夜はまだ長い
俺とカイコがSL広場に向かうと、奴はすでにキョロキョロしながら立っていた
今更だが、カイコの出で立ちはベージュのカットソーにミディアム丈のパンツ
後から知ったんだがキャスケットとかいう帽子、昔で言うハンチングなのかな
それを目深にかぶって、大きめの丸めが目をかけているから一応、芸能人の変装のつもりらしい。
正直オーラはあんまり出てないが、普通にその辺歩いてたら可愛くて目を引くから、多少顔は隠してた方がいい
「あの人ですか?」
おや、もしかして少しは気を許してくれたのか?
カイコの距離感がさっきまでと違う
もしかして、あの子どもっぽい言動は彼女なりのバリアだったのか
「あぁ、あまり意識しないようにな」
不意に大人の女性を感じてしまったカイコに、今度はこっちがバリアを貼りたくなった
少しすると会計を済ませた岩谷さんが、現われた
確かに汐留テレビの袋は目立つ
男と目が合うが、一応、こちらは初対面のはずなので、更に探しているフリをしながらこちらに話し声が聞こえるくらいの距離まで近づいてきた
男の方はちょっとハッとして、声をかけるのをためらうような素振りが見える
電話ではかなりひどい口調でしゃべっていたらしいが、明らかに女慣れしていない
岩谷さんはわざとらしく、時計を見ながら、俺たちのそばに立つと、意を決してか、男が声をかけてきた
「あっ、あのぅ」
「えっ、もしかしてスマホの方?」
「あっ、はい、そうです」
「確かに、返したからね、それじゃ、わたしは行くから」
「あっ、あっ、すみません」
「なによ」
「あのテレビ局の・・・」
「違うわよ、あぁ、まぁ、ちょっとは関係あるけど、下請けの下請けみたいな、ただの制作会社の人間よ」
「制作会社?」
「あのさ、世の中って、別に、名前のしれた有名な会社だけで回ってるんじゃないのよ。見た感じ就職活動してるっぽいけど、いろんな会社にも目を向けてね」
すげぇな、岩谷さん、あいつに説教しちゃってるよ
おっと、俺は俺でやらなきゃいけないことがあった
追跡対象者の指定
>了解しました。対象を追跡・マーキングしますか?
>対象者をマーキングしました。
よし、リストは、持参したタプレットの背面に映してみる
>☆追跡者一覧表
>ナナキヤスタケ
>ミメキアンズ
成功だ
実のところ、岩谷さんやカイコも、追跡対象者にはできそうだったんだが、なんか違うなと思って、これにしなかった
まさか、自分の本名バレするとは思わなかったが、たぶんパーティ登録の方が、きっと便利に違いない
「あっ、あっ」
紙袋を受け取った七危は、まだ何か言いたそうな顔をしてるが、岩谷さんは、さっさと翻って、去って行く
「大丈夫そうですね」
「そうだな。少なくとも、今すぐ、何かをしそうな感じはないな」
七危は、一瞬上を見上げたと思ったら、そのままバランスを崩したような感じで、後ろ向きになって、駅へと向かい始めた
「行こうか」
「シズさんに追いつかないと」
俺たちは、車を置きっ放しの局の駐車場に向かった
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岩谷さんはワザと遠回りしていたので、すぐに追いついた
「何だったのよ、あの男、ビビって損した」
いや、ビビってる風には見えませんでしたが
「ふぁ、あの人、でも信用できないです」
「うーん、岩谷さんの説得は結構、的を射てたんだけどなぁ」
「あ、でもカイコがそう言うなら、やっぱり気をつけといた方がいい。カイコの当たるから」
「へぇ、そうなんだ」
「ふぅ、必要に迫られてのことですから」
ふーん、やっぱりこの子も何かしらあるんだろうなぁ
「こいつは信用できるの」
