つまり何をするのかという話
「ハヤト様、こちらですよ~」
くるりくるり、たたたっと、まるで軽快な効果音でも鳴りそうな足取りで食堂までの道を案内するセシリアの姿は、やはり18歳相応には見えない。
とは言え、そもそも「星片物語」や「トワイライト・アフター」での彼女もこんな感じだったので違和感があるわけではないが。。
「お父様! ハヤト様をお連れいたしました!」
「おお、ご苦労だったな、セシリア!」
食堂に入ると、娘を笑顔で出迎えるレブトの姿と、俺の部屋にも来た黒い服の老人の姿が見えた。
後は、恐らく食事を用意したのであろうメイド服姿の女性がちらほらと。
「も、申し訳ありませんハヤト様。セシリア様がハヤト様の下へ行くと聞かなかったもので……」
「まあ、元気なことはいいことなんじゃないか?」
席に着くと、黒い服の老人が俺に頭を下げてきた。
セシリアを初めて見る人間なら確かに迷惑に思うかもしれないが、俺は「トワイライト・アフター」で既に彼女を知っている。
……もっと言えば、セシリアルートは終わっているのでどういった結末が迎えられるかも知っていたりする。
「そう言っていただけると心が楽になります。……申し遅れましたが、私めはこの城に仕える執事グーリエッヒと申します。僭越ながら、セシリア様の教育係もさせていただいておりました」
グーリエッヒ。まあ薄々というかやはりというか、予想通りではあったな。
ゲームにも彼はもちろん出てきていたため、その外見からグーリエッヒではないかという予想は簡単に建てられた。
しかし、名前を知っていてもやはり実際にこう目の前で動かれるとどこか違和感を感じるのは気のせいではないだろう。
「――レブト様。これでお揃いになられたでしょうか?」
数人いたメイド服の女性の中の一人が、レブトの背後に立った。
どことなくベテランの風格があるな。メイド長といったところだろうか?
「うむ。これで全員のはずだ」
「かしこまりました」
そう言ったメイド長が奥へと消えていくと、他のメイドたちもお辞儀をしてから奥へと引っ込んでいった。
「では、食べるとしようか」
レブトの声に、俺たちはそれぞれ朝食を口に運んでいった。
……おお、この料理結構うまいな。見たこともない料理だから名前なんていうのか知らんけど。
「ハヤト殿。そなたには言っておかねばならないことがある」
「ふぇい?」
そのまま料理に舌鼓を打っていると、レブトが深刻そうな声音で言ってきた。
まって、俺今口にもの入ってるんだけど。
「……レブト様! この場にはセシリア様もいらっしゃいます。そのお話はせめてハヤト様のみになさられた方が……」
「構わん、グーリエッヒ。セシリアももう十分に大人になるべき歳だ。……なに、セシリアがこうなってしまったのは何もお前のせいではない。いつまでも子離れできぬ私の責任だ」
「で、ですが」
まあ、レブトが何を言おうとしているのかは知っている。何せ「トワイライト・アフター」での俺のデータじゃこの国は救ったことになってるからな。
ただゲームの方では主人公がこの食堂に来るというイベントは無かった。これからされるであろう話は全てあの謁見室で行われたからだ。
……確か食堂でこうして話すのは「星片物語」の方だったか?
「……知っての通り、ハヤト殿はこの国いやこの地を救うべくして我々が召喚した。故に、そなたにはこの地を救う義務がある」
「まあ、そうだな」
「かつてこの地で引き起こされた七ヵ国戦争を止めるために、天界に住む神々が定めた『裁日』。具体的な期間は定かではないが、『裁日』が訪れる一週間前から、夜空に浮かぶ月が二つに割れるという言い伝えがある」
「つまりその月が二つになるまでに『裁日』をなんとかすればいいんだろ? 分かってるって」
「う、うむ? そうなのだが、なぜハヤト殿がそれを知って……?」
この辺の話はもう知ってるから聞き飽きたのよね。
セシリアルートだけじゃなく次のヒロインのルートまで終わってる俺からすれば、しばらく退屈な日々が続きそうだ。
「俺がなんで知ってるかなんて今はどうでもいいだろう、王様。……よし、ごちそうさまでした」
出された料理を食べ終えた俺は、手を合わせてから席を立った。
「さてと、俺は一足先に部屋に戻らせてもらうよ」
「……お待ちくださいハヤト様! 私も途中までご一緒させていただきます」
するとここまでだんまりだったセシリアが、残っていた自分の分の夕飯を慌ただしく口に詰め込み言った。
「セ、セシリア様! もう少し食事のされ方をお考えになって……」
「うるさいの、グーリエッヒ! これから私はハヤト様と一夜を過ごすのよ!」
セシリアは大きな声でそう言ってみせた。
「なっ……セシリア様!? 今ご自身が仰られたことがどういった意味なのか分かっているのですか!?」
グーリエッヒが、声を裏返えさせながら叫んだ。
しかしセシリアは聞く耳を持とうとしない。
「バカにしないでグーリエッヒ。私はもう18歳よ、自分の発言くらいしっかりと理解しているわ!」
そう言って、俺の腕を強引に引っ張る。
「うわっちょっ!」
「セ、セシリア様!!」
「それじゃあね、グーリエッヒ!」
そして、セシリアは俺を連れて食堂を出て行くのだった。