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王都の双子のお悩み事情  作者: さつき けい


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4/5

少女の理想と悩み 


「あなたは女の子なんですから」


そういうと祖母は手にしていた洋服をミキリアにあてがう。かわいらしい、藍色の髪に似合う薄い青の上下が繋がった服だ。


これから夏に向かう季節にちょうどいい、涼しげな色合いだった。


あまりふわふわとした装飾の付いた服は苦手なミキリアだが、これはすっきりとしていて気に入った。


「それでなくても伸び盛りなのだから、すぐに着られなくなってしまうわね」


祖母は溜め息を吐いた。つまり、太るぞーと言っているわけだ。




 ミキリアは真っ青になった。


「それはいやー」


部屋を飛び出すと店から家の方へ戻った。


「どうしたの?」


途中でかけられた伯母の声も耳に届いていないらしく、ミキリアは庭へ出た。


「コエン!」


精霊の分身を呼び出すと、荷物から木剣を出してもらう。




「えいっ、えいっ」


店から慌てて追いかけてきた祖父母が見たものは、庭で木剣を振るう孫娘の姿だった。


炎の精霊であるエルフの姿をした少年がその相手をしている。でも相手がまだ六歳の子供だということで、手を抜いているのが丸分かりだ。


祖父の姿を見たミキリアが駆け寄った。


「お祖父さま、剣の指導をお願いします。食べてばかりだと太っちゃう!」




 祖父は元兵士である。


亡くなった両親の商会を継ぐため退役したとはいえ、そこそこの地位に居たと聞いている。


ユイリは、ぽかんと口を開けている家の者の横を通り抜ける。


祖父母の側へ行くと、くすくすと笑いながら悲痛な顔をしている妹の事情を話す。


「太ったらタミちゃんに笑われてしまうんです」




 今まで祖父母に遠慮していたが、ミキリアには叶えたい夢がある。


ミキリアの理想はタミリアだ。


強くて、美人で、大好きな父ギードに心から愛される女性。


「あたしはタミちゃんみたいになりたいの!」


 双子の母親であるタミリアは、どんなに食べても全く体型が変わらない。


それは夫であるギードが彼女の食事の質と量を計算して作っているおかげである。


実力者でもあるタミリアはいつも全力全開、魔法でも剣術でも手を抜かない。その運動量の多さも配慮されていた。


しかし、ここには目立たず、さりげなく妻を支える夫がいない。


ミキリアはそれに気づいてしまった。


このままでは理想から遠のいてしまう、と。




「よろしい。それが望みならば叶えよう」


守護精霊から木剣を受け取った祖父は、上着を脱ぎ、ミキリアの相手をする。


「ほお、なかなか出来るな」


主に精霊たちが指導しているおかげでミキリアの剣は非常にまっすぐで偽りがない。新人の兵士たちより余程しっかり基礎が出来ていた。


しかし、しばらくしてまたもや祖母に、


「あなた。孫娘がかわいいのは分かりますが、仕事以外の時間にしてくださいませ」


と叱られ、しぶしぶ仕事に戻って行った。




 夕食前にざっと水で汗を流した後、ミキリアはひとり、居間でくつろいでいる祖母の側へ行った。


「あの、お祖母さま、ごめんなさい。あたしー」


少し離れた場所からもじもじと話しかけるミキリアを祖母は招き寄せる。


「いいえ、あなたはちっとも悪くないの。むしろもっと甘えていいのよ」


そういいながら髪を撫でる。


 ミキリアの髪は肩より少し長めで、背中に流しているだけである。


「ねえ、ちょっとリボンを付けてみていいかしら?」


孫娘の髪を撫でていた祖母は、ふいにそう言って立ちあがった。


返事をする暇もなかったミキリアは首を傾げて、部屋を出て行くその姿を見送った。




 そろそろ食事の時間だと気づき、部屋で従兄に借りた本を読んでいたユイリが食堂へ下りて来ると、何やら居間の方が賑やかだった。


「これはどうかしら。いえ、こちらの方がいいわね」


ユイリがそっと顔を出すと、祖母や伯母、そして女性の使用人たちがわいわいと話し込んでいる。


食事の時間のはずなのだが、男たちは皆、部屋の隅でそれを見守っている。


「あのー?」


「あら、ユイリ。ねえ、こっちに来て」


祖母の陽気な声に釣られてそちらへ向くと、輪の中心にミキリアがいた。


「ぶっ」


笑いだしそうになるのをこらえる。




「な、なによー」


ぷぅっとふくれっ面になる妹だが、その顔はほんのり赤くなっていて、まんざらでもなさそうだ。


「やっぱりこの色が合うと思わない?」


色とりどりのリボンの山の中から、祖母が手にした爽やかな黄色のリボンをミキリアの髪に結ぶ。


ミキリアの髪は、左右の耳の上で二つに結わえられていた。


 ユイリは今まであまりそういう女の子らしい格好をした妹を見たことがなかった。


彼女はいつも獣人の子供たちと森や町中を駆けまわり、木剣や、杖を振りまわしていたのだ。


「え、ええ。とっても似合うと思います。ぷっ」


「もうっ、ユイったら」


恥ずかしげにぷいっと横を向いてしまった妹に「ごめんごめん」と謝る。


「うんうん。とってもかわいいよー」


おざなりだが、そう言うしかないだろう。




 祖父と従兄が声を合わせ、うれしそうに機嫌を取っている。


「ミキリアはタミリア叔母さんに似てるし、本当にかわいいよー」


「ああ、もちろんだとも。剣筋もいいし、お母さん以上の美人剣士になるかも知れないなあ」


ふたりの言葉に機嫌が良くなったミキリアのお腹が、急にくぅと鳴った。


「あらあら、ごめんなさい。つい夢中になってしまったわ」


伯母や使用人たちが急いで食事の支度に向かう。


ユイリがそっと胸を撫で下ろしていると、不穏な声が聞こえた。


「明日はあのリボンに合うお洋服を見立てましょう。そうだわ、ユイリも似合いそうー」


エルフの少年は祖母の声を聞かなかった振りをしながら、「やめてー」と心の中で叫んだ。




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