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召喚儀式

よろしくお願いいたします

天を裂き(アリュルゼード・)地を貫かんとする(ブリュッフェンツ)災厄降り落ちる大地(リーゼウォンド・)を救いし大いなる者よ(グレン・ア・ラーミア)…………!!!」


 石造りの広大な地下空間に、青く淡い光を放つ円形の魔方陣が描かれる。

 白いローブを着て木彫りの杖を持った男性が、その杖を魔方陣に向かって掲げる。

 するとたちまち魔方陣から放たれる光は強まり、地鳴りも起こり始めた。


「おお、おおお……」


 この世紀の大召喚を見に来た城の関係者たちは、皆固唾を飲んでその様子を見守る。


「レブト様、本当に大丈夫なのでしょうか……?」


 執事姿の男性が、横の人物に問いかけた。


「……案ずるな、グーリエッヒ。召喚自体は過去に成功しているのだ。我々はそれをなぞるだけ。しかし、一つだけ問題があるとすれば――」


 白い毛皮が首元に付いた赤い上着を羽織った大柄な男性が、黒い服の男性の問いに答えていた。しかしそれを遮るようにして、


「王様……そろそろでございます」


 後ろから、赤い上着の男性に耳打ちをした者がいた。

 耳打たれた男性は話を切り上げると小さく頷き、地下空間いっぱいに広がる大きな声を張り上げた。


「皆の者、どうやらそろそろ召喚儀式が完了するようだ。召喚の際は今よりももっと大きな地響きが襲い来ると聞く! 各々覚悟しておくといい!!」


 男性の言葉に、城の関係者たちは皆床や柱、壁などに手を付き、これから来るであろう衝撃に耐えようと準備をした。


今こそここに(アンブリュエルド・)現れ(ゼンス)か弱き我らと(カリャグラッド・)大地を救いたまへ(コーデンス)――――!!!!!」


 最後の詠唱が地下に響くと同時に、先ほどの地鳴りとは比べ物にならないほどの揺れがこの地下空間を襲った。


「おおおおお…………!!」


 赤い上着の男性も、その横にいる黒い服の男性も、召喚の儀式を瞬きもせず見守る。

 柱と壁に手を付き、その瞬間を目に焼き付けようと揺れに耐える。

 そして――――――――





 俺、星塚隼(ほしづかはやと)は今をときめく大学二年生だ。

 進学校だった高校を主席で卒業してそこそこ有名な大学に入り、そこでも一応入学から学年トップ5くらいの成績は誇っている。

 親はそんな俺を、「ウチの希望の子だ」だとかなんだとか言って色々と買い与えてくれたため不自由はない生活を送っている。

 俺自身も親の期待に応えることが嬉しくて、必死に勉強ばかりをやってきた。

 ――だけど。

 そんな俺はつい数ヶ月前、大学の友人からあるものを勧められた。

 「トワイライト・アフター」という名の美少女ゲームだ。

 今まで美少女ゲームという類の物に手を出したことがなかったため、勧められたときは非常に興味が沸いた。

 何せ、高校から今までほとんど勉強と軽い人付き合いしかやってこず、自分の趣味に耽ることなんてなかったからだ。


 そんなわけで、今俺は絶賛「トワイライト・アフター」にハマっている。

 ゲームの内容はというと、目覚めるとトワイライト・アフターの世界にいた主人公が、成り行きから七つの国を騎士として周り、その際各国にいる様々な問題を抱えた王女を成り行きから助けていく……といったものだ。

 ちなみに王女を助けるイベントのクリア後、その王女から直々に「トワイライトの欠片」というものを渡される。

 ゲーム上では、各王族に伝わる不思議な力を秘めた宝石の欠片という設定だ。

 それを全て集めることで、ゲームとしては一応トゥルーエンドを迎えるらしい。


 らしい、というのは、俺がまだ「トワイライト・アフター」を完全攻略していないためだ。

 確かまだ七人いるうちの二人目くらいまでしか終わってなかったと記憶している。

 「トワイライトの欠片」を一つ集めるごとに一人の王女とのエンドが待っているので、全て集めたとき、真のエンドが見れるのだろうなということは察しがついたわけだ。

 というより、ゲームを始める直前の語り部分か何かで「七つ集めると真実が見える」だとか言っていた記憶がある。

 まあつまり制作側もトゥルーエンドまでやってほしいがための措置ということだろう。

 もちろんすべてのエンドを見ていない以上、俺はその「トワイライトの欠片」がどういった存在なのかというのを理解していないが。



 さてさて、そんな俺は今どこにいるかというと、家の近くの図書館にやってきていた。

 そこそこ大きくて人の出入りも結構ある図書館だが、設備はしっかりと整っていて俺はかなり気に入っている。

 んで何をしに来たかというと。


 ――勉強だ。


 学年トップ5が何を仰る、と思われるかもしれないが、俺は「トワイライト・アフター」にハマって以降大学の勉強を疎かにしていた。

 そのため、来週に迫った次の定期考査が非常に危うい。今ここで無理矢理にでも勉強をしないと、俺は間違いなく順位を落とすだろう。

 そうなれば親の目だってどうなるか分からない。

 俺よりも少しだけ勉強ができないくらいのレベルの弟に乗り換えてしまうかもしれないし、もしそうなれば家に居づらくなって「トワイライト・アフター」すらまともにやれなくなってしまう。

