爆弾魔 七危安威(ななきやすたけ)
岩谷靜保の話
----------------------------
伸二君と別れたと思ったら、気がつくと、かがんで周りの様子を見ていた。
なんかパラパラと落ちてる
うわっ、ほんとにこのビル大丈夫なの
まだ揺れてるよね
もう限界かと思って、頭を隠して逃げ場を探していると、不意に揺れが収まった
それどころか、何事もなかったように、崩れていたような、埃っぽい空気もおさまって、夏のむわっとした空気が甦ってきた
「ひょー、靜保ちゃん、何だったんだろうねぇ」
出亀さん、お願いだから、そのカメラこっちに向けないでね
まぁ、あなたに見られたって、別にどうも思わないけど、録画は勘弁ね
「とにかく、変なもの撮って、捕まらないでよ」
「げっ、靜保ちゃんなんで、分かったの?もしかして超能力者?」
いらんボケかますな
「とにかくね、能力を変に使うと、何が起こるか分からないの。たぶん今の揺れも、誰かが自爆したんだわ」
「自爆ってどういうこと」
「自分の能力が暴走してしまうことよ。さっき、お金に埋もれてた人いたでしょ」
「あぁ、男の人はあんまり見ないんだよ」
まったく、この男は みんなにデバカメって言われるだけのことはある
救急車が走り回っている音が聞こえだした
他にもなんかあるんだろうか
「とにかく、二見さんに、この後どうしたらいいか、連絡してみる」
「いいよ、ボクももうちょっと様子見てるね」
「犯罪行為は禁止だからね」
「へへへ、録画しなきゃいいよね」
こいつも、カイコのお仕置きが必要か
とにかくチーフの二見さんに連絡してみるか
ん?スマホが二つある
あぁ、そうだ、あの爆弾魔のじゃんか、いやぁ、気持ち悪い
こんなの押しつけられたの忘れてた
まだ、着信とかないよね
とにかく、電話・・・
つながらない
この状況だとあり得るわね
メールだけ送っとこう
「出亀さんどうする、電話つながらないよ、いったん局に戻らない?」
「うーん、あっ・・・デヘヘ、そうしよう」
何考えてるか分かるんだよ
こいつ、いっぺん殺した方がいんじゃないか
「もう、カメラしまっときなさい。仕事なくすわよ」
分かってるんだかなんだか、へらへらしながら、レンズにカバーをしてるが、なんかこいつをタレントさんがいるような所に連れてきたくない。
とにかく、監視しながら、局へ戻ることにした。
帰る途中でメールが入ってた
やっぱりいったん戻っていいみたいだ
不安そうな顔して歩いている人が多いが、みんなもいったんどこかへ戻ろうとしているみたい
さっきの揺れで、JRが止まったみたいで、駅に人が溢れている
「靜保ちゃん、一応、あれ撮っとこうか」
おっ、ちゃんと仕事モードに切り替わってるじゃんか
出亀さんは、変なことしなければ優秀なカメラマンなのだ
JR地下改札の混乱した状況をしばらくカメラに収めるのに、つきあう
この後のワイドショーはどうせ関西制作なので、こちらの出番は少ないとは思うけど、一応ネタは必要かな
局に戻ると、二時を回ったところだった
なんだか、途中、時間が止まったりいろんなことありすぎたから、もっと時間が経っている感覚
自社には戻らず、このまま、局内の会議室で、緊急ミーティングみたいだ
ミーティングに集まった顔ぶれを、ざっと見渡したところ、やっぱり、みんな忙しすぎるのか、大した能力をもってないみたい
うゎ、チーフ、
<俺の作った番組は全て視聴率二桁越えだ>
仕事の鬼、テレビマンの鏡
でも、結構、各局でそんなこと願ってる人いるんじゃないの
なんか矛盾が起きて、また、変なことになりそうだけど
隅っこに連ちゃんがいた
やだ、この子小学生か
