イベント会場での攻防
「なぁ」
俺と秋鳴は、さっきまでは秋鳴の能力でマーキングされていたはずだという、イベント会場近くの監視カメラを眺めている
「例えば、あのカメラが誰かに乗っ取られてたら、秋鳴にはマーキングできないとかあるかなぁ」
「自分にはそういう判断はできないのですが、今は市が所有者で、この会場周辺にある監視カメラを探しています。ですがこのカメラが今は、マーキングされません」
「マーキングできる数には限りは無いの?」
「こないだオービス探すのに、最初範囲を定めなかったら凄い数がマーキングされてしまって頭が痛くなったことはありますが、数は結構探せるみたいです」
「逆に、あのカメラが誰のものかとかは探せないの」
「自分は、物の場所が分かるだけで、人は探せません」
「そうか、でも、それでも凄い能力だよね」
秋鳴が申し訳なさそうな顔をしたので、慌ててフォローした
それに所有者の個人名が分からなくても、例えば身につけている物ならマーキングできるのは、先日の板橋での騒ぎで実証済みだ
監視カメラのハッキング自体は良く聞く話ではあるし、能力でそういうことができるような奴がいてもおかしくない
いずれにしろ、知らないところで見られているのはあまりゾッとしないし、あんなのに透視機能持たれてたらやだなぁ
そろそろ音合わせだし、他のタレントのマネージャーや今日のグループ全体の担当責任者らと合流して、カイコに付き添う
本番は衣装担当者が用意した水着に着替えるそうで、今は皆、私服だが、俺としては、現時点から集まりつつある追っかけがカメラを向けないよう目を光らせていた
秋鳴には、チャッカリ警備担当の腕章を借りてつけさせているが、カイコに紹介されたのか、他のタレントとも言葉を交わしているようだ
まぁ、カッコ良くて強そうなお姉さんに見えるから、カイコでなくともそばにいると安心感があるよな
正直、今日イベントに参加している子達は若干ランクが落ちるそうで、プロダクションや主催者の妥協の産物の人選らしい
それでも、あちこちでイベントが中止になっているので、今日のイベントは注目度が高く、集客がかなり見込まれているらしい
能力騒ぎの影響で、海水浴場の人出も最盛期のはずが例年より少なく大打撃を被っているため、今日、何ごともなくイベントが終了してくれることがとても大切らしい
特に問題もなくサウンドチェックが済み、タレントは楽屋に戻る
俺が会場側、秋鳴が、楽屋側で導線を見張ることにする
他のスタッフもピリピリしているようで、それぞれの持ち場に散っていく
少なくとも、今日はタレントの水着を楽しむ余裕はなさそうだ
11時も過ぎると、どこから湧いてきたのかたくさんの人間が集まって来た
子供にも人気があるので、中には家族連れもいるようだが、大半は男でオッさんも多い
11時半開場だが、今日は特に持ち物検査やら厳しいので、前倒しで少しづつ入場させるようだ
しかし野外で、周りを簡単な壁で仕切っているようなところなので、野次馬も多勢
変な能力者がどれくらい混じっているかも分からず、俺も緊張してきた
俺の能力は、何かことが起こってからでないと対策できないから、今から緊張してもしょうがないんだが
楽屋からステージまでの導線いっぱい警備員がズラッと並んだ
引率は全体マネジメントの担当者がやることになっている
前説が始まり、ステージ脇の控えスペースへとタレントが移動を始めた
秋鳴は最後尾をついて来る
先方も了解済み
元自衛官だといってあるので、心強いと喜んでいる
カイコと目があった
やや青ざめているようにみえる
タレントたちが控え室に入ったところで、客席の後方、音響ブースのそばの全体が見通しやすいスペースに移動
秋鳴にはステージ脇で待機するよう伝えてある
彼女にとっては、こういったイベントは珍しいので、ステージも見たいだろう
カイコを中心に見ていてくれるだけでいい
定刻の12時を5分ほど過ぎたあたり
音楽が始まり、今日のセンターを務めるらしい子がMCをしながら入ってきて、全体がポジションに着くと、最初の曲のイントロが流れ出した
こんな日は、できるだけ定刻で始めて、サッサと終わらせたいはずだ
二曲目までは、何ごともなかった
