私にはできない
苦節22年、今年で23年目。
私はずっと「姉」だった。
3歳離れた弟が1人、従兄弟たちは年下ばかり。
必然として私には「歳上のしっかりした姉」の役割が与えられた。
兄弟親戚の面倒、喧嘩の仲裁に家事、人生相談までなんでもやって、私は大人たちの期待に答えてきた。
そうして培った「姉」スキルは学校社会では大いに役に立ったこともあるし、逆に偉そうとか生意気とかいう印象を相手に与えることも理解した。
さて、いい歳こいてくるとみなが夢中になるのがそう、恋愛ごとである。
こと私の歳になってくると、もうすでに結婚していたり、少し早い気もするが子供がいたりする同級生がいるわけだ。
一方の私はというと、彼氏いない歴=年齢の立派な喪女だったりする。
異性の知り合いがいないわけではない。むしろいる方だとは思うのだが、彼らが私の恋人になるかと言われれば、まぁそうなる確率は低いだろう。
原因としては、まぁ私がその気にならないために努力しないのが1つ。
もう1つはこの溢れんばかりの「姉」もしくは「母」のオーラではないだろうかと分析している。
誰も姉ちゃんや母さんに恋情など催さないだろう。
それほどまでに私は長女道を極めてしまったのだ。
「ねぇ千景、やっぱりさ、別れた方がいいかな?」
「うーん、最終的に決めるのは美香だけど、私だったら、普通に美味しい料理にケチつけるみみっちい男はいらんかな」
「だよね!うん。やっぱ別れるよ!ありがとう話聞いてくれて〜」
「ううん、いいよいいよ」
「ふふ、やっぱり千景お母さんみたい!」
「私は君のカーチャンなんぞゴメンだ」
そう軽口を叩きながら友人である沖田美香は次の講義室に向かった。
相談があるの、と呼び出されたのは昨日。
昼御飯がてらに学生ラウンジで会って、相談に乗ったという次第だ。
誤解なきように言っておくと、私は次のコマは空きである。
研究室で時間を潰してもいいが、どうせ検体を機械にかけてしまっているため、あと2時間は何もできない。
ならばと私はカバンからアルバムを取り出した。
今年卒業する、研究室の先輩方に贈る手作りのアルバムを作ろうとなったのはいいが、誰も進める様子がないため、もう自分でさっさと作っていた。
希望して入った理系学部、その研究室、そして院生という立場。
忙しくはあるものの充実した毎日。
「お、古谷じゃん、元気?」
「おや、十和じゃないか。元気だよ。君は元気そうだな」
「まぁね。相変わらず色々抱えてるなぁ?それ、今年卒業する先輩へ贈るアルバムだろ?
1人で作ってるのか?」
「え、あー…まぁ誰もやりたがらないし」
「お前、別に暇じゃないのにいつも余計なこと抱えてるよな」
「性分でね」
アルバムを作り始めた私に気さくに話しかけてきたのはこれまた友人の本郷十和だ。
彼とは研究室は違うが学籍番号が近いということで仲良くなった経緯がある。
なにかと気がつくイイ男だが、いかんせん主張が足りずに損な思いをする奴だと私は思っている。
十和は私が座っている座席の向かい側に座ると、ペラペラと作りかけのアルバムを眺め出した。
「うへぇ、よくこんな細かいこと大量にできるな。これどうやってんの」
「誰にだってできるだろ。やろうとしないだけだ」
「いやいやむりだって…1人だろ?手伝うよ」
「いや結構。君とは違う研究室のことだし、
今は暇だからやってるだけだよ」
私がそう返すと、十和は少し哀しそうな顔をして、そっかと返してきた。
ああ、いつもこうだ。
私は長くない人生で、姉や母を演じ続けた弊害なのか、人に甘えることを忘れてしまった。
嫌なことがあってもギリギリまで我慢して、予定は詰め込めるだけ詰め込んでたまに破綻する。
きっと男の子は、甘えてくれる素直で可愛い子がいいに違いない。
私のようなツンケンしたオバハンくさい女じゃなく。
そう…例えば、私が大好きな乙女ゲームの主人公みたいに。
王子様の隣にはお姫様がいる。
私はさしずめお姫様を育成する家庭教師か、下手したらそこら辺のモブだ。
だから、私には、私のような人間には、
恋愛はむりなのだ。
手先を動かしてアルバムを飾りながら、私は少し落ち込む。
お姫様に、憧れないわけではないけれど。