カウントダウン
男は実験を繰り返していた
最初はゴルフボール
サッカーボール位のものまでは、すぐに引き寄せられるようになっていた
昨日は違法駐車していた、タンクローリーさえ動かすことができた
ただ気のせいか、動き出し始めるまで、少し時間はかかった
もう、どんなものでも引き寄せられる
男は自分の能力は無限だと感じ始めていた
この世の中は腐っている
男は鬱憤を抱えて生きていた
この能力だってそうだ
何でもっと自分の人生を楽しくできるような能力を得なかったんだ
人生大逆転のチャンスを棒に振った
それもたった十円のために
・・・
暑い日だった
自販機で冷たい飲みものを買おうとしていたのは、しょうがない
しかし、その時、財布からこぼれ落ちた十円玉は、無情にも自販機の下に転げ落ちた
屈みこんで自販機の下を覗き込んでる時、変な声が聞こえた
しかし、男は、どうやって、十円玉を取りだそうかしか、考えていなかった
近くには枯れ枝一つ落ちていない
ポケットのカードケースを手にして、差し込むと、わずかに触れる
あとちょっと、と指先のわずかな感覚で、コインに触れた途端、今度は、カードケースが、指先を離れた
まずい、何とか、引き寄せないと、家にも帰れない
カードケースには、定期券が入っていた
くそ、こっちに来い
頭の中で、また変な声が聞こえた
能力がどうのこうの言った気がする
俺に物を引き寄せる能力があれば
簡単に
ん?
簡単に、手の中にカードケースが収まっていた
えっ、と思いながら、十円玉をこちらに来るように念じてみたら
簡単に手にできた
そう
その時は、単純に喜んだ
何だか不思議な能力を得られた
そして、後から、もっといくらでも、素晴らしい能力を手に入れられたことを知った
くそったれ
男は、空を見上げた
上弦の月が見えた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日も暑い
朝九時に井城田さんに電話をかけ、これから報告に行きたいと話す
一度、行ったところなら、転移する方が早いし、すぐに戻ってこれる
十時に約束できたので、ゆっくりと支度を始めた
・・・
「結論から、申し上げましょうか」
俺の目の前には、梨子さんと、介護士の高尾という男がいた
家政婦の富喜さんも、義妹の雪絵さんもいないようなので、気が楽だ
梨子さんは、ちらっと高尾を見てから、
「お願いします」
と言った
「ご主人はお亡くなりになっています。間違いありません」
「あ、あの男は、こないだ現れたあの男は、結局なんでしたの」
「奥様は、何か能力のようなものをお持ちですか」
「私が、そんないかがわしい」
俺が、その返事を聞いて高尾の方へ顔を向けた瞬間だった
あー、この馬鹿、俺に向かって能力使いやがった
時間止まってるよ
面倒くさいなぁ
一撃で気を失わせるのって難しいんだぞ
オラッ
うー、手が痺れた
秋鳴連れて来れば良かった
・・・
「キャッ」
突然、隣で倒れた高尾を見て、梨子さんがびっくりした
「あーっと、すみません、私、精神操作みたいなのをされると、自動的に反撃しちゃう能力なんですよ」
「精神操作?」
「催眠術みたいなもんですね」
「それって・・・」
「残念ながら、奥様も催眠術かけられてるでしょうね」
「そんなまさか」
「あー、良いです、気にしないでください、多分、彼の言うことは、全部信じてしまうようになってますから」
「・・・」
「で、あなたがご覧になったのは、ご主人の幽霊みたいなもんですね」
「幽霊?」
「みたいなです。能力使うには、元気でないと駄目なんですよ。で、お義母さまは、ご病気でしたし、能力使ったために、亡くなられてしまったんでしょうねぇ。要は、ご主人、中途半端にしか生き返れなかったんです」
「はぁ。。。」
「ご安心ください。そもそも、私はご主人の亡くなった原因なんてどうでもいんですよ。そこの高尾さんは、何故か気にしたみたいですけどね」
高尾が、梨子さんにどんな精神操作をしているのか知らないが、今の表情だけ見てると不信感は抱いている
でも、元々、マインドコントロールされているようなもんだったんだろうから、俺に手を出さなければ、どうでもいい
