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コメディ

ももたろうではない何か

 むかぁし、むかし。

 あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

 ある日、おばあさんが川から大きな桃を拾ってきました。

 それを知ったおじいさんは大激怒。


「川に流れていたなんて、そんな汚いもの、捨ててきなさい!」


 おばあさんは怒られて桃を川まで捨てに行きました。

 しかしおばあさんは大の甘党の上に意地汚い性格をしていたのでこっそり桃を食べようとナタで一刀。

 するとどうでしょう。

 中から太刀傷を受けた幼子が現れたのです。


「わ、わたしじゃない! わたしがやったんじゃない!」


 おばあさんは殺人未遂で立件されることを恐れていましたが、男の子は無事に生きていたのでとりあえずセーフでした。

 明るみに出なければ犯罪かどうかは誰にもわからないのです。

 おばあさんは男の子を家に連れ帰ってきました。

 それを知ったおじいさんは大激怒。

 おこ状態でした。


「どこから拾ってきた!?」


 しかしおばあさんは太刀傷の件もあり、野ざらしにしておくわけにはいかないので逆ギレしました。激おこ状態でした。


「あなた、わたしのことをあんなに激しく抱いた晩のことを忘れたの!?」


 手痛い反撃に、おじいさんは閉口。

 80を過ぎてもおじいさんの中にあるビーストパワーは衰えを知らなかったのです。

 おじいさんは男の子を育てることをしぶしぶながら了承しました。

 ただの托卵とも知らずに。


「お前の名前はももたろうだぞ」


 おじいさんが命名しようとすると、おばあさんが大激怒。激おこプンプン丸状態です。


「なんですかその名前は。いじめ問題が横行している昨今、そんなたちが悪い名前なんてつけさせるものですか!」


 二人は頭を捻って悩み、ももたろうではなく獅子覇流怒(レオパルド)と名付けることにしました。

 国際社会で通用する、素敵な名前です。


 レオパルドはすくすく成長し、やがて旅に出ることを決意します。


「こんな名前をつけるような親と、一緒にいたくない」


 そう言い残し、おじいさん秘蔵の、三十年もののきびだんごを盗んで二人の元をさりました。

 思春期でした。

 旅を始めたももた……レオパルドは、道端で犬に出会います。


「こんにちワン。三十年もののきびだんごの芳醇な香りがするワン。分けてくれたら仲間になってやるワン」


 犬は持ち前の嗅覚で三十年もののきびだんごを嗅ぎつけ、そう言いました。

 しかし、名前に反して常識派のレオパルドは眉を寄せて刀を抜きました。


「おのれ、犬のくせに人の言葉を話すとは面妖な!」


 一刀のもとに切り捨てると、再び旅を続けます。

 その日の夜は久々に肉が食べられて大満足でした。


 しばらく歩くと、今度は雉に出会いました。


「今夜は雉鍋だな」


 刀を抜くもも……レオパルドですが、雉は空を飛べるためにに逃げ去ってしまいました。

 三十年もののきびだんご以外に食べ物がなく、レオパルドは空腹を堪えて眠りました。


 またしばらく歩くと、今度は猿が現れました。


「ウキッ! キッキィ!」


 猿の脳は珍味だと聞いたことがあったレオパルドはそれを一刀の元に切り捨てましたが、さすがにゲテモノなので食べるのはやめました。

 そのかわり、猿が死んだことによって、農作物の被害が出なくなった村人たちに歓待され、ごちそうをたらふく食べることができました。

 村人たちが、


「いつまでもここにいてください」


 と言うので夢のニート生活が目前だったのですが、名前を訊ねられたレオパルドは一目散に逃げました。

 恥ずかしくて名乗れなかったからです。


 さて、恥ずかしさのあまり人を避け始めたももパルドは、やがて人外のあやかしが住むといわれる島、”鬼ヶ島”の話を耳にします。


「人でなければ、拙者を受け入れてくれるかも知れぬで御座るな……」


 名前に反して古風な一人称のももパルドはそんなことを考え、鬼ヶ島を目指すことにしました。




 それから苦節3年。

 孤独のあまり発狂しそうな過酷な旅が続きました。

 唯一の友達は旅の始まりからずっと一緒だった日本刀のみです。

 つまりももパルドは刃物と対談できる危ない男になってしまったのです。

 そして、ついに鬼ヶ島にたどり着きました。


「ここが鬼ヶ島でござるよグヘヘへ。親友よ、今度はどんな生き物を切りたいでござるか?」


 抜き身の刀を持ったももパルドに、鬼ヶ島に住んでいた鬼たちが続々と集まってきます。

 そこから先はももパルドのフィーバータイムでした。

 迫りくる鬼たちをヒャッハーしながらばったばったとなぎ倒し、愛刀に血を吸わせていきます。


「貴様、何をしているか!?」


 島の統治者である大鬼がその惨状に気づいたとき、すでに動くものはももパルドだけになっていました。


「貴様っ! よくも我が同胞を! はらわたを引きずり出して喰らってやる!」


 その言葉に、ももパルドは懐から三十三年もののきびだんごを取り出しました。


「そんなに喰らいたいなら食わせてやるよ――こいつをな」


 三年のうちに厨二病(ししゅんき)をこじらせていたももパルドは、倒置法とダッシュといういかにもな発言とともに指できびだんごを弾きました。


「うぐっ!?」


 思わず飲み込んでしまった大鬼はすぐに体の異変に気づきました。

 作られてから三十三年もの間食べられることなく放置され続けてきたきびだんご。

 それはサルモネラ・ボツリヌス・黄色球菌といった菌類のはびこるバイオテロ兵器と化していたのです。

 

 島に、静寂が満ちました。

 その島で、ももパルドは愛刀と仲睦まじく暮らしましたとさ。


 あまりめでたくなし、あまりめでたくなし。

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