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探偵は警察ではありません ~死人を探してください

梨子さんの声に振り向くと、梨子さんよりも、よほど上品そうな老婦人、エプロン姿なので、家政婦さんらしき人が立っていた


「お茶が入りましたでございます」

「ごめんなさい、あなたにも中途半端なことをさせて」

「いえ、どういたしまして。先ほど、雪絵お嬢様よりお電話がございまして、申し訳ないがお家には伺えないので、御用の方は、お嬢様のお宅までお出かけくださいとのことでございます」

「あら、そうなの、あっ、富貴さん、礼服をご存じじゃありませんこと」

「滋則坊っちゃまのでございますか」

「その、お坊っちゃまのよ、もし知っているのなら、ここに持ってきていただけませんこと」

「承知いたしました」


登貴さんと呼ばれたご婦人は、こちらに少し会釈をして、そのまま下がって行った


「あの人も、長くこちらに仕えていてくれてね。ただ義母も亡くなったので、お暇を差し上げようと思っておりましたのに、この状態でございましょ」

梨子さんは、ため息をつく


お茶も入ったからと、応接間に戻って椅子に座ると、ほどなく富貴さんが戻ってきた

「これでございましょうか」

「えー、それよ、あら、着た跡が無いわね」

礼服は、確かにクリーニングから戻ってきたままのようだった


「クリーニングに出して、もう戻って来たわけではないわよね」

「えー、このままでございました」

「ちょっと拝見していいですか」


俺は、秋鳴と小さな声で打ちあわせる

「秋鳴の能力だと、誰のものかは分からなかったよな」

「はい」

「じゃぁ、あの写真の人物の礼服、という指定はできる」

少し間が合って、秋鳴が答える

「あの方の物、と言うのが探せないです」

ふむ


と言うことは、どういう事だ


「なぁ、試しに、梨子さんに所有権のある男性物の礼服、という条件で探してみてくれる?」

「はい、あっ!」

「どうした?」

「ビンゴです。あの礼服を指しています」

なるほど


「ありがとうございます。井城田さん、こちらは、もうこれで結構です。それでは義妹さんのお宅に伺ってみますので、場所を教えてください」


捜査続行だ



・・・



義妹の雪絵さんの家は、井城田家から車で十分ほどの距離の、こじんまりとした一軒家だった


チャイムを押すとご本人がすぐに現れた

「お二人だけ?」

「えー」

「良かった、入ってちょうだい」

昭和のLDKと言った感じの部屋に通される


「早速ですが、お兄様のことを伺いたいのですが」

「その前に、なんと言って頼まれたのか教えてちょうだい」

「えっ、まぁ、それは守秘義務というほどの事ではないのですが、依頼人のご主人様の行方を探して欲しいといった内容なんですが」

「おおかた、兄が死んでるかどうかを確かめたいといったところでしょ」

雪絵さんは、かなり(とげ)を持った言い方をした


お兄様に最後に会われたのは、えーと、宮野さんでよろしいのでしょうか」

宮野というのが、雪絵さんの現在の苗字らしい

表札もそうなっていた


「それがハッキリしないんですけどね」

「依頼人の梨子さんは、お兄様とは、ほとんど喋られなかったようでしたので」

「そりゃ、そうでしょうね」

「えーと、どういうことでしょう」

「あの女は兄が死んで喜んでいたのよ」

予想できる展開だ


「はぁ、で、宮野さんは帰ってこられたお兄様とは、どんな話をなされたんですか」

「話と言っても、私が実家に着いた時は、兄は母の枕元に座って母の手を握って、黙って母を見つめてましたし、私もその時は、感極まって何も話はできませんでした」

「で、夜遅くなっても、まだそのままだったので、食事は、と聞くと、首を振るばかりですし、ずっと母のそばにいたいようでしたので、そのまま私も休んでしまいましたの」

「でも、次の朝、お母様は亡くなられていたんですよね」

「えー、でも、眠っているような安らかな死に顔で、兄は夕べと同じように枕元に座っていたのですが、私の顔を見ると静かに首を横に振ったものですから、まさかと思って、母の方に駆け寄ると、すでに亡くなっておりましたの」

