トミーとログ
ゆかりは混乱していた
「ログ、今度は、成功か」
目の前のデブに話しかけながら、今度は、しなびたような小男が、ゆかりに近づいてきた
考えている暇はない
デブの頭に右手を伸ばす、いいから寝てろ
すると、ログと呼ばれた男はゆかりに覆い被さるように一緒に倒れこんだ
「お前は、気が早いんだよ」
ありがたい、小男はまだ何が起こっているか気がついていない
頼む、左手でも能力が効いてくれ
「イヤーん」
ゆかりは押し倒されているような振りをつづけて、小男を誘った
・・・
くそ、重い
間に合った
今、二人はゆかりの胸を枕にしている
こいつらを何とかしないと、逃げ出すこともできない
ゆかりは身長は高い方だが、体力や腕力があるわけでは無い
自分の武器は考えることだ
(二人同時だし、能力は慎重に使わないといけない)
こいつらみたいなのを操るには、、、
よし、それで行こう
自分は二人が絶対忠誠を誓うボスで、それは三人だけの秘密
ボスは男だが、たまに二人をからかって女の格好をする
さっき捕まえた女は、もう十分楽しんだので、ボスがこれから連れて行く
これで何とかなってくれ
「おら、お前らいつまでも、じゃれついてんじゃねえ」
「あ、あ、すいませんボス」
「お、俺、ぼーっとしてたじょ」
二人がよろよろ立ち上がる
もう一言だけ、がんばれ私
ゆかりは精気を振り絞って
「それじゃ行ってくるぞ」とだけ言うと、
何とか出口らしい方向を探り当て、扉を出たところでへたり込んだ
・・・
10分以上はへたり込んでいたろうか、ミニスカートの尻が冷えてきた
少しは慣れたのか、今回は回復が早い
まず、ここはどこだ
雑居ビルのような雰囲気だが、狭くて、他には、機械室みたいなのがあるだけにみえる
すると、地下室か
何とか階段までたどり着き、そこでまたしばらく休んでから、階段を上っていった
シャッターが閉まっていたが、鍵はかけていないようだ
開けてみて、驚いた
「うちの近くじゃない・・・」
とすると、あのログという男は、どうやって自分を見つけて攫ったのだろう
しかし、こんなに家の近くにいるなら今は考えるよりも、家で休みたい
そもそも着替えたい
・・・
部屋で一息ついて、気がついた
あちゃぁ、原稿が無い
あいつらのとこだ
今日は、どうせ直帰だ
だいたい、こんなに早く原稿をもらえた試しは無いんだ
くそ、こうなったら毒を食らわば皿まで
こんなに近くにいるんじゃ、また、いつ顔を合わせるか、わからない
しかし、とても空腹なことにも気がついた
エネルギーが足りてない
昼近くに起きたとは言え、今日は、まだ何も食べていない
近くのハンバーガーショップで腹ごしらえすることにした
服装は、普段から男っぽい格好ではあるし、連中の認識はゆかりのことは男であると書き換わっているはずだが、念には念をいれることにした
さらしはさすがに持っていないが、バスタオルをきつく巻いて、大きめのTシャツを頭からかぶる
一番男っぽくみえるスーツを着込む
暑いが、下に着けたタオルが汗も吸ってくれるだろう
少しだけだが、体格も良く見える
そんな姿で、食事をする
コーヒーを飲み干したゆかりは、気合いを入れた
とにかく、もう一度連中の所に戻る
・・・
時間は、なんだかんだで、午後7時になろうとしている
ちょっとゆっくりし過ぎたか
あそこが寝ぐらのようでもあったから、ずっといるとは思うんだが
ノックもせずに扉を開けてみた
「あっ、ボスお帰んなさい」
「お帰りじょ」
やっぱり、ボスならこんな感じで入ってきて大丈夫だったか
「ちょうど良かった、俺ら、飯でも食いに行きたいと思ってた所なんで」
「ボ、ボスも一緒にいくじょ」
「いや、俺は、喰ってきたからいい、鍵を置いてってくれ」
「留守番してくれるじょ」
「あー、外に出ることがあるかもしれんが、すぐに戻っては来るからな、俺がいなかったら、ちょっと待ってろ、せいぜいゆっくり飯でも食ってこい」
「ありがてぇ、そんじゃ、ボスまたあとで」
こいつらが単純な奴らで良かった
男達が出て行くとゆかりはすぐに原稿を探した
あった、良かった
それから合い鍵を作りに走り、待っている間に、家に原稿を置いてきた
連中の寝ぐらに30分も経たずに戻ってくると、ゆかりは部屋の中を点検し始めた
奥に二人の寝室があるようだったが、なんとも言えない臭いがしてさすがに入る気が起きなかった
今いる部屋は地下だし、窓もない6畳くらいの広さだが、壁際にでかい液晶モニターがあった
試しに電源を入れてみると、近くの町並みが映った
・・・監視カメラの映像か
この町がこんな連中に監視されてたのか
ぞっとした
パソコンをつけてみた
パスワードはかけていないようで、すぐに立ち上がった
履歴を見てみる
なんだコレ
覗き部屋?
