理想郷
プロローグ
昔、昔 あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女神の四姉妹がおりました。
この世界はその四姉妹の力により四季の恩恵を受ける自然豊かな雄大な大地や豊富な資源、幾つも島が浮かぶ綺麗な楽園と呼ばれ人々に親しまれる世界でした。
その世界は五つの国々に別れていましたが、どの国も大地や気候の恩恵を受け、川は縦横無尽にどこにでも清水が流れ土地を潤し、作物は五穀豊穣に実り、その大地に住む生きとし生けるもの全てが、豊衣足食で平和な日々を過ごしていました。
四姉妹たちは決められた期間、交替でとある塔に住むことになっています。
そうすることで、姉妹達のちからが発揮されそれぞれの季節が訪れるのです。
ところがある時、いつまで経っても冬が終わらなくなりました。
冬の女神様が塔に入ったままなのです。
辺り一面はどんどんと雪に覆われ、氷で閉ざされて行きます。
楽園と呼ばれた国々も冷たい氷の世界に閉ざされていきます。
今まで食物に困ることの無かった国々も、このまま冬が続けば貯蔵されていた食糧でさえ底を尽くのは時間の問題です。
なぜ?冬の女神は塔に立て籠ったのでしょうか?
冬の女神に何が起こったのでしょう?
その答えを見つけるために少し時間を遡って状況を解明していきましょう。
1、 四季と四姉妹と5つの国
季節を司る四姉妹達はどんな女神達なのでしょうか?
そしてその恩恵を受ける国々は、どのような国々なのでしょうか?
まず、そこから覗いていきましょう。
春ーーー始動の季節。
徐々に日射しに暖かみが増していき、ゆっくりと冬の間に積もった雪や氷を溶かしはじめ、山の土はたっぷりと水を含み森の木々の成長の源となり、山の土を通して濾過された水が川へと流れこみむ。
日々じんわりと上昇して行く気温とその蓄積さられた水のおかげで山の枯れ葉の隙間からは新しい芽生えが育んで行く季節。
人里では人々は種をまき、作物を育て始める。
その春を司るのは、四姉妹を束ねるしっかりとした女神で大人しく物腰の優しい暖かい笑顔が絶えない女神です。
夏ーーー成長の季節。
日射しは長く強く大気を温め動植物の活動を活発化させて来ます。
山、水田、野原は緑一色に、空は青く高く、気温の上昇で蒸発した水分が上空で冷され動植物達に雨となって恵みをもたらします。
その夏を司どるのは、四姉妹の中で活発で明るい行動力のある女神です。
秋ーーー実りの季節。
長い日射しは徐々に衰え、成長仕切った植物は、実をつけ始めます。
山、水田、野原は黄褐色に色を変え、動物は、これから訪れる冬に向けて準備を初めて行きます。
その秋を司どるのは、四姉妹の中で一番賢く、博識な女神です。
冬ーーー休息の季節。
日射しは短くなり、気温もどんどん下がって行きます。
野山の木々は葉を落とし、植物は枯れて休息を始め、その上にゆっくりと雪が降り積もって行きます。
山の動物達の中には冬眠して過したり、寒さをしのぎながら行動を控えます。
世界は銀世界で静かな安息が訪れます。
その冬を司どるのは、探求心の強く動植物を愛している女神です。
この四姉妹はとても仲が良く塔に入っている時以外は3人で何時も一緒に過ごして居ます。
山々に囲まれた国
四姉妹の恩恵を受ける世界の中央に山々に囲まれた国があります。
この国は、平地が少なく、海からも遠いので農業や漁業は成り立たちませんが、山には豊富な鉱物がありそれを産掘し、加工をし、他国に輸出をして国は成り立っています。特にダイヤモンドやエメラルドと言った貴石、金銀銅の貴金属がたくさん採掘させてそれを使った宝飾品の作成、鉄やステンレスなどの金属を加工し、農機具、包丁から刀剣等が有ります。
この国の中央の一番高い山の山頂に女神達が司る塔があります。
北の国
世界の上部分に大きな平原が広がり海に面した国が有ります。
しかし、この国は冬の寒さが厳しく、大きな海に面した陸地の大部分は冬海が凍結し、平原も国土の半分以上は永久凍土で作物は育ちません。作物の育つ土地も有りますが、過酷な土地の地中には化石燃料の埋蔵量が多くそれを採掘、精製して輸出入しています。
山々に囲まれた国と隣合わせと言うこともあり貴金属等を輸入し、広大な土地と一部氷ない港が有るので、積雪から取れる純水が豊富に有り、精密機械や石油製品を作る工場が多く工業立国となっています。
冬の女神の影響を色濃く受ける国です。
