アイギナ周遊記
ついにアイギナ(エギナ)島です。
順調にいけば次回アテナイ、その次はラムヌースになります。
長かったー。
ここまで執筆ペースをキープできたのは皆さんの応援のおかげです。
やっぱモチベーション高いと執筆速度も上がりますね。
だいたい先が見えてきました。
マラトンの戦いはマケドニア編の最初に移動です。
ということで、あと4話か5話でスパルタ編終了です。
マケドニア編からの新小説の題名は考え中ですが
「アーシアの戦記」にしようかなと思ってます。
輸送船イオニア型二番艦、アカイア号はイオニア号と比較して自衛力に優れている。
といっても、基本二段櫂船で前後に櫓を組んだ形は変わらないのだが、北航路で使うことを考えて、10人漕ぎのカッターを4隻吊り下げている。
本来は港の深さが十分でないときに客を送迎するために工夫したのだが、カッターの中央に高さ1mの台を作り、その上に簡単なカタパルトを設置した結果……テラコッタ製の火焔弾を打ち出すことができるようになっていた。
これだと、このカッターは分類上は砲艦になるんじゃないかな……と思いつつ、小舟のせいで快速&高火力だけど荒天は運用不可という特徴から、空母みたいな性格になった輸送艦アカイア号を試験運用していた。
まあ荒天時に戦闘不可になるのは、この当時の地中海では全部の船がそうなので気にはならない。
しかし、竣工したてのアカイア号を、そのまま北航路に放り込むのも不安なので、強度や運用の確認を兼ねてラムヌースへのメトイコイの輸送に呼んでみた。
「おっはよー」
姫様は今日も元気である。朝日の差し込む部屋に、水仙とレモンの香りが入り混ざっている。
「おはようレイチェル」
昨日の夕方、アイギナの沖合に到着した俺たちは一晩、沖で入港の順番待ちになっていた。
アカイア号はまだ本格的な運用はしていないのでヘタイラもサルピズマも載せていない。
そのため比較的余裕のある船室にメトイコイ300人を割り振って、宿泊させていた。
「ねえねえ、昨日の夕方、綺麗だったじゃない。あそこ行ってみようよ」
姫様が言っているのはアフィア神殿である。
「いいのかい。アイギナにはアポロ神殿もあるだろう?」
「どうせ夜はアポロ神殿に泊まるんだから、まずはアフィアの聖域に行かないと」
そういうと姫様は掛布を跳ね上げ、上半身を起こした。
掛布に籠っていた匂いがあたりに漂い、部屋の匂いに女性の香りが加わった。
姫様はそのまま動かない。……結構、立派な胸になったのが目立つ。
肌の産毛はそらないので、毛に朝日がきらめいて体に虹をまとったようだ。
「ん?少し毛の色濃くなった?」
「ちょっとね、でも……たぶんハニーブロンドぐらいまでしか行かないと思う。黒まで戻すには魔術禁止を半年はしないと……」
「昨夜も体中の毛の色が薄かったもんなー……」
=ゲシッ=
「デリカシーのないこと言わない」
「はい」
アフィアは光の女神であり、美しすぎるあまりストーカーに悩まされ、アルテミスに透明にしてもらったという逸話の残る女神だ。
ここアイギナのアフィア神殿は灯台としての機能もあり、アテナイの青髭の神殿、スニオン岬のポセイドン神殿と正三角形の配置をしており、見える位置で船が進む方向がわかるようになっている。
夜は、松明をともすのだが、火をともすのはアイギナのアフィア神殿だけである。
まあ、万が一の時は、そこに目指して進めということなのだろう。
まだ、この時代、夜間航行は充分な安全性がなく、星空がない夜は沿岸近くで漂泊するのが一般的である。
その分、夕闇に包まれる中でも、光を放つ白大理石の神殿は神秘的に見えたのは間違いない。
昼近くに船の順番が来て、入港手続きを行った。
水先案内人が乗り込み、水路を指示してくれる。
その水路通りに進まないと、座礁するように障害物が沈んでいた。
つい先日までアテナイと戦えていた都市国家がアイギナなのである。
アイギナ島は一辺が12~3kmの三角形の島である。
頂点は東西と南にあるため、北の方が広い。
その北西部に港があるのだが、アフィア神殿は北東部である。
港のすぐ北にはアポロ神殿がある。
……つまりアフィア神殿へは片道12kmの道のりがあり……往復だとほぼ一日かかることになる。
さすがに、アポロ神殿を無視したらまずいだろうということで、港に到着後アポロ神殿を訪問・宿泊、翌日にアフィア神殿を目指す予定にした。
「船の手続き終わった?じゃあ、商売の方はピュロスに任せるね」
「お任せくださいアーシア様。アリキポス商会の名前があれば、私でも対等に扱ってもらえますので大丈夫です」
「じゃあ、コリーダとレイチェルはアポロ神殿に行くから、奉納品準備して」
「ご主人様、奉納品はこの小麦と月桂冠だけでいいのですか?」
「それで、充分だと思うけど、どうレイチェル?」
「いいと思うわよ。その月桂冠はアーシアの手作りだから、すごく形がいいし喜ぶと思うわ」
「さすがに船で来たから贄の家畜はむこうも期待してないだろう」
