交差する記憶
次の日、ゆかりが起きたのは、昼過ぎだった
今日が休みで良かった
この三連休は昨日もらった原稿をチェックするだけで、特に他には用は無い
昨日はほんとにひどい目に遭った
緊張していたからか気にならなかったが、二回も襲われかけて、のしかかられたのだ
今になって、変な筋肉痛がある
それだけで、済んで良かったとも言える
あまり空腹は感じてないが、エネルギーの補給が絶対に必要だ
特に能力を使うからには、なおさらだ
夕べは、まだあんな連中と関わりあうのか、と思ったんだが、ベッドに入ってからは、妙な昂揚感があった
自分が顎で使える、下僕たち
そう考えると、連中への忌避感が薄れた
それどころか、自分の中に隠されていたドス黒い感情に気づいていた
あいつらの能力は使える
だいたい、昨日、身に染みたが、自分の身を守るのにも、こんな世界で一人では限度がある
昨日はそれでもついていた
新聞をみる限り、大した能力を願わなかったのが、大多数のようだった
自分が何の能力も願っていなかった場合のことを思って、ゆかりはゾッとした
だが、今の状況はどうだ
トミーが監視して、ログが拉致する、そして自分が洗脳する
ゆかりは、つい、そんなことを考えてしまった自分に驚いていた
まだ自分の能力も正確に把握できていない
この危ない世界、当面、自分を守るためだけにでも、もう少し、連中と付き合おう
ゆかりは、そう決めた
・・・
連中の寝ぐらに顔をだしたのは、午後三時を回った頃だった
自分でも必要以上に、目付きを悪くしてる気がする
まぁ、元々、愛嬌の良い方では無いから、営業スマイルをするよりは実は楽だ
入って行くなり、トミーが嬉しそうな声を上げた
「ボス!見て欲しい映像があるんすよ」
モニターには、地下駐車場らしき映像と、そこに映る何人かの映像が静止状態で写っていた
「この映像、いつの映像だと思います」
「いつって、録画したとこを見た訳でもないのに、分かるわけ無いだろう」
「いえ、ボスも見た筈の映像なんですよ」
「どういうことだ?」
「そ、それが分からなくて、ボスに教えて欲しかったじょ」
その映像は、経ったの三秒ほどだったが、衝撃的だった
画面奥には、若い女に襲いかかりそうなマスクをつけた男
手前には、頭だけ映った男が手を伸ばしている
真ん中辺りに、もう一人、男に突進している女
次の瞬間、マスクをつけた男の頭が真っ白になり、よろめいた
そこへ突進した女がコブシを固めて、、、
そこまでだった
「何だ、これ、こんなの見てないぞ」
「でしょ? これ夕べ、一回カメラが映らなくなった時、あったじゃないっすか、そん時、アチコチのカメラに映像切り替えた時のなんすよ、おかしいでしょ」
どういうことだ
「夕べ見た時は、絶対、こんな映像映ってませんって」
考えられることは、、、
「なあ、今の映像、もう一度ユックリ見られるか」
わずか3秒の映像、コマ送りのように見る
顔の分かりそうなのは奥の若い女だけか
「おい、あの若い女、少し拡大できるか」
「拡大し過ぎると、かえって分かりにくいすから、分かってますって」
ダサいジャージを着ているが、かなりの美少女に見える
いや、この子知ってる
一緒に仕事した子じゃないか
幼児向けの雑誌とはいえ、子供にも人気のあるタレントは、起用することがある
去年、ゆかりが、担当した撮影では、子供に絶対的な人気のあるアイドルが一人ご指名で、あとは一応グループアイドルなので、体裁のために、何人か都合をつけてもらったら、みごとに知らない子ばかり4人来た
ただ、その中で圧倒的に可愛かった子にそっくりだ
なぜ印象に残っているかというと、最初隅の方で、おとなしくしていたのに、子どもたちとの絡みの撮影になったら、突然張り切って、世話を焼き始めたからだ
子供の人数も多かったので、正直助かった
が、この子アイドルより保母さんの方が向いてそうと思ったのも事実
その時、自分の記憶にもう一つの違和感が生じた
記憶が、書き換えられている・・・
それは、ゆかりの能力でもある
その能力を持っていなければ、絶対に気がつくことなどなかったろう
あの子、あそこにもいたはず
「トミー、夕べのその映像が切れる前の場面、また見せてくれ」
「俺も、ボスが何か気にしてっから、今日も夕べの映像見てて、それで、今のにも気がついたんですがね」
「その太っている奴、、、」
「あー、ナイフ刺されてませんでしたっけ」
「この時点では、何ともないのに、なぜ、ぼーっと腕を見てる、、、」
独り言のようにゆかりが呟く
「な、なんかわかったじょ?」
「しばらく黙ってろ」
違う
そうじゃなかったはず
頭の中身
薄皮を剥がすように
その下にあるはずの記憶
しかも、書き換えられたのは1回じゃない
あのデブの腕がグロテスクに千切れて、あろうことか自分の肩を掴んでいる映像
そして、そこにも、同じようにあの子がいた
隣には、若い男がいたはず
トミーが、スゲーと言いながらカメラで追っていた
その前、その前は、確かに、火をつけられて燃え上がった男
大通りに向けて、ふらふら歩く様
本来なら上書きされている記憶
ゆかりだからこそ、なかったことにされなかった記憶
そう、そして、これは、まるで、何度かやり直したような、、、
今日、突然、映っていなかったはずの駐車場に現れた三人
もしかしたら恐ろしい能力を持った連中
「トミー、芸能人のスケジュールって調べられるか」
「一般に公開されてるのじゃなくてですか」
「そうだな、マイナーなアイドルとかじゃ、わからないか」
「ま、マミーなら、詳しいじょ」
「あの包帯やろうか、危ねえ野郎だったな、あいつならどうせ、ロクでもない能力持ってるに決まってる」
こいつらの顔見知りで、危なそうな能力を持っている奴か
ゆかりは、そんな奴、野放しにしておきたくないなと考えた
「そいつ、ここに連れてこれるのか」
「ここですか? あんまりぞっとしないが、ボスがそういうなら、ログ、呼び出してみろ」
「わ、分かったじょ」
あいつらのうち、見つけられる可能性があるのは、ただ一人
甲斐唯香だ
・・・