南の国
世界の下の部分にも、大きな大地と海がが広がります。
この国は、埋物資源には恵まれて居ませんが、広大な土地、温暖な気候、世界中央の山脈から流れ出る豊富な水源があるため農業や酪農が盛んでこの世界の7割の穀物、果物、野菜など生鮮食品を輸出している農業立国です。
ただ、温暖な気候の為生鮮食料の保存には向かず、水産資源や水産加工には向いてません。
夏の女神の影響を色濃く受ける国です。
東の国
世界の東に大中小の様々半島や島が集まった諸島群があり、一つの国を形成しています。
この国は、魚介の養殖、漁業、生鮮食品の加工工場などがあり、暑すぎず、寒すぎず快適な気候と独自の生鮮食品の備蓄のノウハウがあり、食品加工、食品の貯蔵と各国の流通拠点とした世界の台所の役目をしている国です。
秋の国の影響を色濃く受ける国です。
西の国
世界の西には今までの国と比べると領土は狭いですが教育、医学、様々な分野の研究開発機関、リゾート開発、エンターテーメントを発信している国があります。
世界の研究者が集まり世界一の研究施設を数多く設立し、高度医療設備の整った世界で一番大きな病院やリハビリ施設を保有し、他国から観光客を集客するための大きな遊園地、カジノ、映画館、水族館、動物園、博物館、図書館、リゾートホテルがあり、世界中の人々が行き来をする観光と教育立国です。
春の女神の影響を受けている国です。
世界は、それぞれの国が有るもの無いものを輸出入して補いながら、人々はそれぞれの国を自由に行き来し、五つの国が一つの国の様に特化した分野の技術提供を各国協力しあって平和に発展・繁栄をしていました。
四姉妹は、自分達の司る世界が平和で発展して、人々の笑顔を見るのが好きでした。
その国々の人の声に出来る限り手を差しのべていました。
例えば、それぞれの季節は、四人それぞれ決まった日数がありましたが、日照不足で穀物の成長が遅い場合、四姉妹で話し合い、夏の季節と秋の季節をそれぞれ長くし穀物の成育を促したり、前年降水量が少なく水不足気味だと冬の季節を少し長くし、しっかりと貯水し、春の季節に気温の上昇を調節したりと人々の願いに応えていました。
人々は、姉妹に感謝し、敬いながら暮らしていました。
ですが、姉妹は人々の声は聞きますが人々の前に現れる事は有りません。ごくたまに幼い子供の遊び相手をすることはありますが決して大人の前には姿を見せることは有りませんでした。
長い年月が経つと、いつしか人々は四姉妹の存在は、空気の如く当たり前の事で日常へと変化していました。
しかし姉妹達は、人々の笑顔と平和な暮らしを見るのが好きであって人々の感心が自分達に有ろうと無かろうとずっと変わらず人々の声にできるだけ応えていました。
2.世界の変化
そんな平和な世界に暗雲の兆しが現れてしまいます。
この世は、他にも色々な神々が統治する世界が幾つも存在しています。
その多くの神々の中で四姉妹もその多く存在する神の一部です。
その神と相反する存在があります。
悪魔です。
神々の存在と同じように悪魔も至る所に存在し、人々を増欲させていき、争いを起こしています。
元々悪魔も天上で神々として存在していましたが、天界が2つの勢力に別れ争い、その結果敗れた神々は天上を追われ地底へと追放されてしまいました。
神々の争いの話はまたの機会に詳しく語る事として、天上を追放された【悪魔】と言う扱いを受ける様になった神々は、憎悪と反発で神々の統治している世界を壊すことで天上の神と敵対しています。
悪魔は人々の中に紛れ、人々を誘惑し、争いの芽を囁き育て争いを煽ります。
その悪魔が四姉妹の司る世界に目をつけ人々に紛れて誘惑して来たのです。
悪魔は人の姿に変えて潜んでいるため、なかなか神々も悪魔だとは分かりません。
悪魔の舞い降りた初めの地は北の国でした。
悪魔は北の国の人々に冬の季節を無くなれば、広大な大地に自給自足できるだけの穀物を成育させる事ができ、氷ら無い港が増え豊富な化石燃料と精密機械でもっと国を豊かにできると囁きます。
国がもっと豊かになれば山々に囲まれた国を手に入れて材料の調達ができ機械産業をもっと発達させる事が出来る。そうなれば、この世界はこの国が簡単に支配できるようになると。
冬の女神を連れ去り幽閉し、冬の季節の到来を妨げよと。
北の国の統治者は、悪魔の甘い囁きに野望の灯びをつけてしまいます。
