襲撃とカイコの暴走
二人を車に乗せて、事務所をあとにした
事務所から東中野へ行くには、山手通りに出るまでもない
結局、明治通りを北上することにした
後ろに乗った二人は、やはり根っからのおしゃべりではないようだ
俺は、普段音楽もかけないので、車内は、無言の空間だが、俺はその方が心地がいい
明治通りから、高田馬場の裏手に出る通りで、それは起こった
路地から、上半身を炎に包まれた男が飛び出してきた
「ちょっ、伸二君」
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「岩谷さん」
「あっ、止めたのね」
「様子みてみますか」
「カイコは?」
「彼女は切札なんで、先に偵察したいかな」
「うん、分かった」
とりあえず、何が起きてるのか確かめるため、二人、車を降りた
「この人自体は、たいした能力を持ってないわ」
まずは、火だるま男を確認してもらった
<毎朝、靴が綺麗に磨かれる>らしい
「火をつけた奴がいるわけだ」
男が飛び出してきた方へ行ってみると、そいつはすぐに分かった
「あいつね、炎を操れるみたい」
金髪に、真っ赤なTシャツのいかにもな若いのが、ドヤ顔で、男を指さしていた
その後ろの方に、サスペンダーで、ズボンを吊ったデブっとした髪を逆立てた奴が腕を組んで笑っている
「あいつは仲間かしら、なんだろ、腕を伸ばす?ちょっと分かりづらい」
「とりあえず、そいつら二人、マークしといて」
俺は他に仲間がいないか探ってみる
すると、影に紛れた場所に、この暑いのに袖無しとはいえ、真っ黒なコートのようなものを着ている男がいる
「岩谷さん、あいつ」
近寄ってみると、少し爬虫類系だが、ぱっと見三人の中では、一番いい男が、隙の無い顔で、辺りを窺っている様だった
「刃物?ナイフかしら、そんなものを操る?」
「こいつがリーダーって感じだな。マークしとこうか。それじゃ、後は、俺が考えてみるから、車に戻ろう」
ちょっと不満げだったが、岩谷さんは納得してくれた
岩谷さんを戻すと、俺は少し細工にかかった。
まず、火まみれおじさん
俺一人だったら、ほっておいたかもしれないが、この状況だとそうもいかない
辺りを見回すと、バケツが転がっているのが見えた
シャッターの降りた古い商店らしき店の横手に水道の蛇口がある
こいつを使わしてもらおうか、、、
っと、チョロっと水が出たと思ったら、、、、
あぁ、この時間逆行状況だと、水道は出ない
てことは、水が溜まっている所を探すしかないぞ
昔は防火用水とか溜めてたけど、今は見ないなぁ
近くにコンビニでもあれば、ペットボトルの水とかあるが、なさそうだし
そういや近くに公園があったな
面倒だが、トイレの貯水槽から取るか・・・
実際はもう少し近くに水場があって、水を汲んで戻ってくると、だいぶ火だるま男が近づいて来ていた
さて、先にゲスな仕掛けを
金髪男は、ジーンズのベルトを抜いて、スニーカーの紐を全部ほどいた
デブは、サスペンダーを外して、さっきのベルトと一緒に、目立たないところに捨てておく
正直、野郎の身体は触りたくないんだがな
さて、爬虫類男がチト隙がない
たぶん、こういう男は、ちょっと服装が乱れてもきにしそうだろうと、カッターを調達して来て、コートの背中側を上から半分くらい斬り裂いた
そうしておいて、火だるま男が炎に包まれる寸前のタイミングで頭から思い切り水をかぶせる
他にも調達してきたものやらと一緒に、俺は現在時間に戻った
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ブレーキに足をかけ、時間を動かす
目の前に水蒸気を立ちこめさせ、ところどころプスプスと燃えそこなったような男がいる
「助けないと」
