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手紙

正直、書きたくなかったですが・・・史実に負けた部分ですね。

ごくろうさまでした、ゆっくりお休みください。という感じです。


 BC491年4月21日、スパルタンの民会は波乱なく終了した。

 多数の賛成で、すべての提案が承認され、アーシア軍司令官ポレマルク任命、アポロ祭司への就任、ラムヌース統治官着任の3件が認められた。

 同時にラムヌースでアポロ神殿と海軍拠点が着工を認められ、建築要員としてメトイコイより300名が来てくれることになった。

 この建築要員はうれしい誤算だったが、人数が多いため、ラムヌースへの移動ルートの再検討を行わなくてはならなくなった。


 当初は一気に北に向かい、騎馬でテゲア・アルゴス・コリントスと走り抜け、コリントス以降は海路でアテナイ経由でラムヌースに向かう予定だったが……

 この人数だと、いったんスパルタの南のギュテイオンに輸送船を回してもらい、そこからエピダウロスリメラ・トロイゼン・アイギナ・アテナイと移動した方が無難そうだ。


 アルゴスとは戦争したばかりだ。

 奴隷ヘイロイタイは見逃しても、兵士の半自由民メトイコイは見逃さないだろう。

 そこで姫様に手伝ってもらい、船の手配や物資補給の指示をしていた。

 まだ春先ということもあり、航海予定の埋まっている船も多く、手配には難渋していた……4月25日はそんな日だった。


 「レイチェル、あと2隻何とかならない?」

 「ダメね、いったんトロイゼンまで行けば、空き船が捕まえられそうだから……エピダウロスリメラとトロイゼンの間だけは船を往復させる?」

 「それが一番早いか。トロイゼンの帰り船の貿易の荷物決めないといけないな」

 「トロイゼンはいいけどエピメダウロスリメラはアレティアいないから……」

 「うーん、だとすると、売れなくても無駄にならない小麦とかかな……」


 =チリ―――ン=


 宿舎の建物のすぐ横でガラスが砕けるような小さな音がした。

 ピュロスががたりと音を立てて椅子から立ち上がる。


 「魔術?」

 姫様が慌てている。


 「入口から離れて!ご主人様」

 コリーダが剣を構えながら、指示を飛ばす。

 僕たちはその指示に従い部屋の奥、ベットの後ろにしゃがみ込む。


 入り口近くのコリーダをサポートするべく、ベットの横で、ピュロスが投げナイフを構えた。

 緊迫した中、表の通りに小さな影が動いていた。


 ……猫?


 ベットの下にいたホルスが飛び出した。その猫に甘えて、じゃれついている。

 

 「イシスじゃないか」


 気の抜けるような独り言と共に緊迫感が去っていく。

 「なんでイシスがいるんだよ?」

 「さっきの音は、ヘラクレイトスの転送魔法だったのね」

  師匠?なんでそう手の込んだことを……


 「何かがあったのね」

 「どういうことレイチェル」

 真剣な表情の姫様に尋ねる。

 「魔術で使う水晶球は真球に磨くので、小さなものでも数タラントンするの。おまけに魔術の代償があるから緊急以外は使わないはずよ」

 「魔術の代償?」

 「ええ、アタシは体の色素。彼は……髪の毛よ……」


 髪の毛……ってことは……今は、さらに前線後退中になるのか……すぐばれるんじゃ?……ああ、それで麦わら帽子かぶってたのか、納得。


 「あなたも代償は髪だと思うの。気を付けなさい、禿はアポロン神しか直せない病気だから」


 ……そういえば、古代ギリシャだと禿は病気扱いだったな。


 とりあえず気を取り直しイシスを観察する。

 ホルスの毛づくろいをしている彼女に手紙らしい羊皮紙が括りつけられていた。


 「……伝書猫?」


 思わず呟いてから、イシスから手紙を抜き取る。

 イシスはホルスと一緒に部屋に入ってくるとベットの下に隠れてしまった。

 姫様を警戒してるっぽい。


 手紙を見てみると俺宛っぽい……けど?とりあえず読んでみよう。

 この書き出しからみると書き手はクレイステネスさんだな。


 =わが最愛の息子、アーシア・オレステス・アリキポスへ=


 「緊急だったのでヘラクレイトスに魔術でイシスを送ってもらった。

 イシスは無事についただろうか?

