後始末に奔走する伸二 そして四之宮ゆかりの限界
俺は、再び、時間逆行をさせて、ステージ裏に戻る
手には、没収した泡流のスマートフォン
へたり込んでいるカイコと、その背中を支えている、秋鳴の姿が見えた
「秋鳴」
「あっ、隊長! しかし、こう突然、ふっと現われて声をかけられるのは、なかなか慣れないです」
「そうだろうな。で、全部チャラにするぞ」
そうするしか仕方がないだろう
「あっ、はい、その前にこれを」
秋鳴は、何やら液体の染み込んだハンカチを差し出した
「おそらく、クロロフォルムのようなものだと思われます」
消された男が落としたものだと言う
その時のカイコは、目には見えていないだけで、その場にはいたとのこと
ただ周りにいた他の人間は、カイコが消されたことを認識しているようには、みえなかったらしい
認識阻害か
秋鳴とカイコはパーティを組んでいるから、認識阻害が完全には働かなかったのだろうか
元々、消された男のターゲットは別のタレントだったようだ
<手品師>の能力が、認識阻害だとすると、単に騒ぎを起こさせたことの説明がつく
騒ぎに乗じて、目当てのタレントに近づく
認識阻害で、その存在感を消し、クロロフォルムで、気絶させたところを拉致誘拐か
ハンカチを受け取ると、俺は、過去に飛んだ
・・・
考えた結果、俺は、秋鳴と二人で、監視カメラを眺めていた時間に飛んだ
他人を巻き込んでのタイムワープは、何が起こるか分からない
いったん時間を動かして、秋鳴を現在時間に戻し、それから改めて、単独で過去に戻る
万が一、秋鳴が時の狭間に取り残されたら、寝覚めが悪い
存在がなかったことにされる可能性すらある
タイムワープしてみると、秋鳴が、一人で監視カメラを眺めているところだった
「秋鳴」
「あっ、隊長、いつの間に後ろに」
まぁ、この程度なら問題なさそうだ
「色々と、分かったよ。この後、騒ぎが起こる予定だったんだが、事前に潰すことにした」
「では、自分はどうすれば」
「秋鳴、今、何がマーキングされてる?」
「えっ?カメラじゃ、あれ、違いますね、何者かのシャツです」
やっぱりそうか
秋鳴のマーキングリストは
所有者:目視確認
対象:白Tシャツ
みたいな形で、地図と連動するらしい
「うん、そいつが、主犯なので、そいつが近くに現れたら教えて、俺は、共犯者をマークしているから」
「巻き戻したんですか」
「詳しいことは、イベントが終わったら話すよ」
泡流が、もう下見に現れていることを確認して、まず、そちらに向かった
・・・・・・
「泡流さんですね」
「えっ、オタク誰」
「このスマホはあなたのですね」
俺は、あえて、掲示板にアクセスしたままの画面を見せる
「な、なんだ、どうしてそれを」
「ここに入っている曲を聞いて、今日の段取り確認してたんですね」
俺からスマートフォンを引ったくろうか、逡巡している泡流に追い打ちをかける
事件のあった時に流れていた曲が、一曲だけ、ダウンロードされているのは、確認済みだ
「な、何を言ってるんだかサッパリ、いいからそれを返してくれ、だいたい勝手に、、、」
「泡流さん、今日のあなたの仕事は終わりです。騒ぎを起こそうとしても無駄ですよ。あなたの住所も車のナンバーも控えてあります」
強い口調で、奴の言葉をさえぎる
泡流が、固まったところで、俺はスマートフォンを返した
「申し遅れましたが、私は、こういうものです」
用意していた、探偵事務所の名刺を渡す
「は、ハメられたのか」
「まぁ、そんなところです。今日、あなたがイベントの邪魔をせず、このまま真っ直ぐお帰り頂ければ、こちらとしても事を荒立てるつもりはありませんが」
「見逃してくれるのか」
「今後、私どものクライアントを害するようなことが無ければ、特に、こちらからは何も。場合によっては、こちらからお仕事頼めるかもしれませんよ?」
