デマラトス失脚
今回、競技会の予定が王の帰還が入ったため変更です。
マラトンの遠因やらアレティアの苦悩やら、なんでギリシャの料理はハーブが多い?やらてんこ盛りになりました。
次回こそ競技会に行きたいです。
祭りの宴会を明後日に控えた、今日の朝、クレオメネス1世が帰還した。予想以上に海路が難航したらしい。
予定から2週間程遅れていた。
もっとも、主な遅れは船便の確保だったようなので、天候だけが理由ではないようだ。
この時代、客船なんてものを定期運航してるのはアリキポス商会ぐらいなもんである。
ともあれ昨日の狩りで肉は十分に確保できている。
おかげで夕刻には王の帰還の宴が始まった。
宴には姫様と一緒に呼ばれている。
「今回は大義であった」
「微力ながらのお力添えができうれしく思います。」
クレオメネス1世との謁見である、といっても宴席の紹介なのでかなり儀礼的には略されている。
この人の腹違いの弟がレオニダス殿下で娘が有名なゴルゴ姫か……来年に発狂死するといわれてたけど……そうはみえないな?
「アルゴスとの会戦、アポロン神への献祭、いずれも見事である。褒美をとらす。なにか要望はないか?」
所望って言っても……スパルタだし……ヘイロイタイはもらったし……あ、そうだ!
「では、叶うのであれば、アポロン神への祭りの命名と、その期間中の戦争停止をお願いしたく存じます」
「停戦?というとヘロットとのか?」
「はい、今回はガレ―船の漕ぎ手も選抜しますので、逃げぬように安心させたく思います」
ヘイロイタイに対してスパルタンが攻撃するための根拠として、監督官は着任と同時にヘイロイタイに宣戦布告を行うという儀礼がある。
実際にヘイロイタイから戦争するにも武器がないのだから、ただの儀礼なのだが一応は戦時中ということで敵兵を無差別に攻撃できるとしている。
というは、建前上の停戦が結ばれれば無差別攻撃ができなくなる。
「……よかろう。祭りはラオニサス祭と命名し、この祭りの間は戦争を禁じよう」
「ありがとうございます。感謝に堪えません」
「ではゆるりと楽しまれよ。アーシア」
次の謁見者が来たので席を外す。でもやっぱ王族って似てるなー、レオニダス殿下そっくりだ。
「アーシア、ちょっといい?」
席をはずして二人きりになったところで袖を引っ張られた。
「なに、レイチェル?」
「さっきの褒美の件だけど……」
「ああ、その場での思い付きだけど、なにか?」
「……気づいてないのね……」
?
「未来で伝わるマラトンの戦い、話してくれたわよね。あの時、スパルタは?」
……
あーーー
スパルタはマラトンの戦いでアテネからの援軍要請に、祭りの間は戦争できないって一旦断り、祭りが終わってから参戦した。
「理解したようね。王の命名もあったし、来年以降も祭りが開かれる可能性が高いわ」
あの原因ってこういうことか。……日本で聞いた時にはえらい変な理由で遅れるもんだと思ったけど、オリンピックでも祭りだから休戦してたし……変でもないのか。
いや、まて、そっちじゃない。スパルタが参戦できなくなる方がまずいのか?
でも歴史的には参戦しなくても勝利したことだし……でも同じとは限らないし……うーん、どうしよう。
「まあ、これでわかったことが一つあるわ」
「なに?」
「来年、ペルシアが攻めてくる可能性が高いのは3月末から4月頭のこの時期」
「え、なんで、レイチェル?……ああ!」
そうか、逆説的にスパルタが祭りの時期にペルシアが攻め込んでくるとすると……可能性は高い。
この時期はサルピズマも船もマラトン近辺で臨戦体制にしておけばいい。
「まあ、仮説だけどね」
ある意味スパルタの参戦よりも重要な敵の出撃時期の推測ができるのは大きい。
アテナイにもこの時期に特に注意するように言っておけば、かなり負担が軽減できる。
常時全方位警戒はとんでもないエネルギーを使うから。
それにしても……こうやって見ると、歴史は修正されて元の流れに戻るのだろうか?
