Wheel of Fortune(運命の輪)
結局、何年居たんだろうか
俺は、現在に戻ってきた
もう充分、もう一生分の人生を送った
そんな気分だった
過去を変えているのか、未来に合わせているのか
俺はもうよく分からなくなっていた
何度か過去と行き来しているうちに、特異点に引っかかってしまった
そんな感覚がある
結局、その先のことは、過去に戻って、やり直すことがそのまんまの事実になるべく動かされている気になっていた
俺は、すでに過去では色々なことをやり尽くした
それで、時間を進めるべく現在に戻ってきた
さて、この先、どうしたらいいんだ
そんなことを考えていると、電話が入った
杉下という男からだった
首相秘書官を務めているという
首相には、島崎として、何回かお会いしているが、三嶌伸二とは面識はないはずだ
その、杉下とか言う秘書官にも覚えがない
ぜひ、一度お会いしたいと言う
それも、その杉下ではなく、首相がだ
更に、妙な事を言い出した
『今週の土曜日の午前十時から、一時間、首相は予定を空けて、首相官邸におります。その時には、来て下さらなくとも、結構ですが、その時間、空けてあることだけ、覚えておいてください。多分、お役に立てると思います。』
『はぁ、とにかく、何かこの先、相談事が出来た場合は、その時間に伺えば良いということですね』
『はい、おっしゃる通りです。では、よろしくお願いします』
電話は、そこで切れた
どう言うことだろう
伸一のこともあって、俺は、結局は、変わらない未来を歩まされているような気になっていた
過去をさんざん変えているはずなのに、それが、実は、決まっていた未来
同じ思考に何度もはまっているが、考えても分からないことだったので、思考を停止した
ミコちゃんに会いたくなった
事務所へ戻ろう
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
電話をかけ終わった杉下は、自分でも、妙な事を言ったと、首を傾げて、首相の方を見た
「君が、今、一番先に、手配する事は、と言う質問に対しての返事が、その三嶌という男と会える時間を作っておく事だと言ったんだから、問題はないだろう。すっぽかされる事もあるらしいが、君の言っている事だ、それも必要な事なんだと信じているよ」
今や、杉下に対する首相の信頼は絶大だった
外交的には、八方塞りの現状、何とか乗り切っているのは、杉下の的確な助言によるものだった
こんな状況が続くのは、あと数日です
杉下は、そう断言していた
つくづく変な男だ
他のことではまるで役に立たない男のようだった
しかし、そんなことより、よくぞ杉下がこう言った能力を得てくれていたと、首相は、自分の幸運を思った
とにかく、今は、このまま突き進むしかない、そう首相は考えていたが、杉下は、曖昧な笑みを浮かべているだけだった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あら、シンジくん、もう戻って来たの」
シーちゃんが迎えてくれた
「みんなは?」
「ケイちゃんが、運転して、買い物に出かけた。そのまま、送っていくみたいよ」
そういや、シーちゃんは秋鳴のことをケイちゃんと呼んでるんだっけ
「まぁ、また、晩ご飯には、現れるかもしれないけどな」
俺は、笑って、腰掛けた
「ミコちゃんは?」
「今、寝てる」
「そうか」
考えてみると、シーちゃんと二人でゆったりと話すのは初めてかもしれない
「なんか、シーちゃんには、ずいぶん世話になったなぁ」
「あら、何よ、見てきたようなこと言って、あっ、でも、本当に見てきたのかしら」
シーちゃんは、ポカンと口を開けて、上を見上げる
「そう言えば、最初、シンジくんを見たとき、せんせーに、そっくりだと思ったのに、今、じっくり見ると、似てるけど、やっぱり少し違うわね」
ふーむ
俺は、ここでも、考え込んでしまった
結局、三嶌伸一という存在は、本来、あったんだろうか、なかったのだろうか
今の俺は、三嶌伸一が、確かに俺とは別人格で存在していることを知っている
だけど、シーちゃんが、感じているように、元々は、俺だったんじゃないだろうか
どこかで未来が変わり、そして、過去も変わったのだ
そうすると、今、この三嶌伸二という存在は、どういうことになるのだろう
「あー、パパ?あれ、パパじゃない?」
「ミコちゃん起きたの?残念でした、シンジくんの方です。パパじゃありませんでしたぁ」
うん?
ここでも設定が変わっているのか?
「パパと逢えるのかな」
「きっと、もうすぐ逢えるよ、それまで、シンジくんが遊んでくれるって」
「うん!」
ミコちゃんがロフトから降りてきた
過去を変えられるはずの俺が、変えた過去に縛られる未来
俺が助け出した美虹ちゃんは、まだ一歳で俺のことは覚えていない
そして、美虹ちゃんの本来の保護者は、俺とは別人格となった、三嶌"伸一"だ
でも、そんなことは忘れて、今は、ミコちゃんとのひと時を楽しもう
・・・
夕方まで、ミコちゃんと遊んだり、シーちゃんとおしゃべりしたり過ごしていると、連絡が入った
案の定、秋鳴たちは、買い物の荷物を置いたら、食事のために、こちらに一緒に戻ってくるという
合流するとたぶん7時頃になるが、ミコちゃんはタップリ昼寝をしたからか、まだ元気なので、こちらからも車を出して、待ち合わせをすることにした
と言っても、ファミリーレストランなので、あんまりパターンは変わらない
秋鳴たちは、車の中で、色々とニュースを聞いていたらしい
なんだか、外国からの締め付けが始まったらしく、輸出入規制がかかる見通しとのこと
明日には、日本人の渡航制限もかかるそうだ
場合によっては、実力行使に出る国があるかもしれないらしい
いきなりきな臭い話になってきた
外交の鉄則の悪者作りにまんまとはまっていってる
そもそも原因を作ったのが、自分であるのは間違いない
どこかで収拾をつけないとならないのか
土曜日に首相官邸に行く時は来るのか
未来が見れない俺は、結局、未来を経験してからでないと、対応ができない
「しんじくん、どうしたの?」
ミコちゃんが、不意に俺に声をかけた
しんじくんと呼ばれたのは、初めてかもしれない
「ミコちゃん、今、楽しい?」
「うん、たのしい!もうすぐ、パパにもあえるんだよ!」
そうだね
少なくとも、この子の運命を変えてあげたことは、間違っていなかったと思いたい
食事をしている間に、電話が入った
『北村みつるです。明日は、いらっしゃれそうですか』
そうだ、明日は、北村さんのライブを見に行く約束をしていたんだった
もう、遠い昔の出来事
ちょっと気分転換したい
少なくとも、あと何日かは、このままの生活が続くのだろう
俺が、食卓のみんなに声をかけると、岩谷さんとカイコは、一緒に行きたいと行った
夜のライブなので、シーちゃんとミコちゃんは連れていけない
秋鳴は、ライブを聴きに行くより、車をいじってる方が性に合うだろう
この子達の生活も守ってあげないといけない
岩谷さんは、たぶんどうとでも生きていけるだろう
秋鳴は、きっと今の生活が幸せだ
カイコは?
チョッと分からない
でも彼女は、まだ若い
俺は、三人で伺いたいと、北村さんに返し、席を取ってもらうことにした
その後は、たあいもない話に終始し、俺はシーちゃん達を、秋鳴は岩谷さん達を送ることにして解散した
あと、わずかかもしれない、この平和な日常が続くことを願って