カイコが声を上げた
ちょっと水をかけておいただけでは中途半端だったか
即死はしなくとも、水蒸気でやけどはするな
「お前らは、中に居ろ」
車を止めた俺は、さっき調達して仕込んでおいた防災用の貯水タンクを助手席から持ち出して、男の方へ向かった
ただ、ここで、俺は大きなミスを犯していた
「なんだてめえは」
男に水をかぶせていると、当然とは思うが、金髪が毒づいてきた
「ただの通りすがりだ、この男が目障りだったから水をかけたが、すぐに立ち去る」
「何言ってんだてめぇ」
「うひょ、かわい子ちゃん」
後ろに居たデブが嬉しそうに叫ぶ
カイコの性格をきちんと把握していなかったのが俺の最大のミスだった
「悪いこと、やめなさい!」
いつの間にか、すぐ後ろに、飛び出してきてしまっていたのだ
「いただきます。」
奴の能力は・・・
いきなりカイコの目の前の地面から腕が飛び出してきた
「やめて!」
カイコが叫ぶ
と同時に腕がかき消える
グギャー
悲鳴を上げるデブをみると
奴の両肩を腕がつかんでいる
意味が分からないかもしれないが、見たままだ
しかも奴自身の両腕はちぎれたように見当たらず、奴をつかんでいる腕の付け根と思われるあたりから、大量の血が噴き出していた
「えっ、えっ」
カイコは自分がしでかしたであろうことが理解できず、立ちすくむ
「ヨウヘイ!? くそっ、俺はさっきでかいのぷっぱなして使えねぇ、シュン!」
金髪が、振り返って、たぶん爬虫類男の方を振り返ったその瞬間
文字通り目の前、眼球の直前になにか切っ先の鋭いものがあるのが分かった
慎重に後ずさろうとすると、アキレス腱の辺りにチクッと違和感
俺は自分の能力に感謝した
でなきゃ、完全に積んでいた
とにかく上半身を静かにずらし、足下を確認しつつ、状況の把握に努める
空中に浮かんでいるのは、目に入る限り、ナイフの様なものが4本
一本が、俺の目を、二本が両足のアキレス腱、少し離れてもう一本は、おそらく俺の心臓を狙った感じで飛んできているようだった
冷静に状況を判断できるのは助かる
俺の心情は、無駄な戦いはしない、戦うなら勝つべくして勝つ
いい勝負なんてくそ食らえだ
正直、この辺のチンピラを一人づつ始末するようなつもりは、さらさら無いが、今後のことも考えて、対応を決めておかないといけない
まず、カイコ
こいつが、こんなに正義感が強くて、直情的に行動するとは思っていなかった
今は、呆然としているようだ
とにかく一人を戦闘不能どころか、再起不能、放っておけば、殺すほどのダメージを負わせている
ヨウヘイと呼ばれたデブは、ズボンがずり下がりつつあるが、さっきの能力だと、俺の姑息な仕掛けじゃ逃げ切れなかった
金髪は、燃料切れみたいなことを叫んだところをみると、案外バカではない、もしくはゲーム脳で、こういった能力の使い方が自然に分かっているらしい
たぶん、小さな火から試してみていて、夜になって、仲間と仕掛けたんじゃないだろうか
こいつだけなら、追いかけてきても、たぶん自分の靴のひもを踏んづけて転んでくれたとは思う
後ろを振り返って、岩谷さんを探すと、カイコを止めきれなかったらしい彼女は、車の運転席の方に回ろうとしていた
素晴らしく冷静な判断だ
車をミッションとかじゃなく、オートマにしとくべきだったか
いや、いざという時に備えて、ミッション車の練習してもらった方がいいな
シュンと呼ばれた爬虫類男は、やはり一番危険なようだ
あれだけ性格に急所を突いてナイフを飛ばしてくるということは、元々、こいつがナイフ投げが得意だったとしか思えない
さて、長考だ
とにかく、岩谷さんが頼りになることは分かった
やはり彼女を動かして、カイコを説得してもらい、うまく、ここを離脱することを考えたい
車に戻り、岩谷さんに声をかけた




