収束と混乱
もともと小心者の竄愧は、少しこちらが強気に出て、目先の利益をちらつかせるだけで、すんなり、俺の言うことを聞いた
三嶌の戸籍をでっち上げると一口に言っても、すぐにばれても良ければ簡単なんだが、色々と画策したのはまた別の話
現在時間に戻って、竄愧から鍵を受け取る
表札やポストからは、もちろん奴の名前は消えている
結局、竄愧が書き換えたのは、住民票などの役所関係の書類と、不動産関係、それに公共料金関係の書類程度だった
クレジットカードが使えたところから、いろいろと不徹底
まだ誰にも住所変更の案内を出していないと言う話を、勤めている役所の窓口で聞いたことから、金野さんにターゲットを絞ったようだ
極悪人なら、殺人を犯していたろう
竄愧と別れ、事務所に戻る
シーちゃん相手に金野さんは相変わらずどうでもいい話をしていた
俺が帰ってきたのを観て、シーちゃんはホッとした顔をしてる
金野さんには、鍵を渡して、お引き取り頂くことにする
今後、この件に関して口外しないようにと言うのは無駄そうなんだが、誓約書にお互い口外したら、罰金と書いておいたら、意外と素直に従った
法律的には、拘束力は低そうだが、金野さんは、その辺、疎そうだし、罰金とか余計な支出が出ることが、心底嫌そうなので、これでうやむやになりそうだ
電話で問い合わせた不動産屋とかは、そんな話はなかったことになっているし、ホテルも問題ない
パーマ屋さんは、勘違いで済ませてもらおう
金野さんの宿泊費が二泊で十万円とかには、チョッとむかっときたが、探偵料十万円にして、相殺してもらった
お家まで送り届けて、一緒に部屋を確認したが、その間は、緊張しているようで、あまり喋らないで居てくれたのは幸い
部屋の現状復帰は問題なさそうだったので、これにて、一件落着
今回は、完全には、ちゃらにしなかったのでチョッと面倒だったが、探偵って、けっこう面白いね
・・・
世界は、混乱し始めていた
日本人の株式市場の締め出しが検討され、日本企業への言われなきバッシングや、特に何の能力も持たない在外の日本人の排斥が始まっていた
・・・
昼前に岩谷さんから電話があった
七危安威が気になるらしい
昨日は、迷宮レポートで忙しくて、結局、夜は編集で泊まり込みだったそうだが、合間、合間で七危の動きをチェックしていたらしい
真面目だね
七危は、昨日、東京駅辺りをウロウロしていたらしい
あそこら辺にも、超一流企業の本社があるなぁ
で、七危はさっき家を出たところだから、今日こそ危ないと
『そりゃ、俺もそう思うけど、だから、公安に任せたじゃん』
『でも、心配じゃないの』
『万が一連中が失敗したら、その時は、出てくよ』
『それもそうなんだろうけど、あっ、それより、カイコが今日一人で家に居るから、そっちに連れてきてくれない?』
「あいよ、秋鳴、カイコ連れてきて」
「Yes,Sir」
秋鳴は、嬉々として出かける
「戻ったら、昼メシな」
「分かりました」
『岩谷さんは、今日はどうするの』
『そっちに合流する、カイコに連絡しとく』
そうしとくれ
こちとら朝から一日仕事してるからな
一人で、あちこち時間をまたいでいると、体内時計がおかしくなる
「あれ?ミコちゃんは?」
「上で、ズッと一人で本を読んでるみたい」
五歳児にしては、集中力あるね
「って、今、ロフトどんな状態なんだ?
そんなに絵本とか持ち込めるの?」
「ほら、今、タブレット一つで、何でもできる時代でしょ」
「そんなの、ほどほどにしないと、目が悪くなるぞ」
「でもね、せんせーのプレゼントだし・・・」
「えっ、どう言う事」
「あん、今のマ・チ・ガ・エ、忘れて、シンジくん (はぁと)」
もう一つ、せんせーとシーちゃんの関係は謎なのだった
・・・
全員集合でパスタ屋に入って、食事している時、公安の中路から連絡が入った
「身柄確保したってさ」
さっそく、岩谷さんにも伝える
「あー、やっぱりやっちゃたんだ」
「詳しい事は、また、とか言ってたけど、連中、相当忙しそうだな」
そりゃ、訳のわからない犯罪も増えてるだろうから、今回は爆弾テロという事で、公安で扱ったんだろうが、警察が扱うのか、公安が扱うのか訳が分からなくなってそうだ
シーちゃんがこちらを淋しそうな目で見てる
あれ、この人ここで聞きたがったりしないんだ
そんなに、せんせーと信頼関係にあったんだろうか
この人も謎なところがある
あとで、分かったことだが、七危の家の近所では連休の間、いくつかぼや騒ぎをあったらしかった
おそらく、それも七危の仕業だろうとのこと
能力発動の練習をしていたんだろう
今日は、結局、大商社の昼時を狙ったらしい
中路という奴は相当優秀らしい
七危が仕掛けた瞬間に、失敗させて、わずかな被害にとどめて、取り押さえたらしいから
カイコじゃ、たぶん、そううまくいかなかったろう
「すみません、チョッと量が足りません」
秋鳴は秋鳴で、相変わらずマイペースだ
「私も」
岩谷さんもな
よし、俺を含めて、三人おかわりだ
さて、俺は事務所で幸せなひと時を過ごそうと戻ると
アレ?
「おい、生足はどこに行った」
「ぶー」
「アラアラ、せんせーみたいなこと言って、お客様もいらっしゃったし、チョッと不評だったので、閉めました」
バカヤロウ、俺のパラダイスが
「家、帰って寝る」
フテ寝してやる
・・・・・・・
某国の軍事機密が、ネット上に拡散したらしい
拉致被害者の家族が何か会見するらしい
航空機事故の可能性の一報
日本人の能力による被害ではないかの疑い
世界の歯車が日本を中心に、狂い始めている
・・・・・・
首相秘書官・杉下聡無は忙しかった
ただ激務とは言えない、何故なら、杉下は、首相から質問されない限り、何も答えられないので、首相のそばに居ない限り、役立たずだったからである
最初は、張り切って質問されそうな内容を予習してみたり、質問されたことを思い出して、その答えをまとめようとしてみたが、全く無駄であった
予習は的外れで、質問に答えた内容とは乖離していたし、復習に至っては、系統立てて何も思い出せない
書記官が自分の答えた内容を書き留めたものを読んで、感心するばかり
結局、自分はイタコのようなものなのだ
杉下は、そう開き直った
そうすると、かえって質問に答えられる内容が、深くなったようだ
ようだと言うのも、もう、半ば自分の意識を飛ばしたようになっていたから
特に、海外の情勢は、かなりの機密内容を含めて、的確に答えられるようだった
「杉下君にSPをつけないといけないかもしれない」
首相がそんなことを言っていた
答えられない内容は相変わらずあった
例えば、私が答えられるのは、現首相に限るのかどうかとかだ
少なくとも、前首相や、元首相に立ち話で質問された時は、何も頭に浮かんで来なかった
この能力事件に関しても、起こった事件に関しては、誰より早く情報は掴めた
ただ、いくつか、起こった"はず"の事件として報告したものの中に、実際は起こっていないものがあった
新宿公園での大量虐殺事件
湘南海岸での爆破騒ぎ
今日も、首相のいくつかの質問の最後に、杉下はこう答えていた
「一度、三嶌伸二という男と、会った方が良いようです」




