精神年齢が低い
「ん?」
レブトとの謁見を終えた俺は、再び最初に目覚めた部屋に戻ってきていた。
今は何をしているかというと、この部屋の中を改めて観察していたところだった。
そんな中、俺はふと視界の右端に小さな何かが映っていることに気がついた。
「何だこれ」
よくよく目を凝らして見てみれば、それは何かのアイコンのようなものだった。
目を凝らすごとにそのアイコンが滲んでいる状態からよりはっきりと鮮明に見えてくる。
何の気なしにそれに触れようと指を伸ばしてみた。
すると。
ピロン、というシステム音のような高めの音が鳴り、俺の目の前に半透明の四角いパネルのようなものが現れた。
それには文字が記されており、
『
オプション画面
セシリア・リンゼクロス・フォーゲルン:Vol.10
レミィ・ファルバウ・カータレット :Vol.10
??? :Vol.10
??? :Vol.10
??? :Vol.10
??? :Vol.10
??? :Vol.10
その他
セリフリンクON/OFF :OFF
』
「こ、これって……」
俺はこの文字の羅列を見たことがあった。
上から順にヒロインの名前が並び、その横にボリュームをいじれる欄がある。
試しに「VOl.10」の部分に触れてみると、10から0を選べるポップアップが出てきた。
「その他」に触れてみれば、ヒロイン以外のキャラクターの声のボリュームがいじれた。
「トワイライト・アフターのオプション画面じゃないか」
そう。今俺の目の前に現れているのは、間違いなく「トワイライト・アフター」で見たオプション画面そのものだった。
画面のレイアウトはそのままだし、短期間で散々プレイしたので見間違うはずもない。
だが、その中に一つだけ気になる点があった。
「この、セリフリンクって何だ?」
俺はその「セリフリンク」の部分におもむろに触れてみる。
すると再び高いシステム音が鳴り響き、右側の「OFF」表示が「ON」表示へと切り替わった。
「??」
だが、身の周りで特に変わった気配はない。
「セリフリンク」という言葉の意味もよく分からないし――
「――ハーヤートーさーまー!!!」
その時、部屋の扉の向こうから大きな声と足音が聞こえてきた。
ドダダダダッという効果音がピッタリなその足音とともに扉を開け放ってやってきたのは……
「お父様に教えてもらって来てしまいました!」
ピンクのふわふわとした部屋着に、頭には小さなティアラを乗せている。、
ぱっちりと開かれた目元はそれだけで彼女の元気さを垣間見えさせ、ボブヘアーくらいの長さの栗色の髪がふわりと揺れる。
身長は俺よりふた回りくらい小さい。年齢は、俺よりも10歳は下だろうか?
……いや、設定上では確かヒロイン最年少の18歳だったはずだ。
「…………」
俺は開いた口が塞がらなかった。
何せ今目の前にいるのは、「トワイライト・アフター」及び「星片物語」の第一ヒロイン、セシリア・リンゼクロス・フォーゲルンだからである。
「どうしたのですかハヤト様? ぽかーんと口をお開けになさって」
「えっ? あ、ああ…………」
俺は気を取り直し、セシリアの姿をまじまじと見る。
容姿は当然だが「トワイライト・アフター」や「星片物語」と同じだ。
特にこの乱暴な登場シーンも、上記の二つと同じでもある。
「ハヤト様ー??」
首をかしげ、人差し指を口元に当てるこの仕草も、彼女の年相応でない精神年齢の低さを如実に表している。
「全く同じだ…………」
「おなじ???」
セシリアは俺の言葉にさらに首をかしげた。
……ん? 俺の言葉に?
「……セシリア、俺の声が聞こえるか?」
「何を言っているのですか? 当たり前ではないですか」
セシリアは俺の問いに当然だと頷いてみせた。
……ほう。
俺は再びオプション画面を開いた。
その中の「セリフリンク」に再び触れる。
OFFになる。
「もう一度聞くぞ。セシリア、俺の声が聞こえるか?」
「……?」
今度は何も言わずに首をかしげるセシリア。
……こりゃあビンゴだ。
「なるほど、このセリフリンクってやつがオフになってると相手に俺の声が聞こえないってわけか」
そして選択肢が現れた時にしか会話することができない。
選択肢のタイミングは「トワイライト・アフター」に準拠している時もあるが、完全準拠というわけでもない。
謁見室で出てきた『元の世界に帰りたい』の選択肢が出てきたのがその証拠だ。「トワイライト・アフター」にあのような選択肢は無かったと記憶している。
「ハヤト様ー? 先ほどからどうして口だけを動かして声は発されないのですか?」
おっとそうだった。オンに戻さないとな。
「ごめんな、気にしないでくれ」
「そうなのですか?」
しかし何だこの「セリフリンク」って機能は。
そもそも機能って何だよ。この世界がまるでゲームの中みたいじゃないか。
「それはそうとハヤト様、もう少しで夕食の時間ですよ?」
ん、もうそんな時間なのか。
と思って部屋を見渡してみるが、この部屋に時計は無いようだった。
「食堂までの道のりは既に知らされているのですか?」
「いや知らない」
「では、セシリアにご案内させてください!」
年相応でない幼さがどこか残るセシリアだが、さすが一国の王女なだけあって言葉遣いはいっちょまえなものである。
俺はそんなセシリアに付いて行く形で部屋を出た。