ムカデ競争
古代オリンピアの競技ですが、史実でも第65回から武装競争がペルシアとの戦争に備え競技化され競技最終日の競技として採用されてます。
この頃だと全5日で1日目と最終日が儀式でつぶれるので、三日間の開催だったようです。数万単位の観客動員を誇る大祭でした。
「右、左、右、左……」
日本人には聞きなれた校庭の掛け声がスパルタの盆地に響き渡る。
調合特訓から10日たつ。
提案当初、奇異な目を向けられたムカデ競争だが、ためしに完全武装(含盾槍)でムカデを履かせてみると一歩目で、その競技内容と意義を理解したスパルタンはムカデ競争にはまっている。
コリーダとサルピズマが馬車に山のように積み込んだ麦と綿布を護衛し到着したのが3日前だ。
ちょうど、その日の午後一時に民会が開かれていたのだが、それに間に合った。
その場で、騎馬隊(鐙は外した)と指揮官のサンチョの紹介があったが、サンチョの異形にスパルタンはライバル心をそそられたらしい。
民会の後で数人が試合を申し込んでいた。
そういうわけで民会は大賑わいで始まったが、競技内容の説明の際にはみんなシンと静まった。
まずはオリンピアの競技から、スタディオン走(192m走)、ディアウロス走(384m走)、ドリコス走(今回は1920m走)、レスリングの五種目をピックアップ。
この五種目が個人競技で、団体競技としてエノモイア単位で申し込む、綱引きとムカデ競争(394m走)を企画した。
綱引きは定員二七人、ムカデ競争は定員九人(エノモイアは36人構成)でダブらないよう調整してもらったが、予想以上にムカデ競争の受けがいい。
見ていてもコンビネーションや駆け引き、そしてゴールまでの適度な時間の長さが受けている。
やっぱり完全武装のせいもあるのだろうか?綱引きよりもムカデ競争が人気のようだ。
(後にムカデ競争は第65回オリンピアで競技としてスパルタより提案されるも、他のポリスからスパルタ優位と抗議があったため、そのままではなく「武装競争」として知られる「完全武装のディアウロス走」が現代オリンピックのマラソンに相当する花形競技として爆誕することになる)
スパルタニアン皆さんの盛り上がりについては、女性版のオリンピアであるヘラティアに合わせ、女性競技をスタディオン走1種目だが取り入れたことが大きいようだ。
名目はアポロの双子の女神アルテミスにささげることにした。
女性陣に気合が入ると街が活気づくのはいつの世も同じ、バーゲンセールで男子に勝てる道理無し……
ということで、この三日間は、優勝者に送る月桂冠(アポロの聖木)と糸杉冠(アルテミスの聖木)を作っていた。
なぜか他人が作るより、綺麗に仕上がる気がする。我ながら不思議だ。
(クエスト:礼装の作成終了・・・特殊技能(服飾)ランクCに昇格します)
糸杉ってアポロンの想い人の美少年が変身させられたんだよなー……なぜアルテミスの聖木になってるんだろうなどと……どうでもいいことを考えていたら、作っていた糸杉冠でホルスが遊び始めた。
一個はあげるかと放っておいたら、猫鍋よろしく中でクルンとなって寝てしまった……
(くわぁいいーー)
ホルスを起こさないように、姫様が無言で目で絶叫している……ダメです。あげません。
そういえば……エウラリアの方はどうなってるんだろう……
「レイチェル?」
「なに、くれる気になった!」
「いや、それはないから。エウラリアのことなんだけど……」
「あの子なら、もう南航路で働いてるんじゃないかな?どうかした?」
姫様は暇だったようだ。話に乗ってきた。
「いや、奴隷として俺が所有していることになってるけど……誰が、所有する主人を証明してくれるんだろうと思って……」
「ああ、そうか。……確かに解放奴隷の時は証文作るけど……奴隷にする時はそういうものは作らないから……」
「そう、で、どうやって証明するのかと思って?」
俺の疑問を聞いて、ちょっと考えたがすぐに返答が返ってきた。
「普通は焼印じゃない?」
「え……」
「絶対に消えないように奴隷に、焼鏝をあてて焼印を押すの。」
「……ひどくない?」
「全然。確かに火傷が治るまでは痛むけど、焼印があれば奴隷としては、庇護は受けられることになるし……」
「庇護?」
「うん、焼印がないと、もう一回さらわれて売り払われるなんてことが普通に起きるからね。」
ああ、そうか。普通に野生種として売られている分には動物扱いだった。
「え?でもピュロスやコリーダは?」
「デルフォイのアポロ神殿の奴隷に手を出す奴がいると思う?」
「ああそうか、じゃあエウラリアになかったのは?」
「ヘイロイタイ?スパルタに喧嘩売るのよ」
「ああ、そうか……じゃあエウラリアにも……焼印が必要かな?」
沈痛な表情で聞いた。
理屈はわかったし、これ以上悲惨な状況にさせないためには必要なのかな?
すごく嫌だけど……
「ううん、彼女が船内で働いているのなら必要ないわ。だって安全だもの」
その答えを聞いてホッとした。
「それに将来は解放したいんでしょ、だったら無駄な傷がないほうがいいわ。」
「そうだね。」
喜んでいる俺を見て姫様は「かわいそうな目つき」で話しかけてきた。
「アーシア、あなたは他の人に感情を持ちすぎる。気を付けないと自分が傷つくわよ」
「そう……かな?」
疑問形だったのが不満らしい、姫様は厳しい口調で続けた。
「ええ、あなたは、これからたくさんの死体を見ることになるわ。忘れないで!100年たったら妾以外の全員が死んでいるということを」
……
「ペルシアとの戦争でも、たくさんの人が死ぬだろうけど、感情をこめすぎると、自分が壊れることになるの、注意しなさい。」
「……でも……」
「でも……なのね。」
そこまで言うと彼女は儚げに笑った。
「忘れて……長く生き過ぎた、おばあさんの老婆心だったわ。」
彼女の横顔は、たくさんの影を持っていた。
不老というのも楽ではないな……
「じゃあ、忘れた。ホルスに兄弟いないのかな?クレイステネスさんに連絡してみたら?」
とりあえず話題を無理やり切り替える。
「ダメね、その子が今いる一番最後の子供。他の子はみんな売ったって……」
「売ったの?」
「彼が言うには、他の子は普通だったんだって」
「普通って、ホルスは普通でないってこと?」
思い当たる節は……いっぱいあるが……
「さあ?でも、かわいいからいいじゃない」
かわいいは正義ですか・・・まあ反対はしませんが、
あとでホルスに首輪を作ってあげよう。
デルフォイのアポロ神殿在住って文字入れて……焼印は猫には似合わない。
俺も猫みたいに気ままに生きたい。
まずは一月後の競技会に全力だ……その後は……終わってから考えよう。
=アーシアのスキル一覧表=
汎用知識(ギリシャ地域)
一般技能(鑑定)
一般技能(知識・メイド)
一般知識(公衆衛生)
専門技能(薬学)ランクC
専門技能(馬術)ランクD
特殊技能(尋問)ランクD
特殊技能(神学)ランクF
特殊技能(神聖文字)ランクF
特殊技能(法学)ランクF
特殊技能(料理)ランクD
特殊技能(詐欺)ランクD
特殊技能(弁論)ランクF
特殊技能(取引)ランクE
特殊技能(魔術)ランクB
特殊技能(演劇)ランクC
特殊技能(服飾)ランクC
特殊技能(知識・船舶)ランクE




