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伸二丸投げする 岩谷靜保は翻弄され、秋鳴慧はほくそ笑む

五日目の朝


学生は夏休みだが、世間一般は、三連休明けの平日だ


昨夜のうちに連絡して、今朝8時に、岩谷さんを事務所に呼んでいる


カイコ一人にしておくのも心配なんだが、今日これから出かけるところに、イキナリたくさん連れて行く訳にもいかない


家に置いておくよりは、事務所の方が良いだろうと一緒には連れて来てもらっている

シーちゃんが、子供を保育園休ませて、後で、合流してくれる予定だ

カイコと遊んでくれるだろう


指定されているホテルに、午後9時に待ち合わせ

適当な部屋が取ってあるそうだ


早めに、到着してホテルのロビーで待っていると、ほぼ時間通りに二人連れの男がやって来た


「先輩ご無沙汰です」

「おー、やってるなぁ」

「ここでは何ですので、部屋の方へ」

言い忘れたが、今日のあたしは、元の年齢の姿だ


若い姿で走り回っていたせいか、新陳代謝が良いようで、歳を重ねた姿になっても前ほど腹の出た無様な姿ではなくなっている


普段は、Tシャツ・ジーンズの岩谷さんも、あのインタビューの時以来のパンツスーツだが、時々あたしの事を、ニヤニヤ見てる

秋鳴は、良く分かってないような感じだが、一応、OLスタイルだ


悩んだ末、あたしは、国家を敵に回すのは愚策と判断した

現首相は、親父の代から献金しておいた


そして、目の前の男は、高校一年生の時から目をかけて、順調に出世

正確には、出世した奴を、高校時代から、目をかけたわけだ

「じゃぁ、島崎さん、そちらのお二人が、甥御さんが引き継いだ事務所をお手伝いするんですね」

岩谷さんと秋鳴が、緊張した表情をみせる


「あぁ、ただ、こう言う状況は想定していなかったから、まだ増える可能性もあるが」

「島崎さんが、想定していない状況があるわけないでしょ」

目の前の男、芳川は、笑って、隣の目つきの鋭い男を紹介した


「彼が、今の状況の掌握に努めている中路です。先週、お約束した状況では、こんな形でご紹介することになるとは思っていませんでしたが、今、考えると、島崎さんが久しぶりに会って、紹介したい人間がいるなんて言ってたところで、何かあると想定できないようじゃ、私もまだまだですね」

中路が、目礼する


「要件は簡単、チョッと、うちの人間が暴れるかもしれないから、フォローが欲しい、もちろん、情報は流す」

「分かっています、中路、アレを」

中路と紹介された男が、パスケースのようなものを二つ出した


「ご存知かと思いますが、滅多なことで、これをチラらつかせないように」

岩谷さんと秋鳴が黙って頷いて、受け取る

もちろん二人には、何があってもそうするように伝えてある

岩谷さんは、少し中身を見て、表情を変えかけたが、あたしと目があうと、ふたたび緊張の姿勢に戻った


「こちらからの今日の情報」

一枚の履歴書を差し出す


「この男は、近日中、こいつの能力を使って、爆破騒ぎを起こす可能性が高い」

中路が、目を(いか)らせる


「就活生のようだが、軒並み大企業落とされて、恨みを抱いているところに、この能力騒動。ギリギリの情報提供で申し訳ないが、今日の午後には、動き出すと思うので、なんらかの手を打った方がいいかと」