<毎朝、遅刻しないように起きれますように>
あたた、使えんわ
なんか変な空気感の中
「それじゃ、そういうことで、ひとつよろしく」
出たよ、ノーアイデアの丸投げ
そういうことも何も、なんか方針でましたっけ
「まぁ、あれだ、しばらく、バラエティ系の仕事より、報道の補助が多そうだから、臨機応変ってことだな」
サブチーフの田沼さんが分かったようなマトメをしたが、この臨機応変の四文字に何度泣かされたことか
「おーい、誰か駅前行ける人いる」
「あっ、私達、さっきまでいましたけど、そのまま、またすぐ行けますよ」
「それじゃ、悪いんだけど、その辺で、連絡待ち、待機してて。何、撮るか、まだ方針出てないんで」
局側のディレクターが顔を出して、そう伝えてきた
どうせ、黙ってても私達が行かされるに決まってるし
「それじゃ、出亀と岩谷、またよろしく」
出亀さんが、なんか当ての外れたような顔をしてる
こいつのお守りしてるのも、やなんだがなぁ
カイコ呼び出すか
タレントさんとラインとかするのは禁止されてるんで、メールだ
そもそも私がラインしてないし
業界の人って、自分が直接取材でもしない限り、ほとんど新しいこと知らないのよね
そういうの知ってるのはせいぜい入社2~3年目までで、なんかあったら新人に聞くことが多い
答えられない時は、上の人は『勉強しとけ』でおしまいだ
「しょうが無い、靜保ちゃん行くか」
「ちょっと待っててね」
あっ、もう返事来た
カイコ相変わらず暇だ
<シズさん、ごめん、ここ5時までいなきゃなんだって、あとで、ご飯食べようよぉ>
<分かった、また連絡するよ>
デバカメ対策は後回しか
うわっ、電話来たコレ
例の爆弾魔のスマホが鳴り出した
公衆電話からだ
-----------------------------------------
「もしもし」
『誰だお前は』
「えっ、このスマホの持ち主の方ですか」
『お前か、泥棒は』
「いきなり、失礼な!ちょっと時間が無くて、交番に行ってる暇がなかっただけでしょ。後で、届けるわよ」
切った
むかつく
あー、もうこんな奴に関わるんじゃなかったわよ
「靜保ちゃん、誰?」
「いえ、さっき、スマホを拾ったのよ」
「えぇ、いつ?そんなことしてたっけ」
あぁ、そうだ、出亀さんは知らないよね
もう、困ったな
うわ、またかかってきた
「はい、何よ」
『てめぇ、いいからすぐ返せよ』
「あたしだって忙しいの。あと30分ほどしたら、新橋の駅前の交番に届けとくから」
すぐに切ってやった
「なんだか面倒くさそうだねぇ」
「うん、とにかく、駅前まで行きましょ」
はぁ、憂鬱
でも、こいつ爆弾魔なんだよなぁ
通報する?
うーん
伸二のどアホ
だいたいあいつが元凶なんだから、あいつに振らないとなんだけどなぁ
グダグダ考えながら、地下まで降りてくると、また、爆弾魔スマホが鳴った
しつこいなぁ
「ちょっと待ちなさいよ!」
『なぁ、やっぱり直接返してよ』
「だから、今すぐは無理って言ってるでしょ」
『何時頃ならいんだよ』
時計をみる
こんな奴と二人っきりで会いたくない
「夜の八時くらいなら、なんとかなるわ」
『八時かぁ、しょうがねぇ、新橋にいるのか?』
「ハッキリしないけど、新橋にいるようにするわよ。SL広場でいいでしょ」
『なんかあんたの目印あるのか』
「じゃぁ、汐留テレビの袋ぶら下げとくから」
『えっ、テレビ局の人?』
「そうじゃないけど、分かりやすいでしょ。それじゃ、忙しいから、夜八時にね」
はぁ、もう電源切っとこ
時間稼ぎはしたから、あとは、伸二君の仕事よね
とりあえず、彼に連絡をいれることにした




