アイドル 甲斐唯香
カイコこと、甲斐唯香は、例のアイドルグループの一員らしい。
顔はグループ内でも、一二を争う可愛さなのだが、どうにも自己PRが下手とかで、可愛いから局のプロデューサーの目に止まることがあっても、すぐにアピール上手の他のメンバーに間に入られて、いつの間にか、影に隠れてしまう。
局のプロデューサーといっても、今どき、視聴者が喜びそうなことを言ったりしたりしてくれない子を、ゴリ押ししようものなら、いっぺんに飛ばされるし、そもそも、番組制作は外注に丸投げがほとんどなので、わざわざ声をかけにまではいかない。
籍だけは、中堅どころのプロダクションにあったはずだけど、慢性的にマネージャー不足の業界。一人でタレント何人も抱えていると、ただ可愛いだけの子では、放置プレイ状態。
それでも、一部の熱烈なファンはいるようで、とはいうものの、人気投票では80位前後とかなり微妙な立ち位置で、一向に知名度が上がらない。
で、割と隅っこでボッチしてるんだけど、かえって私のような制作会社の下っ端の女とは話をしたりする
以上が、岩谷さんが俺にくれた彼女の情報
それで、今朝、局に寄ったとき、たまたま彼女にあって、
「ねぇ、カイコなら、どんな能力が欲しい」
「ふぅ、わたしはそんな特別な能力とか、別にいらないです。」
「えー、でもなんかあるんじゃない?」
局のTVモニターでは、連続強殺犯のニュースを流している
「ふぅ、あの悪いこと考えている人が、悪いことできなくなるようにできたら、、、」
なるほど、そう言う訳か
ちなみにカイコは地味な立ち位置のまま、4年くらい在籍してるらしい。なんだかんだでもう十九歳になるから、美少女というフレーズも難しくなってきて、ますます微妙な存在となっているようだ。
ふむ、でも十九歳なら完成された能力をゲットしててもおかしくない
そうこうするうちに、地下のエスカレーターの入り口まで辿りついた
えーと、この、長~いエスカレーターを降りたところに受付があるんですよね
止まってます。はい、当然。
地下駐車場からの入り口とか、、、
あぁ、そうか、エレベーターも止まってますよね
体力の塊のような岩谷さんは、平然と登る気マンマン。くじけそうなオッサンの心だが、肉体は元気な21歳。ここで時間を動かしてもいんだが、せめてセキュリティーの厳しい入り口をぬけるまでは、止めときたいよな。
とにかく普通の三階以上よりありそうなエスカレーターの上までたどり着く。
岩谷さんは通行証は持っているが、俺は、適当に受付でチョロまかすつもり。いや、どうせ、マトモに出入りするつもりはないんだけど、通行証のIDカードで抜けるところもあったんじゃなかろうか
お台場テレビは違った気がするけど
岩谷さんは、たぶん報道局へ向かっている。
昔、この局の報道は、独立して市ヶ谷にあった。
同じ建物内にレコーディングスタジオもあって、結構誰でも入れて、エレベーターでいきなり有名な女性キャスターと乗り合わせたことがあった。
そのセキュリティーの甘さが災いして、一般人の襲撃事件があり、そこもそれ以来セキュリティーにうるさくなったんだが、ここが出来てからは、全部こちらに一緒になっているはず。
そんなことをつらつら考えつつ、案の定、時間がとまっていると反応しないゲートの下を潜って、エレベーターホールにたどり着いたが
「もしもし、岩谷さん、これからどちらに」
「とりあえず先にカイコ見つけようと思って、確か収録の数合わせに来てたから、出番終わって、暇してるんじゃないかな」
「収録は、どこでやってるんですか」
「13階だと思うんだけど、階段で行くしかないよね」
「えーっと、今、時間を動かせますが」
「でも、そしたら、カイコと話ししずらいよね」
「いや、一回時間を動かして、もう一度止めるとかできるけど」
「おい!早く言えよぉ~、エスカレーター登らなくても良かったじゃん」
やっぱり、彼女も好き好んでエスカレーターを登る、Eガールでは無かった
とりあえず、エレベーターを動かす間、時間を進行させ、また時間逆行状態にしてみた。いずれにせよ、ソロソロみんなが、能力を持った時間が近づいてくる。
所在なげにポツポツと立っている人の間をすり抜けて、スタジオの大きな扉を開けると、何人か人が溜まっている。
その人たちをひっくり返さないようにかき分ける。
バラエティーを撮る大きなスタジオのようだ。カメラに映らない、奥の端っこの方にいるのが彼女らしい。
しょせん彼女は数あわせで、出番自体はほとんどないけど、かと言って楽屋に戻るには遠いし、とかかな。
「どうするの?」
「声は俺がかけるので、岩谷さんは、彼女の目の前に行ってください」
19歳とは聞いていたが、見たところ小柄で高校生にしかみえない。それでも、小中学生がアイドルやってる中だときついのかな。お姉さんやるのもキャラに合わなそう。
しかし、何、この細さ、40kgどころか、35kgも行くのか?これじゃ、激しい踊りも無理じゃね?お父さんとしては、もう少しごはんを食べた方がいいと思うぞ
そんな個人的な意見は網棚に乗せてだ
「甲斐さん」
「カイコ」
「ふへっ?あっ、シズさん!今、本番中ですよ、ってアレ?」
俺たちは、混乱する甲斐唯香を連れて、いったんスタジオを出た。