北の国の統治者は軍隊と悪魔の力を借りて、冬の女神を自国に連れ去り幽閉することに成功します。
残った姉妹達は、ある日突然冬の女神が姿を消してしまたことに心配で至る所を探しましたが規則通り塔には入らなければならず、思うように探せないまま季節を巡らします。
北の国の思惑通り、季節は冬が来ないまま巡ります。
何周かの冬のこない季節が回る事で永久凍土だったところは溶けていき、領土全体が氷から解放されました。
北の国は悪魔にそそのかされ山の国と戦争を始めます。それを皮切りに世界のあちこちで戦争が起こり始めました。
戦争が激しくなりはじめた頃、世界に冬がなくなった弊害が起こり始めます。
当初、他の国々も冬が来ない事で植物の成長のサイクルが速まりいいように思っていましたが、四季のバランスの大切さに気付かされることとなります。
まず、永久凍土が溶け出して海の水位が上昇し始めます。
各国の海抜が上昇していきます。特に東の国の被害は甚大で半分近くが水没してしまう程です。
永久凍土の中には太古の昔に流行った絶滅したはずのウイルスが眠っていました。氷が溶け出したことでウイルスが地表に姿を現して次々と人々に未知の病原体として蔓延していきます。
気温が上がり、日照りが続き、雪での貯水が無くなった大地では砂漠化が始まります。海水が増え気温上昇することでハリケーンや台風などの自然災害が世界のあちこちで起こります。
そうなると豊かだった世界はバランスを失い貧困にあえぐことになります。
その貧困を補うために各国は戦争続けます。
残された3姉妹は季節を巡らせながら大神の力を借りて冬の女神を探してもらっていました。
大神は幽閉された冬の女神を見つけ無事解放しますが、この時世界は戦火と異常気象で変わり果てていました。
3.済世
大神はこの世界の時間を止め解放された冬の女神と三姉妹の女神たちにこの世界を元に戻す方法を探すべく時間を与えます。
四姉妹は必死で考えを凝らします。
気候のバランスは今ならこれまで通り四季を巡らし長い時間をかければ回復しますが、戦火はどうすることもできません。
この戦争を人々自らやめない限り世界は終焉へと向かうだけです。
戦争を始めるのも止めるもの人々であり、悪魔も人々に戦争をするように囁くことはできても悪魔が戦火を切ることができないように神もまた人々に止めるように気づかせることしかできません。
そう、神に祈っても戦争は人々自らの意思で止めなければ終わらないのです。
しかし、人々にどうやって武器を置かせるか?
どうやって悪魔の囁きから人々を目を覚まさせるのか?
冬の女神がこう提案します。
「私が戦争が終わるまで塔に籠ります。悪魔が人々に塔から私を連れ出そうとしても冬の力で塔自体凍らせれば手出しできません。
人々に武器を置き子供たちの遊び声が私の元に届くまで塔に籠ります」
残りの三姉妹もそれに同意し、長い冬がやってくる前に無関係な動植物達に長い冬に耐えるよう冬眠に備えるように囁きます。
そうして準備が終わると大神は人々に啓示を与えます。
「すぐに戦火を治めよ。さもなくば氷の世界で生きよ」
しかし5つの国々はなかなか自国から戦争放棄しません。
それどころか塔から女神をだましたり、力づくで引き出そうと策略します。
しかし、女神は塔自体凍りつかせ人々は近寄れません。
世界は氷河期を迎えます。資源も厚い氷の下に閉ざされ、低い温度で食物は育たず、備蓄も戦争でほとんどありません。
ある子供が大人に聞きます。
「どうして、昔の様にみんな仲良くできないの?今よりずっと住みやすかったよね?」
大人たちも悪魔の囁きから目を覚ませます。以前は平和で満ち足りた生活を送れていたのになぜそれを壊してまで戦争をするのか?
奪うことで奪われ今は何も残っては居ないじゃないか?早く戦争を止めて冬を終わらそう
人々の心に以前の平和な世界が思い出されます。
人々は徐々に武器を捨てていきます。すると武器を捨てた人々の元には冬の厳しさが緩んでいきます。
それは、徐々に世界中に広がっていきます。
世界の全て人々が戦争を放棄した時、世界は子供たちの笑い声がありました。
その声を聴いた冬の女神は塔の氷を取り払い春の女神へと塔を交代し出てきました。
そして、今まで通り四季は巡り始めます。
それから何度か季節が廻った頃、そこには以前にもまして美しい豊かな世界と人々の笑顔が広がっていました。
春の日射しの様に凍った心は力によってではなく笑顔によって溶かされるもの。