とにかく、そんなものばかりだ
素性の分かる物がないか探す
闇木冨夫?
カード会社からのメールだ
どちらかの本名に違いない
たぶん小男の方だろう
捨てられた郵便物の宛名
呂栗駿
ログリシュン?
あのデブが駿って柄じゃないだろ
まぁログでいんだろ
私も監視カメラで見られてたのか?
いくらなんでも、そんなあちこちの監視カメラが見れるのか?
能力か・・・
かなり危ない奴らのようだし、やはり、もう少し観察しておくか
頭の中を書き換えられるなら、少なくとも自分には無害な奴らにしときたい
ゆかりは、そう考え始めていた
・・・
かれこれ夜の9時近くになって、二人が戻ってきた
「ボ、ボス、お留守番ご苦労様だじょ」
「なぁ、ボス、ちょっと、聞きたいことがあるんだけどな」
ん、何か感づいたか
「こっちもお前らにちょっと用がある、二人とも頭を出せ」
「へっ?」
「撫でてくれるじょ」
「いいから早くしろ」
二人が私の言動に何の疑問も持たないこと
慣れない「俺」とかも使いたくない
二人とも私には秘密を持てないこと
ゆかりは、他にも2~3思いついたことを実行した
「ふー、私は少し、後ろで休んでるから、お前らしばらく好きにしてろ」
エネルギー切れだ
「へー、そんじゃ、またカメラの映像でも楽しみますか」
「ト、トミーのカメラは最高だじょ」
小男の方、闇木冨夫がトミーか
それで、こいつの能力が、、、
まさか、どんな監視カメラの映像も見られるとかか
「なぁ、トミーが見られない映像ってあるのか」
「ボス、こいつこそ俺のためみたいな能力ですぜ。まだ、全部試したわけじゃねぇけど、あちこちの駅前にあるようなカメラは全部行けましたぜ」
なるほど、こいつに見つかったわけだ
そうすると、このデブの能力は、、、
「ログ、お前は」
「ボ、ボス、でも俺は」
「へん、お前にゃ無理だよ」
「オ、オレやってみるじょ」
デブは画面に向かって両手を伸ばした
うっ、まずかったか
ゆかりが後悔したとき
「はぁ、駄目だ、まだ力が入らねぇじょ」
ふん、馬鹿にしたような顔でトミーがログを見る
「ボス、こいつは、昼間も一回失敗してんですぜ」
「あっ、あれは仕方ないじょ」
「ふん、このロリコン、あの幼稚園児みたいのだろ、あー、また露出狂みたいな女はいねぇかなぁ」
ゲッ、このデブは真性のロリコンか、私の仕事を知ったら偉いことになる
それで、私に目を付けたのは、トミーって方だったんだな
とすると、ログってのの能力は誘拐?
「な、なぁ、トミーさっきなんか、格好いい名前つけてたじょ」
「private eyesだろ、で、お前がkidが攫えねぇkidnappingだ」
「え、え、そ、それじゃ、違う名前がいいじょ」
「そんなものてめえで調べろ、誘拐で調べりゃいいだろが」
「お、俺、パソコンとか苦手だじょ」
「馬鹿野郎、スマホでも調べられるだろうが、俺は忙しいんだ、一人でやってろ」
そうか、このログって言う奴も恐ろしい能力だ
実際にゆかりが体験させられた能力だ
でも、さっき映像に映ってた子はせいぜい女子高生くらいだったが、また、そんな子を狙ってたのか?
確か、小学生以下は、自動的に自分の身を守る能力
それは、失敗するだろう
女子高生だと成長可能な能力だったか
まぁ、能力で打ち消された可能性は無きにしもあらずだが、、、
そんなことをつらつら考えているうちにゆかりはうとうとしてしまったらしい
気がつくと、二人はまだ熱心に画面を切り替えながら、モニターを凝視している
時刻は、もう夜の10時半になろうとしている
最後にもう一度、こいつらの頭をいじって帰るか
少し元気になったゆかりは、後ろに立って、奴らの会話を聞きながら、同じようにしばらくモニターを眺めていた
「へっ、面白そうな奴らみつけたぜ」




