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TV番組制作ディレクター 岩谷靜保

「それじゃ、岩谷、明日はよろしく」


「了解しました」

プロデューサーから、声をかけられ、私は、準備を始める。


もっとも、いつもの繰り返し。

機材チェックは、アシが、やるし、資料をもう一度読み込む。


それが、昨日のこと。

そう、昨日から、ちょっとおかしかった


まだだいぶ公開予定は先だった気がする映画が、土曜日から封切りということで、明日は、その特集をやるため、朝からてんやわんやだった


TV番組の制作というと、聞こえはいいが、いまどき、現場制作自体は、ほとんどうちらのような、制作会社に低予算で振られてくる。


「靜保先輩、やりましたね(ハート)」

脳天気で話しかけてくるこの子は、今年専門学校を卒業したての、遊馬蓮(あすまれん)

手足の細っそりした、美人さんだ。


私も、あなたの年齢の時は、細かったのよ

だが、断じて太った訳ではない。

筋肉がついてしまったのだ。


男女の区別の希薄な業界。

大学を卒業して、入社5年。

アシスタント時代は、重い機材を持って駆けずり回るのは、日常茶飯事。今じゃ、自慢の二の腕。

がっしりした、腰周りと、鉄の胃袋がなけりゃ、生き残れる訳がない。


バラエティー番組で、芸人さんが、昆虫を食したり、バンジージャンプに挑戦したりするが、良く、考えて欲しい。

芸人さんとはいえ、タレントさんなのだ。

収録前に、まずは、我々が一通りやってみせなくてどうする。


「よーし、岩谷、飛んでみろ」

無情に響くPの声

眼下に広がる雄大な景色


いや、そうじゃないでしょ

私は、いま、ここから飛び降りろと言われているのだ


「す、スミマセン、できません…」

「そうか、岩谷、残念だ…」


や、やっぱりそれじゃすまないのよね

社会人として


「いや、い、いきまーす」


そりゃね、タレントさんなら、いつまでも飛べずに何時間も粘ってたっていいけど、1分でも時間の惜しい制作のスタッフが、そんなこと許されるわけないのよね


海外ロケハン。

ステキ。


でも鉄の胃袋が必要な意味は、分かるわね。


「よーし、岩谷、食べてみろ」

歯の隙間にいろんなモノが挟まります


・・・


蓮ちゃん、君も、まもなく、旅たつ世界だよ



「先輩、だって、最高の時間帯じゃないですか」


そうなのだ。なぜ、昼の情報番組の、メインコーナーのインタビュワーが、回ってきたのか。

これも、急遽決まった企画と、私が、たまたまYメンの試写会を見る巡り合わせにあったから。


普段は忙しくて、それに、通常Pとかが行く試写会に、代わりに行ったばかりに…


なんか、お前でいいじゃんな、なし崩しな流れから、今日を迎えていた。


私もインタビュワーの経験が無いわけではないのだが、普通は、収録で編集。

今回だって、TV局には女子アナだっているのに、真夏のカンカン照りが予想されるなか、スター気取りの女子アナは、難色を示したらしい。

かといって、タレントレポーターのギャラをケチると、こういうことになる。


で、私は、取りあえず目についた、くたびれたジーンズに、なんだかバランスの取れないリュックサックの中年男性に、インタビューを試みた。


----------------


あれ?


何か、今日、様子が違わない?



そもそも、この新橋辺りじゃ、インタビュー収録など毎度のことで、みんな平然と通り過ぎていくのに、今日は雰囲気が違った。


現場に着くと、普段、BSの番組などを流している街頭テレビジョンに、この番組が映っている

あそこって、生放送とか写せるのか。映画の広告宣伝費の一環だろうが、あそこで、映像流すだけで、けっこうお金取られるんじゃないかしら。

それに、なんか、歩く人たちは、急に、スマホの画面をみて立ち止まる人が増え、こちらに気づきはじめていた。


こんな注目を浴びてのインタビューも初めてだったのだが、インタビューした中年男性も、そんな視線の中、ひょうひょうと、レイプがどうのこうのとか言いだして、ちょっと焦った。


「あなたみたいな可愛い人」とか言われて、一瞬「デヘェ」とかなりそうだったが、オッサンに言われてもねぇ


なんせ、周りはモデルさんやらタレントさんやら比べるのもおこがましいような方々が溢れているし、とにかくスタッフなどというもの、女の子だからとちやほやしてくれようなことは、絶対にないので、「可愛い」なんて言われることはほとんどなくなりつつある今日この頃



コーナーが終わっても、生放送中は現場待機なので、イヤモニしたままでいたのに、突然鳴り響いてきたのが


「ピンポンポンポーン。」

続いてなにやらご託宣


なんだか、壮大な前振り

これもプロモーションの一環?

でも、今の声、どっから聞こえてきた


取りあえず、落ち着いて考えよう


「靜保ちゃん、今、変な声聞こえた?」

カメラマンの出亀さんがノンビリ問いかける


「やっぱり、聞こえましたよね」

「そっかぁ、ボク何お願いしようかなぁ。デヘヘ」


げっ、こいつ、危ない奴だったか。


さっきのおっさんの話じゃないが、自分の身を守れるように考えといた方がよさそうか。


どうしよう、とか思ってるうちに5分たった

えーい、これでいいや。



で、何これ、なんか、お金が飛んでく

出亀さんは、さすがに必死でカメラ抱えて、それでも回そうとしてる

そのカメラ、それなりの値段するよね


そう、目の前を飛んでくお金やら貴金属。

さっき、インタビューをしたあたりに向かって、私のお財布の中身まで、飛び出そうとしてる。

スタジオのPに呼びかけようかとしているまに、突然、騒動がおさまった。


なんか、男の人の叫び声が聞こえたような気がする


お財布の中身も心配だし、そちらに向かおうかどうしようか、まずは、現状把握。誰か、なにごとか願ったに違いない。


そうすると、さっきの天の声みたいなことは、ほんとに起こったのか


周りに危険なことを考えていそうな人間は・・・


-----------------------------------


「うわぁ、目が回るよ、靜保ちゃんj

えっ、地震?


情けない声で出亀さんがカメラを振り回す

いや、しっかり何か対象を撮っているっぽい

「ウヘっ」


今度は何

嬉しそうな声して


取りあえず、カメラに頭を殴られないように、腰をかがめて、様子をうかがって・・・


えっ、子ども?

「お姉さん。ちょっといいかな」


あれ、違うわね

ナンパ?

なわけないか


不自然な空気感の中、目の前に、学生っぽい男の子が立っていた。


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