「島崎さんの情報が、間違っていたことはない、中路、ここはいいから、すぐに手を打て」

中路は、結局、一言も喋らないまま、書類をつかんで席を立った


「我々もお手伝いするのはやぶさかではないんだが、いかんせん、現行犯でないと捕まえられないとなると、少なからず被害者が出るかと」

「後のことを、考えるのは、こちらの仕事ですので、先輩方が、危ないところへ近寄る必要はありません」


芳川も忙しい身なので、我々も、早々に引き揚げた


・・・


駐車場へ向かう途中で、岩谷さんが、呆れた顔をして、文句を言おうとして来たが

「たぶん、こっちもつけられてるよ」

と言ったら黙った


車の中は無言で通し、あたしは自宅で降ろしてもらう

さて、若返って、着替えるとしますか



事務所に行くと、岩谷さんが俺を睨みつけている

秋鳴はご機嫌だな

よろしい


「んーと、向こうで話そうか」

シーちゃんは既に、ミコちゃんを連れて来ていたが、岩谷さんの雰囲気に、カイコはミコちゃんを連れて、ロフトに退避中

シーちゃんは、税理事務所やらに電話している



「何なの、この公安調査庁外部協力補佐とかいうのは」

「さあ」

「さあって、伸二くん!」

「俺に言われてもなぁ、本当にそんな役職あるかどうか分かんないし」

「何、これ偽物なの?」

「いや、ちゃんと使えると思うよ、なるべく使わないほうがいいと思うけど」

「って、何に使うのよ」

「そりゃ、職務質問の時だろ」

「はぁ?」

「秋鳴は、助かるだろ」

「はい、警察に追っ掛けられないで、済みます」

あんたは!といった顔で、岩谷さんが秋鳴を睨む


「そ、それで、どうして七危の情報流したのよ」

「だって、面倒くさいじゃない」

「面倒くさいって、あなた」

「奴の能力を防ぐのは、カイコしかできない。だけど、どのタイミングで、奴を防ぐ?被害が出ないタイミングを探すために、カイコに何回もやらせるか?しかも下手すると、七危を爆死させるぜ」

岩谷さんも、不承不承、うなずいている


「連中は、プロだ」

「えっ、だって名刺も出さないし、片方の人は、一言も喋らなかったけど」

「そりゃ、本物だからさ」

「で、でも」

「七危がイキナリ仕掛けたら、しょうがない、しかし仕掛けたら、少なくとも、現行犯逮捕できるのはプロだけだ。それに、俺は、あいつは、今日は、まず下調べをするんじゃないかとにらんでるんだ」

「そうかなぁ」

そもそも、こんな能力騒ぎの渦中で、自分の身を守るすべも持たず、のほほんと出社してくるお花畑脳の尻ぬぐいなど、我々がする必要がない


「まぁ、七危が積極果断な奴なら、だらだらと落ちるためだけの就職活動はしないと思うがな。まぁ、下調べの段階で尻尾出してくれれば、連中なら何とかするんじゃない?」

「はっ、そう言えば」

「そう、何で、今日、岩谷さん連れて行ったかってことだよね、で、どうだった」


「あの、芳川さんという方は、真実とか、信頼とか、そう言うことを、判別できるみたいだった」

「そう、奴らしいな、じゃぁ、彼の前では、一言も喋らないで正解だね」

「それで、隣の怖い人は、確かにカイコと似た能力だったかもしれない」

「おー、そいつは凄い、これで、益々、我々が出る必要はないわけだ」

中路の能力は、misfireとか、不首尾とか、なんか、失敗させる能力らしい


「じゃぁ、奴のことは、忘れよう、ニュースにもならないかもだな」

「そんなものかしら」

「まぁ、あとは、ああいう連中は、どんな事でも知っておきたいって人種だから、電話とかメールは、気をつけてね」

岩谷さんは露骨に嫌な顔をした


「シーちゃん、コーヒー飲みたい」

「あらあら、難しいお話は、お終いね」

「それからシーちゃん、留守に、ガスの調査とか、電波の調査とか来て、室内に入りたがったら、盗聴器とか仕掛けに来てるだけだから、そのまま好きにさせといていいよ」

「はいはい、そういう事は、心得てますよ、まったく、いっつも無駄なことするんだから」


「秋鳴は、夜中に誰か忍び込んできても、自分に被害が無ければ、スルーしといてね」

「はぁ、そうですか」

「うん、ただの泥棒だったら、あとで、一緒にお仕置きしよう」

「了解しました」


「はぁ、私も、今日から、この事務所の一員なのね」

岩谷さんがため息をつく


「はい!はい!はい!」

カイコ、突然、上から参加するな、しかも、いつもより反応が元気だぞ

大丈夫、君も仲間だよ



「そう言えば、今朝、面白いニュースやってたの」

シーちゃんが、みんなのお茶の用意を終えると、横に座って喋りだした



「代々木に迷宮ができたんだって」


一体全体、何のフラグだ?


・・・

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