状況攪乱 そして監視する者
「はっ、、、ごめん、カイコ止められなかった」
俺が声をかけると、運転席へ回ろうとしていた岩谷さんがすぐに反応を返す
「あぁ、でも、冷静に動いていてくれているみたいで助かる」
「どうなってるの」
「カイコが一人、手ひどくやっつけちまった。俺は、あの爬虫類みたいな奴のナイフに危うく殺されるところだった」
「爬虫類?あぁ、クラタケシュンね」
そうか、マーキングを頼んどいたから、名前が分かるか
「能力を発動したせいなのか、今の方が、はっきり彼の能力分かるわね。ナイフを自分の思ったところに正確に命中させる能力ね」
「しかも、同時に何本か、片目と両方のアキレス腱、それとたぶん時間差で、心臓を狙われている」
「私は伸二君の能力の方が驚きだけどね。そんなの普通、かわせないじゃない。それにこの状況で落ち着いてなんかいられないはずなのに」
俺は、あんたの、その状況にすぐ適応できる能力の方が感心するよ
まったく、この状況で茶飲み話風な会話ができている
「ここを速やかに離脱したいんだが、俺としては、俺たちの能力が把握されてしまうようなことはしたくないんだ。
で、甲斐さんとちょっと話をして欲しいんだ」
「分かったわ、カイコだって、他人を傷つけちゃうのは初めてでしょ」
カイコに声をかけると
「えっ、はっ、ヒー」
がたがた震えだしたと思ったら、座り込んだ
俺は、いったん岩谷さんにカイコを任せて、更に状況確認に戻った
やはり、クラタケとかが一番危険だし気になる
奴の隠れている場所へ行って、さっきまで気づかなかったものを見つけた
監視カメラか
奴は、カメラの存在を知っていて、自分はその死角になるところにいたらしい
でも、仲間が映ってたらしょうがないだろうに、いつでも切り捨てるつもりか
いずれにしても、このカメラは俺にとっても邪魔だし、しかし、いつの時点で、破壊しておくのが良いのか
たくさんのパラドックスが頭をよぎり、混乱する
まず、俺が時間逆光の中で、チョロチョロ動いているのは、原則的にカメラには映らないはず
水をぶっかけて離脱しているから、カメラの映像解像度と時間分解能にもよるが、炎に包まれる直前にいきなり水浸しになっている男が映ったヒトコマが、分析次第では現われてくるかもしれないが、気にしないことにしよう
金髪の能力は、奴の趣味でもあるんだろう、両手を重ねて前に突き出したところから、炎の玉、いわゆるファイヤーボールが飛び出していったところは確認している
絶対、録画して欲しくないのは、カイコの能力が発動したところだ
今、カイコも一緒に時間逆光の中にいる
こういった例は初めてなので、カイコがしでかした所まで、時間が戻ったときにどうなっているのかが、予想できないのだが、駄目でも、リセットはできるだろう
そうすると、もう少し時間があるから、まだ状況確認はできる
しかし、気になる、何かが気になる
監視カメラで連想した
他にここを見通せそうなところはないか
しかしいくら辺りを探しても、隠れてそうな人影も、どこかの窓から覗いていそうなのも見つけられなかった
現状の俺の能力も、さっき攻撃してきたクラタケをマーキングしているだけだ
岩谷さんとカイコの所へ戻ると、岩谷さんが話しかけてきた
「カイコが納得してくれた」
「何に」
「ふぅ、、、私、自分の能力を使うとどんなことになるのか分かってませんでした。こんなひどいことにな、、、」
カイコがそこで、口ごもる
「うん、いつか本当にその能力を使ってでも、自分の身を守るかもしくは、誰かを助けないといけなくなる時がくるけど、カイコはまだその覚悟ができてないんだよね」
「・・・はい」
「で、伸二君、なかったことにできるよね」
「そうだね」
俺は、監視カメラがあったこととともに、なんか他にもここでは気になることがあると、岩谷さんに話した
