報道局の変事
エレベーターホールまで行くと、再び、時間を進める。そのまま、報道局のフロアへ
例の声が聞こえた後なので、皆、右往左往していて、関係者以外の人間がいても、idカードをぶら下げていれば、さして、気にする人間もいない。
良く地震速報などで映る報道デスクそのままに、机の島が並び合う。
一般の会社でも 、良くある光景だが、大きく違うのは、頭上にテレビがたくさん並んでいること。
そう、ここだと、国営放送を含め、各局のTVが見られるから便利なのだ。オマケに、聞き耳を立てれば、最新情報も入ってくる。
今のところ、各局とも、情報が入り次第、お知らせする状況らしい
地震速報と違って、こんな時、聞いたら応えてくれる気象庁は無いわけだし、海外特派員などからも情報を集めているみたい
そろそろ、さっきの建物崩壊の時間かなぁ、と考えていると、ニタニタしている変なおっさんが目に入った。
この時代に、いまだに、首にカーディガンを巻いて、かなり薄くなった髪の毛をなでつけてる。
「岩谷さん、あの人…」
「ゲッ、こないだセクハラで左遷された、部長。なんでここにいるのかしら」
最近は、どこの職場も、セクハラにはウルサイ。
「能力わっ、て」
「全世界の」
あう、駄目な奴だ
「女という女が」
やっぱり
しでかしそうなオッサンだった
「俺様に惚れる」
一瞬、隣の岩谷さんが、ビクンと反応する。
「えっ?目の錯覚」
世界中の老若すべての女性が、全員ハリウッドスターのおんなじ誰かが好きなら、それでも良かったかもね
オッサンは、一瞬、スゴイイケメンになったように見えたが、次第に、背が伸びたり縮んだりし始めた。
顔はというと
「岩谷さん、見ない方がいい、少し離れよう」
そう、ありとあらゆる女性のありとあらゆる理想を体現すべく、顔の細胞が、激動し始めた。
結果は
「キャー」と誰かが気がついた悲鳴
そして
「グゲッ」
身体が耐えきれなくなった模様
おそらく、肉塊と化しただろうオッサンの方を振り向かず、少しでも距離をおく
臭ってきそう
「おい、誰か!」
「何が起こった!」
フロアが騒然としだす。
そんな騒ぎの中
「地震か?」
逆行した時間に追いついた。
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よし、現状確認をしてみよう
さっきは、慌てて、時間を逆行させてしまったが、自己保身モードが作動したわけではなかったので、ここは様子見。
「思ったほど、揺れないわね」
「あー、たいしたことないね」
外で体感した、建物が崩れるほどの地震には、感じられず、30秒もしないうちに、揺れは収まった。
「おいっ!気象班!」
デスクっぽい人が指示を出している。
「あれ?地震の情報が入って来ないっす」
「と言うことは、、、爆発物の可能性があるな。木下!情報集めろ」
更に右往左往しだす人々
「課長!救急車の要請は?」
「うーっ、そうか、その始末もか、任せる。」
見ないようにしてたが、たぶんヒドイものがあるはず
「ねぇ、岩谷さん。いったんさっきの現場に戻らない」
俺自身は、いったんこの場所へ来てしまえば、後でいつでも来れる。
「えっ?あっ、そうか、たいしたことないなら、元のところに帰った方がいいか」
報道フロアから出て、地上まで降りた俺たちは、再び逆行時間の中、元いた場所に戻ることにした。
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歩きながら、今後のことの打ち合わせをしていく。
岩谷さんによると、あのフロアにいた人たちで、特に危なそうな能力は感じなかったらしい。
現状に満足してたり、忙しすぎる人は、色々それどころではないのかもしれない。
ただ、岩谷さん自身も、自分の能力を完璧に把握しているわけではなく、また、何か能力を願った人たちも、自爆している人の多さから分かる通り、能力の使い方がキチンと分かっていない。
じゃ、なけりゃ、オッサンの時の俺がアレだけ条件をつけまくるわけがない。
「さっきの、地震だか、爆発だか、だけど、アレって、、、」
「いや、さっき見かけた爆弾魔の仕業ではないと思う。あいつは、本当に危険な感じだった」
「そっか、何かが爆発したような雰囲気はしなかったもんね」
「俺が思うに、ジャグったんじゃないか?」
「どういう意味?」
「あれ?ジャグるって言わないっけ、能力の不発とか、失敗とか、結構、この能力はやたらめったら使うと、自分にはね返ってくるんじゃないか?」
「もしかして、ファンブル?」
すみません、たぶんそれが普通の言い方です
「そういや、さっきのセクハラ部長といい、駅前で、テレビに押しつぶされていた人といい、、、あれ、えーとさぁ、もしかして、あんなことなる前に教えてあげたら、助かったかもよ」
そういうことを言われるのが一番イヤなんだが
「ホントに、そう思う?彼らがあんな風になる前に、俺の言うことを聞くとか」
「そうね…」
岩谷さんは、何か、考えるように下を向いて歩いてく。
「じゃあ、ここで」
岩谷さんを最初に連れ出した現場は、カメラマンが一人残ってた。色んな矛盾は辻褄合わせしてくれるらしい。
「自爆してしまう人は、諦めてもらうとして、こいつは、絶対に許せないって奴がいたら、とにかく自分の安全を確保してから、場所を連絡して。駆けつけるようにするから。」
「うん、ありがと」
「それで、できれば、SNSみたいのでいいから、1日1回生存確認ができるようにしといてくれると、ありがたい」
「じゃあ、twitter教えとく」
「OK、あと、くれぐれも、俺や自分の能力を言いふらさないように、まぁ、甲斐さんが一番心配なんだが。」
「 うん、あの子他に特に仲の良い子いなさそうだったし、たぶん、最初に私に相談してくれると思う。」
「彼女は、切り札だからね。まかせるわ」
「今日は、このあとは、どうするの」
「とりあえぜ、事務所に戻ってみる」
「竹下通りの?真面目な話、1回見に行きたいかも」
「今日夜でも、明日でも、連絡くれれば、いるようにするよ。それじゃ、ガレキに気をつけて」
俺は、彼女と別れて、いったん昨日へ飛んだ。