「では、今回の調査費用としては30万円いただきます」
「えっ、そんなに」
「これでも生命保険料とか、諸々の遺産相続を考えたら安いんじゃないですか。口止め料も入ってますしね」
「あなたは何を知ってらっしゃるの」
「全部です。まぁ、その財産は、彼に全部取られちゃいますけどね」
「私はどうしたら、、、」
「三十万円現金でご用意ください」
梨子さんは、混乱したまま、部屋を出て行ったが、どうやら現金で用意できたらしい
「あの、これで」
「はい、確かに。彼が起きたら、私には手を出さないように伝えてくださいね。次やったら、彼の命がないかもしれませんから」
「た、助けて、私を助けてはくださらないの」
「自業自得です。では、さようなら」
俺は、わざと、目の前で消えてやった
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事務所に行くと、シーちゃんが居て、テレビを見ていた
「ねえ、ねえ、シンジくん、すごいのよ」
あなたの胸は、いつ見ても凄いと思います
階段から見下ろすと、そこしか見えない
「あのね、あの、ネットとか、もう全部使えるって」
「はぁ、そりゃ凄い」
「貿易とか、旅行とか、全部、大丈夫になったんだって」
いや、我が国の政府、いつから、そんなに優秀になったんだ
あの、首相のブレーンか?
首相との約束は、明日、朝10時
八方塞りで、俺に相談してくるのかと思ってたんだが、どうやら違うらしい
そうすると、別に今のところ、こちらから相談持ちかけるようなことはないなぁ
でも、変な言い方してたよな
『一時間、首相の予定を空けて、首相官邸におります。その時には、来て下さらなくとも、結構ですが、その時間、空けてあることだけ、覚えておいてください』
まるで、俺が未来から、時間を巻き戻して会いにくることが、分かっているみたいに・・・
あの男は、俺にとって、危険な存在なんだろうか
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「G国の駐在大使に、最適な人材がおります」
「G国?」
「はい、能力を持っているのは、あの時点で日本在住で、日本語で願えれば、良い訳ですから、外国人にも、能力者は多数おります」
「そんなことは分かっているが、しかし、外国人が我が国のために協力してくれるのかね」
「そもそも、この突然、全世界が敵に回った状況を、不思議に思われませんか」
「それで、君に、相談しているわけだが」
「外国人能力者が絡んでいます」
「特定しているのか」
「密出国しようとしているところを、仲間諸共、一網打尽にする手配です」
「政治問題には」
「させません。速やかに始末しますし」
「君、大丈夫か」
「この犯人が能力を使った件に関しましては、この人間の死亡により効果が無くなります」
「そういうこともあるのか」
「他に、協力者として、総務省の人間、民間の通信会社社員、NPOの代表など、数人必要な人材を集めました。G国大使を協力させる要員も含まれています」
「すべて、手配済みか」
「はい、もうひとタイミング早ければ、昨日の混乱は防げたのですが、申し訳ございません」
秘書官、杉下聡無の能力は、明らかに進化していた
意識して予習することは、相変わらず無意味だった
だが、頭をからっぽにしていると、勝手に次の首相の質問と、その答えが出てくるようになって、その答えに合わせて先に手を打つようになった
昨日の混乱中には、とうとう次の日に首相に聞かれるはずの質問と、その適切な回答、及び、打つべき手はずも脳裏に浮かぶようになり、それにそって手配を始めていた
さすがに、手配しなくてはいけない案件が多すぎて、混乱の収拾が今日にずれ込んでしまったが、まもなく、首相会見が開けるだろうと、杉下は考えていた
そして、首相自身はと言うと、当然ながら
(この男、危険すぎる存在かもしれない)
と考え始めていた
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