手合わせ
ドレイクに言われた通り中庭に出ると、その中央辺りに彼は立っていた。
「時間も惜しい。早速開始と行こうか」
「おう」
ドレイクが俺に模擬刀を渡してくる。
さすがに真剣は使わないか。
俺が模擬刀を受け取ったのを確認すると、ドレイクは腰に巻き付けていた布袋から砂時計を取り出した。
「勝負はこの砂時計の砂が落ちきるまで。時間にすると、大体三分って言ったところか」
「それまでに、俺があんたから一本取ればいいのか?」
「まあ、そういうことになるな。こちらの勝利条件も同じものを提案しよう」
「分かった」
ドレイクが剣を構える。
目つきが変わった。
鋭い視線が俺の体を射抜く。
「それじゃあ、胸を借りるつもりでやらせてもらうぜ……異世界人さんよ!」
ドレイクが剣を構えて突っ込んでくる。
その勢いはまさに嵐のようで、まったく隙がない。
俺は剣を体の前に構え、防御姿勢を取った。
ガァン!
模擬刀とは言え、その材質は硬いもので出来ている。
誰も居ない中庭に重い衝突音が響いた。
「へぇ、この勢いの攻撃を軽々と受け止めるんだな」
「何せ俺は"剣が得意な"異世界人だからな」
俺が今の一撃を受け止められたのは、正直掛けだった。
予想では、今の俺の体は「星片物語」や「トワイライト・アフター」に出てくる主人公の体になっているはず。
何故そんな予想を立てたかといえば、つい数時間前にメイドたちから渡された鎧や剣を身に付けた時にまで遡る。
あの時初めて持つはずの剣や盾、そして鎧が異常な程に軽く、まるで今までも持っていたんじゃないかという錯覚さえ覚えた。
それが、この予想を立てた理由だった。
予想は無事的中。
現に今、こうしてドレイクの一撃を受け止めている。
「ま、こんくらいはやってくれないと……な!」
ドレイクは一旦身を引く。
「じゃあ次はこっちから行かせてもらうぜ」
剣を構え、ドレイクに向かって駆け出す。
一太刀、そして二太刀と剣を振り下ろす。
やはり剣を振る動作が軽い。
ろくすっぽ剣など振ったこともない俺が、騎士団長を務めるドレイクと戦えているのだ。
今の俺には、主人公の剣の才能がインプットされているようだ。
「いい攻撃だ。見ている箇所も悪くない」
「そうかい、ありがとうよ」
「しかしまぁ、アンタくらいのが城に来ちまうと俺なんてすぐに追い抜かされちまうだろうなぁ」
いや、そんなことはないだろう。
素人目から見ても、今のドレイクは明らかに手を抜いている。
俺の方は結構本気で振っているのに、彼の表情は微塵も変わらず余裕そうだ。
それからしばらくつばぜり合いが続いて、
「よっと……」
再びドレイクが身を引いた。
「さて、そろそろ時間も迫ってきた。次の一撃で決めるとしようや。これを受け止められればアンタの勝ち。……通れば俺の勝ちだ」
そう言って構えたドレイクの様子は、今までと明らかに違う。
不思議なオーラを纏っている。
なんというか上手く言い表せられないけれど、少し本気を出してくるような雰囲気だ。
「じゃあ、行くぜ」
言った途端。
ドレイクの姿が見えなくなった。
物音一つ立てずに、まるで最初からいなかったかのように。
――でも、俺には聞こえる。
「貰ったッ……!」
背後からの声。
風を斬り、俺の背中を狙おうとする一撃の音。
物が空気中を移動する時に発される、空気摩擦の音。
「ここだぁっ!」
俺は高速で身を捻り、剣とは逆の手、左手に持つ盾でドレイクの強襲を防ぐ。
そして、右手に持った剣で彼の脇腹を捉えた。
「な……にっ……!?」
ドレイクの表情が初めて変わると同時に、砂時計の砂が落ち切ったのだった。