プロローグ 全面改訂版
はぁ、今日も何の成果もなかった・・・
打ち合わせの帰り道、とぼとぼ歩く
企画ばかりで、いっこうに結果に結びつかない
おまけにこの暑さで、中年の身体には大概堪える
通り道に小さな公園をみつけ、なんとはなしに、ベンチに腰掛けようとしたら先客がいた
仙人みたいな格好の爺さん
今どき見かけないような、杖をついている
「はぁ。。。」
自分と同じようなため息をついているのを見て、ついおかしくなってしまった
すぐそばにあった自販機で冷えたお茶を二つ買った
「一ついかがですか」
まったくの気まぐれだった
つい声をかけてみたくなっただけだった
その爺さんは、不思議そうな顔であたしの顔を眺めてくる
「あなたみたいな長く生きられたような方でも、ため息なんてつくことあるんですねぇ」
お茶を受け取ってくれたのを見て、ちょっと離れたところに腰掛けた
「そりゃのぉ、二千年もこんなことしてると、たいがい飽きるわ」
なんだ、この爺さん?
変な人に声かけてしまったか
まぁ、あたしも伊達に長く生きてないから、適当に流すのはどうってことない
「そうですか、どんなお仕事をされてるんです?」
「神だ」
はっ、いやスルー能力超えたか
「ほぉ、それはまた大ごとですね」
「おぬし、変わっとるな」
ふーむ
空想の世界で、色々な物語を考えるのは、あたしも嫌いじゃない
若い頃は世界征服してハーレムだ、とか、さすがに最近は精力減退で、健康とか若い頃の体力がほしいとか
そりゃ、今だって、ちょっとした魔法が使えたら、人生もう少し楽しく生きられるだろうし
「神様も、真面目にやるとたいへんなんでしょうね」
「おー、分かるか」
いや、神様なら、それこそ、あたしの頭の中だってわかるでしょうに
「いやー、先代の神から引き継いで、最初の500年くらいは、ワシも、色々民を導こうとしてみたりしたんだがなぁ」
神様って、引き継ぐものなのか
「はぁ、でも、神様は、基本、放置プレイで、いいんじゃないですか、いちいち一人一人のことに、拘わってたら、やってられないでしょ」
「そうは言うが、お主なら、どんな世界を作るんだ」
「あたしですか?そうだな、すべての人が、なんか一つ異能力を持ってる世界とか面白いかなぁ」
「そんな世界、お主はどう管理するつもりだ」
「へっ?管理なんてしませんよ。自分もなんか能力もらって、あとは、みんなと一緒に右往左往してたら、いんじゃないですか」
「そんなの、人類皆殺しだ、みたいな奴が、一人いたら、終わってしまうではないか」
「いや、そんな能力持っても、まともに使えないような工夫、いくらでもありますって」
たいがい、人生に飽きてたあたしだが、爺さんが、熱心に聞いてくれるので、好き勝手なことをしゃべってやった。
「よし、決めた。お主、次の神になれ」
「はぁ、そりゃどうも」
「証に、この杖をやる」
「いや、杖をもらっても」
「何を言っとる、こんなもの好きな形に変えられるに決まっとるじゃないか、ほら、持って願ってみろ」
「はぁ、それじゃ、Suicaにでもしますか」
馬鹿話ついでに、関東をかなりカバーできる、6ヶ月の定期券でね。
ぽわわん
ゲッツ
へっ
キタコレ
「えーっと」
「やっぱり、お主は変わっとるの」
「あの、これ失くしたりしたら、、、」
「そんなの呼べばいいじゃないか」
「いや、そんな何でもありの能力とか持ちたくないし」
「それじゃ、大切にしまっとくしかないのぉ」
うーーんと、うーーーーーんと
「で、あたしは何をすればいいんで」
「そんなの、さっき、さんざん語ってたではないか」
「あんなんでいんですかね」
「わしゃしらん、もう、おぬしにバトンタッチした」
あたしが、考えたのは、みんながゲットできるのは、詳細に規定しないと、自分の思ったとおりになかなかならない能力ってのが基本
あたし自身は、過去と行ったり来たりできて、ついでに、行ったことのある場所なら、飛んで行けて、さらに、こんなくたびれた身体もいやだから、年齢も自在にできるといいなとかいう、能力。