「そうですか、それで、その後、お兄様は?」

「それが、あの女は自分の部屋に引きこもって、出てきやしないじゃないですか。用意のいいことというか、まるで、母が死ぬのを待っていたかのように、亡くなった時の手配一式みたいなものが、すぐ分かるところにまとめてはありましたので、結局、全部私が手配をしていたものですから、兄のことを忘れてたですよ」

「じゃぁ、お兄様はその間、ずっとお一人で」

「まぁ、勝手知ったる自分の家ですから、居場所を見つけて適当に過ごしているかとは、思ってたんですけどね」


雪絵さんは、一息ついて

「あら、お茶の支度もしてなかった」

とそそくさと立ち上がる

「どうぞ、お構いなく」

「私が、少し喉が渇いてしまったの」

と、サッサと手を動かした


支度しながらも話は続く

「結局、お通夜は、次の日の日曜日にできることになって、まぁ、夏場のことですから、早いに越したことはなかったっんですけどね、ようやく落ち着いたら、兄がポツンと立っていましてね。お通夜、明日に決まったから、と言ったら、やっぱり黙って頷いてね。朝から食事の世話もしてなかったし、と言うか、私自身が、食事どころではなかったですし、それで、また、食事は?と尋ねると、やっぱり首を振るだけだったもんで、まぁ、適当になんか食べたんだろうと思いまして、私も、また、すっかり、兄のことを忘れてしまったんですよ」


相づちを打つ間もなく、雪絵さんは喋り続けた


で、お通夜の日になって、突然、家政婦の富貴さんのことを思い出した

そう言えば、顔を見てない

富貴さんがいれば、当然、兄の世話もしてくれているはずなのに、と思っていると、玄関で、ドタバタする音が聞こえた


「お、お嬢様、申し訳ございません」

富喜さんは、雪絵さんの顔を見るなり、そう言ったそうだ


富喜さんは、この一~二年、さしたる用とも思えないのに、梨子さんから、泊りがけの用を言い付かることが多かったそうだ

やれ、遠方の珍味が欲しいとか、今どき、電話一本で届けてくれそうなものを、しっかり、現地で目利きして、買って来いと、富喜さん自身は、厄介払いされているんだと感じながら、従っていたそうだ


「厄介払いって、でも雪絵さんも来てらしたのでしょ」

「私は、母の顔を見て、変わりがなければ、すぐに帰ることも多いですしね。あの高尾とかいう男が、『私がお世話してますから、大丈夫ですよ』とか、ニタニタしながら言って来ますし、母も寝てることが多いので、私も居ても気まずかったんですよ」

そして、独り言のように、二人、よろしくやってましたし、と付け加えた


探偵小説なら、これだけフラグが立ったら疑うところだが、なんか、そのまんま梨子さんと高尾ってのが、ご主人、殺っちゃったって信じ込みそうだなぁ


で、問題は、俺がどこで妥協するかなんだよな


依頼人捕まえて、あんたが殺人犯だって指摘したところで、俺には何のメリットもないしなぁ


正直、俺は、推理もへったくれもなく、事件の起きた時間と場所に飛んで、覗きみりゃいいだけなんで、真相を暴くといったって、単に自分の好奇心を満たすだけのことなんだよな


そんなことより、依頼内容の方が、能力絡みだから難しいかもしれない


「宮野さん、背景は分かりました。途中のことは結構ですので、お兄様のいなくなったお葬式の時のことだけ、教えてください」

雪絵さんは、ちょっと不満そうだったが、彼女が依頼人ではないからな


結局、出棺の頃まではいたようなのだが、焼き場に向かう頃には、もう見当たらなかったんだそうな


「分かりました。じゃぁ、今日は、これで失礼します」

とにもかくにも、探してみますか


・・・


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