 アーシア、このような重要な内容を独断で決めて申し訳ない。

 君を私の養子にした。

 嫌でなければアルクメオンの名を受け取ってほしい。」


 ……はい?……


 「私は君を後継者として指名した。もちろん拒否もできるが、ぜひ受け取ってほしい。

 私の持つ中華の菜園や田園、そして交易ルート、人脈、財産、これらはすべて君のものだ。

 他の者には活かすことは無理だろう。」


 ……本気ですか……


 「私にしばし昔話をさせてもらいたい。

 成人してすぐに、僭主ペイシストラトスがアテナイを統治した。

 沿岸党党首の父メガクレスにつきしたがって、私はアテナイから脱出した。

 それはペイシストラトスの死亡まで、私が38才になるまで続いた。

 彼は偉大な君主であり、アテナイを発展させた。

 市民に不満はなかった。民主政もなかったが・・・

 そして彼の死後、沿岸党の党首として、アルコンになり、彼の二人の遺児を見張っていたが・・・やはり暴君タランテノと化したヒッピアスとの戦闘が始まり、そして一度は負けた。

 そんな折にリュクルゴスからの接触があった。

 あれは50才の時だった。

 デルフォイのアポロ神殿を再興する代わりに、スパルタの兵を動かすことを約束してくれた。

 なぜそうしたのかはアレティナ姫に聞いてほしい。


 私は結果として、ヒッピアスをペルシャに追放できた。

 その後は、君も知っての通り、アテナイの政体を変革し、自分がペイシストラトスにならないため追放させ、世界をさまよい、アテナイに戻ってきた。

 そして君に出会ったんだ。」


 ……波乱万丈としかいいようがない人生だな……


 「君は未来を伝えてくれた。

 そして、それが私を多くの絶望から救ってくれたんだよ。

 やがて民主政が衆愚政になり君主制に戻っても、再び民主政は生まれること。

 そして人々の教育を十分に行えば民主政こそが、最強の政体であることを君は確信させてくれた。

 僭主を否定した私の人生は人類史に残ることを伝えてくれた。

 この上ない幸福だった。

 できればマケドニアより未来の君の時代も聞きたかったが、もう時間がない。」


 ……?


 「ペンを握る力がそろそろなくなる。


 アーシア・オレステス・アリキポス・アルクメオン。

 わが息子よ。

 まだ見ぬ世界を作ってくれ。

 ありがとう。

 そして、さようなら」


 「……これって……もしかして遺言?」


 真っ先に泣き出したのは姫様だった。

「ごめんなさい、アーシア。クレイステネスから口止めされていたの」

「え?」

「前の連絡の時には……もう……」

……どういうこと

「彼の寿命が尽きていたの……彼も、私も知っていたわ。」

……だって50代だよ、どう見ても……

「外観は50代でも実年齢は73才よ。私の魔術でも万能ではないわ。会ったのが50才の時、それだと老化を遅らせるのが精いっぱいだった」


 ……


 嘘だろ、冗談だよね。


 ……


 ほんとに、こんなこと思うんだ、ははは、陳腐だ。


 だけど、陳腐でいいから……誰か嘘だといってよ!!!


 ……


 まだ何も恩返しできてないのに……


 ……


 恩を返させてよ。

 お願いだから!


 ……


 たのむよぉ


 ……


 強い陽光が差し込む部屋の中に、沈黙する姫様、状況がわからず戸惑う、ピュロス、コリーダ、ベットの下で遊ぶイシスとホルス、すべての光景の色がなくなったように感じた。


=アーシアのスキル一覧表=

汎用知識(ギリシャ地域)

一般技能(鑑定)

一般技能(知識・メイド)

一般知識(公衆衛生)

専門技能(薬学)ランクC

専門技能(馬術)ランクD

特殊技能(尋問)ランクD

特殊技能(神学)ランクF

特殊技能(神聖文字)ランクF

特殊技能(法学)ランクF

特殊技能(料理)ランクD

特殊技能(詐欺)ランクD

特殊技能(弁論)ランクF

特殊技能(取引)ランクE

特殊技能(魔術)ランクB

特殊技能(演劇)ランクC

特殊技能(服飾)ランクC

特殊技能(知識・船舶)ランクE

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