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エルフと木

今回は五話で終了です。五日間、毎朝6時に予約投稿済みなので、よろしくお願いします。


 エルフの少年であるユイリは、とある事情により双子の妹で人族のミキリアと供に母方の祖父母の家がある王都で暮らす事になった。


それまでは両親と三歳年下の妹と供に、隣国である『商国』という国にいた。


『商国』とは森を中心とした少し大きな町程度の国であり、神を国主としている。しかしその実態は『闇のハイエルフ』と呼ばれるユイリの父親ギードが作った商会である。


そこには獣人や妖精族が多く住んでいたが、 全員がその商会の従業員という特殊な国だった。


 でも王都は違う。


ここは人族の王を中心とした『王国』であり、人族の多い都会である。


 



 ユイリは見慣れない天井の、自分たちにあてがわれた部屋で目を覚ます。隣の寝台には妹が寝ている。


そういえば、ここは祖父母の家だったと思い出す。


「早過ぎるかな」


まだ外は暗い。


 ユイリはギードが毎日陽が昇る前に起き出し、森の中を散策しているのを知っている。


時々それに同行していたので、最近は同じ時間に目が覚めるようになっていた。


(外に出たら怒られるかな?)


都会には魔獣なんていないらしいし、この時間なら人通りも少ないだろう。


もそもそと寝台から降り、着替え始める。





 祖父母の家は王都の中心から少し西にある。


周りは大きな商会や飲食店が並んでおり、店舗である表側は王都の目抜き通りに面している。


しかし自宅の出入り口がある裏通りは、思ったより静かで庭も広い。この辺りは裕福な商家や貴族の屋敷もあるそうだ。


(そういえば、前ここに来た時、庭で友達の虫さんを呼んで怒られたっけ)


ユイリの持つ『パーンの笛』は魔力を込めると何かを呼び寄せる。当時、よく呼び出していたのは土の中で生活する虫のような魔獣だった。


(あいつら、元気にしてるかなあ)


商国で暮らすようになってから、師匠であるいにしえの獣人パーンから笛の指導を受けていた。


むやみに「友達」を呼び出さないように魔力を込めない吹き方も覚えたので、今ではあまり呼び出したりはしない。




 ユイリは建物の裏にある庭へ出る。それなりに高い木がある。


老舗といわれるだけあって、王都の一等地に長く存在しているこの商会の歴史は古い。


庭も立派なものである。


「へぇ、森の木みたいだー」


子供でもエルフである。


木の匂いを吸い込むと、庭の中で一番大きなその木に身軽に登り始めた。スルスルと屋根より高い場所まで来た。


 やがて空が白み始める。


「おー、すごーい」


ユイリは自然の風景だけではなく、こういった誰かの手で造られた風景も美しいのだなと感心した。


木の幹に腰掛け、たくさんの屋根や教会など背の高い建物が、朝陽にきらめく様を珍しそうに見まわす。




 のんびりと静かな町を見下ろしていると、何やら家の中が騒がしくなっていた。


「エルフのおぼっちゃまの姿が見えません」


感度のいいエルフの耳に聞こえてきたのは、自分を探しているらしい声だった。


「いけねー、黙って出て来ちゃった」


ユイリはわざと木の枝を揺らし、家の方を見る。気が付いた使用人がこちらを見たので手を振った。


「旦那様、あそこにー」


祖父の姿を見て、ユイリはにこりと微笑んで、普通に木から……飛び降りた。




「きゃあああああぁぁ」


女性の使用人の声が響き渡り、ほとんどの者が庭に出て来てしまった。


「あのー??」


普通に地面に降りたユイリは、どうして騒がれるのか分からず首を傾げる。


「ユイリ、まあ、ユイリったら」


祖母が駆け付け、ユイリの身体を抱き締める。


「大丈夫?、怪我はない?」


「え?、なぜ怪我するの?。ただ木に登ってただけだよ」


庭の、一番大きな木にいたユイリを見つけた者たちは驚いていた。二階建の商会の建物よりも高い場所にいたからだ。


そして、その高さから子供が飛び降りたのだ。見ていた大人たちは肝を冷やしただろう。




「ああ、そうだったわね。あなたはエルフだった」


微笑んでユイリの髪をなでる祖母の目に涙が浮かんでいた。


それを見たユイリはまたやらかしたのだと察した。


「お祖母さま、ごめんなさい。心配させてしまって」


祖母は首を振り、


「いいのよ。さあ、朝ご飯にしましょうね」


と言ってユイリを伴い、家に入る。




 食堂には妹のミキリアだけがぽつんと座っていた。


「ユイのばか」


お腹を空かせたミキリアは機嫌が悪い。隣にユイリが座ってもまだぶつぶつ言い続けていていた。


 今朝、双子の部屋へ起こしに来た使用人がユイリの不在に気づいて探し始めた。


それをぼんやり寝ぼけまなこで見ていたミキリアは、顔を洗い、ひとりで食堂へと降りて来た。


しかしまだ見つかっていないらしく、使用人たちが右往左往していた。


「ユイならきっと木のあるところー」


ミキリアの言葉に使用人の女性が木を見上げ、その姿を見つけたのである。


 


「エルフはやっぱりすぐに問題を起こすー」「うるさい」


朝食を終え、双子は部屋に戻った。


朝食は双子に合わせてくれたのかパンケーキだったが、しょんぼりしていたユイリはあまり味は分からなかった。


ミキリアは呆れるほどおかわりをしていた。やさしそうな伯母に安心して、子供らしくない遠慮はやめたらしい。


「はあ。しかし、あれくらいの高さでも飛んじゃだめだったんだ」


ユイリは困った顔をしている。


「あったり前じゃなーい。ここは森じゃないんだからー」


ミキリアはにやにやしながらユイリをからかう。




 しかしそうなると、エルフとしては少々困ってしまう。


森の民であるエルフが木に登ることも出来ないとは。


「登っちゃだめって言ってないでしょ?」


妹の言葉に、「そうだけどー」とユイリは顔をしかめる。祖父母に心配をかけるのはよくないと思う。


「ん?、でもそれなら見つからなければいいんだよねー」


ユイリは父親ゆずりの黒い笑みを浮かべた。ミキリアはそれを呆れ顔で見ていた。


「何でもいいけど、あたしを巻き込まないでよね」


わかってるよー、という兄の言葉を妹は信用していなかった。




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