キモン
なんか最終回っぽいんですけど
「あとちょっとだけ続くんじゃ」 といっておきましょう。
最終話には順調に行くと2話、難航しても4話程度かかると思います。
旗の刺繍が銀なのはアポロンの弓が銀のせいです。金はアルテミスの弓です。
夜明け直前、同じベットに寝ていたコリーダが、俺を起こすと身支度をして部屋を出て行った。
といってもエロいことをしていたわけではない、単に空間恐怖症の予防である。
さすがに将軍の家に泊まって……そこまでは……
コリーダは家の屋根に上ると、長槍にアポロ神殿の旗を結び、突き立てた
もう9か月以上も使っている旗だ……色が褪せるたびに赤ワインで染め直し……まさにワインレッドというべき深い色合いを手に入れた旗だ。
あまりの美しさに、船旅の暇に任せて、銀糸を作り大蛇を刺繍してしまった。
さらに周囲に同じく銀の飾り紐を縫い付け……昭和の香りのする観光地ペナントの巨大版……全長2mに達する三角旗になっていた。
……デルフォイはピュトンの屍を埋めた場所なので、別に問題になることもないが、勢いって怖いってことを実感させられた。
「この旗のもとアーシアあり」という感じで、今後広めようと思うので……コリーダと一緒に屋根に上り、旗の下に座っていた。
夜が明け、人々が行き交うようになると、当然すぐ見つかった。
最初のうちに手を振るなど愛想よく対応して、噂を広めると、急いで屋内に戻った。
もちろん旗はそのままにしてある。
「だいぶ派手にやったな。アーシア」
「すみません将軍。しかしこうしておかないと他の者が下船できないので、ご迷惑かけます」
「警備を強化するように言ってきた。できればテミストクレスが来てからにしてほしかったが……」
「それまでに他の客が訪問してこないとも限りませんので。」
「そうだな。……たしかにそうだ。」
納得がいったのか将軍は俺を広間に招き、朝食を開始した。
当然、息子も一緒である。
昨日の今日であるので、一層楽しそうなキモンを見て、俺は将来の出来事を忠告するかどうか悩んでいた。
ちょっと自分の考えに沈みすぎていたかもしれない。
俺がキモンに気をつかっていることを、将軍に気付かれてしまった。
「アーシア、ちょっといいかな?」
朝食後に彼が執務で使っている部屋に招かれた。
「食事の時に何かキモンに対して悩んでいるようだったが?」
「……気づかれましたか」
「あれだけ露骨ではな。恋愛ではないようだが?」
「!」
やば、そういう風にも見えるのか。将軍が鋭い人で良かった。
「はい、昨日、彼から姉を紹介させてほしいといわれたときに見えた、神託の内容で悩んでいます」
とっさに一部を作り変えた。
(クエスト:即興劇の創作成功・・・特殊技能(演劇)ランクBに昇格します。)
彼は俺の態度を疑うことなく信じたらしい。
「神託か……話せる範囲でワシに話してくれないか?」
「わかりました」
俺は将軍にキモンが陥る境遇について話した。
将軍が軍事行動で失敗し民会から罰金を科せられること。
将軍の死後、その罰金を払うために姉であり妻であるエルピニケと離婚して、彼女はカリアス家に嫁ぎ、キモンはアルクメオン家のメガクレスの娘と再婚すること。
再婚後、妻の持参金で罰金を支払ったのち、キモンは軍事的才能を開花させ、多くの戦闘で勝利し、手に入れた捕虜の身代金だけで大金持ちになること。
彼は、その財産を鷹揚に皆に振舞い絶大な人気を得るも、讒言に苦しめられ、ついに陶片追放で追放されること。
追放後はスパルタに客分として迎えられ、アテナイとスパルタの不戦条約を結ぶなどアテナイのために尽くすのだが、名誉はなかなか戻らず、追放終了後も最後はペルシアとの戦闘の中で死亡すること。
「結局は軍事能力が高いが、政治能力が低いために政敵に利用され、追い落とされる形になってしまったのです」
「それで、なぜ話すのを悩んでいたのかな?」
「それがそのキモンが不幸せそうに見えなかったからです」
「なぜ、その状態で、不幸せそうに見えないのだ!」
若干怒りが入っているようだ。
俺に対してかキモンに対してかまではわからなかったが。
「俺にもわからないのですが……彼は常に最善を尽くすことに至上の喜びを得るのではないでしょうか?結果や報酬は関係なく、自らが信じることを信じたままに行えた、ということを最も重要視しているように感じました」
それを聞くと将軍は静かにため息をついた。
「……納得できるな……たしかに、あれはそういうところがある」
「ただ、見ていたものとしてはもう少し報われてもよいと思うのですが……下手に忠告をして彼が最善を尽くせなくなり、不幸を感じるようでは本末転倒と思い悩んでいました」
そこまでいった俺の手を将軍はがっしりと握りしめた。
「一人の父としてアーシア殿に感謝する」
「将軍、これは神託をどこまで話すかを決める巫女の仕事にすぎません。俺に感謝は無用です。アポロ神への感謝なら受けますが」
「ではアポロ神には、いかに感謝を示せばよい?」
「ならば市場に建設中のアポロ神の音楽堂、その周囲の清掃をお願いします」
「清掃?それでよいのか?」
「ええ、アポロは光明と予言の神であり、音楽の神でもありますが、疫病の神でもあります。周囲を綺麗にして疫病に対して恐れていることを示せば、アポロ神も自分の威光を恐れていることを感じますので、充分感謝を伝えることができます。」
「なるほど、納得した。……それともう一つ願いがあるのだが……」
「何でしょう?」
「私の子をもらってはくれないか?」
「?」
「エルピニケだ、正妻でなくてもかまわん」
ちょっとまったーーーー!
