アウラの丘
・・・終わったーという感じです。
皆さんからの感想ってこんなに燃料になるんだなーという経験をさせてもらいました。なかなか親孝行な小説でした。
同時に次回作アーシアの戦記もUpしてますんで、気になる方は覗いてください。
応援、罵倒お待ちしてます。
お前の正体は人間ではない、精神生命体たる超種族なのだ!
なんて見事に厨二病な設定なのだろう。
古代ギリシアに来る前の俺が聞いたら、爆笑するか、黒歴史で赤面するか、どっちかだったろう。
もし来る前が存在するならだが……
頭の中を嫌なイメージが占有しはじめた。
人間そっくりにできた肉人形の皮、中にはゼラチンのような透明なアメーバが詰まっていて、そのアメーバの表面には東山優馬と焼印が押してある……そんなイメージだ。
俺ってどれだ?
「アーシア、お前が今、ひどく混乱しているのはわかる。しばらくは自分と向き合う時間が必要だということもな。朝までここにいろ、迎えをよこす」
そういうと師匠は一人先に丘を降りて行った。
残された俺が感じたのは……孤独感……そんな優しいものはなかった。
自分への絶望的な嫌悪感、そして今夜は他人に自分を見せなくて済む安堵感だった。
喚き、転がりまわり、叫びまくった。
理不尽とすらも思えない真実。
養父の手紙の時にも感じた現実への否定。
英雄気取りの物体に人間の真似をさせた運命を呪い、恥じ、時に嗤い、絶望した。
(俺は化け物なんだよ)
心の中の声はこの一言で全部埋まってしまった。
急いで、リカヴィトスの館に戻ったヘラクレイトスはグラウコスにパンドラを呼ぶように命じた。
しかしパンドラより先に部屋に入ってきたのは師匠だった。
「はー、師匠が先に来ちまったか」
「なに、何か不満?ところでアーシアはどこ?」
「アウラの丘に置いてきた。今頃は……のたうちまわってるだろう。」
「え、え?話が見えないわよ。ヘラクレイトス、妾に話しなさい!」
ヘラクレイトスはアーシアの正体をクレイステネスの最後を含めて、師匠に話した。
「な・なん!」
そのまま飛び出そうとするアレティア姫の腕をつかむ。
「何をするつもりだ?」
「決まってるわよ。アーシアを助けに行かないと!」
「どうやって?」
「すぐにでも傍に行って孤独にしないってことを伝えないと!」
……ヘラクレイトスは手を放さなかった。
「無駄だ……あいつは異種族の孤児……これは変わらない……」
「だったら、どうやっても助けないと、そうピュロスとコリーダは、一緒に行けば……」
「変わらんよ」
ヘラクレイトスは冷たいともいえる口調で突き放した。
「師匠、それにあの二人、そしてアーシア……みんなまっすぐだ。俺たち大人が失ったまっすぐさがある」
ヘラクレイトスはふとドアの方に目を向けた。
「だけどお前さんたちでは、折れたアーシアを支えることはできない。支えようとすれば一緒に折れるか……その場で動けなくなるか……いずれにせよ、オレは師匠まで失うわけにはいかない」
「そんなことはないわ、手を放しなさい弟子」
「まあ聞け、師匠。今アーシアに一番必要なものは何かわかるか?」
「教えなさい。私が手に入れるわ」
「……母親だよ。この世界にもう一度産み直してくれる母親さ」
その言葉を聞いたアレティアはゆったりとほほ笑んだ。
「なら、わたしが……」
「子供は母親を恋人にはしない!やがて親離れするものだ。」
ヘラクレイトスは優しい目で師匠を見つめた。
「耐えられるかい?」
無言のまま唇をかむ師匠
やがて涙を浮かべた目で決断した。
「・や・るし……」
「遅くなったわね。ごめんねヘラちゃん」
その瞬間にドアが開いた。
「聞いた通りだ。悪いな。いつもこんな役回りで」
「何が?若い子を育てて食べるのは、私の趣味よ。口出しはさせないわ。じゃあ」
そういうとパンドラはカッカと靴音を鳴らし出て行った。
「ヘラクレイトス、パンドラは……」
「クレイステネスのいない間、家を守るのはきれいごとだけじゃすまなかった。あいつは比喩抜きで全身を使って手伝ってくれたんだ。こういってたよ、あたしの身体はいつでも新品に戻れる、そう思えば心は壊れないってさ。」
……
「彼女ならアーシアを作り直せるだろう……ヘレネスの仲間の一人として孤独をなくすために」
……
「俺はいったい何なんだ!」
疑問・自嘲・謙遜・後悔・恐怖・未練、すべてがこの言葉で代わるがわる訪れてきた。
地面に身を投げのたうち回った。
意図的に魔術を暴走させ自分を消滅させようと考えた……でも……怖くてできなかった。
日が昇るころには、着ていた着流しはボロボロに破れ、土と草汁にまみれたドロドロの格好になっていた。
陽が昇り涼しかった空気が温まっていく中、俺の視界が突然暗くなった。
「かっこいいわよ。アーシア」
俺の横にパンドラが立っていた。
「どこがかっこいい、パンドラ、俺を知りもしないで言うな!」
瞬間的に腹が立った。
「ええ、知らないわよ、でも今のあなたはかっこいいわ。すぐに食べたくなるぐらいに。」
「この状態のどこがかっこいいんだ!馬鹿にするな!」
その一言を聞くとパンドラは妖艶な笑みを浮かべた。
「じゃあ、どんなのがかっこいいの?」
その言葉で少し頭が冷えた……
「さあな、でもこんな格好じゃないことだけは確かだ」
それを聞いたパンドラはおかしそうに微笑んだ。
「あたしには、今のあなたぐらい、かっこよくて、女々しくて、食べたくなる状態はないんだけど」
「女々しいか……」
たしかにそうかもしれない。
「なあ、パンドラ。俺は化け物なんだよ。師匠に言われた」
「それが?」
「それがって、俺は人間じゃないらしい。」
「まあ、あたしたちは人間に含めていいのか問題はあるわね。でもなんで今更?」
「そうじゃなくて、中身が人間じゃないんだよ。別の生命体が潜んでいるんだ。」
「……?、で何か問題があるの?」
え、問題……?