 未来で待つ「トワイライト・アフター」のトゥルーエンドのためにも、今ここで学年順位を落とすわけにはいかないのだ。


「よいしょっと……んー……」


 俺は本棚に掛けてあった適当な一冊を手に取って空いた席に腰を下ろす。

 俺の専攻は物理だ。ペラペラとページを捲り、考査の範囲に入っている部分をノートに書いていく。

 そうして約二時間が過ぎた頃。


「ん???」


 俺はまた別の参考書を取りに行こうと席を立った。

 そして物理学コーナーに足を踏み入れた時、その光景は目に飛び込んできた。

 ――俺と同い年くらいの若い男女が、二人肩を揃えて本を読んでいる。

 読んでいる本は彼らの背中に邪魔されて見えないが、その姿はどこか仲睦まじくも見える。

 しかし問題は、彼らの服装にあった。

 男性はまるで中世ヨーロッパを意識したような鎧に、女性の方は白く眩かしいドレスを着ている。

 明らか図書館に来るような人間の服装ではない。コスプレか?


「あ」


 そんなことを考えているとその二人のカップルは読んでいた本を棚に戻し、奥へと消えていってしまった。

 俺はその後を追ってみたが、彼らの姿はどこにもなかった。

 変なものを見たなぁと思い戻ってくると、ふと視界の端に一冊の本が映った。


星片(せいへん)物語(ものがたり)?」


 何やら古めかしいタイトルに、茶を基調とした表紙の分厚い本が棚に入っていた。

 しかしここは物理学のコーナーだ。この本はどう見ても物理学を記している本には見えない。

 どちらかといえば、古風なファンタジーの本だ。

 物語、と付いている辺り有名な指輪物語が頭に思い浮かぶ。


「どれ……」


 俺はその本を、興味本位で手に取ってみた。

 どうせなら元のコーナーに戻してこようと思ったわけだ。

 ペラペラと、最初のプロローグの部分を立ち読む。

 ……ふむふむ。この本のプロローグは、どうやら物語の本筋が始まる以前のことを説明しているようだ。

 内容としてはこうだ。



 ある異世界で昔、七つの国が戦争をした。

 戦争はとても醜いもので、非人道的なことが当たり前に行われてしまうほどだった。

 それを嘆いた天界の神々は、穢れてしまった人々の心を浄化するために、「裁日」と呼ばれる"人類だけ"のリセットを行う日を定めた。

 「裁日」の回避方法はただ一つ、今すぐに戦争を止めることだった。

 そこで、争っていた国の中でも戦争にほとんど関与しなかった三ヵ国は水面下で動き、戦争を止めるための救世主を、禁断の召喚術、"異世界召喚"にて呼び出したそうだ。

 しかし、救世主のちからだけでは戦争は終わらなかった。

 結果、神々が定めた通り「裁日」は訪れ、穢れた人類はリセットされた。


 ――それから途方もない月日が流れ。


 新しく生まれ変わったはずの人類のもとに、何故か再び「裁日」の宣告がなされた。

 今度の理由は皆目検討もつかなかった。一度リセットをかけられた人類はそれから平和を築き、戦争どころか、穢れた人間など存在しないと思える程に世界は穏やかだったからだ。

 しかし一度宣告がなされ、過去に「裁日」が訪れた事実がある以上、それを止めるしか道はなかった。

 そこで人々は、かつてリセットされる前の人類が行っていた禁断の術を使い、再び異世界から救世主を呼び助けを乞うことにした――。



 プロローグを読み終えた俺は、その後も流し読む程度で見ていった。

 そして途中まで読んだ後、あるひとつの結論にたどり着く。


「まるでトワイライト・アフターじゃないか」


 物語全体の展開だけでなく、施設名や人物名、さらにはその人物たちの容姿や行動までもが完全に「トワイライト・アフター」と一致していたのだ。


 ――もしかして、「トワイライト・アフター」の元ネタ的なものだろうか?

 しかしこう言ってはなんだが、気持ち悪いほどに一致しすぎている。もはやゲーム側がパクリとして訴えられても文句は言えない。

 唯一違うとすれば、過去の戦争や設定の部分だろうか。だがそれも、「トワイライト・アフター」が過去設定に使っていたということになれば何ら違和感は無い。



何だか嫌な予感がする……。

 ただ漠然とだが、そう感じた。

 第六感とか、虫の知らせとか、そういった非科学的な何かが俺に訴えかけてくる。

 「トワイライト・アフター」という作品に触れていなければこんな感情を抱くこともなかっただろうなと、そんなことを思ってしまう。


 現在俺は、ゲームと同じく二人目の王女の話まで読んだ。もちろん、二人目の王女の話もゲームと同じだった。

 ――先を見るのが怖い。ページをつまんだ指が震えている。


「…………」


 やめておこう。俺はあまり非科学的な事象を信じないが、この本からは何かどうしようもない力を感じる。この本をいつまでも持っていては何かが起きてしまうと、第六感が訴えかけて来ている気がした。

 俺は二人目の王女の話が終わったところで本を閉じ、元あるべき場所へ戻しに行こうと踵を返した。

――――その時だった。


『……新たな適応者を確認。適応者専属のナビゲーター人格構築完了。多世界接続テスト問題なし。これより、転移を始めます…………』


「えっ……?」


脳に響くような機械音声。

やがて俺はその声の正体を知ることもなく、この世界から存在自体を抹消された。

最初の回、読んでいただきありがとうございました。

気に入っていただけたら、今後ともお付き合いよろしくです。

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