とにかく、車を止めた時点に三人で戻ろう
中途半端だった火消しをしっかりとして、あの男を、連中の目につかないところへ引きずっていって隠す
そして、あとのことは、いっさい忘れて、ここを通り過ぎるんだ
まだ震えているカイコと岩谷さんの手を握って、車を止めた時間に戻った
その状態で更に時間を止めて、監視カメラを壊しに行く。
倒れている男の処置をして車に戻る
時間が動き出すと、何事にも気づかなかったようなフリをして、車を走らせた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「へっ、面白そうな奴らみつけたぜ」
暗い部屋で、スクリーンを見つめている男達が三人
そのうちの一人がつぶやいていた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岩谷さんの住んでいるというマンションの前で車を止める
「ねぇ、ちょっとカイコが落ち着くまで、うちに寄ってかない」
「まぁ、それでかまわないなら、車どっかに駐めてくる」
部屋番号を確認して二人を降ろすと、駐車場を探して車を駐めて戻った
扉が開いて入ると、すぐに旅行用のトランクが目に入った
商売道具だろうな
他にパンフレットなども積み上がってる
「女の子の家に変な幻想抱いてないよね?」
岩谷さんが悪そうな目で見る
大丈夫、あんまりきれいな部屋の方が、かえって居心地悪い
だいたい、仕事してて忙しい人の家なら十分な片付き加減だ
目の前は壁になっていて、左に延びる廊下を回り込んで部屋に入るようだ
左手が、おそらくバスルームか
お湯を溜めているような音がしている
右に回り込んでいくとリビングに出た
2LDKらしい
奥が寝室とのこと
リビングの真ん中に、たぶん冬はこたつになるテーブルがあり、おそらく岩谷さんの物であろうジャージに着替えたカイコが、その前に膝を抱えて座り込んでいた
「伸二君もお風呂入ってくぅ?」
全くそんな気は無いのが丸わかりの声で、台所で、なにやら仕度しながら、岩谷さんが声をかける
「ここは、遠慮しとくもんでしょうねぇ」
カイコの正面にあぐらをかいた
「あっ、あの、ごめんなさい」
カイコが下を向いたまま、つぶやく
「ん?しょうがないじゃん。みんなまだ自分の能力のことも分かってないし、お互いどんな行動とるとかもね」
「怖かった・・・」
普通でしょ
岩谷さんが何かつまみのようなものを用意して現われた
あんた食べ過ぎ
「とにかくさ、私達はパーティ組んだんだよね。それって、こんな風に困ったときのためでしょ」
「そうだな」
「そんじゃ、改めて、パーティ結成祝いで乾杯しましょ」
あっ、俺、この子尊敬する、ていうか、本気になりそう
「あの、アルコール以外は?」
「はあ?この場で何言ってる、君だって飲めるでしょうが」
「えーっと、車が」
「君なら酔っ払い運転で捕まりそうになったって、適当にごまかせるの、お姉さんが知らないと思ってるの」
前言撤回、この人、やっぱり俺の天敵だ
「カイコも今日は飲め。岩谷が許す」
「ふへぇ、シズさーん、、、怖いです」
あっ、ちょっとカイコが戻ってきた
なんだかなし崩し的に乾杯させられ、そんな中、岩谷さんはお風呂の世話をしたり、アルコールを運んだり、ついでにがぶ飲みしたり
「ぷはぁーーー」
カイコは危なくなってきたし
「適当にしないと、あとで風呂でおぼれるぞ」
「ふはー、このまま、ここで横になっていいですかぁ」
えー、結局、何も意味のある会話はしませんでした
カイコが酔いつぶれる前に、俺は、なんとか退散した
知らないところで、何かおこっているかもしれないことは、、、
知らないんだから考えようがないね
事務所に戻ると、俺はすぐに二階部分にしつらえたベッドに潜り込んだ




