チョコミントと歯みがき粉と私
それはある朝のことだった。私はいつも通り歯を磨いたのだが、あり得ないことが起きていた。なんと歯磨き粉がチョコミントの味になっているではないか。
私は驚愕した。確かにチョコミントは私の大好物で、チョコミントが手に入らない状況では代用品として歯磨き粉を舐めることもあった。だがそれはあくまでも緊急時の代用品。実際にチョコミントの味がするわけではないし、チョコミント味の歯磨き粉のクオリティの低さに涙したこともある。
しかしどうしたことだろう。今私が口にしているこの歯磨き粉はまごうことなきチョコミントである。この事実に私は喜びで震えた。これは素晴らしい発見だ。是非とも他のチョコミン党員にも知らせなければ! そう考えた所で違和感に気がついた。
そも私が使用した歯磨き粉はいつも使っているものだ。いきなり味が変わるなどあり得ない。では何故チョコミントの味になったのだろうか? 不思議なこともあるものだ。
至福の歯磨きを終えた私はその余韻に浸りながら朝食をとる。もちろんチョコミントアイスた。朝一に食べるチョコミント、これがなければ私は一日を始めることなど出来ない。
が、そこでまたしても私は驚愕することになった。
歯磨き粉だ。歯磨き粉の味がするのだ。私の愛するチョコミントから歯磨き粉の味が!
あり得ない。歯磨き粉とチョコミント、この2つの味が入れ替わってしまっているだなんて悪夢にも程がある。
先程の幸せな歯磨きから一転して地獄のような朝食になってしまった。
よくチョコミントアンチはチョコミントなんて歯磨き粉の味じゃんと否定してくる。だがそれは違うのだ。確かに代用品として舐めることはある、だとしてもそれはチョコミントの味だからではない。一時的なチョコミント禁断症状を押さえるための薬のようなもので、決して歯磨き粉を美味しいと思ってはいないのだ。
だと言うのに目の前には歯磨き粉の味のするアイスがある。見た目は完全にチョコミントなのが悪質た。チョコミン党員として、これでは捨てることが出来ない。私は怒りに震えながら完食した。
通勤中、SNSを使ってチョコミン党員のクラスタで私と同じく異変に気がついている者がいないかを調べてみたのだが……結果はヒット無し。それも当然のことだろう。チョコミントが歯磨き粉の味になったなんて回りに言える筈がない。
仮にこの現象が自分にだけ起きていた場合、そんな発言をした段階で党員ではなくアンチとして処理され、クラスタを追放されてしまう。
そして恐ろしいことに、全世界で同じ現象が起きていたとしてもこの事を告白することは難しいだろう。何故なら党員の内、一人でもそんなことはないと発言してしまえばその時点で自分達が異端者となってしまうのだから。
なのでもっとも望ましいのはアンチが歯磨き粉がチョコミントの味になっていると拡散すること。しかし悲しいかな、アンチはアンチ故にチョコミントの味を真に理解してはいない。ちょっと今日の歯磨き粉はいつもと味が違う気がする、そう思う程度だろう。
どうすれば……どうすればいいんだ?
私はこれから一生チョコミントを楽しめず、歯磨き粉を舐め続けるしかないのか?
人前では歯磨き粉の味しかしないチョコミントを我慢しながら食べて?
そんな人生はまっぴらだ。私はやはりチョコミントをチョコミントとして味わいたい。歯磨き粉がチョコミントの味でも、チョコミントがチョコミントでなければ真のチョコミント愛は育まれない。
世界よこれは私とお前の戦争だ。必ず私はチョコミントを取り戻してみせるからな。
そう、そんな夢を今朝はみた。我ながらなんてしょうもない夢をと思ったものだが、歯を磨いた所で背筋が凍る思いをした。
歯磨き粉からチョコミントの味がしたのだ。
私はどうやら本当に世界と戦わねばならない運命にあるらしい。