あれ?
「あたしは、そんなに感情をむき出しにする生き物は人間以外知らないわ。だからあなたは人間として生きていく……それじゃダメなの?」
「このままじゃ自分がいるのかわからない」
「あたしもパンドラがどこに宿ってるかは知らないけど……人間ってそうじゃない?……それともあなたはパンドラがあたしのどこにいるか知ってる?」
脳、いやアカシックレコードを知った今はそうとは断言できないのか……確かにどこだ?
彼女の言葉はまるで魔法のように自己という外郭を刻み始めていた。
「何なら、探してみる?」
そういうと彼女は肩の留金を外した。
キトンがふさりと音を立てて草むらに降りた。
下着はつけていなかった……
「ねぇ、アーシア。私の身体のどこにパンドラがいて、どこにパンドラがいないと思う」
その姿は俺の性欲を掻き立てる代わりに、美しい美術品の感動を伝えてきた。
「きれいだ……」
すらりとした脚、張りのある白い肌、豊かな乳房はやや上向きで乳首は桜色だった。
黒い髪はわずかに風にたなびき、その細さと艶を誇っている。
ウエストは細く、豊かな腰は彫刻のようなバランスを持っていた。
「人が人に抱く感情はそういう簡単ものだけじゃないのよ。でも今の私はあなたにとっては綺麗に見える。たぶん、まだ、それだけ」
そして軽く笑うと
「今の私はあなたの鏡よ、感じるのは純白で穢れない幼い精神。私に色気を感じないうちは、まだ精神は成熟してないわ」
いきなりバットでぶん殴られた気分だった。まだまだ未熟ってことか!
そうだよ、たかだか二十才ちょっとで一人前の顔ができる方がおかしいんだ。
「いつか色気を感じるようになったら抱いてあげるわ。それまで傍に置きなさい。」
かなり変わった売り込みというか……断れないよなー、いつの間にかどん底だった気分がかなり上向いていた。
弱弱しい笑顔とともに立ち上がる。
彼女は立ったままで優しく抱きしめてくれた。
素肌の温かさが皮膚に染み通っていく。
暖かく守られる感じだ。
彼女は裏切らないと理屈抜きで感じられた。
「契約料は、期待料こみで安くしておくわ。」
彼女は晴やかな笑みで俺の頭をなでてきた。
……半月後……
船の前方にラムヌースの神殿が見えてきた。
まだ十分な港湾設備もないため上陸はアカイア号に搭載したカッターに頼ることになる。
「港湾と神殿と砦か……半年でできるかな?」
何気なく独り言のようにつぶやく。
「大丈夫よ。何とかなるわ」
そういいながら姫様が前方を指さした。
ピュロス、コリーダ、パンドラも見つめる中、目のいいキモンが叫んだ。
「大勢の人が海岸にいます。たぶん千人以上」
ヘイロイタイか……まだまだ救える人たちは少ないが……これからも少しずつ増やしていこう。
アーシア・オレステス・アリキポス・アルクメオンそれが今の俺だ。
いつか、俺じゃなくなるまで、心の赴くままに生きていく、そう決めた!
「ラムヌース!まず下水道を俺が作る!」
=アーシアのスキル一覧表=
汎用知識(ギリシャ地域)
一般技能(鑑定)
一般技能(知識・メイド)
一般知識(公衆衛生)
専門技能(薬学)ランクC
専門技能(馬術)ランクD
特殊技能(尋問)ランクD
特殊技能(神学)ランクE
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
特殊技能(料理)ランクD
特殊技能(詐欺)ランクC
特殊技能(弁論)ランクF
特殊技能(取引)ランクE
特殊技能(魔術)ランクA
特殊技能(演劇)ランクB
特殊技能(服飾)ランクC
特殊技能(知識・船舶)ランクE




