったんだ。」
カゲロウはぽろぽろと涙をこぼした。
「メイ。メイ!メイ!!!」
カゲロウは叫んだ。メイはカゲロウに気づくと、寂しそうに笑った。そして、メイの体は炎に包まれた。
「悪魔の子だ!!」
「燃やせ燃やせ、燃やしちまえ!!」
「あの悪魔の子のせいで今年の村はとても凶作だったんだ!」
観衆は腕を高く突き上げて叫んでいる。
「村長に見つかっちゃだめだ…! エネ。ここは一回離れよう。行こう!」
カゲロウは私の腕をぐいっと引っ張った。しかし私の足は誰かにふまれており、動かなかった。その瞬間前から引っ張られて、私はその場にころんだ。
「大丈夫か?!エネ。」
カゲロウが私をおこすと、私のフードはとれていた。
「この瞳の色、髪の色… もしかして、あなたも悪魔の子?!また、厄災が起こるのね?!」
そばにいたおばさんが私のことを指差し、大声でいった。あたりが一斉に静まり、私に視線が集まった。
「エネ!走れ!!」
前を走るカゲロウに追いつこうと、私は懸命に走った。後ろからは足音は聞こえてこなかった。そして何分か走ると、ある一つの洞窟についた。
「はあはあはあはあはあ。はあ。はあ。はあ。」
私は喘息持ちだった。ポケットに手を突っ込むと、喘息用の吸引器を取り出して吸った。
「エネ?大丈夫?どうしたの?」
カゲロウが優しく背中をさすってくれる。私は息を大きく吸って、頷いた。
「おい、さっきの悪魔の子はどこだ。」
「見つけ次第処刑しないとな。」
大人たちが私を探し回っている。その様子が洞窟から見て分かった。
「怖い…」
私がそうぽつんとこぼすと、カゲロウは私の手をぎゅっと握ってくれた。
「大丈夫だよ。」
そういって微笑んでくれるカゲロウの手も小刻みに震えていた。
「ボーンボーンボーンボーン。」
急に鐘の音が鳴り響いた。
「やばい。もう丑の刻だ。俺、一回家に戻らなきゃ。必ず戻ってくるから、ここを動かないで。」
そういい、カゲロウは洞窟を出ていった。外はすでに薄暗く、不気味だった。
「ここ、どこなんだろ… 早く帰りたいよ…お父さんお母さん…」
私は膝を抱えてうずくまった。途端に涙がとめどなく溢れ出てきた。そのまま泣き疲れ、私は寝てしまった。
「エネ、エネ。起きて。起きて。」
名前を呼ばれ、小さく揺すぶられ、起きるとそこにはカゲロウがいた。少しの希望とは反対に私はここはまだ日本ではないと悟った。外は真っ暗だった。カゲロウの頬は赤く腫れ上がっており、ところどころすり傷が見えた。手には果物を抱えていた。
「そんな怪我して…!どうしたの?!」
私がそう問いかけると、
「エネをにがしたから、母さまに叱られてしまったんだ。でもこれくらいの傷、全然大丈夫だから!」
カゲロウはそういってにっこり笑った。そして一つの果物を差し出し、
「俺、家を抜け出してきたんだ!だからこれ、こっそり持ち出してきた。一緒に食べよ!」
他の果物にかぶりついた。
「ぐー。」
お腹の音がなり、ここで初めて私はお腹が空いていることに気づいた。差し出された見たこともない果物をおそるおそるかじる。
「お、美味しい…!」
そのまま私はがつがつと食べすすめる。カゲロウはそんな私を嬉しそうに見ていた。そしてカゲロウは私の横に毛布を置くと、洞窟をあとにした。そんな同じような毎日を繰り返していた。ある日はカゲロウと草むらを走りまわり、ある時には虫を追いかけて遊んだ。そんな毎日が楽しかった。
「エネがお家に帰れるまで一緒にいようね。」
そういってカゲロウは毎日欠かさずに私に会いに来てくれた。そして何日か経ったあと、いつも同じ時間に来るはずのカゲロウが今日はこなかった。
「どうしたんだろう…?」
私は妙な胸騒ぎがした。もしかしてカゲロウに何かあったんじゃ…?