泡流は、混乱している
ここで、騒いだり、暴れたりする気配はない
「まぁ今後、できればあなたが仕事を受ける前にご相談頂ければ、こちらの仕事に影響を及ぼさない限り、お止めだていたしませんので」
「・・・えーと」
「そう言うわけで、今日はこのままお帰り下さい」
何がなんだか、分からないといった感じで、泡流は、去っていった
さて、秋鳴と合流するか
・・・
配置され始めた警備員の中に、<手品師>の姿を見つけ、時間を逆行させた
奴の身元を確認して、スマートフォンを取り上げる
運転免許証から、確認できたのは
妻奇省吾31歳
横浜市在住
なんだか手品師の協会のものらしい会員証もあった
更新されていないようだったが、一応、本当に手品師もやってるか、やってたからしい
時間を動かして、スマートフォンの中味を確認する
まぁ、だいたい予想通り
ダウンロードされている曲とか、写真とかね
今日出演するタレントのファンであることは間違いないらしい
じゃぁ、秋鳴と一緒に追い詰めますか
「妻奇省吾さん、ハンドルネーム手品師さんですね」
「えっ!」
俺より、背後に回って睨みつけている秋鳴にビビっている
「これはあなたのスマホですね」
妻奇は慌てて、ポケットをまさぐる
「ど、どうして」
「あなたも手品をやられるんだから、不思議はないでしょ」
「あんたたちは、、、スタッフ?」
「はい、それで、今日の誘拐は中止していただこうと思いまして」
「は?な、な」
「<騒乱屋>さんにも、お引き取り頂きましたので、あなたの<認識阻害>の能力も使いにくいかと」
顔面蒼白の妻奇
「それに、なんか、身体の不調というか、まるで自分の身体が消滅したような感覚ありませんか」
ガタガタ震えだしたところをみると、やはり意識の底には自分が消された記憶は残っているようだ
「今日のイベントが無事に終了したら、スマホはお返しいたしますので、仕事はしっかりやってくださいね」
まぁ、警備どころじゃないだろうけどね
「な、内緒に、、、」
「それは、あなたの態度次第ですので、では、イベント終了後にお会いしましょう。あっ、それからこれは先にお返ししておきますね」
俺は、ハンカチを手渡した
手の中のハンカチを見つめる妻奇
自分が気絶したいだろう
これにて一件落着
◇◇◇◇◇◇
ガタン
トミーとログが大きな物音に振り返ると、四之宮ゆかりが口から泡を吹いて倒れていた
「「ボス」」
「びょ、病院」
「今日は、祝日だ、ログじゃ、うまく説明出来ないな、俺が救急車呼ぶ。下手に身体動かすな、キレイなタオルあったら取って来い」
トミーは、ゆかりの鼻の周りの泡を拭き取り、できるだけ口の泡を掻き出して、呼吸ができるようにする。
ゆかりの身体を横にさせると、とにかく119番した
『どうしました』
「女が、一人、口から泡を、倒れた」
『救急車ですか、とにかく落ち着いて状況を、、、』
落ち着いているような状況でなくとも、こう聞いてくるのが救急隊
しかし、この能力騒ぎの影響で、病院どころか救急車も出払っていて、すぐに手配できない状況であるらしかった
結局、応急処置の仕方を電話で聞きながらの対応
「か、勝手に服なんか脱がしたら、ボスに怒られるじょ」
「そんなこと言ってる場合か、衣服を緩めろって言われてんだ、俺が後で一緒に謝ってやる」
なるべく肌の露出をさせないようにと、上着を脱がし、シャツのボタンを全部外し、中に着ているTシャツはそのままで、ブラのホックだけを外し、パンツのウエストだけ緩めると、二人はゆかりの身体をそっとベットに運んだ
以前の連中からは、考えられない紳士的な態度
<女には優しくしろ>
ゆかりの洗脳の賜物だった
監視カメラの映像は、楽屋のある建物を映していたが、トミーとログの目には入っていなかった
・・・




