表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

騎士団長ドレイク

「あのー……セシリアさん?」


 俺の腕を引いてずんずか歩いていくセシリアに声を掛ける。

 すると、彼女の足が止まった。


「……私、お父様とグーリエッヒがあんな大事なことを隠しているなんて思いもよりませんでした」

「『裁日』の話か」


 グーリエッヒはレブトが言おうとしたのを止めていたし、やはり意図して話さずいたのだろう。

 そんなことより、この食堂を出たあとのパターンはゲームでも本でもなかったところだから何か新鮮っ!

「星片物語」の方では食堂には行くものの、その後は普通に部屋に戻るしな。


「私はグーリエッヒから、ハヤト様が『この国を守るために外から呼ばれた新しい兵士』だと聞かされておりました。剣の腕も立つということで、城の兵士もより一層士気が高まるだろうと」


 つまりセシリアは、俺が「異世界からこの世界を救うためにやってきた人間」だということを知らされていなかったわけか。

 それも、「裁日」のことと合わせて。

 そりゃあ怒るわ。


「やはり私は、まだ子供としてしか見られていないのでしょうか……?」


 やっぱり自覚なかったんですね。


「うーん……」


 俺は考えるふりをする。

 このまま素直に「子供としか見られていない」ときっぱり言うのもアリだが、ここで俺がちょっとふざけた返しをしてもどうせ後には響かない。

 ちょっとからかってみるとしよう。


「でも、さっきの俺にした発言でセシリアがもう子供じゃなくて立派な18歳の女性なんだってみんな分かってくれたんじゃないか?」

「さっきの発言……ですか?」

「そう。『これから私はハヤト様とともに一夜を過ごすのよ!』 って。あれでもうセシリア様は大人の女として認められますよ」

「あ――」


 ちょっと声真似してみたんだけど、割と似てたんじゃない?

 セシリアをからかいつつそんな自己評価を下していると、みるみるうちに彼女の顔が赤く染まっていった。


「――あ、あれは、言葉のあやといいますかっ! なんと言いますかっ、一刻も早くあの場から逃げ出したいという思いで口から出たといいますかっ……!」


 明らかに動揺している。

 大人の女への道のりはまだまだ険しそうですな。

 もう少しからかってみよう。


「つまり俺は、セシリア様に嫌われているのですね……」

「い、いえ! 決してそんなことは!」


 おうおう、このままじゃ話す度にド壷にはまるだけだぜ?


「ということは、俺とあつ~い一夜をお望みで?」

「~~~~っ!!!」


 もう完熟トマトくらいには赤くなってるな。

 事情を知らない人が見れば体調不良と疑われるまである。


「……もういいですっ! ハヤト様なんて知らないもんっ!」


 トマト顔のセシリアはそっぽを向いてしまった。


「私、部屋に戻りますから!」


 そう言って、俺を置いてつかつかと廊下を歩いていってしまった。


「……ちょっとからかいすぎたかなぁ」


 ちょっとのつもりが結構やっちゃったな。最後なんて絶対機嫌悪くしてただろうし。

 これからに響かないように、あとでちゃんと謝っておこう。

 そう思いながら、部屋へと戻る一歩を踏み出したその時。


「アンタが、噂の『異世界人』って人かい?」

「ん?」


 声のした方を向く。

 そこには銀の鎧を着た、いかにもな騎士の男性が立っていた。

 茶色い無精ひげを生やし、その鋭い目線で俺のことをじろじろと見る。


「えっと……」


 俺がその人物に誰かと尋ねようとすると、


「ああ、すまんな。俺はアンタが誰かを知ってるが、アンタは俺を誰か知らないよな」


 そう言って、鎧の男性はスッと俺に向かって手を差し出してくる。


「俺はこの城の騎士団長を務めてる、ドレイクっておっさんだ。よろしくな」

「あ、ああ。よろしく」


 俺は差し出された手を握り返した。

 騎士団長ということもあって、幾多も剣を握ってきたその強張った掌が俺の手を握りしめる。


「あででで!」

「うおっと、すまん。力の加減ができてなかったか?」

「い、いや。大丈夫」


 ドレイクに大丈夫だと伝えつつ、俺は思った。

 ――多分このドレイクっておっさんは、このあと俺に剣の手合わせを申し出てくるだろう。

 「星片物語」、そしてシチュエーションは違うものの「トワイライト・アフター」の方でも、騎士団長の彼と夜に手合わせをするイベントがあったはずだ。


「それで……俺に何か用か?」


 言われることは分かっているが、あまりにも俺が知っているていで話を進めすぎてしまうと、先ほどのレブトのように疑問を浮かべられてしまいかねない。


「ああ。こんな夜で悪いが、ちょっと剣の手合わせをお願いしようと思ってな。今飯食ったばかりだろ? 食後の運動だとでも思って気軽にやらないか?」


 思った通りの返答が返ってきた。


「俺は構わないぜ」

「ありがとう。それじゃあ、中庭の方で待ってる」


 ドレイクはそれだけを残すと、俺に背を向けて去っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