「そうですね、では、小麦は私が背負いますので、月桂冠はレイチェル様にお願いできますか?」
……軽々と半タラントン(18kg)の小麦袋背負われた……コリーダ……
アポロ神殿は思ったより大きかった。
100m×150mの建物群で中央にはドーリア式の石柱で作られたアポロ神殿が鎮座していた。
この神殿を中心に副神としてアルテミス神殿が海側に立てられ、神官達の住まいもある。
市場としても使えそうな石畳に覆われた一画になっていた。
ただアイギナは港が大きいせいで貿易用市場が発達している。
そちらと市場を兼用しているため、アゴラとしての使ってはいないということだった。
「デルフォイの予言巫女、アーシア・オレステス・アリキポス・アルクメオンと側巫女アレティアです」
アポロ神殿で久しぶりの名乗りを使う……前回使ったのっていつだっけ……名前が変わってからだと初めてだが……
さすがにデルフォイの巫女+アルクメオン家の名乗りは圧倒的らしく、下に置かない対応を受けた。
神官が自分の娘を嫁に送り込もうとするのだけは閉口したが……
でも考えてみれば、妻帯者じゃない限りは、ずっとこういう目に合うのか。
……クレイステネスさんが生きていれば、これも相談できたのに。
アテナイにいってアルクメオン家に聞かないと判断もできないや。
「なに落ち込んでるのよ」
「いや、神官の縁談がうるさくて」
「それでも、側巫女として妾がついてるから、この程度で済んでるのよ」
「そうなの?」
「アルクメオンの若き当主は神に愛された美少年で、美に新風を吹きこむ才人。あんたの噂よ」
「げ、噂が独り歩きしてるね。まずいな」
「あくまでも正当な評価だと思うけど……まあそういうこと。アテナイに行くと、ものすごいことになると思うわ」
「でも、行かないわけにはいかないんだよな」
アテナイはペルシア戦争での最重要ポリスだ。
ペルシアの攻め込んでくる時期の推定や準備を踏まえ、ミルティアデス将軍とも打ち合わせておきたいことが山ほどある。
テミストクレスとも造船技師について協議しないといけないし、逃げ出すわけにはいかない。
「はーとりあえず行ってから考えるか……ねぇ、レイチェル?」
「なに?」
「結婚しない?」
……
「レイチェルを正妻で、ピュロスとコリーダを内縁の妻って考えてるんだけどどうかな?」
いきなり言われてレイチェルも戸惑っているようだ。まあわかるけど。
「お、おばあちゃんを、から、からかうもんじゃ、ないわよ。ぼ、坊や」
「愛があれば年の差なんて……っていってもわかんないか。」
その言葉を聞いた瞬間に姫様は黙ってしまった。
「久しぶりに聞いたわね。その言葉」
「前に、誰か言ったの?」
「ええ、まだ若かった頃のクレイステネスが言ってたわ」
「えぇ、まさか義父さん、姫様に言い寄ってたの?」
「ええ、若いといっても50過ぎだったけど。会ったばかりの時、妾の実年齢知らなくて逆の意味で使ったみたい」
あー見た目は15才に50過ぎが求婚するのか……まあ古代ギリシャならありか。
「ふったけど」
……ご愁傷さまです。
なんかうまくはぐらかされた感じで、この話は終わりになった。
翌朝、目が覚めた時には部屋には、わずかにバラの香りが残っていたが一人で寝ていた。
ピュロスは朝早く起きて、いろいろと準備してくれたらしい。
その日はアフィアの聖域に行き、珍しい2階建ての神殿を見せてもらった。
1階は普通の神殿なのだが二つの階段があって屋上に出れる。
屋上には灯台用の篝火の施設があり、夜通し火を灯していた。
そして驚いたのが風呂があったことだ。
風呂がある……なんで?
この仕組みからしてサウナ風呂……
話を聞くと神官が冬の夜も火を灯すため冷え切る体を、温める施設として作られたそうだ。
……もう言うまでもないよね。
予定変更、一泊しました。
サウナ風呂は3人と一緒に入ったけど……3人とも最初は使い方はわからなかったようだ。
レイチェルとピュロスはいまいちだったみたいだけど、コリーダはすごく気に入っていた。
やっぱある程度、体動かして汗腺発達してる人ほど好きなんだろうか?
俺はもちろん大好きです……懐かしい……湯上りに、枝豆で冷えたビールが飲みたい。
よし!ラムヌースには絶対に公衆浴場作ってやる。ローマ人に負けるもんか。
そして翌日も、港に戻った時には夕方だったので、船でもう一泊することになった。
明日こそ夜明けとともにアテナイに向かう。
=アーシアのスキル一覧表=
汎用知識(ギリシャ地域)
一般技能(鑑定)
一般技能(知識・メイド)
一般知識(公衆衛生)
専門技能(薬学)ランクC
専門技能(馬術)ランクD
特殊技能(尋問)ランクD
特殊技能(神学)ランクE
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
特殊技能(料理)ランクD
特殊技能(詐欺)ランクD
特殊技能(弁論)ランクF
特殊技能(取引)ランクE
特殊技能(魔術)ランクA
特殊技能(演劇)ランクC
特殊技能(服飾)ランクC
特殊技能(知識・船舶)ランクE




