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初めての死


俺が、初めて死んだのは中学一年の時だ。少し長くて痛い気な話だが、聞いてほしい。



 その時の俺は、現代に蘇りし正義のジャック・ザ・リッパーだった。

 永きに渡る魂の浄化により輪廻転生の輪に戻されたジャック・ザ・リッパーの魂が、俺の生まれながら持つ正義の心ならば、僅かに残る殺人者としての残滓を持つ彼の魂を制御できると神が判断し、俺の魂と融合されたという設定を、クラスのみんなに吹聴して回っていた。(多分早口で)

 帰ってきた反応は、

「嘘つけや!」 


「へーそうなん…だー」


「やっと己の魂の異物に気づきおったの〜」


 と、ほとんどの人は信じてくれなかった。

ちなみに、最後の神対応は俺の親友、成田のものである。

 この時点でやめとけば、死ぬことはなかったし、ちょっと嘘つきのかわいい男の子でいられた。


 ここから俺はさらに厨二病の階段をかけ登った。己の成り立ちを話すだけでは人の心はなびかないと思った俺は、

 日常的にカッターナイフを出し入れして、ちらつかせることを始めた。


 だが、正義を謳っていた俺は、人を怖がらせようとは思っていなかったと断言しよう。

 俺にとってカッターナイフとは、人を殺すためでなく、人を守るための武器であり、それをひけらかす事はみんなを悪から遠ざけ守ることになって、

 それをみんなは、陰ながら感謝していると思っていたからだ。


―――だが、三日天下で終わった。


 誰かが先生にチクったのだ。実は言うと、みんなの中に先生は含まれてなかったので、先生の前でちらつかせる事はしなかった。


―――だって先生は大人でしょ?


 学校でこっぴどく叱られた後、そのまま家庭訪問となった。

 父さんは親の特権を行使し、何度も殴った。

 母さんは、先生がいる間はへこへこしてたくせに、帰ったとたんマンドラゴラのような声で叱った。

俺じゃなかったら死んでいたであろう。

 自慢じゃないが、俺の厨二病は、父さんの弱パンチ、はたまた母さんの絶叫なんぞでは治らない。


 厨二病は、混ざり合った魂のごとく俺に深く根付いていた。




 一通り叱られた後、二階の自分の部屋に上がった。この状況で夕飯を求めるほど俺は図々しくはない。扉を閉め、部屋の真ん中で座禅を組み、反省した。

 一つ、カッターナイフは段ボールや紙を切るためにある文道具だということ。


 二つ、大人も守る対象になりうるということ。 大人は強いものだと思い込んでいた、すまない・・大人。


 三つ、守られる人の気持ちを考えること。今思えば、ジャック・ザ・リッパーの魂を持つ俺がカッターナイフなんて持っていたら怖いに決まっている。


 大人を含むみんなが安心でき、カッターナイフを武器として使わず、かつ悪から守るためにはどうすればいいか、俺は考えた。


考えた、考えた、己の脳の最深部まで。――


 深い思考に潜っている最中、カチカチ…カチカチ…という音が聞こえていることに気がついた。

知らぬ間に、カッターナイフが左手あった。



―――癖で、刃を出し入れしていたのだ――――



 こいつは武器じゃない、段ボールや紙を切る文房具だ!。

 でも、手放したくない・・・.守るためにはこいつが必要だ・・・

 (っっ畜生!どうすればいい!)

心で叫んだ。 多分、喉も震わした。

 カッターナイフを弄んでいる左手をじっと見た。

 親指が上下に行ったり来たりする。その動きに呼応するかのように、カッターナイフがその研ぎ覚まされし鋼の肉体を見せる。

 しかし、それは一瞬。すぐさま、カッターナイフは、黄色の装甲に己の強さを隠すのだ。



 いや、まてよ・・・黄色の装甲が中にある鋼の肉体を想起させているのか。さらに、みんなが怖がっているのは、鋼の肉体の部分であり黄色の装甲は怖がっていないのではないか。


 そして、カッターナイフは二つに分離することができる。


エウレカだぁぁぁぁああ!!!


 俺は、すぐさまカッターナイフを二つに分離させた。そして、左ポケットに鋼の肉体を、右のポケットに黄色の装甲を入れた。こうやって黄色の装甲だけをみんなに見せていれば、悪は勝手に中に隠された鋼の肉体を想起するに違いない。

 やった!これでまたこいつとみんなを守れる!カッターナイフを取り出し、強く握りしめた。



 よく見ると、刃が欠けている。そういえば、メンテナンスを怠っていたなぁ。

 俺は、すぐさま机に向かい、机の角に狙いを定めた。豪快にやらないと、こいつの刃は折れないからな。まったく、強すぎる肉体っていうのも困りもんだぜ・・・。

      よし!行くぜ!相棒!

俺は思いっきりカッターナイフを振り下ろした。



その瞬間、―――机が赤く染まった―――

 一瞬の戸惑いに、鈍い音が響く。俺は意識を失った。


 俺の初めての死は、こんな感じだ。後から確認したら、血痕は残っておらず、ただ、折れたカッターナイフの刃が部屋の隅に佇んでいた。俺は何が起こったかわからなかった。


 ―――でも、覚えてる。


 俺の首から血が噴き出した。おそらく、この折れた刃が俺の首を切り裂いたのだ。


―――おいおい、まさかこのカッターナイフはあの殺人鬼ジャック・ザ・リッパーの使ってたナイフから作ったのか?!俺らは出会うべくして出会ったようだな・・・。


 厨二病は死んでも治らなかった。

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