「今度は、私が助ける番だよね…!」
私は自分にそう言い聞かせ、洞窟から出ていった。村に戻る道順は覚えていなかったが、適当にそのへんを走り回った。日がすっかり暮れた頃、私は村の入り口についた。うるさかった村はすっかり静かになっていた。
「どうしたの?お嬢ちゃん。」
急に後ろから声をかけられ、私は慌てて振り向いた。そこには杖をついたおばあさんがその場に立っていた。
「えっと… あの、カゲロウを探してるんだけど…」
私がそういうとおばあさんは顔を曇らせた。
「影楼様は流行り病にかかって寝込んでるよ。影楼様の家は村の中で一番大きい家だからすぐわかると思うよ。」
私はすぐさま駆け出そうとしたが、後ろから声がかかって足を止めた。
「お嬢ちゃん、もしかして悪魔の子かい?」
そう言われ、私はうつむいた。
「大丈夫。お嬢ちゃんを捕まえる気はないよ。悪魔の子だろうとみんな同じ生き物さ。」
そういっておばあさんはほほえんだ。
「お嬢ちゃん、頑張るんだよ。」
「うん!!ありがとう!」
私はお礼を言って走り出した。カゲロウの家は村の中でも飛び抜けて大きい家で私でもすぐ見つけることができた。幸い、あたりに人間は一人もおらず、案外簡単に家に忍び込むことができた。カゲロウはベッドに横たわって咳き込んでいた。
「カゲロウ!大丈夫!?」
私はカゲロウの元に駆け寄った。
「エネ…今日、行けなくて…ごめん…」
そういってカゲロウは咳き込んだ。この症状に私は見覚えがあった。
「これ…喘息っていう病気だよ!私、吸入器持ってるからこれで治る!!」
私はそう言って吸入器を手渡そうとした。
「悪魔の子!カゲロウの家にまで侵入して、何をしてるの?!」
急にドアの方向から声が聞こえた。そこには私が目覚めたときにカゲロウの隣にいたシズクと他の女の子がいた。
「エネ!逃げて…」
そう言ってカゲロウは弱々しく私の背中を押した。
「それは…薬?!私達は薬を飲んではいけないのよ!神様にお祈りをしないと病気は治らないの!!薬を飲んだら村からついほうされてしまうのよ!」
シズクの隣にいた女の子がそう叫んだ。
「アヤノ!村長さんを呼んできて!」
そして女の子は外に駆け出し、シズクは私の方へ向かって走り出した。逃げ回っていた私も、家の隅まで追い詰められた。
「さて、悪魔の子。あんたはこれから処刑されるのよ!」
そして私は床に取り押さえられた。
「お願い…この薬で、病気は治るの…」
私はシズクに吸入器を差し出した。
「パリーン!!」
シズクは私の手から吸入器をはたき落とした。吸入器は粉々に割れた。
「薬なんかで流行り病が治るわけない。それが神様の教えだから。」
すると、だんだん私の視界が暗くなってきて、意識は完全になくなった。
その後。
村には砂ぼこりと空気の悪さにより、喘息がどんどん流行っていき、村人は全員生き残ることができなかった。そしてグリッター村は壊滅した。その後、王都の兵士が確認した記録によると小さな少女が拷問にあったすえ、殺されたという。その少女は兵士が見たことのない色の瞳と髪を持っていたという。喘息が吸入器と薬で治るという発見はその少女の近くにあったなにかのガラスの破片が見つかったことによって見つけることができた。この村は壊滅したが、喘息の治し方の元になった村として伝説が受け継がれていった。その世界の薬を飲んではいけないという信仰は10年後にはなくなった。
楽しんでいただけたでしょうか。今度は是非、国会議事堂に遊びに来てくださいね!