岩谷さんが俺を指さす
「はい」
えっ、断言されちゃった、どうしよう、かえって焦る
「良かったね、自称シ・ン・ジ君」
参ったな
「で、彼の対策はどうするの」
「一応、マーキングした」
「何それ、そんなことできるの」
「うん。その人の能力によると思うんだけど、岩谷さんももしかしたらできるかも」
「ふへー、カイコは仲間はずれですか」
「うーん、色々試して見ないことには分からないかなぁ」
二人にも拡張能力があるのかどうか、もうパーティ組んで信用すると言ってくれるからには、分かることは伝えた方がいんだろうな
「で、まずは、カイコを送ればいいのか」
「うーん、それなんだけどさぁ、カイコ、今一人暮らしなんだよね」
「高校卒業してからは一人です」
「桜新町だっけ、伸二君どう思う」
「どうって、あぁ、今日の夜は何が起こるか分からんか、、、」
「私も明日、取材の仕事、飛んでるの。一応、何があるか分からないから、いつでも事務所に出て行けるように自宅待機だけど、今、男も居ないしさぁ、うち来る?」
おや、岩谷さん、そんなことここでバラすの
「ひゃぁー、行きたいです」
「家は東中野なんだけど、伸二君は道は分かる?」
「あぁ、そっちの方なら、よく知ってる。山手通り行けばいいかな、こっちからだと、赤坂見附出て、代々木抜ける感じかなぉ」
「あっ、まだ9時前じゃん、原宿寄ってこ、伸二君の所、お酒無い?」
「ふぁー竹下通りですねぇ」
「いや、あそこ、夜は早くて、お店はみんな閉まってるぜ、それに、俺は酒は飲まん」
「良かった、それじゃ、私達飲んでも、送れるね」
「シズさ~ん、私は飲んだら、クビになっちゃいますぅ」
「そんなこと言って、隠れて飲んでるでしょうに」
「ほんとに、飲んだことないんです。お酒は二十歳からですよ」
ふーむ、俺は二十歳前の方が、飲んでた気がする
「岩谷さん、人を巻き込まないように。まぁ、途中で買って、一人で飲んでる分には、俺はかまわないですよ」
「じゃぁ、その辺で買っていこ」
そんな事を暢気に話していると
「うわ、危ねぇな、こんな所、飛ばして走るなよ」
一方通行を黒いセダンがすり抜けて行った
ドガ
ウギャ
キー
ドカン
やった、誰か轢いた、でも、なんか変、全く見えてなかったのか、ブレーキ、轢いた後から踏んだぞ
「し、伸二君、、、」
「うーん、見なかったことにしよう」
「いや、ほんとに見えないの」
「は?」
「ふぁー、運転手の人出てきました、けど」
えーと、弾かれたのは誰?
周りの野次馬もざわついている
「岩谷さん、なんか感じる?」
「運転手の人はね、明らかにおかしい」
「あっ、そのまま逃げちゃいます」
ベコベコにへこんだ車を、強引にバックさせると、そのまま、車を発進させてしまった
ドゴ
ぐぉ~~~ん
「いやー、なんか飛んできた」
「ひゃー、なんかついた」
向こうで誰かが悲鳴をあげてる
少し行ったところで、また、車が何かにぶつかったような音がしたと思ったら、離れたところの信号機が揺れた
混乱している中を、車はそのまま逃走してしまった
「あんまり、あっちに行きたくないなぁ」
「あの運転手、薬物やったときの状態になれる能力よ」
「えっ、逃がさない方が良かったか」
「ふへ、きっと自爆するから大丈夫です」
おー、カイコ言うねぇ
「でも、あそこなんか居るのかしら」
「あっ!」
「何よ」
「昔ね、読んだことのあるマンガにね、透明人間が出てくるのがあったんだけど」
「まさか」
「えーっとね、見えないから自動車に轢かれちゃって、それでも、見えないから、そのまま道端で」
「皆まで言うな、あー、私もうこの道通れない」
俺たちパーティは素直に迂回した
都会人の正しい姿勢だ