「将軍、私は神託の話をしたはずですが……」
「うむ、それを聞いたので本人に意識させることなく、違う未来をつかむために、エルピニケを別の人物に嫁がせれば、違う未来になると考えたのだが……」
あれ?正論だ……まったくの正論だ……まいったな。
「将軍、これより先は内密にお願いします」
「うむ?」
「わたしは巫女になった際に子種を失いました。よって子ができません」
「なんと・・・さもありなん・・・男が予言するにはそのような代償がいるのか」
あ、うまい具合に誤解した。
「よって、エルピニケに子供をもたせられないので……」
「わかった、子もやろう。キモンを連れていけ!」
???
??
?
「えええーーーーー」
「うん、我ながらいい考えだ。妻がエルピニケ、子がキモンならば、実の母子とまったく代わりあるまい」
「おそれながら、キモン家は?」
「兄の孫のオロロスがいる、むしろあちらが本流だ。元に戻せばよい」
オロロス……どっかで聞いた気がする……
「それにキモンにしてもアルクメオン家の次期党首候補だ。それこそメガクレスの娘と結婚させれば盤石だろう」
あ、その考えはなかったわ。
「キモンは将才はあるのであろう。十分にアルクメオン家にも役立つと思うが?」
アルクメオン家というか……個人的にキモンの海軍提督としての将才は欲しいんだけどね……船、任せたいし……あれ?ちょっとまてよ。
「アルクメオン家も絡む話となれば一族の相談が必要です。アテナイに行き、メガクレス達との相談の後に正式に返答いたします」
「うむ、良い返事を待っているぞ」
いま気づいた。
おれが人材を集めていけない理由ってないんじゃない?
もう歴史は変わり始めてるんだし……もう俺の記憶がどこまで正確なのかはわからない。
ペルシア戦争は40年以上続く長い戦乱だ。
前期の英雄がミルティアデスだとするなら、後期の英雄はレオニダス王。
もちろん英雄はそれだけではない。
後期の英雄になるやつを、私兵に加えられれば……
アテナイならランポンの子オリュンピアドスが弓隊300で敵の騎兵隊長マシスティオスを討ち取っている。
デケネイア地区のエウテュキダスの子ソパネスは武勇第一と評価されてる。
スパルタはポセイドニオス、アモンパレトス、ピロキュオン、カリクラテス等、綺羅星のごとく……全員戦死しているが……テルモピュレイの300人の生き残りの「臆病アリストダモス」「使者パンティテス」も狙い目かな。
こうやって見ると結構人材いるじゃないか。
人を集めて……密かに反乱を狙ってるマケドニアの王アレクサンドロス1世と協力できれば……でも、いいのかな?
歴史を変えちゃって……
……頭の中で二人の男の広い背中が視えた……
「自分のやりたいことをやればいい」
「まだ見ぬ世界を作ってくれ」
いいのか!
師匠も養父も言ってたのはこの事か!
……そうだな、キモンを見習って全力を尽くしてみるか。
歴史を知ってるアドバンテージは人集めまで、あとは全力でこの時代で生きてみるか。
自ら信じたままに自ら振る舞う……理想だけど現実は遠い、でも近づいてみようか。
どんな未来が待ってるんだろう……
=アーシアのスキル一覧表=
汎用知識(ギリシャ地域)
一般技能(鑑定)
一般技能(知識・メイド)
一般知識(公衆衛生)
専門技能(薬学)ランクC
専門技能(馬術)ランクD
特殊技能(尋問)ランクD
特殊技能(神学)ランクE
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
特殊技能(料理)ランクD
特殊技能(詐欺)ランクC
特殊技能(弁論)ランクF
特殊技能(取引)ランクE
特殊技能(魔術)ランクA
特殊技能(演劇)ランクB
特殊技能(服飾)ランクC
特殊技能(知識・船舶)ランクE