師匠ならばそのあたり、なんか知ってそうだが……
翌3月29日、俺は明日の祭りの前夜祭の準備で厨房に籠ることになった。
ラケダイモンは最終調整と訓練を兼ねた肉の補充に忙しい。
俺も贅沢ではないがうまい料理ということで、スジ肉や内臓を何回もにこぼして野蒜で臭みを抜いた料理や干しブドウの酵母から作った醗酵パンの準備をしていた。
そんな中で、王宮ではデマラトス王の糾弾が行われていた。
「ではアレティア様、デマラトスに対し告発を」
「デマトラス、妾は汝に言った言葉を覚えていますか」
キトンを優雅に着こなしたマネキンのような美少女が告げる。
「はい。「王の任期が尽きるまで正しい道を進みなさい」でした。これは正しい道ではなかったのでしょうか?」
「いいえ、あなたの王の任期が終わろうとしているのです」
静かにデマラトスは微笑むと……肩を落とした。
「……なるほど。……ならば受け入れられます。誤った道を進んだのでないならば」
アレティア姫の厳しい目がデマラトスの後ろに控える男に注がれる。
「次の王はレオテュキダスです」
「ハッ!」
「レオテュキダス、汝にはこの予言を与えます。双王に欠ける王の時も心を強く、新王とリュクルゴスを持ちなさい」
「承りました」
「エウリュポン家の後継者は?」
「ゼウクシデモスです」
レオテュキダスが自分の息子の名前を即答する。
「では呼びなさい。妾のことを教えておきます」
……
「あー疲れた。ピュロス、ミントティー!」
「はい、レイチェル様。」
準備されていたハーブティーにクッキーをお茶うけにしてレイチェルは王宮の時とはうって変わってくつろいだ様子だ。
「このパン、サクサクして甘いのね。アーシアの新作?」
「ええ、レイチェル様が疲れて戻られるだろうからと、調理の合間に作っておられました」
「ふーん、おいで、ホルス」
「ニャーン」
ホルスを呼んで撫でているとささくれた気持ちが落ち着いていく。
たぶんアーシアもわかっているから今日は何も言わずここに置いていったのだろう。
「何人やってもきついわね」
「王の交代ですか?」
「ええ、彼らの功績は必ず善と悪が混在している。どっちが多く、どっちが少ないで決められれば楽なんだけど、現実はね……」
「善王というのは良い点が多い人ではないのですか?」
「善王というのは、時代に合った王という意味よ」
「時代に合ったですか」
「そう、例えば、どんなに内政がうまくて国が富んでも、戦争が下手な王は戦争中には悪王になるの、逆に平和な時代では善王でもね」
アレティアはいままで時代を見据えて、歴代の王に助言し、適宜、交代させてきた。
王の交代で血を流すことが極めて少ないのもそのせいだ。
「ただ、変えるたびにこう思うの、これで正しいの?あたしが決めていいの?って」
アギス朝11代目のエウリュクラテスから17代目のレオニダス(予定)まで、エウリュポン家は大空位時代のあとの10代目のゼウクシデモスの決定以来17代目のゼウクシデモス(予定)まで常に神託という名目で関わってきた。
「そろそろ、誰かに渡したいけど……」
こんな役目、渡すのもかわいそうだ。
アーシアならどうするだろうか?
一番可能性の高い人物……でも渡せば彼の人間性は壊れるだろう……たとえば新王がへロットの虐殺を始めたとき彼はどう動くだろうか?
必要とはいえ、自分の権威維持のために見逃すことができるだろうか?
「あーやめやめ」
いつも結果は出ない。ともあれ忘れることにする。
「アーシア様から伝言で今夜はカレーにするだそうです。」
……カレー……香辛料がむちゃくちゃ高くなかったっけ?
「それが、アーシア様ったら近くで採集した薬草だけでカレーを作ったんですよ。だから味は保証しないって」
……彼らしい……気遣いなんだろうか……夕飯が楽しみで怖い。
ともあれ、夕飯に興味は移った。
=アーシアのスキル一覧表=
汎用知識(ギリシャ地域)
一般技能(鑑定)
一般技能(知識・メイド)
一般知識(公衆衛生)
専門技能(薬学)ランクC
専門技能(馬術)ランクD
特殊技能(尋問)ランクD
特殊技能(神学)ランクF
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
特殊技能(料理)ランクD
特殊技能(詐欺)ランクD
特殊技能(弁論)ランクF
特殊技能(取引)ランクE
特殊技能(魔術)ランクB
特殊技能(演劇)ランクC
特殊技能(服飾)ランクC
特殊技能(知識・船舶)ランクE