任意の人物にも使いたいし、安全対策も万全にしておかないといけない。
こんな能力を実際にゲットしようとすると大変なことになる。
例えば、
過去の任意の時空に、自身が認識できる範囲内で、自身の肉体・精神ともに安全な位置・時間に現在の自分の知識経験と、靴・衣服・持ち物を所持したまま、瞬間移動し、自身が指定する任意の人物を同じく、その知識と経験を持ったまま、自分自身と同時に安全に移動させられ、移動した時空にての活動が、将来にわたって自身の予期せぬ結果をもたらすようなことなく、その知識と経験を自分のものとし、自身の意思により、再び安全に直接現在、もしくは、現在までの任意の時空を経由して、戻ってくることができ、同時に、自分自身と、指定する人物を、自在もしくは、指定条件での肉体年齢とし、自身と、指定する人物に関しては、当然その知識と経験を失うことなく、安全に活動ができ、更に、自身に肉体的危険、支配、あらゆる即死に至る負荷、麻痺、睡眠、疾病、精神支配、などが外部よりもたらされた時、本人の意思・認識と関わりなく、その瞬間から時間をあたかも、時間が進行していないと自身が認識できる速度で時間を遡及し、自身の安全が確保され、自身の意思にて、その異常状態から回避できるまで、維持する能力・・・
な、なげぇ・・・・
ほとんど契約書の一文だぞ、これは。
もっと整理できそうな気もするんだが、あたしの能力だとこんなもんだ
まぁ、魔法だって、精霊との契約とかいうのがあるくらいだかが、あながち間違ってはいない気がする
あと、なんか落としてることは。。。
自分で言うのもなんだが、結構、最後のツメが甘いのよね
昔、シミュレーションゲームで、敵を追い詰めて、北の果てに包囲したのに、1点突破され、首都陥落で、半島が赤く染まってしまった。
そんなわけで、そうだな、あとチートで怖いのは、能力コピーだが、これは、同じ能力は同時に存在せず、かつ、一人が持てる特殊能力は
一つに限るというメタでつぶせるのではなかろうか
あたしみたいに、こうずらずら、まさしく呪文のごとき能力の重ねがきをしてくる奴がどれくらいいるかだが、、、
あぁ、せっかくだから、的確な状況判断能力も加えておくか
自分の世界に浸りだしたあたしを見かねたのか、爺さんが立ち上がる
「じゃぁ、わしはもう行くぞ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。例えば、能力を与えるのって、日本国内限定とかやったら、やっぱり不公平ですか」
自慢じゃないが、あたしが行ったことのある外国は、すべて仕事で、アジア三カ国とアメリカ西海岸だけ
なんかあって、地球の裏側まで行かないといけない事態は、どう考えても面倒くさい
「そりゃぁ、そういうこと含めて、全て好き勝手できるのが神だろう。じつは、わしも昔、ローマ帝国に肩入れしたことがあってのぅ」
「ロ、ローマですか」
「そりゃ、元気なころは、世界中、歩き回ったわ。ローマはのう、下水道が完備しとったから、あいつらに街を作らせると、なかなか便利じゃったのだ」
はぁ、まぁ、そんな理由とかでも、いいなら、気楽にやるかぁ
「えーっと、今は、特に何もしなくても、このまま世界は回ってるんですか?」
「おぬしの言う放置プレイならその通りだな」
「じゃぁ、あたしが、なんかやらかして、パラドックスみたいなことが起こったら?」
「難しいことをいうな。結局、世の中、なるようにしかならんし、それこそ人間の認識とかあやふやでな。勝手に頭の中でつじつま合わせをするようにできてるから、あまり心配することはないんじゃ」
「はぁ、それなら、あたしにもできるかもしれませんが」
「それじゃ、元気でな。ワシもなんか能力ゲットしようかのぅ。まぁ、神の能力手放したから、そうばんくたばるじゃろうが。カカカ」
えーーーーっと、家帰って、頭冷やしてから、作戦練ろう
めまいを感じながら、一人暮らしのアパートにとぼとぼ向かった