客席も普通にファンらしい挙動で、声をかけたり、動き自体は充分に怪しい踊りとかをしてはいるが、銘々イベントを楽しんでいる
トークが入り、カイコがタレントとして喋っている所を初めて見た
一応、彼女のファンもいるようだ
こういうイベントは、もちろん生演奏ではなくカラオケだが、三曲目の間奏、ステージではポジションチェンジで全員がセンター近くに集まった時、惨劇が起きかけた
st
もちろん、最後までやらせるかよ
・・・・・・・・・・・・
ステージの天井が崩れ、後ろの壁が前に向けて倒れかかっているようにみえる
野外ステージなので普通のステージとは違うが、いかにも不自然な崩落だ
最終的に、ステージの子達を押し潰す積りなのか、あるいは隔離して拉致するつもりなのか、途中で止めているので定かではないが、怪我をさせてから巻き戻すのは気がひける
薄く低音が流れる世界で、客席を見渡す
自分の世界に入って、気がついていない奴もいるようだが、ほとんどビックリしたような顔をしている
スタッフも腰を浮かしかけている
どいつだ
客席を見渡しながら注意深く前に進むが、時間を停止している訳ではないのでノンビリしていると驚愕の表情が起きる前に、戻ってしまう
「秋鳴!」
ステージ脇まで行って声をかけると、驚いた表情のまま、秋鳴がこちらを向いた
「な、何がおこっているんですか」
そういえば、時間逆行中に秋鳴に声をかけるのは初めてだから、そっちでも驚いているかもしれない
「ステージが崩れ出したんで、今、俺の能力で時間をゆっくり戻している。犯人は分からないんだが、とにかく、カイコたちをステージから安全な場所に移動させてくれないか」
さすがに水着の知らない女の子達を抱えていきたくない
「あー、カイコには声をかけるから、カイコ以外を頼む」
誰彼に俺の能力を教える気はない
俺が声をかけるとカイコは震えて座り込んだ
「大丈夫か、安全な所に、いったん退避するぞ」
控えスペースにあったパーカーを渡して、何とか立たせる
おい、秋鳴、二人も抱えて行くなよ
マネキンじゃねえぞ
タレントとステージ周辺にいたスタッフを、楽屋に向かう導線まで運んだ
いや、全員、秋鳴がやったんだけどね
こいつ頼りになるわ
俺も、今の体力なら女の子のスタッフくらいなら運べそうだったが、結局任せた
この時間逆行状態では暑さは感じないんだが、秋鳴もさすがに一汗かいた顔はしている
退避させてひとかたまりにしている連中に、俺たちの能力をうまく隠して適当に説明するのはカイコには重荷だろうから、いったん時間動かして俺がやるしかないな
周りには、まだ警備員も少し残ってるから、突然、ここに人が現れたら、ビックリするよな
ん?
警備員
ただのアルバイトなら必ずしも味方ではない訳だが
「秋鳴、あの警備員の服か何か、マーキングできるか」
「あいつが犯人ですか?」
「判らん、俺は自分に直接攻撃して来た奴なら、分かるんだが、、、、あっ、そうか自爆しようかな」
退避させている間に時間はだいぶ巻き戻っているので、すでにステージの崩壊前に戻っているから何とも言えないのだが、警備員はだいたい外側を警戒しているのに、今、目を付けた警備員だけ、何故か視線が背中越しのようだ
崩落前ならステージの異常は気がつかないはずなんだが、、、
「秋鳴、もう一働きで悪いが、あそこのステージ裏の、この警備員から見えない位置に、みんな運んでくれないか」
少し立ち直ったカイコにも足だけでも持つよう手伝わせて、軽そうな子は俺も3人運んだ
秋鳴には、あの警備員の様子を見張らせ、カイコは皆と一緒に待機させる
俺は自分の能力を信じて、客席からは見えにくいが、ステージ崩落に巻き込まれる場所に走って時間を動かした
どうせすぐ時間が止まるから、説明はあとだ
ステージ上は、間奏前のサビの最後の4小節に入るところだった
ちょっと巻き戻り過ぎてるか
客席は、突然ステージから人がいなくなり騒めき出す
音を止めないでくれると助かるんだが
これで崩落が起こらないようなら、犯人は、客席側やステージの見えるところにはいない
間奏に入った
客席は明らかに動揺
来た
ふぅー
止まったよ
なんかの破片が目の前にある
これで犯人がステージを見えない位置にいることが確定した




