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王都の双子のお悩み事情  作者: さつき けい


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3/5

少女と屋台


(すごい、今日もお客さんがいっぱいだー)


双子は店が開店すると、他の使用人たちの邪魔にならぬ様に祖父の仕事場に来ている。


ヘイデス商会の二階、大通りに面した部屋である。  


大きな窓から双子は通りを眺めていた。


この王都に来てから数日が経ち、双子は昼間はこうして祖父のそばにいることが多い。


最近の店の盛況ぶりは、双子の姿見たさの客もいることは否めない状況である。




 この部屋は二階の隅にあり、窓から店舗の出入り口が良く見える。


出入り口はお客さまが馬車で乗り降りする場合に、その馬車の扉からすぐにひさしの下に入れるように工夫されている。


「そういえば、馬車もいろんな形があるんですね」


「うむ、そうだよ。今では生活に欠かせない」


仕事の書類に目を通しながら祖父が教えてくれる。


ユイリは『商国』とは違い過ぎる『王国』の人の流れを眺めていた。




 馬車には大まかに三通りあるそうだ。


一つは商国でも馴染みのある駅馬車で、町と町を繋いだり、広い王都の中も周回している。基本的に時間や走る道順が決まっていて、だいたい四頭立てが多い。


二つ目は辻馬車で、町中限定で走っており、基本的にどこでも乗り降り出来る。一頭か、二頭立てで小回りが効くのが特徴だ。


三つ目は個人が所有していたり、貸し馬車といわれる特定の目的にのみ使われるもの。大きさや種類も様々なものがある。王族や貴族所有の馬車や、農家や商会の荷馬車もこの内に入る。


「駅馬車は国が経営しているから料金は決まっているが、辻馬車は組合や商会が所有していて料金はまちまちだよ」


ヘイデス商会では、荷物の配送を任せている個人経営の馬車屋があるそうで、普段から移動もそこの馬車を使っているそうだ。


ふうーんと感心しているユイリの横で、ミキリアは屋台が並んでいる場所をじっと見ている。


(美味しそう〜〜)


さすがに口には出さなかったが。




「お茶をお持ちしました」


おやつとお茶を持った商会の秘書のおじさんが入って来た。


本来ならお茶などもっと若い者の仕事だろうが、信頼出来る者だけが双子に会うことが出来るようになっているので、店の中でも特定の者としか接することがない。


「ありがとう。さあ、休憩にしよう」


そろそろお昼に近い。双子は毎日ずっと飽きずに外を眺めている。


「王都は面白そうかい?」


祖父の言葉にユイリは首を傾げる。こうして毎日外の風景を眺め、色々と説明を聞いているだけで一日が終わってしまう。


「まだよくわからないけど、見てるだけなら面白そうです」


「そうかい。何か分からないことがあったら誰かに聞くといいよ」


「はい」




「今日のお昼はいかが致しましょう」と秘書のおじさんが聞いてきた。


王都に来てからずっと昼は祖父母に任せていたが、いつまでもお客様のように過ごすわけにもいかない。


「みなさんはどうされているのですか?」


秘書のおじさんは丁寧なユイリの言葉に感心したように頷き、答えてくれた。


「この商会では皆、昼食は交替でそれぞれが好きなものを購入して来たり、外で食べて来たりする事になっております」


双子が住んでいた『商国』の者たちは、基本的に朝晩の二回しか食事を取らない。朝晩をしっかり摂り、昼はおやつなどで軽く済ませる。


しかしユイリの家族は、ギードが『王国』出身であるタミリアに配慮し、きちんと考えられた量を三回に分けて用意していた。


ミキリアもいっしょに食べていたが、ユイリはそこまで食欲はなく、ギードに合わせていた。




「僕はいらないけど、ミキには何か軽いものを用意してください」


エルフは基本的に少食である。


ミキリアは王都ではまだあまり動き回っていないのでそんなに必要としていないはずだ。


「そうか。ミキリア、何がいいかな?。何でも遠慮なく言ってごらん」


祖父の言葉にミキリアの顔が輝き、窓の外を指差す。


「あれがいいー」


少し控えめな声だったが、目は期待に満ちていた。


「あの屋台か。ふむ」


祖父は控えていた秘書に耳打ちし、おじさん秘書はにこっと笑って出て行った。




 ミキリアは、祖父の部屋から毎日通りに並ぶ屋台を見ていた。


窓は閉まっていても、食べている人々の顔を見ているだけで、ここまで匂いが流れてきそうである。


王都の目抜き通りは様々な飲食店があったり、個人で出している屋台もある。


人気のある店は行列が出来ていたり、屋台で買って帰る者、そのままその店の外に設置された簡易な食卓と椅子で大勢でおしゃべりをしながら飲み食いする者など様々だ。


(外に出られるようになったらあれが食べたい。あ、あっちも食べてみたい)


ミキリアは毎日そんなことを考えて、内心よだれを垂らしていたらしい。




 しばらくして戻って来た秘書のおじさんは、近場の屋台を何軒か回ってくれたようだ。


双子の前に串焼きやお菓子のような甘い匂いの団子など、数種類が並んだ。


「いいの?」


「もちろんだよ」


祖父の言葉にミキリアが感激のあまり抱きついた。


「お祖父さま、大好き!」


祖父は孫娘の可愛い笑顔に思わずでれっとした顔になる。


それから毎日、お昼はいろいろな屋台の料理が並ぶことになった。




「あらあら、これは大変」


ある日の午後、ミキリアの様子を祖母が見咎みとがめた。


ミキリアは大きな肉が串に刺さった物を口に入れている最中だった。


 祖父が怒られていた。


ミキリアは慌てて飲み込むと、祖父が自分のために怒られているのがわかって困惑している。


「あたしが食べたいって言ったからー」


「いくらかわいい孫娘が欲しがったからと言ってもやり過ぎですよ」


祖母は、ミキリアは悪くないと頭をなでながら祖父に説教している。


ミキリアはこの家の一番の権力者が誰なのか、理解した。



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