それぞれの一日の終わり そして、明日への仕込み
頭が焼き切れる
四之宮ゆかりは、全てを記憶に刻み込むため、食い入るように、トミーにハッキングされている監視カメラの映像を見つめていた
凝視する画面は、小刻みに、前に戻ることを繰り返す
リセットされる度に、その記憶が上書きされないように、別の所へ記憶する作業
それをイメージしながらしているのだが、画面は同じ場面が1~2秒でリピートされるかと思えば、やや違うシチュエーションが映し出されるとか、それも、実際はリアルタイムどころか、同時に並行して起こっているようなもので、脳の処理限界を超え始めていた
イベント会場が混乱し、どうやら、イベントが中止となり、客たちが、出口でもみあっている
ここで、必ず来る
でも、もう限界
うっ、また、画面が大きく飛んだ
そして、ゆかりが認識できた、最後の監視カメラの映像は、背の高い女がこちらを見ている映像だった
ち・が・う
ゆかりは、そこで意識を失って倒れた
◇◇◇◇◇◇
湘南海岸のイベントは、何事もなく終わった
表面上は
実際、これだけの人が集まっていて、他に何事もないとは思えないのだが、少なくとも俺の関係者が、なんらかの被害を感じるような事件は起きなかった
イベント中に、会場外に出て、トイプードルのくるみ姫と北村さんも見つけておいた
リセット前と同じように、楽屋を教えた
妻奇は、仕事をこなせていたかどうか別として、最後まで、逃げずにいた
近づくと恨めしそうな顔をして、こちらを見ている
「その工夫は、手品で見せてくれ」
スマートフォンを返しながら、俺がそういうと、今度はなんとも言えない複雑な顔をしている
「そうそう30万円の有意義な使い方なら、いくらでも考えてやるからな」
まぁ、妻奇の引きつった笑いに、これ以上、付き合う気はないけど
確かに、迷惑料として、妻奇が<騒乱屋>への報酬として用意していた30万円をこちらにもらいたいくらいなんだがな
認識阻害の能力があれば、どんな手品もやりたい放題なんだから、しっかりそれでスターになって頂戴
本番前には食事の取れないカイコに付き合って(水着着なくちゃいけないしね)、俺も秋鳴も昼食がまだだった
カイコの着替えを待って、地元の北村さんに教えてもらったペット可のレストランで、くるみ姫も交えて、食事会にする
カイコ、くるみ姫と遊んでるのはいいが、ちゃんとご飯食べなさい
北村さんは木曜日にライブがあるという
何事もなかったら、行ってみたいところだけどね
・・・
帰りの車の中で、今日、起こったことを簡単に報告
あとで、またゆっくり詳細は話すことにする
別に、俺の胸にしまっておいてもいいんだが、カイコの能力をやり過ぎないようコントロールさせたかった
俺が知る限り、カイコが能力を使えたのは三回(地下駐車場での不発の一回を除く)
唯一、俺の知らないところで、能力を使ったときは、相手を失神させる程度で済んだらしい
その時は、秋鳴が狙われたが、岩谷さんも居たからか、割と冷静に能力を使えたらしい
暴走した二回は考えてみると、カイコ自身が狙われてパニック状態だった
前回は、リセットしたあと、詳しい話をしなかったから、やはりキチンと話しておくべきだろう
それならフォローしてくれる岩谷さんがいる所で話した方がいい
どうせ、こちらが帰る時間に合わせて岩谷さんもやって来るだろう
事務所に向かう車で、しばしまどろんだ
◇◇◇◇◇◇
四之宮ゆかりの目の前には、心配そうな顔をしたトミーこと闇木冨夫と、ログこと呂栗駿がいた
状況的には、最初に襲われた時より、不味い状態なのに、ゆかりには、もう二人への忌避感はなかった
自分の服装が乱れていたにも関わらずだ
しかも、自分の身の危険を感じるどころか、二人の姿はゆかりには、まるで忠実な愛犬たちが、不安そうに耳を垂らしている様に見えた
「だ、大丈夫ですか、ボス」
「すんません、あの、救急車出払ってるとかで、勝手に服脱がせちゃって」
「ん?あー、気にするな、私は、気を失ってたんだな」
まぁ、今は、こいつらに、ヤラレちゃってもいいかな、くらいな感じだし
「もう、イベントは終わったのか」
「あっ、すんません、見てませんでした、もうとっくに終わった頃ですね」
ゆかりは既に気を失なって三時間以上、経っている事に気がついた
自分には限界がある
なんだか、かえって、それで安心した
「うん、今日はもういいや、遊ぼうか」
ゆかりの言葉にキョトンとする、トミーとログだった
◇◇◇◇◇◇
俺たちが事務所に着いたのは、17時近くだった
岩谷さんが、既に、事務所の前で待っていた
カイコとカイコの荷物を降ろして、駐車場の車を入れ替える
この後、食事に行くにしろ、ハチロクは四人乗るには向かないのだ
車を自宅に置いて事務所に戻ると、既に、三人リラックスして、俺の話を待っていた
今日は一日留守にすると言ってあったから、さすがにシーちゃんは来ていない
俺は、特にカイコに向けて、高田馬場と、今日の出来事を話した
他の二人はビックリしていたが、カイコは、思ったより、動揺せずに聞いていた
「なんかね、自分でも何かしたような気がしていました」
カイコは映像記憶に優れているそうだ
それでなのか、今、俺が話したことが、体験した覚えもないのに、自分の中に映像として残っているような感覚があるそうだ
「カイコ、大丈夫なの」
岩谷さんが心配して聞くが
「ふぅ、シズさんありがとうございます。三嶌さんが、なんとかしてくれたって分かってるから、大丈夫です」
意外とタフだった
「それでね、カイコはどうも自分が襲われてパニックになると、能力が強く働きすぎてしまうらしいんだ」
「ふゆぅぅ」
「お化け屋敷に行きましょう」
そこに飛躍するか
ってか、秋鳴、お前、自分が行きたいだけだろう
そもそも、それがパニックへの耐性訓練になるんか
「はぁ、いいなぁ、私も明日から、当分夏休みだから、遊園地行きたい」
岩谷さん、あなた、このパーティの良識じゃないんですか
「ふぁーい、私も暇ですぅ」
それは知ってる
「遊園地の件はおいといて、岩谷さん、明日は、一つ気になっていることがあったでしょ」
「爆弾魔ね」
そう、七危安威が動きそうな日だった
-----------
食事をしながら、秋鳴にも、七危の情報を教える
あっ!そう言えば、追跡対象者っていうリストが作れるんだった
今朝、妻奇に対してそれ使えたかも
でも、七危の時は、名前も分かってたんだよな
まだ、自分の能力のできることの全てが把握できていない
どちらにしろ、<騒乱屋>を見つけ出すには、俺を攻撃させないとどうしようもなかったけど
それと、カイコの能力の発動タイミングも、本当は練習させたいんだがなぁ
爆弾魔への対応に使えるといいんだが
そんなわけで、食事中の話題は、能力の使い方の調整のディスカッションだった
食事をしたあと、東中野チームは秋鳴に送らせて、先に自宅へ帰った
朝、早かったし眠いから、サッサと寝ようと思ったんだが、何かしておいた方が良い気がする
アンチョコを見てみる
過去からの手紙には
月曜日・祝日
人脈作り
と書いてある
はぁ、また、時間がかかりそうなことを
あぁ、でもそうだな
ゆっくり寝るのは、過去に戻ってからでも良さそうだ
俺は、また、仕込みに入った
・・・




